clock2014.02.11 10:49
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ギックスの本棚/下町ロケット(池井戸潤 著|小学館文庫)

AUTHOR :  網野 知博

ビジネスの根幹を考える

テレビドラマ「半沢直樹」の大ヒットにより更に脚光を浴びている池井戸 潤さんによるビジネス小説。下町ロケットは第145回直木三十五賞受賞作品でもあり、またWOWOW 連続ドラマでも放映されたため、多くの方が既にご存知ではないでしょうか。

下町ロケット (小学館文庫)

 内容を非常に簡単に記載します。主人公はロケット開発の元研究者。自らが開発したロケット打ち上げの失敗により、責任を取り父親の町工場を継ぐ。主要取引先からの取引を打ち切られ、競合先の大企業からは特許侵害で訴えられる。訴訟でも勝訴し、一息ついた後、特許を取得した水素エンジンのバルブで最大手の重工業から高額での特許使用の依頼を受ける。しかし、社長の夢を追い、自社製品での提供という茨の道を選択する事により、若手社員からの反発を食らい、、、しかし最後にはハッピーエンドと言う流れになります。
 書籍自体は内容が非常におもしろいこともあり、500ページ近いボリュームも苦無く半日程度で読む事ができるので、まったりと過ごしたい休日の午後にでもお読み頂くと良いと思います。

自社のビジネスドメインは?

 小説の概要が紹介されても全くおもしろくはないでしょうから、小説の中で私が気になった箇所を中心に紹介したいと思います。
まずは「企業のビジネスドメイン」に関して議論が展開されるシーンの事です。
 「これは会社の本質に関わる問題だということです。ウチの売りは自社開発した高い技術をベースにした商品開発です。その会社が、せっかく開発した世界的水準の技術を売却してしまう。それはうちのビジネスの根幹からは外れている気がするんです。」
「うちのビジネスの根幹からは外れている気がする」
 それはとても重い言葉です。ベンチャー企業は資金が豊富では無い事が多いでしょう。つまり、資金的には決してそんなに楽ではない。その時に、比較的儲かるビジネス、特に一発で多くの収益があがるビジネスはとても魅力的です。ですが、そのような時に、”自社のビジネスの根幹か否か”と言う価値基軸で判断を行う事は決して容易ではありません。
 まず、前提として、「自社のビジネスの根幹がなんであるか」と言う事が少なくても経営陣の中では共通認識化されていることが必要とされます。その上で、当面の利益ではなく、自社の立ち位置に沿って考えた際に、自社が行うにふさわしいビジネスなのかを考える。
 同様の内容がいくつかでてきます。年間5億円の特許使用料支払いを提示された時には、
 「こういう話がくると、自分達が本来なにをしてきたか簡単に忘れてしまうんだよな。」
 「知的ビジネスで儲けるのは確かに簡単だけども、本来はそれはウチの仕事じゃない。いったん楽なほうへいっちまったら、ばかばかしくてモノ作りなんかやってやれなくなる。」
 「自社のビジネスドメインは何か」とはとても難しいテーマです。「自社が儲けられる事や領域は何か」ではなく、「自社のビジネスの根幹は何か」です。似ているようですが、全く違います。言い換えれば、「自社に取って最も大切なことは何か?」としても言い換えられるのかもしれません。こう言った物が企業として意思統一して行える企業は非常に強いのでしょう
一方で、小説では、夢を追おうとする社長に対して社員から反論がなされます。
 「会社の目的は利益を上げる事です。であれば、あえてリスクを取る必要はないと思います。仮に成功したとしても、特許使用料だけで稼いだほうが儲けは大きいはずです。
 数年後に自分が社員からこのような発言をされた時にどのように答えるのでしょうか。あいにく弊社では、儲けられそうなネタがきても、共同経営者達が「それはギックスらしいのか」と言う想いを強く持っていてくれるため、上記のような議論が起こる心配は今のところまったくありません。
 いつか社員が増えた時にはこのような事態も起こるのかもしれませんが、それはそれでそこまで企業としての規模が成長しているというの事なので、嬉しい悩みなのかもしれないな、と全く関係ない部分で想いに耽っておりました。(笑)
 この小説は2年前に読んだ時と、今改めて読みなおした時では、気づいた観点が全く異なった事が自分にとっても驚きでした。今は「”自社のビジネスの根幹か否か”」と言うキーワードがずっとぐるぐると回っています。

下町ロケット (小学館文庫)
下町ロケット (小学館文庫)

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