経営者は仕事と家庭を両立できるか(Harvard Business Reviewより)/ニュースななめ斬りbyギックス

AUTHOR :  網野 知博

「ワークライフバランス」は達成しがたい理想であり、全くの神話なのか?

ダイヤモンド社のHarvard Business Reviewですが、今月の9月号は「一流に学ぶハードワーク」でした。その中の一つ記事が「4000人の調査が明かすリーダーの実態 経営者は仕事と家庭を両立できるか」になります。この記事の元となる調査のデータソースは、ハーバードビジネススクールの人的資本管理コースの学生が、2008年から世界中の企業やNPOのCxOに対して行ってきたインタビューとのこと。

インタビュー内容から得られるストーリーや助言には大きく5つのテーマがあります。

  1. 自分にとっての成功を定義する
  2. テクノロジーを管理する
  3. 公私ともに支援ネットワークを構築する
  4. 出張や転勤には選択的に応じる
  5. パートナーと協力する

ちなみに、本記事では、5つのテーマに対して「どうすべき」と言うことは何一つ触れておらず、あくまで5つのテーマに関してそれぞれの経営者の取組みや悩みや苦悩を共有しているだけにすぎません。最後の結論でも触れますが、「真剣に重点的に取り組もうとする事が困難の克服につながる」と言う結論です。

最初の3つのテーマに関して簡単に触れてみましょう。

自分にとっての成功を定義する

ビジネスにおいても、プロジェクトにおいても、何を持って成功とするか定義するように、人生においても同様に定義しましょうと言うことです。時間の経過とともに成功の定義が分かることを前提とした上で。

成功の定義は男女でばらつきがあるようです。女性は個人の業績や尊敬され影響を及ぼすことを成功と捉えている一方で、経済的な面には関心が全く薄いようです。男女差の違いとして、男性は家族のために働いていると言う認識が強いが、女性は子供達のロールモデルになることが自分の責務だと考えているようです。

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先日日本でも「家事ハラ」と言うテーマである企業のレポートが炎上していましたが、世界で見ても男性は家庭に対する自己責任が非常に甘いのかもしれません。

仕事と人生における他の領域とのバランスをある程度達成したことを誇りにしている男性でさえ、伝統的な男性の理想像を基準にして自分を評価している。「夜に子どもたちと一緒に過ごす10分は、仕事に費やす10分よりも100万倍素晴らしい」とある男性幹部は述べた。女性が1日10分子どものために使ったからといって、自分をほめることなど想像できないが、男性はその同じ行動を賞賛すべきことだと考えているのだ。

自分で「ワークライフバランス」を成し遂げていると思っている男性も、奥様やパートナーにその実を聞いてみると案外違う結論が得られるかもしれません。10分の子育てで自分は仕事も育児も共に両立させているとしたり顔で語られても、奥さんはぶち切れるだけでしょう。笑

成功の定義は各人にとって異なるため、ビジネスにおける成功とは何か、家庭における成功とは何か、自分の人生における成功とは何か、と言うことを(時とともに変化することを理解した上で)きちんと定義し、場合によってはそのKPIも把握しておくことは重要なのかもしれません。何かが起こった際に、その優先順位を決め対処することができるでしょう。ですが、自分の人生をそのように全て合目的に、合理的に、打算的に計画立てて生きて行けるかは難しいところだと思いますが。。。

テクノロジーを活用する

私も家でスマホ、ipadを使いまくっています。時には、週末に息子が遊んでいる横でMac Book Airを開いてがちゃがちゃ仕事しています。家庭でのテクノロジー利用について、1/3がテクノロジーを侵略者と見なし、1/4が解放者として見なしており、残りは中立か両方が入り交じった複雑な感情を抱いているようです。スマホやタブレット、ノートPC、ネットワークがあるからこそ、家に早く帰って子どもと食事をとり、その後から家で仕事に戻ることもできるとも考えられます。全てが終わってからでないと自宅に帰れないなら、また仕事を始めるためにはオフィスに行かないと行けないなら、私の場合は7時から24時までをオフィスで過ごすことになります。本記事でも通信手段の線引きを未解決の難題と定義しております。

公私ともに支援ネットワークを構築する

家族とプロフェッショナルの生活を管理するためには、後方支援者の協力なネットワークが必要だと主張されています。日本の場合はヘルパーはあまり充実していないので、「拡大家族」からの 支援が必要不可欠になりますが、夫婦の両親が近郊にいない場合は非常に困難を極めるのが実情と思われます。3つ目のテーマも、どうすべき論ではなく、後方支援のネットワークが必要であり、人それぞれのネットワーク構築方法があると言うことです。

支援ネットワークの範囲を、「個人ネットワーク」「仕事ネットワーク」で融合させるべきか。男性は「個人ネットワーク」「仕事ネットワーク」を別々で使いたがり、女性は意見が二つに分かれるようです。別々のネットワークを好む女性は自分のイメージを損なうことを恐れて、ネットワークを使い分けているとのこと。プロフェッショナルらしくないと思われないように、職場では家族の話は決してしないと言う人もいるとのこと。

 浮き彫りになる厳しい現実

繰り返しますが、5つのテーマに関して、結論や示唆があるわけではなく、5つのテーマに関して自分ならどのように考えるべきか、と言う議題があがっているにすぎません。自分で考えろと言うことだと思います。

今回の調査サンプルは、大部分の人々よりも優れたワークライフバランスを達成したエリートグループである。にも関わらず、彼らがワークライフバランスの実現が不可能な課題だと見なしていることは、凡人の我々にとって現実は更に厳しいことを意味する。

男性幹部は自分が十分に家族を優先していないことを認めた。また女性幹部は、男性以上に、仕事と家庭の両立から受けるプレッシャーを避けるために、子どもを持つことや結婚することを回避してきた可能性が高い。

今回の記事では何かハッピーエンドの対処策が実践方法が掲載されているわけではありません。今も今後も「ワークライフバランス」と言うテーマは理想と現実の狭間を行き来する事になるのでしょう。最後の〆として3つの真理で締めくくられますが、その前文にインタビューを行った学生のコメントが載っています。

「素晴らしい家庭生活を送り、趣味を満喫し、華々しいキャリアを築く」ことを全て同時に行う事は不可能だと論じた時、インタビューを担当した学生は最初「それは彼個人の考えだ」と思ったと言う。しかし、更に何人ものリーダーと話をしてみてどうだったのか。「どの経営幹部も何らかの形でこの考えを肯定するのを見て、これが現在のビジネス界の現実だと思うようになりました」。将来この現実を変えられるか、どうすれば変えられるかは、今後の問題として残されている。

そして、続いて記載される3つの単純な真理になります。

  1. 人生には色々なことがおこる
  2. 成功への道は一つではない
  3. 一人でやり遂げられる人はいない

「真剣に重点的に取り組もうとする事が困難の克服につながる」と言うのが本記事の結論です。ハードワーカーな私ですので、本記事はできればあけたくなかったパンドラの箱のような気持ちですし、正直何かを論理的に斬っていこうと言う気分にはなり得ませんが、自己反省とともに、ハードワーカーの皆様も是非一度お読み頂くことをお勧め致します。

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