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ギックスの本棚/織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代

AUTHOR :  網野 知博

経済視点で歴史を検討すると今まで見えなかったものがみえてくる

 

織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代 (ソフトバンク新書)

 

歴女と言う歴史好きあるいは歴史通の女性を指す造語が生まれるこのご時世、ますます歴史に興味・関心をもつ方々が増えているのではないでしょうか。歴史には定性というものがあり、多くの人は歴史の教科書に書いていることを学んで日本を歴史を知ることになります。そして、歴史の定性の多くは勝者側の理論に基づき現代に引き継がれた内容になっています。一方で、歴史には信ぴょう性が高いものから、眉唾ものまで含めて都市伝説的な諸説も存在していることも事実です。

以前ギックスの本棚により「日本史の謎は「地形」で解ける」にて、比叡山延暦寺の焼き討ちに関して「地形と気象のプロ」の視点から推察した説をご紹介しました。

今回の紹介図書である「織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代 (ソフトバンク新書)」は、タイトル通り、ずばり経済視点で歴史をふり返ると言うコンセプトで仮説を繰り広げております。

本書は5章から構成されるのですが、本日は「日本史の謎は「地形」で解ける」と対比させる意味でも、第3章の「延暦寺の焼き討ちは”大財閥”の解体だった」を紹介しようと思います。

なぜ信長は比叡山延暦寺を焼き討ちしたか

歴史に疎い方々でもおそらくは知っている史実である「比叡山延暦寺の焼き討ち」。1571年のこの歴史的大事件は、起こったことは確かですが、なぜ信長は焼き討ちを命じたのかその理由は定かではありません。

今までの定説では、主に以下のような内容が言われており、そこに地形の視点から一つの定説が加わりました。

  • 比叡山の僧侶たちの敵対する浅井家への加担への報復
  • キリスト教の擁護
  • 僧侶たちの堕落した暮らしぶりが気に食わなかった
    (女人禁制の山に美女が多数存在し、肉や魚も食していたと言う記述あり)
  • 寺社の商業利権を得るため
    (信長は経済政策にも優れた武将であり、誰よりも統治に金が必要なことを理解していたという説あり)
  • 上洛する際に通過する逢坂峠での襲撃を防ぐため

本書では比叡山延暦寺の焼き討ちの理由を以下のように推察しています。

 

実は信長は比叡山が朝倉に加担する前から比叡山の荘園を没収するなどしてきた。なぜ信長は比叡山に対して初めから挑発的な態度を取ってきたのか?

その最大の理由は、延暦寺の経済力にあったと思われる。あまり語られることはないが、延暦寺は戦国時代、日本で最大級の財閥だったのである。

当時比叡山延暦寺は今の三菱、三井、住友をもはるかに凌ぐ一大財閥であったそうです。

  • 延暦寺は全国に領地(荘園)を持っていた
    当時の首都京都・5条町に3ヘクタールもの土地を所有
  • 悪徳金融業者の横顔を持っていた
    年利で48〜72%が標準金利。厳しい取り立てを行っていた。また、貸した金を返さないとバチが当たるという殺し文句も存在
  • 商流・物流を支配していた
    当時は”市”は寺社が握っていた。

また、当時は寺社は相当の権力と武力と財力を握っていたようです。

  • 実は平安時代から比叡山は社会の悩みの種であった
    為政者としては当時から比叡山の勢力を排除したいができない事情があった
  • 信長の140年前にも比叡山は焼き討ちされていた
    足利義教と対立し、坂本の街を焼き討ち
  • 楽市楽座を最初に行ったのは石山本願寺
    本願寺も当時は相当な経済力を保持し、最終的には信長と敵対した
  • 本願寺は畿内の流通拠点を押さえていた
    都市部の商工業や流通を押さえようとしていた信長から見るとじゃまな存在
  • 海外貿易まで企んでいた本願寺
    交易まで押さえていた本願寺は信長の目の上のたんこぶ
  • 寺院は要塞都市だった
    当時は寺社は武力も保持し、寺院は要塞そのものだった
  • 武器の製造基地としての寺社
    神社内で刀鍛冶などの武器職人を多数抱えていた

強大な権力を弱めることが目的

以上のように、比叡山延暦寺や本願寺などの寺社は財力、経済圏(商工業や物流)、交易、武力、武器製造、要塞と強大な権力を保持しており、その強大な権力を弱めるのが信長の目的であったというのが本書の説です。

結果的に、寺社が持っていた利権を広く世間に開放することに貢献したとこことです。

現代社会が宗教の弊害を被っていないのは信長のおかげ??

寺社というのは中世の政治経済を牛耳る強大な勢力だったわけである。いつか誰かがこれを潰さなければ、国家は寺社によって支配されてしまう。

誰かがやらなくてはならなかったことを信長がやっただけ。

実際、日本ほど宗教の影響が小さい国は稀である。世界中の国々では、宗教の影響力が非常に大きい。日本にはその弊害がない。

著者によれば、今の日本に宗教による弊害が少ないのは信長のおかげであるということらしいです。

論調は巨悪の寺社を潰した信長と言う構図に見えてしまいますが、タイトルにもある通り、経済戦争と言う観点で見ると、この巨大な利権を保有する比叡山などの寺社を解体し、利権を自らのものにするのが目的であったと解釈するのが正しいのでしょう。

本書の文章構成が決して構造的にまとまっていないために論理的に理解していくには足踏みが必要なことは避けられないのですが、コンサルティングの観点から見ると、武力による戦争の一面だけではなく、兵站を可能にする経済力、及び戦争の目的は経済圏の覇権であったと言う視点は非常に参考になるのではないでしょうか。

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