戦コンスキルは起業に役立つか?~プロマネ編~(8):プロジェクト終盤(報告前)

AUTHOR :  網野 知博

最後の3日間で全てが決まるのが戦略コンサルティングのプロジェクト

前回はプロジェクトの中盤の大きな論点、「どこまで拡散させて、いつ収束させるか」と「どのタイミングで腹をくくるか」に関して説明を致しました。収束が早ければ、提案時の初期仮説とあまり変わらない「ありきたりの結論」になる可能性もあり、また収束が遅ければ、最後のシンセシスに時間をかけられず、分析結果から色々な事が分かったが「要は何だったのかがイマイチ」と言う結果になる可能性もあります。実にさじ加減が難しい。また、「世の中に100%証明しきれるものはない」ため、どのタイミングで腹をくくって、これで行こうと意思決定するか。この2つはプロジェクトマネージャーに取って非常に重要な意思決定になります。

さて、本日はいよいよプロジェクト終盤、報告会前夜と言うことになります。報告会前夜、特に最後の3日間は今までの全てを捧げる局面になります。戦略コンサルティングのプロジェクトでは、それまでの数週間の内容から大した成果が出ていなくても、十分な素材が集まっていれば、最後の3日間で逆転可能なプロジェクトになります。一方で、それまでセーフティーにプロジェクトをデリバリーしていても、最後の3日間でコンテンツの昇華に努めないと失敗とは言わないまでも、成功しなかったプロジェクトになりうることもあります。

project-last phase

プロジェクト終盤でのポイントは大きく5つになります。

  • シナリオは全て書き直す(くらいの意識で)
  • 改めてクライアント経営者の悩み事を意識
  • プロジェクト開始前の第3者の客観的感覚を忘れない
  • 正解は一つではない(オプションも提示)
  • ビジネスインパクトを押さえる

シナリオは全て書き直す

私がプロジェクトマネジメントの最前線に立っていた時は、最終報告書は今までの定例報告会で使った資料の取りまとめではなく、全て一から書きなおしておりました。プロジェクト期間中に行う毎週や隔週の定例報告会などの資料はいわば作業結果の羅列に過ぎません。

「こういう情報を入手し、このように整理・構造化し、このように解釈を行った結果、このような事がわかりました。」

この定例資料の5回分や10回分をまとめ直しても最終報告書にはなりえません。同僚や後輩を見ていても、これを理解していないコンサルタントは多かったように思います。実はコンサルタントとしての評価の分かれ目はこの最後の3日間の過ごし方の違いかもしれないくらいに重要なキーファクターになります。

ax+bx+

毎度ながらの長並列型仮説思考の図で説明致します。定例報告会の資料と最終報告会の資料の資料の関係は、定例報告会のアウトプットが、変数a、b、cにあたり、最終報告会のアウトプットはyにあたります。ですので、a、b、cのサマリーが最終報告になるのではなく、それぞれをインプット情報としてそこからシンセシスした結果が最終報告になるため、内容も資料の slideに関してももう一段の昇華が起こることはご理解頂けるのではないでしょうか。

こうした内容は起業後にも役に立てることができます。「営業資料」や「投資家向けの説明資料」においても、自分たちがやってきたことの羅列、作業結果の羅列的な資料に出会うことがあります。結局それらの羅列をまとめて、シンセシスするとどのような事が結論なのでしょうか。また、その結論をだれでもわかりやすく理解するとしたら、どのようなシナリオ、ストーリーで説明すると良いのでしょうか。こういったことを意識せずに当たり前のお作法として行えるようなるのはプロジェクトマネジメントを身につけたもののひとつの強みになります。

改めてクライアント経営者の悩み事を意識

プロジェクトの報告会は自分が調べた結果を自分が伝えたい内容で好き勝手に発表する場ではありません。そもそもの、本質的なクライアントの悩みや課題に適合していなかったら意味がありません。提案時を振り返り、そもそも答えるべき問いは何であったか、その裏にある経営者の悩み・苦悩・不安・恐怖は何であったかを改めて振り返り、それらに真摯に答えられているかを再検討する必要があります。

プロジェクト開始前の第3者の客観的感覚を忘れない

クライアントは常に自社のことを過大評価し、また過小評価しているものです。また、業界の常識やお作法を学ぶ事も必要でしょうが、内部の人間になってしまったら、コンサルタントの価値は著しく低減し、器用に業務をこなし資料を作ってくれる高級人材派遣のスタッフに過ぎません。アウトサイダーだからこそ感じた疑問や「気持ち悪さ」というものを改めてぶつけてみて、業界人の当たり前の再整理になっていないかを確認する必要があります。特に最終報告前の局面になると、プロジェクトマネージャーも相当業界の常識やその企業の文化や歴史にどっぷり浸かっているからこそ改めて意識して初心に戻り、最初の「気持ち悪さ」を思い起こすことが必要です。

正解は一つではない(オプションも提示)

世の中に絶対的な解は存在しないと思われます。一つの絶対的な解とその証拠となる情報を提示し、実行計画を提言するだけでは足りないと思われます。また、最後にたどり着く姿はたった一つでも、そこまでのアプローチは複数存在します。山の登り方は一つではないのと同様に、事業の進む道も一つではありません。オプションを複数持ち、その中でのベストとベターと常に自分なりに持ち続ける必要があります。

ビジネスインパクトを押さえる

たとえどんなに粗くて稚拙なものであっても、ビジネスケースは押さえるべきです。フェルミ推定に毛が生えた程度の推定値であっても、どの程度のビジネスインパクトの話をしているのかを常にプロジェクトマネージャーが理解し、意識している必要があります。ビジネスケースから見て、クライアントの最初の悩みに答えられているのかを最終局面で改めて確認していく必要があります。

数字を作っていくとクライアントが望むような規模にならないことも起こりえます。そうした場合は、資料上は非常に楽観的な作文を行い、ビジネスインパクトがあるような数字の算出もできるでしょうが、そういったことは全く意味がありません。クライアントには、「高い金を払って、出てきた結果ができない証明では意味が無い。」と叱責されることになるでしょう。ですが、必要なのは、数字を積み上げて帳尻を合わせることではなく、考えうる最善の策を実行した場合でも、この程度のビジネスケースになり、事業に対するビジネスインパクトはどの程度なのかをきちんとお伝えしていくことだと思います。

プロジェクト前夜に確認すべき点は他にもありますが、私は最低限この5つを意識しながら最終報告に向けて仕上げていくようにしていました。

次回はいよいよ最終回になります。プロジェクトの最終報告に関して説明をしていきます。

第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトの始まり 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)⇒今回
第9回:プロジェクト最終報告 ⇒次回

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