戦コンスキルは起業に役立つか?(8):行動規範⑤学びにこだわる

AUTHOR :  網野 知博

第8回 戦略コンサルタントの行動規範⑤:学びにこだわる

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回はいよいよ第8回目になります。今回を入れて残り3回です。

前回は「戦略コンサルタントの7つの行動規範」のうち、「スピードにこだわる」を紹介してきました。

 今回は戦略コンサルタントの7つの行動規範の中で5つ目の「学びにこだわる」を紹介していきます。

 まずは、おさらいとして7つの行動規範(こだわり)を確認します。

①ファクトにこだわる

②論理にこだわる

③仮説にこだわる

④スピードにこだわる

⑤学びにこだわる

⑥成果物にこだわる

⑦視座にこだわる

 戦略コンサルタントだけに関わらず、人間にとって「学び」続けることはとても重要なことなのは言うまでもありません。私は学生時代、勉強が死ぬ程嫌いでしたが、今は気づくと学ぶことが当たり前になっていると言うか、おそらく好きになっているようです。

戦略コンサルタントにとっての「学び」とは

 「学び」とはどういうことでしょうか。辞書で見てみましょう。

1. 勉強する。学問をする。

2. 教えを受けたり見習ったりして、知識や技芸を身につける。習得する。

3. 経験することによって知る。

4. まねをする。

 辞書の意味でもあるように、「身につける」、「経験により知る」、「真似をする」というのがまさにポイントだと思います。

まずは、この「真似る」から入って紹介して行きます。

真似る

 私は駆け出しのコンサルタントの頃はとにかく、徹底的に真似ることでまずは一定の質を担保するようにしました。例えば、PowerPointの書き方です。私の恩師に「戦略プロフェッショナル 行動の流儀 其の一」の著者でもある田村誠一さんという方がおります。私は彼のPowerPointのSlideの書き方を徹底的に真似ました。「フォント、線の太さ、色使い、メッセージの書き方、表現の仕方から、ストーリー構成やロジック展開」に至るまで、まずは徹底的にコピーロボットになることにこだわりました。

 ただの真似では身に付かないと思われるでしょうが、なぜこのような表現にしたのかを、その背景や意図を気にしながら、神経を意識しながら真似ていくと、それはすなわち、実は考えながら、試行錯誤しながら経験していることにつながります。

 私にとって、これが真似る、であり、真似てやってみて経験することによって、結果的に「経験により知る」になり、そして「身につける」に至っていたと思います。

 そして、「知識」は学んで記憶すればその時点で有用なのですが、その知識を使いこなすことで、戦略コンサルタントとしての技芸を身につけるという世界に入り込むことができます。

 戦略コンサルタントとは何をする職業かと問われれば、私は「物事を理解し、構造化し、抽象化し、そして他人へ表現する」仕事であると答えます。

 実は、「物事を理解し、構造化し、抽象化し、そして他人へ表現する」力が弱ければ、知識を学んで自らにインプットしても、アウトプットは効率がよくありません。

 「理解」「構造化」「抽象化」「表現」と言うスキルの中で、自分がどのスキルが弱くて、そのスキルが強いのか。それが分かっていないと知識というインプットを入れていっても効率や効果は上がりません。実はコンサルタントの生命線は「理解」「構造化」「抽象化」「表現」の一連のスキルを身につけていることだと思っています。これは人によって考え方が違うでしょう。正誤の判断はひとまず置いておきますが、こういったスキルをこだわって身につけたことは事業を運営することにおいてとても役にたっています。

 「新しいことへの興味・関心を持つ」

”新しい情報は平等である”

 入社間もない頃のトレーニングで、「経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)」の著者でもある三谷宏治さんに言われた言葉があります。

「僕らパートナー達は今までの知識も経験もあるからさー、後から入ってきて僕らに追いつきたいなら、少なくても新しいことで絶対に負けちゃだめだよ。新しい情報は新人もベテランも関係なく平等だから。でも、新しい知識だけでも追いつけないから、古典や昔の良書もたくさん読まないとね。僕ですら月に20冊は読むから、同じ数を読んでても僕に一生追いつけないよね。」

 当時は愚直に月50冊~100冊を読むことにこだわりました。(笑)

 でも、当時死ぬほど本気で(そして時には本当に死にながら・・・)読み続けたことで、先にご説明した「理解」「構造化」自分なりの考えにまとめる「抽象化」というスキルが身に付いたと思います。

 ここでもまさに、量が質を凌駕するです。

 また、あるとき新商品やサービスを開発するプロジェクトでクライアントからこんな言葉を投げかけられました。(9年近く前です。)

 「網野さんって秋葉原行ったことある?漫画喫茶やメイドカフェにいったことある?流行の漫画はいつも読んでる?

娯楽の経験が無い人に、新しい商品とか一緒に考えてほしくないんだけど。」

 うん、なるほど。確かに一理あると思いました。その日に当時流行っていた漫画を大人買いして徹夜で読みました。(笑)

 また、週末に秋葉原に行き、とてもマニアな店を散策してみました。自分が全く知らなかった世界です。(笑)

 残念ながら時間には限りがあります。そのため、全ての新しい情報を仕入れ、経験するのは無理があります。それでも、色々なジャンルに関して、常に新しいことに興味を持つことはコンサルタントの基本姿勢であると感じております。

 「新しいことは真っ先に飛び込むのが一番楽で、後追いになるほど苦痛になる。そして、新しいことに飛び込むことに苦痛を感じるようであれば、コンサルタントとしては賞味期限が切れたことを意味する。」

 と教えられましたが、まさにその通りだと思います。

 基礎を徹底して学ぶ

3つ目は「基礎を徹底して学ぶ」になります。

 実は「知っている」と「できている」と「使いこなしている」はもの凄く乖離があります。

 大リーガーの150kmのツーシームをヒットにする方法を知っていても、それでは大した金額は稼げません。ですが、ヒットを打つ方法を実践できれば、年俸10億円をもらえるのです。

 さすがに、150kmのツーシームは敷居が高いにしても、「カーブはためて打て」という鉄則は野球経験者なら小学生でも知っていることですが、実際に前田健太のカーブをためて打つことができれば、プロとして飯が食っていけるのは間違いありません。野球を少しでもかじったことがある素人でも知っている理論や知識ですが、それでも「実践する、使いこなす」人は稼ぎ、できない人は稼げないのです。

 経営理論やフレームワークも一緒です。経営学的に古典の内容は、誰もが知っているというのですが、知っていても使いこなせる人は少ないです。

 ポーター教授の、戦略3類型(コストリーダーシップ、差別化、集中)を知らない人はビジネスパーソンにおいてはあまりいないと思います。ですが、きちんと中身まで理解している人は決して多くはありません。そして、意図や背景まで理解して、使いこなしている人となるとほぼ皆無です。よく見かけるのは、事業計画書を書く時に、耳あたりの良い枕詞として使うことでしょう。

 例えば、ただの当たり前のコスト削減の取り組みに対して、「市場環境が厳しいなか、我が社はコストリーダーシップ戦略により・・・」などと続くケースです。コストリーダーシップ戦略とは戦略であり、どのように戦うかを定義したものであり、コスト削減はどの会社でも不可避な実施事項です。競合と比べて、比較にならないようなコスト競争力を成し遂げるためにはどのようなビジネスモデルの組み立てを行うのかを考え、実行するならそれは初めてコストリーダーシップになりうるのです。

 「知っている」だけで満足している人は、知っているフレームワークを見た瞬間、「それはもう知っているから」と拒否反応を示したり、その話を見下したりします。ですが、少なくてもコンサルティングの世界では、知っていることはたいした価値ではなく、使いこなして、成果を出すことに価値があるので、基本や基礎は当たり前に使いこなせるようになる必要があります。

 3Cのフレームワークを作った大前研一氏は、「3Cはもはや糞の役にも立たない」というようなことを申しております。おそらく、3Cを使いこなしても今更圧倒的に有利な競争戦略を構築できる訳ではない、という意味合いであり、そもそも3Cすら知らなかったら、そして使いこなしていなかったら逆差別化されて競争の土俵にもたてないという意味だと想定しています。

 フレームワークを理解するのではなく、使いこなすためには、そもそもそれらフレームワークが出来上がった背景や意図、そしてその本質を理解し、そして自分で何度も使って、使いこなしてみることが大事だと思います。

 学ぶことが大事であるが、学び方にもこだわる方が更に重要だと思います。学びはコンサルタントにだけ許された専売特許ではないですが、それでも当たり前のように学び方にこだわるような経験を積めたことには感謝しています。

 今回はコンサルタントの行動規範として「学びにこだわる」を紹介しました。次回は「成果物にこだわる」を紹介していきます。

次回に続く

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