ギックスの本棚/火の鳥(手塚治虫):(1) 黎明編 【GAMANGA BOOKS|小学館クリエイティブ発行】

AUTHOR :  田中 耕比古

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田中 耕比古
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権力者の欲望と、種としての存続

火の鳥 1 黎明編 (GAMANGA BOOKS)

本シリーズでは、火の鳥を読み解いていきます。火の鳥の全体構成については、コチラをご参照ください。(尚、本稿で紹介するのは、小学館クリエイティブ発行の「GAMANGA BOOKS」の「火の鳥」です。)

あらすじ

こういうのは、僕がクドクドかくことでもないので、GAMANGA BOOKS版 火の鳥の裏表紙より引用します。

舞台は3世紀の日本。
ヤマタイ国の女王・ヒミコは 永遠の命を得るために クマソ国に攻め込み、 火の鳥の生血を手に入れるよう命じた。
生き残ったクマソの少年・ナギは ヤマタイ国の猿田彦の捕虜になり、 ヤマタイ国に連れてこられた。
しかし、ヤマタイ国は、ニニギに率いられた渡来人の 高天原族の攻撃を受けようとしていた。
生と死を巡る壮大な物語がここに始まる。

ストーリーの特徴

この黎明編は「卑弥呼」が支配する邪馬台国の時代です。また、エピソードは、日本書紀の世界観を用いています。卑弥呼=天照大神だという説もあるため、手塚治虫がそれを採用してストーリーを組み立てた、ということでしょう。

登場人物は、日本書紀の登場人物と関連しています。イザ・ナギ(主人公)=イザナギ、スサノオ(卑弥呼の弟)=スサノオの他、猿田彦やニニギ(ニニギノミコト)、ウズメ(アメノウズメ)などもそうですね。

ブラックジャックなどの手塚作品でもそうですが、圧倒的な調査・情報量を下敷きにしてストーリーが組み立てられていながら、オリジナルの物語として違和感を感じさせないのが、手塚作品の驚異的な部分だと言えるでしょう。

 不老不死への憧憬

古来より、世の権力者は不老不死を夢見るものです。秦の始皇帝もそうだったと言われていますし、卑弥呼(ヒミコ)がそうだとしても何の不思議もありません。

会社の経営者も同じかもしれません。圧倒的なパッションと行動力で自分の「帝国」ともいうべき企業を作り上げた創業者は、後継者選びに苦労していらっしゃるようです。このまま、自分が永遠に生き続けていきたい、という幻想を抱いていても不思議ではないです。

自分の帝国を守りたい(他人を含む)と、自分自身が長生きしたい(エゴ)が等号で結ばれてしまった時、人は不幸になるのかもしれません。

神話の世界の登場人物が、非常に人間臭く振る舞う

上記のように、不老不死に焦がれてやまぬヒミコを筆頭に、登場人物は皆、非常に人間臭いです。自らの衰えを嘆くヒミコ。大きな葛藤を抱きながら一族を滅ぼした張本人 猿田彦を大好きだと言うナギ。そして、それを涙を流して喜び、ナギをセガレと思って育む猿田彦。

そして、黎明編には、いわゆる「悪人」はでてきません。「人間」という存在が、如何にちっぽけで、そして愛おしいのか。手塚治虫の「ちっぽけだからこそ、そんな人間が好き」という気持ちが読み取れるように僕は思います。

人間も動物と同じ

物語の後半、ナギの「クマソ」を滅ぼしたヒミコの「ヤマタイ国」が、ニニギ率いる「高天原族(渡来人)」によって滅亡することとなります。一時の勝者も、別の勝者に滅ぼされるわけです。これは、ヒミコが死んだからヤマタイ国が弱体化した、というわけではなく、200頭以上の馬を用いた騎馬兵団などを要する高天原族との「圧倒的な武力の差」が明暗を分けたと言うべきでしょう。

そして、その戦にのぞむ主人公ナギは、大きな黒アリと小さな赤アリの種の存続をかけた戦争を見ます。ナギは負ける可能性が極めて高い自分たちを「小さな赤アリ」に投影します。

「このアリの戦争が終わるまでにゃ おれたちのほうも けりがついているかなあ・・・」

「赤アリ!!がんばれーっ でかい奴に負けるなっ 絶対に勝てよーッ」

このアリの戦争の結末は、黒アリの勝利で終わります。人間の戦争で勝利を得たニニギのセリフです。

「きてみろウズメ アリの戦いのあとだ」

「赤アリと黒アリの戦いらしいぞ 赤アリが負けてみじめなしかばねをさらしておる・・・・」

「徹底的に一匹残らずだ・・・小気味のいい黒アリのやり方ではないか・・・」

そして、ニニギはこう続けます。

「だが人間はそうもいかんでな・・・・ この国にも働かせるための頭数はいるし 形だけでもヒミコの跡継ぎを決めねばらならぬ」

と。

しかし、僕は、手塚治虫のもう一つの超大作「ブッダ」の1シーンを思い出してしまいます。そこでは、子供の豹を丸呑みした大蛇(勝者)を、アリの大群(別の勝者)が襲いかかり骨しか残さず平らげてしまいます。そして、その直後に降った大雨によって、アリは流されて死滅し、魚の口に入ります。

火の鳥でも、アリの戦争に関するナギの描写の直後「雨が降りそうだ」という天の弓彦の読み通り、大雨が降ります。結果的に(というよりも物語の都合上)、アリは雨で流されなかったようですが、一歩間違えば、ブッダでのアリと同じ運命をたどっていたハズです。

ニニギの言う「人はアリとは違う」というメッセージも、所詮は天の采配には敵わない、という大前提を無視した人間の傲慢だと言えるのではないでしょうか。

果たして、勝者は誰なのか

結局のところ、ヒミコは不老不死を得ることはありません。そして、戦争を経て、永遠の命(=火の鳥)になど全く興味のない「現実主義」のニニギが勝利し、建国します。但し、物語の結末は滅ぼされた一族の「次世代」が進む次なる一歩を示して終わります。クマソの血はナギの姉・ヒナクの子供タケルに引き継がれ、ヤマタイ国の血は猿田彦の子を宿したウズメ(彼女もニニギに滅ぼされたヨマ国の生き残り)が引き継いでいきます。

つまり、「国家をつくりあげる・強大化させるという意思を持った者」が「自分自身の生存と国家繁栄を等号でつないだ者」を打ち滅ぼし、その一方で、「不老不死ではなく、”子孫を残す=命を繋ぐ”ことを選択した者たちが、”未来永劫の存続”を手に入れた」という事になります。

本当の勝者は「個としての存続」ではなく「種としての存続」なわけです。

壮大なる物語の幕開け

この黎明編では、火の鳥は何も語りません。そして「輪廻」の概念もでてきません。しかしながら「不老不死を求める事の無益さ」と「子孫を残すことの意味」を読者に伝えることが、未来編以降のストーリーに向けた大いなる布石となるわけですね。

黎明編を書いた時点で、手塚治虫の頭の中にどこまで明確なストーリーができていたのかはわかりませんが、おそらく、火の鳥の物語が進むにつれて、手塚治虫自身の思考・思想も成長していったのではないかと僕は思います。そして、火の鳥を読み進める僕たち読者も、徐々にその思想を理解し、思想的に成長していくことになるわけです。んー。楽しみですね。

本連載では、徐々にテーマが広がり、そして深みを増していく火の鳥を不定期連載で読み解いていきます。更新情報は twitter:www.twitter.com/gixojp をフォローいただいて、適宜ご確認いただければと思います。

火の鳥 1 黎明編 (GAMANGA BOOKS)

火の鳥 1 黎明編 (GAMANGA BOOKS)

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