戦コンスキルは起業に役立つか?~プロマネ編~(6):プロジェクトの立上り

AUTHOR :  網野 知博

頭としっぽには徹底的にこだわれ

前回まではプロジェクトの提案から獲得に向けた活動を中心に説明を行って参りました。今回からはいよいよプロジェクトがスタートしてからの内容を説明していきたいと思います。本日はプロジェクトの立ち上がりに関してになります。

project kickoff

「頭としっぽはくれてやれ」

株式投資に関する有名な格言があります。保有している株の天井値を見極めることは非常に困難ですし、またいつ下がるか分からないため、そこそこの利益で確定すべきで、あまり欲張るべきではないという格言です。儲け損ねた利益を、誰もが食べ残す頭と尻尾の取るに足らない部分に例えたことからこのように言われているようです。

ですが、プロジェクト・マネジメントは「頭としっぽ」、つまり最初と最後がもっとも重要であり、そこで成功の8割が決すると言っても過言ではありません。よって、「頭としっぽには徹底的にこだわれ」というのが戦略コンサルティングのプロジェクト・マネジメントの鉄則になります。

余談ながら、全てのプロジェクト・マネジメントにおいて、頭は非常に重要になります。ですが、システム開発のプロジェクト・マネジメントや建設系のプロジェクト・マネジメントでは、しっぽはあまり重要になりません。その過程において成功・失敗はほぼ全てを決してしまうからです。一方で、戦略系のプロジェクトは、言ってみれば報告書が納品物のため、最後の3日間で土壇場からの大逆転もありえると言う可能性を秘めております。また、その逆もありえます。そのため、頭と同じくらい、しっぽが大事になります。

非常にタイトなプロジェクトのスケジュール

どのプロジェクトも頭は非常に大事になるのですが、戦略系のコンサルティングでは特に頭が重要になります。それは、ひとえにプロジェクト期間が非常に短くタイトなため、取り返すための時間があまり存在しないことに起因します。

ではここで、一般的な戦略立案プロジェクトのスケジュールを見てみましょう。

schedule

このように、クライアント企業の戦略の方向性を立案する際には6週間程度で立案することが一般的です。戦略の方向性を検討するのは非常に重要な仕事ですので時間をかけたい気持ちもありますが、検討だけを続けていても企業が強くなるわけではありません。そのため、1.5ヶ月ほど、つまり6週間程度で検討を行うことが一般的です。このようにタイトなスケジュールで検討を進めていくために大きなミスが許されない、そのために「頭」が非常に重要になります。

「頭」で重要なのは大きく5つ

このプロジェクト立上り時期に特に重要になることは何でしょうか?人によって多少の差異はあるでしょうが、私は大きく5つのことに注意を払っていました。

  1. 自らが誰よりも勉強をする
  2. 自分の頭の中身をクライアント、スタッフに共有する
  3. 仮説の筋道を構想する
  4. 問題の大小を切り分ける
  5. 全体スケジュールの実現可能性を見極める

1.自らが誰よりも勉強する

「後からは勉強できない」

試合で負けた際に、「いい経験だったので、次に活かす」という言葉があります。本人は次に生かせるでしょうが、その試合を応援していた人には次ではなく、「今勝てよ」と思うでしょう。プロジェクトも、プロジェクトを終えた後に、もの凄く成長をすることもありますし、プロジェクトから学ぶべき点が多いことも事実です。ですが、それは結果的に得ることができるものであって、ビジネスプロフェッショナルとしては一つ一つのプロジェクトに価値、成果を出さないと意味がありません。つまり、プロジェクトがスタートする前までに学べることは学び終え、それをプロジェクトのデリバリーに活かさないと意味が無いのです。

また、コンサルティング業界では、1週間(人によっては3日)でその道のプロフェッショナルになれ、とも言われます。今はネットが普及したため、以前よりは非常に容易に情報を収集することができるようになりました。プロジェクトをデリバリーする上で参考となる類似事例、セオリー、ネタ本、業界雑誌、新聞等を活用しながら非常にな勉強を行うことが重要です。こういった情報が長並列型仮説思考の非常に重要なインプット情報になります。

2.自分の頭の中身をクライアント、スタッフに共有する

プロジェクトマネージャーはクライアントの潜在的な悩みのタイミングから一緒に解決策を検討してきています。また、その課題を明確化して「答えるべき問い」を定義し、解決方法のアプローチを検討し、それをスケジュールに落とし、提案書を作成していく中で、頭のなかで一度擬似的にプロジェクトをデリバリーしていることになります。そのため、クライアントやプロジェクトにアサインされるスタッフと比べて相当の準備が既になされていることになります。クライアントやスタッフに提案書を見せて、説明して、ワークプランを共有しても、彼らは何をしていったらよいのかわからないこともよく起こります。

類似のコンサルティングの経験がある場合には、プロジェクト初期の頃からかなりの高精度の初期仮説を保有しており、その答えを共有することからはじめてしまいがちですが、特にクライアント側はいきなり答えを言われても、それを消化するまでに相当の時間を有することも多々あります。特に初めて仕事をする場合などには、クライアントも顧客も信頼関係が構築されるまでは多くの時間を使いながら、自分の頭の中身を共有していくことに時間を惜しまないことが重要です。

3.仮説の道筋を構想する

第4回の「プロジェクトマネジメントを支える仮説力」にて長並列型の仮説立案に関して説明致しました。プロジェクトの立上り段階において、筋の良い精度の高い初期仮説を立案することは容易ではありません。ですが、スタート地点で答えがわかっている必要はありません。仮説立案までの道筋を構想することができれば良いと考えます。

ax+bx+

初期インタビューに行くと、「こうだと思う」と言う仮説を共有してくれる役員もいます。その場合は、個別の現象や分析結果(ここではa,b,cなど)をどのように分析し、何を変数に使い、結果どのようなシンセシスや解釈をしたのか、と言うところまで視野を広げて理解していく必要があります。逆に、個別のa,b,cと言う問題点や現象を伝えれくれる役員もいます。その場合は、それらを踏まえて、仮説を立案する方程式に足りない個別の事象は何かと言う観点と、その時点での最善なる仮の答えは何かを考えていきます。結局変数は4つあるという事が頭に入っていると、初期化説のキレが良いか否かだけの判断にならず、全体観を見ることができ、結果的に仮説への道筋を俯瞰しながら検討を進めることができるので、仮説への道筋を構想することができるようになります。

 

4.問題の大小を切り分ける

先の長並列型仮説の図を再度ご覧ください。プロジェクト初期に、「aである」の部分のアナリシス(分析)の良し悪しで勝負を決してしまうようなプロジェクトはあまりありません。仮に、そこが肝だったとしたら、「bである」「cである」を分析していたり、何が足りないからそれらの数を増やそうと判断したり、シンセシスしながら解釈していく最中に、「aである」の分析がずれていた可能性というものに気づけます。

言い換えれば、プロジェクト初期に、個別事象の分析に関して細かく突っ込んでほじくっていってもあまり意味がないということです。全体を俯瞰した際に、どこにどの程度のリソース配分をすべきなのかという観点で考える必要があります。

5.全体スケジュールの実現可能性を見極める

プロジェクトを開始する前には無限の可能性に満ちている気がするもので、あれもこれも完璧にこなして行きたい衝動にかられます。ですが、時間は有限であり、スタッフも有限であり、クライアントの時間も我々の示唆を受け止められるキャパシティも有限です。また、経営は科学のように絶対的な真理を追求する必要はありません。経営は限りなく可能性の高い方向へ誰よりも早く進み、状況の変化を読み取り、軌道修正していくことが重要な要素ですので、それができるような結果を導き出せるようにプロジェクトを進めて行ければ十分に合格点になります。

 

起業したてのタイミングでコンサルタントを雇うことはできないでしょうし、起業仕立てて戦略の方向性を検討するのに6週間まるまる時間を使うことは不可能だと思われます。ですが、起業して「何かの方向性」を考えなくてはならない時に、それらをひとつのプロジェクトと見立てて検討していくアプローチは有用であると思われます。特に重要となる「頭」と「しっぽ」の「頭」の局面では参考になることも多いのではないでしょうか。

今回はプロジェクトの立上りに関して説明を行ってきました。次回はプロジェクト・マネジメントの中盤での活動に関して説明をしていきます。

第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトの始まり 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り ⇒今回
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告

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