あべのハルカス近鉄本店、開業半年で一部改装 食品売り場など(日本経済新聞)/ニュースななめ斬りbyギックス

AUTHOR :  田中 耕比古

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田中 耕比古
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アナタの「売り」はソレで良いのか?と問う勇気。

本日は、大阪の新たなランドマークとして2014年3月に全面開業した「あべのハルカス」に関するニュースを取り上げます。

日経新聞(2014年7月23日付)より

記事概要を引用します。

近鉄百貨店の高松啓二社長は23日、3月に全面開業した旗艦店「あべのハルカス近鉄本店」の売り場を9月をめどに一部改装する方針を明らかにした。食品売り場の店舗の配置を見直すほか、若い女性向けの専門店街「ソラハ」へ向かう通路を増やす。本店の売上高が計画を下回っているため、ハルカスの開業から半年という早い段階でてこ入れする。

続きは日経新聞webサイト(有料会員専用記事)で。

開業半年で見直しをする、というところに注目が集まっているようです。詳細は元記事をご覧いただきたいのですが、動線変更のために1億円かけて設備変更をする計画のようです。いったい、どういう状況なのでしょうか。

ここからは、もう少し詳細な情報があるBusiness Journalの記事「あべのハルカス、百貨店に黄色信号?(2014年7月2日)」を引用しながら考察をすすめます。

集客力は悪くないが、失速気味?

3月7日から5月31日までの間で約1124万人が訪れた。年間来場者数4740万人という目標を1%程度上回る1日平均13万人の人出となり、まずまずの結果となった。

しかし、全面開業から3月31日までの25日間の来場者が1日当たり14万人強を集めていた当初の勢いは鈍化してきている。1000万人の達成は76日目で、東京スカイツリータウン(59日目)を下回るペースだった。

一応、計算しておくと、3/7~5/31は86日間。1,124万人/86日=13.06万人/日の来場ということで記事通りですね。そして、上記引用の2文目によると、3/7~3/31の25日間が14万人強ということなので、仮に14.1万人だとすると14.1×25日=352.5万人。ということは、4/1~5/31の61日間の来場者は(1,124-352.5)/61=12.65万人ということになります。つまり、3月中と4月以降では、1日当たり1万5千人程度の来場者減(10.3%減)になっているわけですね。

来場者数の内訳は、売り場面積が10万平方メートルと日本最大規模の百貨店「あべのハルカス近鉄本店」が974万人、展望台「ハルカス300」が70万人、レストランが人気の大阪マリオット都ホテルが19万人、あべのハルカス美術館が8万人など。展望台は週末を中心に当日券の購入待ちが1時間以上になる人気ぶりだ。

(中略)

百貨店であるあべのハルカス近鉄本店は苦戦を強いられている。全面開業から5月末までに974万人が訪れたが、15年2月期の年間来館者の目標は4500万人、1日当たり12万人なのに対して実績は同11万人で下振れした。

先ほどの 3月 vs 4・5月 の来場者減と同じ比率を用いると、あべのハルカス近鉄本店の「974万人」は、3月に305.4万人、4・5月に668.6万人の来場と考えられます。1日あたりでみると 3月が12.21万人/日、4・5月が10.96万人。3月時点で「対目標102%」、4月・5月は「対目標91%」ということになります。なるほど、これはキツい。

展望台頼みが「商売」に紐づいていないのでは?

では、なぜ、そうなってしまっているのでしょうか。僕は「展望台集客に依存しすぎている」と分析します。

上記の通り、あべのハルカスの来場者1,124万人のうち、展望台「ハルカス300」の訪問者が70万人です。これは来場者の6.2%を展望台訪問者が占めることになります。記事にもある通り「週末を中心に当日券の購入待ちが1時間以上になる人気ぶり」なわけですから、大人気ですね。

一方、六本木ヒルズ東京シティービュー(展望台)の訪問者は開業後10年(2003~2012年)で1,710万人と言われています。同期間の六本木ヒルズ全体の来場者累計が4億2000万人とのことですので、展望台訪問比率は4.1%となります。(出所:六本木ヒルズ10周年プレスリリース(PDF))※両者の数字の出し方が同じとは限りませんが、仮に「六本木ヒルズ来場者数と展望台訪問者数は別カウント」と仮定しても、展望台訪問比率は1,710万÷(4.2億+1,710万)=3.91%となりますので、まぁ、大体4%前後とみて良いと思います。

つまり、展望台目的での来場者が、六本木ヒルズに比べて2ポイントほど多い、ということが言えます。

もし、展望台比率が六本木ヒルズ並み(4.1%)だとすると・・・

たかが2ポイント、と思うかもしれませんが、もし展望台訪問者が4.1%になるレベルまで「全体来場者が多かった」と試算すると、来場者数は「1,707万人」となります。これは来場実績1,124万人の1.52倍ですね。

そうすると、苦戦が報じられるあべのハルカス近鉄本店の来場者も、実績974万人→予測1,480万人となることが見込まれます。1日あたり17.2万人。目標である12万人/日の1.43倍です。余裕で目標達成です。

UVP(顧客に肚落ちする提供価値)=高さ の失敗

その状況を踏まえて、あべのハルカスは、どんなマーケティング・メッセージを打ち出しているのかを見てみましょう。

自分自身をどのように位置づけているのか?

Google検索 「あべのハルカス とは」:

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Google先生に「あべのハルカス とは」と聞いてみると、ご覧の検索結果が表示されます。この赤枠で囲った部分が「公式サイト」の説明ページなのですが、表示されているページディスクリプション(ページの説明)をみると「地上300m日本一の超高層ビル」ということが強調されています。っていうか、もはや、それしか書かれていません

Google検索 「六本木ヒルズ とは」:

では、六本木ヒルズはどうでしょう?同じく検索してみます。

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同じく、赤枠で囲った部分が公式サイトの「説明ページ」の情報です。「参加する街」「住む人も、働く人も、集う人も、その全員が六本木ヒルズに参加」「新しい美術」「クリエイティブな食事」といったキーワードが並んでいます。

明らかに「売り」とする部分が異なっています。

あべのハルカスのトップページ:

では、実際のサイトはどうなっているでしょうか。

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最上段のバナーは「ハルカス300(展望台)」の話題です。(くるくるスライドするのですが、最初に表示されるのはコレです)

そして、右には「そびえたつビルの外観」の写真。

さらに言うと、ロゴが「高いビル」ということを熱く訴えかけてきているのも印象的です。

プレスリリース:

「あべのハルカス プレスリリース」で検索して表示されるPDFの最上位は「あべのハルカス 近鉄本店」に関するリリースです。日付は2012/11/6。キーワードを抜粋してみましょう。

  • コンセプト:モノ・コト・ヒトとの出会いが暮らしを彩る「街のような場」
  • レストラン:フロアごとにテーマを設け、多様なお客様の食シーンや嗜好性に対応したバラエティ豊かな店舗を揃えます。
  • ファッション:ヤングのトレンド感あふれるファッションを展開します。
  • 地域交流:新しい「ヒト」とのつながりを創り出す取組みとして、百貨店が実施する「コト」提案型イベントも加え、「常に何かやっている」「いつ行っても発見がある」、お買物目的がなくても来店したくなるような、ワクワク感・期待感あふれる空間をつくります。
  • 空間デザイン:街場をつくる

ヤングのトレンド感あふれる、というのがどうなのかはさておいて、このリリースでは、先ほどの六本木ヒルズの説明と同じように、”街”という概念を提唱していることがわかります。

しかし、これは、あくまでも「百貨店」であるあべのハルカス近鉄本店を主軸においたリリースです。上記リリースの次に表示される「大阪の新しいランドマーク「あべのハルカス」 平成26年3月7日(金)全館グランドオープン!!」(2013/10/22)を見てみると、様子が一変します。

  • 書き出し:近鉄では、高さ日本一となる300mの超高層複合ビル「あべのハルカス」(地下5階地上60階建て)の建設工事を鋭意進めています。
  • 施設:このたび、「あべのハルカス」の全館グランドオープン日を平成26年3月7日(金)に決定しましたので、お知らせします。同日より、展望台「ハルカス300」、「大阪マリオット都ホテル」が営業を開始するとともに、「あべのハルカス近鉄本店」は全館がオープンします。
  • 予約開始:グランドオープン日の決定にあわせて、平成25年11月1日(金)から、展望台「ハルカス300」は団体入場予約の受付を、「大阪マリオット都ホテル」は宿泊予約の受付を開始します。

最初に出す「売り」は「日本一の高さ」。施設紹介は、関西初のマリオットブランドのホテルよりも「展望台が先」。

この流れは、プレスリリース2ページ目の「施設別の営業開始日」の記載順序でも同じです。

  • ハルカス300(展望台) 平成26年3月7日(金)
  • 大阪マリオット都ホテル 平成26年3月7日(金)
  • あべのハルカス近鉄本店 平成26年3月7日(金)【全館オープン】
  • あべのハルカス美術館 平成26年3月22日(土)(開館記念特別展)
  • オフィスフロア 平成26年2月から順次入居

そして、続くp.3~4は、ハルカス300の団体先行予約のお話です。

p.5~6は、大阪マリオット都ホテルの先行予約及び近鉄本店の全館オープンのお知らせで、補足もp.7がハルカス300の説明です。

つまり、全9ページのリリースにおいて、展望台だけに割いたページが3ページ。他施設と併記される2ページでは最上位に展望台を据える、という徹底した「展望台押し」の構成です。

本当に、それを「伝えたかった」のですか?

ここで考えねばならないのは「本当に、展望台をイチオシにして良かったのか?」ということです。もちろん、「展望台で集客しよう!」という作戦が間違っていたとは思いませんが、「展望台で来た人に、周辺でお金を落としてもらう」というところまで描かないと戦略とは言えません。

お客様の目的に合致する「伝えるべき情報」とは何か?

ギックスでは、UVP(Understandable Value Proposition)という考え方を提唱しています。これは、一言でいえば「お客様が、”なるほど、それなら買ってみよう・使ってみよう”と思える【納得感】のある提供価値」です。(ギックスでは「顧客の肚に落ちる提供価値」という日本語表現を使っています)

僕が検討するならば、最初に、【UVPとしてお客様に訴求できる「他の街(梅田や心斎橋)に無い魅力的なコンテンツ」があるか】を突き詰めると思います。もし、それが存在しないのであれば、そもそも「周辺から人が来るのは一過性」「しかも、来場しても”百貨店”には興味が無い」ということになります。そうすると、せいぜい、レストランくらいしかお金が落ちないな、という結論になります。(梅田や心斎橋で買える=東京でも名古屋でも福岡でも神戸でも仙台でも広島でもきっと買えるのなら、遠方で買う必要はないわけです。荷物になるだけですからね。)

その場合、1日乗降客数77万人(出所:近鉄本店のプレスリリース)という阿倍野・天王寺駅を「日々通っている人」をターゲットにしないと売上にならないのは自明です。もし、このうちの1%を吸い込めれば、1日7,700人。非常に楽観的ではありますが、現状の来場者未達をほぼ埋めることができます。この通勤などの日常生活の中で阿倍野・天王寺を通る人達に「何を伝えたら、立ち寄って、あわよくばお金を落としてくれるのか」を考えるために「そもそも、自分たちは、何が強いのか」を再確認する(明確な強み・売りが無い/弱いというのなら、マーケティングの4Pの「Promotion以外」の3P=Product,Price,Placeを修正する)ことがUVP構築の重要なプロセスとなります。

あべのハルカスの伝えるべきメッセージは、当初(2012年11月)のコンセプトにあったような事柄を軸にして、「展望台に関係ない”日常”における、ステキな時間の過ごし方」だったのではないかと僕は思います。つまり、

  • 百貨店と専門店を6:4で混ぜて、「誰と来ても楽しく買い物できる」を醸成する
  • 物販と非物販を75%:25%で混ぜて、「コト体験」で時間消費をさせる
  • ターミナル駅利用者向けに、試用を充実したコスメフロアやカフェの充実で立ち寄らせ、デイリー食材ストアで日々の買い物をさせる
    (以上、前述のプレスリリースより)

これらの特徴が「あべのハルカスが、消費者に訴えかけるべきUVP」だったのではないでしょうか。

※もちろん、一過性とはいえ、商圏外から人が来てくれるのは良いことです。だとすると、その人たちに向けた「300mの展望台で景色を観る”前後”の時間の過ごし方」の提案が不足しているのではないか、と思ってしまいます。(展望台観た後、心斎橋でご飯しようか?なんてデートプランを組まれたらアウトなわけですから)

わかりやすい「強み」に飛びつく”危うさ”を知ろう

大阪は、グランフロント大阪などの梅田の再開発が活況です。それらとの激しい競争の中で、競合には無い「日本一高いビル」という強みは、事業者側から見ると非常に魅力的なセールスポイントに見えるでしょう。(実際、話題にもしやすいですから、PRにはうまく使うのが正解です)

しかしながら、上で述べたように「それで、消費者に何の得があるの?」というところがクリアになっていないと、少々困ったことになります。

展望台がどれだけ高くても、どうせ大混雑してるから通勤者には関係ない。仮に興味があったとしても、毎日上がってみたいものでもないでしょう。それよりは、日常の中で「意味のある価値」を提示してくれた方がいい。

極端な例ですが、「近鉄の定期券(百貨店のカードではない)を見せたら飲食5%OFF」とかいうサービスもいいんじゃないかと思います。通勤者に寄り添う感じ。通勤者と限定するなら平日だけ適用でもいいかもですね。あるいは、休日ならば、近鉄の特急券とかでもいいかもですね。近鉄で天王寺まで来ない人も、ひょっとしたら「乗り越してでも」あべのハルカスに来てくれるかもしれません。(JRや地下鉄の定期しかない人は、近鉄の定期を持ってる人と一緒に来るか、あべのハルカスのポイントカードをつくるかすればいいって話ですよね。)つまり、この場合のUVPは「近鉄を使う人をエコひいきする商業施設=近鉄乗るならココに行かずにどこ行くの?」なわけですね。

こういうメリットがあると、普段、梅田やなんばで買い物している”近鉄沿線在住者”は「あべのハルカスに行きやすい・立ち寄る理由ができる」でしょう。そして、飲食目的で立ち寄ったついでに買い物をしてくれるかもしれません。貴重な平日の夜の数時間に、2つの街でそれぞれ”買い物”と”飲食”を行うのは効率が悪いですからね。そうすると、物販店の営業時間も”平日に少し遅めまで開けておく(曜日別にローテーションさせてもいいですよね)”とかいうサービスの発想も生まれます。「人が当たり前のように、快適に時間を過ごす”街”をつくる」ってそういうことなんじゃないかなーと僕は思うんですよね。

近鉄百貨店さんにおかれましては、人の導線/動線を変えるための設備変更をしていく前に、一度、きちんと立ち止まって「そもそも」から考えてみるのも一興なのではないでしょうか。

 

(ま、そんなこと言いつつ、僕自身は、あべのハルカスも虎の門ヒルズも、なんなら東京スカイツリーも行ったことないんですけども・・・。)

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