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第5回:「儲け話のメカニズム」と「キードライバー」その②/「会社を強くするビッグデータ活用入門」を振り返る

AUTHOR :  網野 知博

私は2013年の11月下旬に著書「会社を強くするビッグデータ活用入門」を出版致しました。準実用書と言う位置づけで出版しており、商業的には成功も失敗もしていない予定通り淡々と細々と出荷されている本ですが、読んでもらう人を明確に定義したため、”読んで頂いた方からは”比較的好評を得ております。
そうした中で、この本を読んで頂いた読者、及びこのテーマに関したセミナーにご参加頂いた方からの質問などを整理する形で、対して売れていない自分の本を改めて振り返ってみよう、と言う企画の記事になります。笑

会社を強くする  ビッグデータ活用入門  基本知識から分析の実践まで

動的なメカニズムとはなにか?

「競争力強化を紐解くと経営戦略論に行き着いてしまう」ため、ここの説明は端折りますね、とさらっと逃げてみたのですが、きちんと「儲け話のメカニズム」を説明すべきである!と言うご意見を多くの方に頂きまして、少し反省してまずは自社(ギックス)の儲け話のメカニズムを書いてみたのが前回の記事でした。

弊社は「メディア」というサイクルを回すキードライバーを意識しながら、「アンカークライアント」という存在に対して価値を出していくことにより、グルグルと拡大するスパイラルを回すことを意識して活動をしています。まあ、まだまだスタートアップして1年10ヶ月が終わったばかりの中小零細企業ですので、このモデルで成功したという例ではないのですが、むしろ一つモデルを考えながらスタートアップを行い、まずは生きていくことくらいはできるようになった会社という点でひとつの参考にして頂ければと思います。

『儲け話のメカニズム』と『キードライバー』

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儲け話のメカニズムを検討する上で、まるっとした言葉で表現した場合、このようにまとめて見ました。静的なビジネスモデルとは異なり、動的で連続性がある。プロセス間のつながりや因果関係が表現されており、収益を上げて行く源泉や流れ、そのカラクリを表現したもの。

「静的」か「動的」か。何が静的であり、どのようになると動的なのか。動的には二つの意味を込めてしまっているため、少し分かりにくい表現になってしまいました。

ひとつは、slideに表現した際に、2次元的な図面で「xxから商品を仕入れて、そこに加工して付加価値を即けて、マージンを乗せて売り、その差分が利益になる。」という静的なビジネスモデルというものではなくて、仕入れて売るの中に収益を上げて行くための”なぜ?”にあたる「儲け話」が入っている状態。これが「動的」と言う表現の一つ目の意図です。

「うちの会社にさ、もの凄い目利きがいてね、海外でふらふら遊んでるだけなんだけど、年に50個くらいは凄くおもしろいものを発見してきて、そのうち10個くらいはちゃんとその商品を仕入れるルートまで作ってこれるのよ。それなので、その商品は類似品と比べても面白さという観点で圧倒的な差別化を図ることができて、結果として高値で売る事ができてね。売る商品のラインナップは増やせないけど、もの凄く高い利益率を確保する事ができるんだ。」

もの凄く単純な例ですが、これでも十分に動的な「儲け話のメカニズム」になっています。教科書的なビジネスモデルの模式図では、A社がX社から仕入れて、オペレーションして、顧客Cに売り、その差分の収益が生まれる、と言う平面的な静的な表現に落ち着いてしまうでしょう。仕入れて売るで、それが表現できるか。仕入れるオペレーションに差異性があると表現していくことができれば、それでいいのでしょうが、それを理解してポイントだと伝えていくことが、動的という形です。

とは言え、これを言ってしまえば元も子もありませんが、、、静的、動的はあくまで主観の問題なので、まったく主観的に、他人に語りたいほどわくわくするか、とか、合コンで使いたいネタなのか、などの基準で判断してしまうのも手です。笑

余談ながら、本を書いた時期から1年ほど経ったことで、この「儲け話のメカニズム」を端的に誰もが知っているビジネスモデルという言葉で、かつ歴史から紐解いた形で、「動的ビジネスモデル」の説明をされている本が出ております。

アクセンチュア時代の上司であった三谷宏治さんが書かれた素晴らしい書籍「ビジネスモデル全史」と言うものがありますので、手っ取り早く書くと、こちらを読んでくださいと言う逃げ方をしてしまおうかとも思っています。笑

「動的」と言う意味にはもうひとつの意図がありまして、こちらも続けて説明します。これは、非常にうまいメカニズムをきちんと作ったために、キードライバーが変化していくという意味での動的になります。ケーススタディ的に書けば、そのタイミングでのスナップショットでのビジネスモデルが成功を収めているように見えるのですが、実はそれらは時代とともに、その企業の状況とともに、競合の打ち手とともに、顧客のニーズの変化とともに、常に変わっていくものになります。

世の中のビジネス雑誌を見ると、成功の理由としてもてはやされたある取り組みが、不調の時にはそのままダメな理由になることも多々あります。例えば、古くは吉野家さんは牛丼一本足経営で好調を維持しており、好調時にはそれが成功の秘訣であるように多くのビジネス雑誌から讃美を得ておりました。また、アメリカ産の牛肉にこだわって調達していることも成功の秘訣として取り上げられていました。一方で、それが不調時になると、牛丼一本足の経営という戦略に関しても、またアメリカ産牛肉にこだわったせいでBSEの時に対応が遅れた点も失敗の要因として取り上げられます。

経営は勝てば官軍のところもあるのですが、ある時期のスナップショットで、そのメカニズムを語ってもあまり意味がないということになります。

世の中は一義的に決まる、つまりは黒と白がはっきりする事は非常に稀で、基本はその間を行ったり来たりになります。「集中」と「分散」。「トップダウン」と「ボトムアップ」。「朝令暮改」と「首尾一貫」。どれにも絶対的な正しさはなく、また一つの会社に対しても絶対解があるわけでもありません。言うなれば、企業のステージ毎に正しい施策は異なると言う点です。ですので、メカニズムを理解し、今はキードライバーが何なのか?いずれ何に移るのか?と言う事を理解し、そのキードライバーを強化していく必要があります。これも動的と表現しております。

同じ業種でもメカニズムもキードライバーも違う

書籍でも紹介しましたが、Amazon社はSELLERSが集まり、Selectionが増加したからこそ、大量のデータを活用したリコメンデーションがキードライバーになったのです。商品数が100で顧客が1万程度の時は、SELLERS、Selectionを集めるための取り組みが必要であり、またそこがあるからこそ顧客経験の機会があがり、多量のトランザクションが生まれてきています。Amazonが立ち上げたときから、キードライバーが大量のデータ分析であり、リコメンデーションであった訳ではありません。つまり、ビジネスのステージに応じてキードライバーが変異しているわけです。

現時点では数字的に相当の踊り場を迎えておりますマクドナルドを見てみましょう。近年は店舗売却益を売上高に入れていて益出しをしていた件などもバレてしまい、色々と突かれているようですが、それでもマクドナルドの一時期の飛躍は本当に目覚ましいものでした。当時の施策である、「100円メニュー」「エビフィレオ」「値上げ」「メガマック」「地域別価格制」一つ一つの施策だけを見れば、それを行って成功する企業も失敗する企業もあります。「100円メニュー」の際には議論が出た事を覚えているでしょうか。安値は御法度と言う考えもありますし、今までもマクドナルドは安値によりブランド価値を低下させたとも言われていました。つまり一義的にその施策の善し悪しを判断してもあまり意味が無い事が分かります。どのような背景で、どのような状況に、どのような施策を打ったのか。つまり、メカニズムは変わらないものの、キードライバーは状況によって変化しており、それぞれのキードライバーを活性化させるディシジョンを打ってきたので成功したと考えられます。すべての時間軸で見た際に、「メガマック」は正しい施策なのか、否かと判断してもあまり意味が無いのです。その時に、メガマックという打ち手は正しかったのか?というのが問になります。

当時のマクドナルドはまずQSCで店舗や商品の価値を高めます。その後、100円メニューによる安さの訴求でお客様に来店してもらい、QSCが向上した店舗を体験してもらいます。それらの顧客はリピートにつながるでしょう。客数が増えた所で、今度はメガマックなどを投入し、単価の向上を目指します。安値が良い、悪い、高単価商品の投入が良い、悪い、と言う一義的な話ではなく、「儲け話のメカニズム」の中で重点実施項目をその時その時に適切に打ってきたのだと思います。最後の晩年の益出しなどがあったことも事実なのでしょうが、それでも、それまでの過程でメカニズムを理解しながら、うまく順番論に落としてドライブしてきたやり方は参考にしてもよろしいと思います。100円がいい悪い、ではなく、何を狙いにして、どのタイミングでそれを行ったのか、というそのメカニズムを理解するにはよい題材だと思います。

自社の業界に適したビッグデータの使い方を教えてくれと言われる事がありますが、同じ業界に置いても、「儲け話のメカニズム」が異なれば、その企業の置かれた状況も違います。よって、その企業の内情を踏まえたその時の最も有効と想定されるビッグデータの活用はありますが、それらを把握しない状況での絶対的な解はあり得ないと言う事をご理解頂ければと思います。

次回に続く。

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