戦コンスキルは起業に役立つか?(9):行動規範⑥成果物にこだわる

AUTHOR :  網野 知博

第9回 戦略コンサルタントの行動規範⑥:成果物にこだわる

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回はついに第9回目になります。今回を入れて残り2回です。

前回は「戦略コンサルタントの7つの行動規範」のうち、「学びにこだわる」を紹介してきました。

 学ぶ時でも、色々とうんちくを垂れてこだわって学ぶのが戦略コンサルタントです。いい加減うんざりしてきた人もいるのではないでしょうか。後2回なので、このままお付き合い下さい。(笑)

 今回は戦略コンサルタントの7つの行動規範の中で6つ目の「成果物にこだわる」を紹介していきます。

 まずは、おさらいとして7つの行動規範(こだわり)を確認します。

①ファクトにこだわる

②論理にこだわる

③仮説にこだわる

④スピードにこだわる

⑤学びにこだわる

⑥成果物にこだわる

⑦視座にこだわる

 今回は「成果物にこだわる」です。

 第2回で紹介したプロフェッショナルの定義でもアウトプット志向ということが言われておりました。また、第3回で紹介したコンサルタントの心構えでも「コンサルタントとはアウトプット至上主義の仕事である」との紹介もしました。

 成果物にこだわり続けることは大事ですが、既にスキルがある人が、「手を抜かずに、きちんとしたものに仕上げるためにこだわって頑張ります」というなら、ちゃんと頑張ってもらうだけで良い結果がでます。そうした人には「アウトプットにこだわってやってくださいね。」としつこく言い続ければ良いだけです。

 ですが、新米の見習いコンサルタントはこだわりようにも、どこにこだわって良いのか分かりません。また、仮にアウトプットにこだわっても、こだわった対価に見合うアウトプットは出ません。では、どのような部分にこだわるのが良いでしょうか。

成果物においてこだわる3つのポイント

 決してMECEではありませんが、大きく3つあると思います。

「考え方にこだわる」「細部にこだわる」「客観性にこだわる」

 そして根性論も入りますが、毎度ながらのお得意パターンです。

「量が質を担保する」。笑

考え方にこだわる

まずは一つ目の「考え方にこだわる」です。

 「下手の考え休むに似たり」ということわざがある通り、いきなりいい結果を出すためにこだわって考えようと思ってもあまり意味がありません。

 屁理屈のようですが、「考え方を考える」ことが大事なのです。では、考え方を考えるとは何か。「考え方を考えることを考える」とはさすがに答えません。笑

 どのように「答えるべき問い」を解いていくのか、その解決の仕方を考えることから始めます。解決の仕方、コンサルティング業界では「アプローチ」などと表現されますが、そのアプローチにまずはこだわります。

 考え方を考える、つまりアプローチを考えることができるのはだいぶ高度なスキルなのですが、物事を考える時に、考え方を考えることも重要であるのだということをまずは知っておき、意識してみれば良いと思います。

 少し余談になりますが、コンサルティングが始まった段階で「答えるべき問い」を設定し、答えにたどり着くための「考え方を考え」られれば、プロジェクトは相当安定して回ります。実は考え方を考えることも過去の経験などにより培われていくものなので、考え方を考えた経験数により、考え方を考える力もあがりますので、大変申し訳ありませんが、実践あるのみとしか言いようがありません。

(⇒関連記事リスト:”考え方”を考える

細部にこだわる

 続いて、2つ目の「細部にこだわる」です。

 「神は細部に宿る」という名言があります。コンサルティングの世界でも「神は細部に宿る」ので、「紙(Slide)は細部にこだわる」という鉄則があります。駄洒落ではありません。(笑)

 戦略コンサルティングはある意味考えることに対しても対価を頂いているのですが、納品物は「報告書」という紙と、それを説明する「プレゼンテーション」という場です。それに対して、数千万円ほどのフィーを、コンサルティングファームによっては億に近いフィーを頂いているわけです。

 そのため、まずは些末なレベルで言うと、誤字脱字などはもってのほかという意識があります。誤字や誤記があると、つまりは内容も実はそのレベルのものだと思われてしまうからです。ですので、瑣末なレベルですが、そのような誤字脱字や誤記が無いかも徹底的にこだわれと言われていました。

(もしこの記事を見たクライアントからは、「あれ、網野さんの報告書に誤字脱字あったよ。」と指摘されそうですが、現実問題は、誤字脱字は結構存在します・・・。そのくらいの気概を持っていたと思っていただければ。。。笑)

 「学びにこだわる」の回では、目標とする上司の「フォント、線の太さ、色使い、メッセージの書き方、表現の仕方から、ストーリー構成やロジック展開」まで真似たということを書きましたが、逆に言えば、「フォント、線の太さ、色使い、メッセージの書き方、表現の仕方から、ストーリー構成やロジック展開」まで、細部にこだわっていないと成り立たない職業でもありました。

 自分なりのルールや法則がないとSlideに統一感がないので見た目も格好悪いですし、本質的ではないかも知れませんが、そういう部分に指摘もされます。

 つまり、内容が良ければ良いではなく、そもそも「内容が良いのは当たり前」で、「それに加えて見栄えもよく」ということでした。

 ですが、不思議なことに、結局見栄えが良い資料は、中身も良いし、中身が良い資料は、不思議と見栄えがいいことが多いものです。

 例えば、線の太さにしても「このページの線は0.75で、次のページは1.25だけど、その意図はなぜでしたっけ?」などと聞かれることがあります。実は読み手の人も、そのくらい配慮して報告書が仕上がってくる物だと想定していることもあるのです。そういった配慮をしないで報告書を作る程度なら、実は物事を考え抜いていないと捉えられることもあります。

 実は起業して事業運営をして行く上ではここまでこだわる必要は無いのかもしれませんが、慣れてしまっているので、こういった細部にこだわることに、もはや時間のロスはあまり発生しておりません。

 客観性にこだわる

 続いて、3つ目の「客観性にこだわる」になります。

 細部にもこだわりつつ、客観性にもこだわるというのは現実的に非常に難しい取り組みです。

 コンサルティングの成果物は、何かの事業目標に到達するために、「何をすべきか、なぜすべきか、どうすべきか、誰がすべきか、いつすべきか」を伝えることにほかなりません。

 そして、その内容を聞き手にきちんと理解してもらい、意思決定をしてもらい、実行して成果を出してもらうことが最も大事なことになります。

 コンサルティングを発注する側である事業会社の方々は通常業務もあるために、コンサルティングに関わるテーマだけを考える訳にはいきません。ですが、コンサルタントはそれを考えるためだけに雇われたので、その3ヶ月間のプロジェクト中はおそらく誰よりも、クライアントよりも多くの時間をそのテーマの検討に費やしています。そのため、コンサルタントは多くの情報や考えが、常に頭の中に存在し、それが当たり前の前提事項になっています。ですが、報告を聞くクライアントは今までは他の業務をして時を過ごしてきたのです。そのため、いきなりそのプロジェクトの話を聞く方にとっては、知識量も検討量も相当の乖離が発生しています。その乖離を埋めないで、自分の考えたことを、自分がわかる形で伝えても決して理解されることはありません。

 相手の状況を踏まえて、相手にわかるように客観性にこだわることが必要になります。

 ですが、自分が時間をかけて考え抜いて手塩をかけて作ったSlideは自分にとってはもの凄く既知なことなので、よほど気をつけて客観性にこだわらないといけないのです。

 また、手塩にかけて作成した資料は全てが愛おしい存在です。そのため、多くのSlideをクライアントに伝えたい衝動に駆られます。(笑)

 何が結論に対する「幹」となる話なのか、そして何が「枝葉」の話なのかを整理して、組み立てていく必要があります。

 私はコンサルタントになりたての頃は、自分で客観性を持つことが難しかったので、プロジェクトメンバー達と一緒に、これは「幹」か「枝葉」か、ということを、延々と議論して取捨選択をしておりました。

量が質を担保する

最後におまけですが、毎度ながらの「量が質を担保する」です。

 考えの考え方、即ちアプローチに誤りが無い限り、それは投下した時間に対して、正の相関を持って成果物が出てきます。

 すると、アプローチが正しいならば、「とにかく考えろ。そして考え続けろ。」です。

 新人研修の際に、おとぼけな新人さんから、「常に考えろと言われていますが、コンサルタントはどのくらい考えていれば良いですか?」と質問がありました。私なら「そんなことが考えられないなら今すぐ辞めろ」と言うかなと考えていたら、質問を受けたパートナーは「起きた時から寝る時まで。それがいやなら今すぐ辞めろ。」と言っていました。(笑)

 また、コンサルティング業界では当たり前に言われ続ける言葉があります。

 「考えることが大事なのではない。考え抜くことが大事なのである。」

 最初に聞いた時はわかったような、わからなかったような感じですが、いつの間にか当たり前のように理解できるようになっていました。

 「食事をしたら歯を磨く。」「トイレで大をしたら、オシリを紙で拭く。」習慣化されて当たり前に実行しているとできるようになるので、とにかく実践あるのみです。

 オシリを紙で拭くことと考えぬことが同じと言う時点で、ますます戦略コンサルタントの人生は終わっているようですが、(笑)

 このまま最終回に突っ走ろうと思います。

 今回はコンサルタントの行動規範として「成果物にこだわる」を紹介しました。最終回となる次回は「 視座にこだわる」を紹介していきます。

次回に続く

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