米IBM、ヒトの脳まねた半導体 人工知能実現に道(日経新聞)/ニュースななめ斬りbyギックス

AUTHOR :  田中 耕比古

「考える」について考える人たちがいる

本日は、8/8 日経新聞 電子版記事(無料公開)「米IBM、ヒトの脳まねた半導体 人工知能実現に道」について考察します。(元記事はコチラ

記事概要

米IBMとコーネル大学は、IBMが取り組んできた「非ノイマン型」と呼ばれる次世代半導体の研究を推し進めて「ヒトの脳の情報伝達をまねた半導体技術」を開発した。将来的に「人間が命令しなくても自ら学習して問題を解く人工知能」の実現を目指す。

開発した半導体チップは、100万個の神経細胞と2億5600万個のシナプスを模した回路を持つ。このチップを大量に組み合わせれば、数千億個のシナプスを持つシステムも構築できるとのこと。

二位じゃダメなのか?

こういう話を聞くたびに、僕は「二位じゃダメなんですか」論争を思い出します。(※ちなみに、2014年6月に「スーパーコンピュータ 京 世界一位に!」というリリースが、理化学研究所より発表されています。)

一位であること の意味

一位であることは、実はとても意味があります。

人材が集まる

これが、最大のポイントです。一番でないと、人が集まりません。それどころか、すでに在籍している人も流出してしまう恐れがあります。

資金が集まる

そして、一位であるということは、それを広告塔として使いたい、あるいは、それを支援しているということで自社のPRに用いたい、というような形で、支援が集まりやすくなります。

情報が集まる

ある領域で一位になっている、ということは、他の領域で一位を目指す人たちからも尊敬を勝ち得ます。(同じ領域の人からはライバル視され、情報を秘匿されるでしょうが、それは仕方ありませんよね。)その尊敬の結果、ある領域の一位には、他の領域のトップセグメントとの情報交換の機会が増えます。そして、優秀なパートナーとの共同研究のチャンスなども増えます。(向こうから持ちかけて来てくれます)

これらを踏まえると、IBMの研究所が人工知能ワトソンなども含めて、その業界内で「一位」でありつづけていることには非常に意味があると言えるでしょう。

「問い」としては正しい

しかしながら、僕は「二位じゃダメなのか?」という”問い”そのものは非常に有効な”問い”だと思うのです。

「目指すのが当たり前」ではなく、それを目指すことによって得るものと失うもの(蓮舫さんの発言の場合は、主に税金)を天秤にかけて合理的に判断しよう、ということ自体は、非常に真っ当な話です。

政治的パフォーマンスだ、などの批判については、正直詳しくないのでコメントは避けますが、「正しい問いを投げる姿勢」は評価すべきだなと思います。(特に、与えられた命題が「いかに支出を減らすか」だったのだから、この問いが出るのは当然です)

「考える」とは何なのだろうか。

少し本筋から離れてしまいましたが、そもそも「考える」ということは、どういうことなのか、というのは非常に興味深い話です。

あらかじめ記録したプログラムに従って命令を順番に実行する従来型のコンピューターは「ノイマン型」と呼ばれる。コンピューターの父と呼ばれる数学者フォン・ノイマンが1946年に提案してから現在まで、全てのコンピューターはノイマン型を採用している。ただ半導体を微細加工してコンピューターの処理を高速化するというこれまでの手法は、加工技術が限界に近づいている。

IBMは限界を突破するため、脳のほか量子力学の原理を応用し「非ノイマン型」と呼ぶ次世代半導体の研究に取り組んできた。IBMは今回の成果を約10年間の研究の集大成とし、将来はボタン電池で動く切手サイズのスーパーコンピューターを実現できるとしている。

(日経新聞より)

つまり「順列型の情報処理」ではない形での情報処理をしよう、と言っているわけですね。この「”思考”の生物学的なメカニズム」の話は、伊坂幸太郎の「オーデュポンの祈り」を髣髴とさせます。オーデュポンの祈りより「喋る案山子」の仕組みに関する発言を引用します。

人は頭で思考するのだ。ただ、頭に誰かがいるわけがない。それなのに何かを考えることができる。べラルク先生は、きっとその答えは『電気』だと言った。エレキが頭の中を走って、その刺激が考える『もと』となる。人間の頭の中は網の目のように線が引かれている。

単純な要素がいくつも絡まり合っているだけなのだ。そこに刺激が通り、複雑なものを生み出す。それが志向だ。同じことを案山子でも考えればいい。単純なものとは何か。土や水や空気、花や小さな虫、そういった命の組み合わせだ。そこから思考は生まれる。

そんなわけあるかいっ、と言いたくなる気もしますが(まぁ、小説なのでいいんですけども)、現実世界においてIBMが「思考プロセスに近いコンピュータ」を開発しているというのは、SFが現実になってくるわけですね。

私自身「思考」というものについては、非常に興味を持ち、いろいろな方法論があると考えていますが(関連記事:タグ|思考の型)、それらの大前提である「生物としてのメカニズム」としての”思考”が解き明かされていくのはワクワクします。IBM社のこの活動が、人の思考のメカニズムを明らかにし、”人の可能性を拡げる”ことにつながれば素敵だなと思います。

ちなみに、非ノイマン型コンピュータ、でしらべると、今回の「ニューロコンピュータ」の他に「量子コンピュータ」とかもでてきて非常に興味深いですよ。

wikipediaで「量子コンピュータ」の項を調べると、、、

従来の計算機(量子計算機に対して、古典計算機という)は1ビットにつき、0か1の何れかの値しか持ち得ないのに対して、量子計算機では量子ビット (qubit; quantum bit) により、1ビットにつき0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持することが可能である。

n量子ビットあれば、2^nの状態を同時に計算できる。もし、数千qubitのハードウェアが実現したら、この量子ビットを複数利用して、量子計算機は古典計算機では実現し得ない規模の並列処理が実現する。理論上、現在の最速スーパーコンピュータ(並列度が2^{20}以下)で数千年かかっても解けないような計算でも、例えば数十秒といった短い時間でこなすことができる。 (wikipediaより)

とかって書いてあって、もはや僕には何言ってんだかわかりかねますが、ただひたすらにワクワク感を感じられてお勧めです。興味のある方はお試しくださいませ。

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