戦コンスキルは起業に役立つか?(2):前提=プロフェッショナリズム

AUTHOR :  網野 知博

第2回 戦略コンサルタントの前提 プロフェッショナル

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回は第2回目になります。

 戦略コンサルタントは士業とは異なり、資格が必要とされないため、なろうと思えば誰でもなれる職業であることは前回記載しました。

 そのため、誰よりも自分で「プロフェッショナル」であることを律することが求められます。

「プロフェッショナル」とは何か

 辞書で調べると、名詞としては「専門家、本職、プロ。」(笑)、形容詞としては、「専門的であるさま」となっています。わかったようで、わからないような。では、少し余談から入ります。

 私は31歳の時に事業会社の経営企画部から大手コンサルティングファームの戦略コンサルティング部門に転職しました。その時のタイトルが「コンサルタント」。その企業では、アナリスト、コンサルタント、マネージャー、シニアマネージャー、パートナーと昇進していきます。「コンサルタント」という位は、新卒採用で入社すれば、3~4年目程度のポジションに相当します。

 私は事業会社を6年半経験してからの入社でした。事業会社時代はある程度の評価を得ていたので、コンサルティングファームでのいきなりの活躍は無理にしても、そこそこやれるのではないか、と言う淡い期待を抱いての入社でした。

 結果的には、その考えは甘いものであったとすぐに考えを改めさせられました。当初の数年、というか最初の1年は本当に大変な思いをしました。今こうしてきちんと飯が食えているのは、あの時に本当に鍛えてもらえたからに他なりません。戦略コンサルタントの経験が起業に役に立つかは現時点では証明できていませんが、ビジネスパーソンとして「食いっ逸れていない」点では、少なくても現時点では証明できています。(笑)

 あの時の苦くもあり、甘くもある思い出を噛み締めながら振り返って行きます。まず私が最初に足りないと感じたのは、コンサルタントとしての「前提」でした。つまり、「プロフェッショナルであるべき」という前提です。

 では、「プロフェッショナル」とはどんなものでしょうか。

 おそらくプロフェッショナルを紹介している本としては、この本が一番参考になるのでは無いでしょうか。

 波頭亮さんのプロフェッショナル原論 (ちくま新書)です。

プロフェッショナル原論 (ちくま新書)

その中で、プロフェッショナル価値基準として以下が記載されています。

①Client Interest First(顧客利益第一)
②Output Oriented(成果志向)
③Quality Conscious(品質追求)
④Value Base (価値主義)
⑤Sense of Ownership全権意識

①Client Interest First(顧客利益第一)

 入社後に上司から常々言われたのは、「Client First」ではなく、「Client Interest First」であることを何度も強く指摘されました。対価を支払ってくれるお客様が神様なのではない。つまり、クライアントの言いなりになれという訳でもないし、クライアントが望む耳あたりの良い結論を出す訳でもない。クライアントを第一に考えるのではなく、あくまでクライアントが創出できる”利益”が一義的な目的であると。

②Output Oriented(成果志向)

 コンサルタントになって、特にプロセスではなく、結果/成果を出すことを強く求められました。ビジネスパーソンとしては当たり前だったのだが、その成果が担保されていない時には、もう人間とは扱ってくれないくらいにボコボコにされました。

 一般的にはOutput OrientedのOutputでは、成果というニュアンスまで含まれていると思います。ですが、私が在籍していたファームでは、「outputよりoutcome」と言う言葉が標語のように言われておりました。

 ブティック系の戦略ファームに対するアンティテーゼでしょうか。(笑)

③Quality Conscious(品質追求)

 コンサルティング業界にはQuick & Dirtyという標語があります。つまり、粗くても良いから、極力早く(速く)です。この件は「第7回のスピードにこだわる」で詳しく書いて行きたいと思います。

 簡単に書くと、このDirtyという言葉は実際に嘘です。Quickであっても、Dirtyなモノを出そう物なら、人間性を否定されるくらいボコボコにされました。(笑)

 でも、時間をかけてだそうものなら、それもボコボコにされる。(笑)

 つまり、二律背反することを背反させていたら、プロフェッショナルとしては全く価値が無いと見なされます。常にいかなる時にも品質と言うものが求められていました。PowerPointの誤字脱字、フォントが違う、字体が違うなどもそれだけで懲罰物です。結局のところ、コンサルタントは作成するSlideが成果物になるので、Slideに対する品質は相当うるさく言われました。私はプロジェクトマネージャーのSlideを、それこそフォントサイズ、字体、線の太さ、色使い、メッセージの書きっぷり、Bodyの書き方などひたすら研究し、そして摸倣することでまずはその品質を最低限担保しようと努力していました。

④Value Base(価値主義)

 バリュー、価値、この言葉も死ぬ程浴びせられました。

パートナーの口から発せされる言葉、

「これってどこに価値があるの?何が新しいの?」

 それこそ価値と言う言葉を聞くだけでノイローゼになりそうな日々を過ごしたものです。(笑)

 ある程度”考えたつもり”のSlideを持って言っても、非常に切れ味鋭い上司からは、大半が精神的にも物理的にも切って捨てられます。
(*物理的:Slideを破られるという意味・・・)

「これってどこが新しいの?」「どこに価値があるの?」「それって普通じゃないの?」「こんな普通な考えのためにクライアントは高い金なんて払わないでしょ。」

 蛇のような目で鋭く突っ込まれ、石のように固まった日をついこないだのように思いだします。(笑)

⑤Sense of Ownership(全権意識)

 コンサルタントにとって特にこのSense of Ownershipは必須の要件でした。入社早々の新人のアナリストですら、プロジェクトは“自分の物”だと思って挑んでいます。良くも悪くも、本気で「クライアントの事業の未来は全て自分が担っている」くらいの勘違いぶりで挑んでいます。そのくらい全権意識がありました。

 また、部下であっても、上司にフォローしてもらうことは一生の恥くらいの気概を持って挑んでいます。そのように考えると、今にして思えば勘違いも甚だしい連中が集まった職場なのですが、一方でとても恵まれていた職場だと思います。

 組織に所属する全員が、全て”自分事”でモノゴトを捉えていたため、まさにOwnershipの強さと言うものを、常に周囲のメンバーから学ぶことができました。新入社員であってもなぜか皆一様にSense of Ownershipを非常に強く持っておりました。周囲から見ると勘違い野郎に見えるかもしれませんが、それでもコンサルタントとしての使命感に燃えていたのでしょう。

 上記の5つは標語としてはとても耳あたりが良いのですが、いざ実践するとなると本当に大変でした。ただ、私が在籍していた時の組織、とくにその時の上司や先輩から、これらを当たり前に実戦していないと許してもらえない厳しさがありました。

 では、なぜそのような苦行も平気で耐えられていたのでしょうか。色々な解釈があるでしょうが、私は「コンサルタントとしての心構え」により魔法をかけられていたのだと思います。(笑)

 次回はその「戦略コンサルタントの心構え」に関して記載していきます。

次回に続く

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