ギックスの本棚/火の鳥(手塚治虫):(5) 鳳凰編 【GAMANGA BOOKS|小学館クリエイティブ発行】

AUTHOR :  田中 耕比古

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田中 耕比古
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己と向きあうことが、幸福への第一歩

火の鳥 4 鳳凰編 (GAMANGA BOOKS)

本シリーズでは、火の鳥を読み解いていきます。火の鳥の全体構成については、コチラをご参照ください。(尚、本稿で紹介するのは、小学館クリエイティブ発行の「GAMANGA BOOKS」の「火の鳥」です。)

あらすじ

こういうのは、僕がクドクドかくことでもないので、GAMANGA BOOKS版 火の鳥の裏表紙より引用します。

奈良時代、大仏建立を背景に 二人の仏師の生きざまを描く。

盗賊としての多くの命を奪ってきた隻腕の我王は、旅の僧・良弁に導かれ旅をするうちに仏師としての己に目覚める。

一方、かつて我王に腕を傷つけられた 仏師・茜丸は時の権力者に気に入られ その名を上げていく。

やがて二人に、大仏殿の鬼瓦を焼くように、という命が下った。宗教とは、その命題たる輪廻転生とは何か・・・・。

交錯する二人の仏師がストーリーの核

物語の核となる登場人物は二人。隻腕隻眼の盗賊である我王。仏師としてかなりの腕前を持つ茜丸。この二人の人生が、幾度となく交わることで物語が紡がれます。

”己”しか見えない我王

我王は、自分の境遇への怒りと不満を抱えて生きています。他人を受け入れられず、他人を信用できません。

自分の中には「自分」しかおらず、その外にある全ての存在は「敵」です。触れるもの・関わるものを全て壊していくことで、己を確立します。

”自分の腕前”を磨くことに関心がある茜丸

対して、茜丸は、我王とは違う「自己」を抱えています。茜丸は「他人からの評価」を鏡として自己評価をしています。

その才能の発露のためにとても重要な”右手”を、我王によって傷つけられますが、それを恨むのではなく、左手で更なる技術を発揮することに努めます。「才能」即ち「彫刻への評価」こそが、茜丸の自尊心の核です。

出会い が 人を変える

我王は、良弁僧正というお坊さんと出会います。そこで、輪廻転生の概念を知り、「自己」という存在が、来世は人ではないかもしれないと想像し、怖くなります。そして、その恐怖からの解放を望みます。

一方の茜丸は、橘諸兄(たちばなのもろえ)に会い、誰も見たことのない「鳳凰」の彫刻をつくれと言う無理難題を命じられます。彼は「自分の生命を守るために、自己を自己足らしめている”彫刻の腕前”を発揮する」ことが求められてしまいます。

このタイミングで、我王と茜丸は再度出会います。我王は「自分を殺せ」と詰め寄りますが、茜丸は「そんなことに興味はない」と突き放します。

しかし、この時点で既に「良き師」である良弁と出会った我王と、無理難題を言う「権力者」である橘諸兄と出会ってしまった茜丸の将来には、明確な違いが出ていたと言えるでしょう。

「輪廻」を知って、どう振る舞うか

我王は、輪廻を知ってからずっと苦しみます。その苦しみの中で、自分の中にある「怒り」と向き合うこととなります。そして、その「怒り」を体現化させる”彫刻”において、非凡な才を発揮します。この才能を見出したのも、師である良弁です。その後、我王は彫刻を掘り続けます。濡れ衣によって2年間石牢に閉じ込められた期間も含めて、5年もの間、ずっと石仏を掘り続けることになります。そこで磨かれた腕前が、「鬼瓦の制作」に注がれます。そして、良弁の死によって、人の生の無常を知り、「悟り」を得ます。

同じころ、茜丸は、ブチという女性と出会い、彼女をモデルにした観音像を彫ります。それが切っ掛けで吉備真備に命を助けられ、吉備真備の後援によって「鳳凰」の絵を知り、そして夢の中で「輪廻」の概念に触れます。我王を苦しめた「輪廻」の概念に対して、茜丸は「鳳凰に出会えた」という一点だけを捉えて喜びます。そして、その鳳凰を彫刻として作り上げる、という「素晴らしい作品を生み出す才=他人からの評価を得るための才」を発揮するための道を邁進します。その才能は花開き、大仏建立の責任者・設計者としての大任を任されます。まさに「才能によって名声と地位を得た」という状態と言えますね。そして、同時に「名声のとりこ」になってしまっていたとも言えます。

鬼瓦 を作る時に、何と向き合うのか。

そんな大仏殿の最後の要とも言うべき「鬼瓦」をつくるにあたり、我王が連れてこられます。茜丸と我王は、三度相まみえるわけです。

鬼瓦勝負となり、茜丸は「己」と向き合い、「己」と戦います。茜丸のこれまでの作品は、鳳凰、観音像、大仏などすべて「何らかのモデル」が存在していたわけですが、鬼瓦には何もモデルがありません。そのことが、茜丸を苦しめたのでしょう。つまり「外からの評価」によって自己を確立したツケがここでまわってきたわけです。そして、名誉意欲と職業意識にとらわれ、作品づくりに向き合ってこなかったのではないか、と不安になります。

一方、我王は、これまで同様「怒り」と向き合います。そして、自己と向き合う意識の中で火の鳥と出会い、自分のこれからの「輪廻転生」と向き合うことになります。その中で感じた「苦しみ」「悩み」そして「怒り」を、純粋に鬼瓦にぶつけます。

このアプローチの違いが、作品に大きく影響します。茜丸自身、一目見て負けだと悟るほどの「出来栄えの差」がうまれてしまいます。しかし、負けを認められない茜丸は、突然、我王の「過去の犯罪」を持ちだすことで、勝負を白紙に戻し、我王を更迭させることで地位を守ります。(しかも、我王の残っていた腕を斬り落とす、という残酷な仕打ちもセットにします)

幸せ は、己の中にしか存在しない

こうして、表舞台に残った茜丸と、世捨て人として人前から消えた我王ですが、その後の人生で幸せだったのは我王でした。結局は、他人からの評価を「自己評価の核」として持っていた茜丸には、本当の幸せを掴めなかったわけです。

他人の評価を気にすることの是非

僕自身、子どもの頃から、他人の評価によって自分自身の価値を見出して生きてきました。ですので、茜丸には非常に共感を得てしまいます。誰かに凄いと言われること、誰かに褒めてもらうこと、そういうことが「自分の価値」を確かめるためにとても重要な指標でした。(要するに、承認欲求がメチャメチャ強いわけですね)

しかしながら、自己評価の軸を自分で持てないことが、非常なストレスとなっていたのも事実です。そういう状態では、結局は自分の実力を発揮できない、ということも起こってしまいます。やはり、「自分の価値観」をキチンと作り上げることが、自己防衛の観点からも、そして自己実現・自分なりの”幸せ”獲得の観点からも、非常に重要だと思うのです。

本作中でも、「輪廻転生」に触れたときに、「自己に照らしあわせて考える我王」と「自己とは切り離した夢として捉える茜丸」には、その思考プロセスにおいて決定的な違いがあります。

自己の価値観は、苦しみながら作り上げられるモノで、何の苦労もせずに得られるものではありません。しかし、どれだけ苦労し、努力したとしても、ベクトルの向きが「茜丸側」であれば、価値観・価値基準が「他人任せ」となってしまう恐れがあります。

「他人」は「自分を映す鏡」

結局のところ、”自分”を「他人を映す鏡」と規定するか、”他人”を「自分を映す鏡」と規定するか、という違いが、非常に重要なポイントだと僕は思うのです。

以前の僕は、茜丸と同じく”自分”=「他人を映す鏡」でした。価値基準は自分の”外”にあり、その基準での高い評価を得るために、自分を磨き続けるわけです。もちろん、これはこれで、ひとつの自己実現の形ではありますが、評価者が変われば、あるいは、環境が変われば、自分をアジャストしていくことになります。

最近の僕(といっても、ここ1~2年の話のような気がしますが)は、”他人”=「自分を映す鏡」と認識するように努めています。まだまだ修行が足りませんので、100%できているわけではありませんが、少しずつマインドセットを変え始めた、という感じですね。

傲慢だ、とか、不遜だ、とかいう批判を受ける可能性もありますが、「自分で考えて、自分で判断して、自分が納得できる結論・アウトプットに辿り着く」というところをコミットすることにより「結果・成果物への責任感」を高めますし、「自分で許せないクオリティ基準は絶対に譲らない」という行動規範ができます。これによって「自分の生活・仕事を自分でコントロールしている」即ち、「自分の人生を、自分でコントロールしている」という意識が生まれました。

まだまだ、日々、他人に苛立つことや、自分自身の怠け癖を許してしまっていることも多々あり、反省することしきりですが、茜丸モードで生きるのではなく、我王モードで生きていきたいと思って、日々修練に励みたいところです。

このように、「火の鳥 鳳凰編」は、この一冊だけで読んでも、非常に強いメッセージ性を感じる作品ですので、「火の鳥シリーズを全部読むのは、ちょっと長すぎるわー」という方は、ここから始めてみるのもオススメですよ。

 

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火の鳥 4 鳳凰編 (GAMANGA BOOKS)

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