戦コンスキルは起業に役立つか?(6):行動規範③仮説にこだわる

AUTHOR :  網野 知博

第6回 戦略コンサルタントの行動規範③:仮説にこだわる

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回は第6回目になります。前回は「戦略コンサルタントの7つの行動規範」のうち、「論理にこだわる」を紹介してきました。

 今回は戦略コンサルタントの7つの行動規範の中で3つ目の「仮説にこだわる」を紹介していきます。

 まずは、おさらいとして7つの行動規範(こだわり)を確認します。

①ファクトにこだわる

②論理にこだわる

③仮説にこだわる

④スピードにこだわる

⑤学びにこだわる

⑥成果物にこだわる

⑦視座にこだわる

「仮説」とは何か

仮説、英語ではhypothesisになりますが、wikipediaでは次の説明がなされています。

真偽はともかくとして、何らかの現象や法則性を説明するのに役立つ命題のこと。何らかの実際の現象や規則性に出会ったものの、その現象や規則性が出現する仕組みや機序が知られていないような場合に、それを説明するために、人が考え出した筋道や推論の前提のことである。何らかの現象(事実)を説明することが出来るように考えて作った命題は、命題それ自体は事実に合致していることがわかるまでは全く真偽不明なので、あくまで「仮の説」になる。

 「仮説」と言う言葉も、実は理系の研究者が使う「仮説」とコンサルタントがビジネスシーンで使う「仮説」は大きく違うように感じます。

 研究者はモノゴトの心理を追求するのが目的です。よって、導きだされるのが、「普遍的であり、一般的な法則」に則した仮説になります。ですが、ビジネスシーンでは、導きだされるのがその企業のその現象にだけ当てはまる答えでも全く問題がありませんし、むしろ該当する業界に対して一般的に成り立つ答えでも、その企業に当てはまらなければ全く意味がありません。ですから、ビジネスシーンでの仮説は、「その対象となるモノゴトを最終的な答えに導くための仮の答え」と言う事になります。

 ですから、仮説といっても難しく考える必要はありません。極論を言えば、「どうしてなんだろう。自分はこうだと思うな。」という時点でそれは仮説です。

 例えば、「売上げが落ちているのだけど、なぜかな。」という「何らかの実際の現象」に出会います。ですが、「その現象が出現している仕組みやメカニズム」がまだ分かっていません。よって、「それはなぜなのか」を説明するための考えた道筋や推論から「仮説」が始まります。

 たまにビジネスシーンにおいて、「仮定」や「前提」を「仮説」と言うケースがありますが、個人的にはそれは仮説ではないと認識しています。

 「このような「仮定」を置きました。」であったり、「「前提」としてこのように考えると、、、」と言う部分を「仮説」と言われるともの凄く違和感を感じます。だって、「それは仮の答えではなく、このように前提とおいたり、仮定しただけでしょ?」と感じています。所詮は個人の見解なので、これが世の中のスタンダードかは分かりません。

仮説を立てる際のポイント

 さて、その仮説ですが、戦略コンサルタント時代には、「仮説」に関してとにかく2つのことを口うるさく言われました。

「常にその時点での自分なりの答え(つまり仮説)を持つ」

「仮説は立てたら終わりではなく、常に検証しながら仮説を進化させる」

では、どうしたらそのようにできるようになるでしょうか。

1. 常にその時点での自分なりの答え(つまり仮説)を持つ

 まず一つ目の「常に仮説を持つ」ですが、コンサルタントの経験が浅い時は仮説が思い浮かばないときもありました。「仮の答え」を持ちたくても、なかなか持てない。持っても、子供騙しのような、現象の反対の解しか出てこない。そのようなときにある程度の質を担保した仮説を立案するにはどうしたらよいでしょうか。

 コロンブスの卵と言えば格好が良いですが、(笑)最も王道の手段は人に聞いてしまうと言う事です。

 実は、私が若手の頃に最も多用していたのが仮説を外からパクるという王道のアプローチです。

パクリその1:経験者に聞いてみる

 仮説作りのスピードとその正確度合いは、結局は経験次第になります。つまり、類似的なことを「経験」している人の方が筋の良い仮説を思いつきやすいのは当たり前のことと認識いただけると思います。つまり、「経験の関数」が働いています。

 私のように7年近く一つの事業会社で経験してきた場合と、3ヶ月のプロジェクトを年4回、7年間で28回経験してきた場合では、実際の経験に基づく事例の絶対量が違います。私は中途入社で入ったので事例に対する経験不足が非常に顕著でした。それならどうするか。経験者に聞いてしまえというのが結論でした。

 コンサルティング会社であれば、類似の問題点や答えるべき問いに対して、近い事を経験している方は必ずいます。“どんぴしゃ”でなくても、似たような経験をしている人で、コンサルティン会社にいる人ならばある程度筋の良い仮説が思い浮かびます。「それを聞いてしまい、それを踏まえて自分なりの仮説をたてる」というのもありです。

 本来は何の答えも無く聞きに行くと言うのは、コンサルタントとしては御法度であり、後段にもその旨を書きますが、「分からない事は他人に聞く」と言うのが一番近道であり、一番有効であったりします。これは若手でどうしようも無い時に、自分が仮説を持っていない時でも罵声を浴びるのをためらわず、でもなるべく怒られないように聞くというスキルでしょうか。(笑)

 冗談はさておき、実はある程度コンサルタントを経験した後であっても、仮説を人に聞くというのは王道のアプローチです。

 人間が一人で一から考えることには限界があるので、それをうまく使ってしまえということです。実は、大成しているコンサルタントの方は、この「聞く力」が備わっている人が多いことも事実です。ビジネスは頭の良さコンテストではないので、プライドを捨て、使える手段は何でも使い、少しでも早く良い答えに辿り着いた方が良いと思います。

 ただし、「いつまでも人の仮説を聞きまくる」だけでは当然成長はありません。

 「仮説としてドンピシャの答えを求め、そうでなければ役に立たない」というのではなく、「まずは自分の仮説を作り、他人からヒントをつかみ取って、その後に自分なりの仮説を作る」という姿勢が必要になります。

 最初のうちは聞きまくる。でも、聞きながら自分なりの仮説も常に考えるようにして、経験(量)がいずれは質を担保してくれるようになる。少なくても、軟弱な私は罵声を浴びつつ、そうしておりました。

パクリその2:他企業や他業界を参考にする

 発想は「経験者に聞いてみる」と一緒ですが、その聞く先を広げてしまおうということです。「聞く」と書いていますが、「調べる」なども含んだ広義の意味として「聞く」だと思ってください。

 同業者で他企業の「打ち手」は仮説を考える際に役に立ちます。ですが注意が必要です。「打ち手」そのものが仮説になるのではなく、打ち手を知りつつ、その背景やメカニズムを考える事が参考になるのです。

 例えば、原田社長時代のマクドナルドを記憶されている方は多いのではないでしょうか。彼らは成長途中において「低価格化」を実施しました。彼らの「打ち手」である「低価格化」を参考にするのではなく、その背景やメカニズムを踏まえて「打ち手」を参考にする必要があります。

 彼らは「低価格化」の前に「QSC(Quality Service Cost)」を徹底して、店舗の力を備えてから、「低価格化」を行いました。つまり、「低価格化」を行う事で、今まで離れてしまったお客様や新規のお客様に来店頂き、「QSC」が良くなったマクドナルドを実際に体験してもらい、また来たいと思って頂くと言う意図がありました。単純に客数が減ったので、低価格化で客数を増やしますという手を打っても、来店されたお客様に「安かろう、悪かろう」と思われては、通常の価格に戻した際に、「二度と来たくない」と思われるだけであり、より客数を減らす事になります。

 他社の事例は非常に参考になりますが、「背景や意図」などのメカニズムを踏まえて参考にするのであって、「打ち手」をそのまま真似することは仮説立案にはならないことを注意する必要があります。

 他業界の例を参考にするのも同様です。大企業や一流と言われる企業の比較的ご年配の方々は、自社の会社を特別と思っている傾向が強く、「他業界は参考にならない」と頑に他業界の例を参考にする事を否定します。ですが、その打った手が役に立つとか、たたないとかではなく、その手を打った背景や意図、つまりどのようなメカニズムがあり、何のためのうち手だったのかという解釈をすることが重要なのです。そういう点では、おこがましい事を書くと、結局は「自分の力量次第で、世の中には学ぶべき点が数多くあふれている」ということだと認識しています。

 後は、「仮説、仮説」と肩肘張らずに開き直ることでしょうか。(笑)

 仮説を立案する時の心構えは、所詮は仮説であると思うことです。私も上司のパートナー(コンサルティング会社で一番偉い階層の人)にはよく言われました。

 「仮説は大きな方向性が誤っていなければ十分。「東南東へ2m進むべき」という回答ではなく、まずは「西へ行くな」という仮の答えでよい。最初のうちは思い切って仮説を書くことが大事。」

 多少裏話を書きますと、とは言え、実際は上司のパートナーに持って行った仮説が粗いと「こんなのは仮説になっていない。気の利いた小学生でも思いつくような仮説を持ってくるな。」とものすごくしかられます。笑

 コンサルタントは上司や先輩に叱られるのが当たり前な職業であることは間違いありません。笑

2. 仮説は立てたら終わりではなく、常に検証しながら仮説を進化させる

 では、続いて2つ目です。

 これはよく言われる話ですが、60点の答え(仮説)をタイムリーに出し、仮説→検証の作業ステップを踏んでいき、80点、100点の答えを出す方がはるかに早く、効率良く結論に行き着けるからです。

 また、ビジネスにおいては時間との勝負なので、実は80点の時点でもう十分な答えであり、その時点で実行に移ってしまおうと言うこともあります。

 次回に説明しますが、Quick & Dirtyで質と時間をみながら、ということになります。

 また、仮説は、“所詮”仮説です。「60点が80点に」と必ずしも昇華されていくものではありません。初期仮説で60点と思っても、実は検証をして行くと、実は30点どころか、−50点と言うこともあります。その時に、無理のその初期仮説を改善しようとせず、あっさりと捨ててしまい、次の道に行くことも大切です。仮説と「思い込み」は違うということです。自分で作り、時間をかけて検証してきた仮説を捨てるのはとても勇気がいるのですが。。。(笑)

 今回はコンサルタントの行動規範として「仮説にこだわる」を紹介しました。

次回は「スピードにこだわる」を紹介していきます。

次回に続く

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