戦コンスキルは起業に役立つか?(10):行動規範⑦視座にこだわる

AUTHOR :  網野 知博

第10回 戦略コンサルタントの行動規範⑦:視座にこだわる

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回はいよいよ最終回の第10回目になります。

 前回は「戦略コンサルタントの7つの行動規範」のうち、「成果物にこだわる」を紹介してきました。

 「考えることではなく、考え抜くこと。」そして、「起きた時から寝る時まで考えろ。それがいやなら今すぐコンサルタントを辞めろ。」でした。(笑)

 今回は戦略コンサルタントの7つの行動規範の中で最後となる「視座にこだわる」を紹介していきます。

 まずは、おさらいとして7つの行動規範(こだわり)を確認します。

①ファクトにこだわる

②論理にこだわる

③仮説にこだわる

④スピードにこだわる

⑤学びにこだわる

⑥成果物にこだわる

⑦視座にこだわる

「視座」とは何か

 今回は「視座にこだわる」です。あえて正確に書くなら、「高い視座にこだわる」でしょうか。

 よほどの予算権限を持った大企業ではない限り、コンサルティングのBuyerは経営層になることが大半です。「事業の責任を負っている人」と言い換えても良いかもしれません。事業責任の無い平社員が5000万円のコンサルティングを発注することは稀です。課長が決裁する場合もありますが、その場合はその課長が新規事業の責任者であるなどのケースが多いはずです。

 戦略コンサルタントは、通常は経営者に対峙する役割ですので、そのための視点は経営者と同じ視点であることがもとめられます。

 経営者と同じ視点とはどういうことなのでしょうか。

業界を俯瞰する

 一つ目が「業界を俯瞰する」です。

 一般論で言えば、経営の目的は高尚な理念などが存在しています。ですが、企業が存続し活動し続けるためのガソリンとして利益の創出はさけられません。そのため、「事業上の目標」として利益が設定されます。経営者は利益を確保すること、つまりは儲かるということから切っても切りはなせない関係にあります。

 「儲かる」とはどういうことでしょうか。

 例え話でイチローはなぜ年間10億円も稼ぐのかという話があります。私はカープファンなので、黒田投手に置き換えましょう。2014年の黒田投手の年俸は16億円です。39歳を迎えるスポーツ選手としては圧倒的に稼いでいます。ではなぜ黒田投手は16億円も稼げるのでしょうか。「コントロールがいい」、「ツーシームをマスターしたから」、「タフな精神力があるから」などなど。彼が優れた選手である理由はたくさんあげられますが、彼が16億円稼げるのは、野球というスポーツを選んだから、そして大リーグという場所を選んだからです。

 日本のプロ野球界にいたら、特に広島カープに残っていたら16億円は稼げません。(笑)

 また、そもそも彼が野球を選んでいなかったら、もしセパタクローを選んでいたら、国際的な選手になってもきっと16億円を稼ぐことはできなかったでしょう。

 つまり、きちんと稼ぐ市場を選んだというのが勝因だったわけです。

(黒田投手は金を稼ぐために野球を選んだ訳ではありませんが、モノの例えだとお考えください。余談ですが、黒田投手の「決めて断つ」という本はビジネスマンとしても非常に参考になります。決断とは決めて断つ、だそうです。)

 ビジネスの世界でも、どの市場で戦うかは非常に重要な判断になります。儲かる市場(業種業界やエリア)では、ある程度の努力で稼げますが、儲からない業界では血みどろの戦いになります。

 話を戻しましょう。経営者は常に「どうしたら自社は儲かることができるのか」を考えています。それは「どこが儲かる市場(エリアという意味も踏まえて)なのか」、そして「その市場では何が儲かるメカニズムなのか」ということを常に考えているはずです。

 そのため、コンサルタントも「市場や業界の特性」「市場・業界内の事業の特性」「市場・業界内の差別性、競合優位性」といったものを常に考えている必要があります。

 経営者視点で、ということは、経営者から与えられた「答えるべき問い」だけを考えるのでなく、常に「市場や業界の特性」「市場・業界内の事業の特性」「市場・業界内の差別性、競合優位性」を考えて、そのメカニズムを探究している必要あります。これを「業界を俯瞰する」と呼んでいます。

メカニズムにこだわる

 2つ目が「メカニズムにこだわる」になります。

 「この業界が儲かっているようです。」「この市場が伸びています。」「この企業が最近は勢いがあるみたいです。」これらの情報に価値がないとは言いません。むしろ重要な情報です。でも、この情報なら、戦略コンサルタントに金を払いません。証券会社の営業に話を聞けば持ってきてもらえる情報だからです。

 経営者が求めているのは利益を創出することです。そこにつながらないと意味がありません。

 そのためには、一次的な情報ではなく、その裏の背景となる「メカニズム」まで押さえている必要があります。

 この業界では、「どのような顧客が、どのくらいの人数がいて、どのようなニーズを持ち、もしくはどのようなアンメットニーズを抱え、どのような商品やサービスを提供することで、いくらでどのくらい売れるのか。」そして、そのような市場に対して、「どのような競合がいて、具体的には誰で、どのような商品やサービスを、誰に、どこで、どのように売っているか。」

 それらをふまえると、「収益性を決める最大の要因(KFS)は何で、どのような関数によって収益性が決まり、それはなぜか」という、メカニズムを常に考えている必要があります。

 「つまり。こういうメカニズム(仕組み)なので儲かる(儲からない)」ということを、仮説であっても常に考えている必要があります。

 とは言え、正直に書くと、このレベルを行動規範とすることは決して楽ではありません。私は実現をせずに戦略コンサルタントから次の会社へ移りました。(笑)

 少し内容的に脅かし過ぎましたが、このレベルの戦略コンサルタントは日本でも数十名くらいしかいないのではないでしょうか。

 最後に少しハードルを下げてもっと取りかかりやすい視座に関して紹介しましょう。

それなら、先にそちらを書けという突っ込みもあるでしょうが・・・。

答えるべき問いは何か

 自分が負っているタスクがどのようなものであっても、「全体の目的は何で、何のために行っているのか」を言う全体間を持つことです。常に大きな流れの中で自分のタスクを位置付けて、自分の作業の位置付けを理解すると良いと思います。

 新米のコンサルタントだといきなり大きな仕事は任されませんが、それでも「自分のこのタスクは、どのような問いに答えるべきなのか」を自問自答することはできます。これを自問自答し、考え、この問いに答えるためにタスクをこなす。

 このシリーズでも、何度か答えるべき問いという言葉を書いておりますが、高い視座とは常に真の問いを突き詰める、答えるべき問いを考え続ける姿勢なのかも知れません。

 さて、全10回に渡って私が戦略コンサルタントとして経験したことを中心に紹介してきました。

 皆さんの中で戦略コンサルタントという職業を経験することが、起業に役に立つかの結論が出ましたでしょうか?

 これらの話を読み、起業に役に立ちそうと思った人は是非コンサルティング業界へ飛び込んでみて下さい。

 一方で、あまり役に立ちそうにないなと感じた人は、いきなり起業という道へ進むのもよろしいかと思います。

 第3の道として、弊社に飛び込んできてコンサルティングもベンチャー経営も経験するという方法もあります。(笑)

 もし第3の道にご興味を持たれた方はRECRUITのページからお問い合わせ下さい。

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