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ギックスの本棚/海馬 ~脳は疲れない~ (池谷裕二/糸井重里|新潮文庫)

AUTHOR :  田中 耕比古

わからないものの「わからなさ」を知ろう

海馬―脳は疲れない (新潮文庫)

本日は、脳の一器官である「海馬」に関する、東京大学の池谷教授(出版当時は助手)と糸井重里氏の対談本を取り上げます。

脳について、どこまで「わかってるか」を知る

本書は、脳について語られます。脳のメカニズムだけではなく、その機能である「考える」「感じる」という部分に切り込んでいきます。特に、”クリエイティブ”の代名詞のような糸井さんの対談なので、当たり前と言えば当たり前なのですが、クリエイティビティ/創造的な考え方について、具体的に語られます。

いくつか引用します。

まずは、池谷氏の発言から。

何かを進めるときって、ストッパーをはずす方法と、前に進む力を伸ばす方法との二種類がありますよね。

人間の体を見ているとおもしろいんですけど、ブドウ糖もそうやってつくられているんですよ。眠っている時には身体が動かないから、エネルギーをあまり使っていない。だったら、ブドウ糖をつくらなければいいのに、絶えずブドウ糖を10個つくって10個壊したりしている。

これはムダのように思えるんですけど、急にブドウ糖の要る時には効きます。必要な時には10個つくるところを20個に増やし、10個壊すところを5個壊すとしますよね?そうすると20個マイナス5個で、差し引き15個も増やせる。

ストッパーを半分にしただけだし、つくるほうもいつもの二倍つくるだけですから、ゼロだったところから15個つくるよりも、ずっと簡単にエネルギーを埋めるのです。ふだん脳がムダをしているのには、そういう意味もありますよ。

これは、糸井氏の「停滞した状況・伸び悩みを打開するためには、ストッパーを外す必要があるのではないか」という発言を受けて池谷氏が語った内容です。一見無駄な活動が、実は「いざ」という時を見据えると無駄じゃないというお話。含蓄深いですね。

続いても、池谷さんの発言。

脳自体は30歳や40歳を超えたほうが、むしろ活発になると言われているんです。30歳以降の脳は独特な働きをするようになるので、それを利用できるかできないかでずいぶん変わってくると思います。

(中略)

新しいものにすんなりなじめる人と、なじめなくてそれまでの脳の使い方に固執して芽が伸びないままの人との二極分化が起こるという。

・・・30歳を過ぎると、つながりを発見する能力が非常に伸びるんです。(中略)つまり、前に学習したことを活かせる能力というか・・・。一見関係ないものとものとのあいだに、以前自分が発見したものに近いつながりを感じる能力は、30歳を超えると飛躍的に伸びるのです。

これは、三十路(なんならアラフォー)な僕たち世代には心強いお話です。スティーブ・ジョブズ先輩のいう「コネクティング・ザ・ドット」ですね。まさに「ドットを打つ時期」「さらに新たなドットを打ちながら、それらをつなげる時期」ということになります。

続いては、前頭葉について。

糸井:前頭葉は、人間らしい何かを独特に持っている部分なんですか?

池谷:はい。モチベーションとか、言葉を扱う能力とか、人間が人間たりえる欲望が詰まっています。(中略)人がコミュニケーションをしたがるのは、前頭葉のはたらきが大きいです。鬱病の方の中には、前頭葉があまりはたらいていない場合もあります。

人間が発達している「前頭葉」は、人間を人間足らしめている、というお話。モチベーションもここが司っている、というのは面白いです。この一節を読むたびに、某コンサルファームの偉い人が、深く考える際に、指でおでこをコツコツと叩きながら「前頭葉を刺激したら、いいアイデアがでそうなんだよね」とおっしゃっていたのを思い出します。僕もこっそり真似してます。

最後に、「脳の疲労」について。

糸井:考えが煮詰まった時に、人は「脳が疲れる」とかよく言うけど、あれを池谷さんはどう思いますか。

池谷:脳はいつでも元気いっぱいなんです。ぜんぜん疲れないんです。(中略)寝ている間も脳は動き続けて、夢をつくったり体温を調節したりしています。一生使い続けても、疲れないですね。疲れるとしたら、目なんですよ。

脳は疲れない。名言です。副題にもなってますもんね。この一節でのポイントは「疲れるとしたら、目なんですよ」だと思います。つまり、休憩する、というのは、考えることを休む、のではなく、目をつぶって考える、ということだったりするわけですね。

このように、本書を読むことで「すでに、世の中で”わかっている”ところ」までは、ちゃんと脳を理解することができます 。そうすることで、自分の「考え方のベース」や「思考のクセ」および、「考えることに対する態度」を理解できると思います。この「如何に考えるか」ということが知的労働者として価値を出し、お金を稼いでいくうえで、非常に重要だと僕は思っています。(関連記事一覧:”考え方”を考える|思考の型

クリエイティブな「海馬」を真似しよう

冒頭で記した通り、本書では、クリエイティビティについて多く語られます。

例えば「脳は固定的にものをみたがるから、それに逆らうのがクリエイティビティを鍛える」だとか、「煮詰まったら違う刺激を与えることでズレができて発想力が高まる」だとか、そういうお話です。

その中で、僕が一番面白かったのが、海馬と夢の関係です。(以下の話の前提として、海馬が「短期記憶を長期記憶に変換する機能を果たしている」ということをご認識ください。)

池谷:
海馬はもちろん起きている時にも十分活動しているんですけど、寝ている間にもすごく活動するのです。(中略)眠っているあいだには何をしているかと言うと、夢をつくり出しています。

糸井:
海馬が夢をつくり出すんですか?

池谷:
厳密に言うと海馬を含めた脳全体が関与していますが、海馬は「今まで見てきた記憶の断片を脳の中から引き出して夢をつくりあげる」という役割を担っています。
夢というとどうしても幻想的なイメージがありますけれど、実際はそんなことはありません。(中略)起きていた時にはたらいていた神経細胞が、夢の中でも反応している・・・つまり、その日にあった出来事を繰り返しているんです。
朝起きて憶えていられる夢は1%もない、と言われるぐらいです。もし憶えていたら夢と現実の区別がつかなくなって、生活が送れなくなる危険性があるのです。しかも夢というのは、記憶の断片をでたらめに組み合わせていく作業です。ぜんぶを憶えていたら、前後の区別のつかない人間になってしまう。

(中略)

池谷:
海馬の神経細胞はぜんぶで1000万ぐらいありますが、それに仮に1,2,3,4・・・と番号を振ったとします。今ぼくは2番と5番を使って話しているとしますよね。そうしたら今夜寝ている間には「朝は1番を使ったなぁ。夜中には4番を使っていたな。夕方には2番と5番を同時に使って糸井さんと話をしていたよな」と思い出しながら、急に2番と4番を繋げたり、2番と1番をつなげたり・・・新しい組み合わせをつくり出してみるです。それで整合性が取れるかどうかを検証しているようなのです。その間に眠っている必要がなぜあるかと言うと、外界をシャットアウトして、余分な情報が入ってこないようにして、脳の中だけで正しく整合性を保つためです。

(中略)

池谷:
眠っているあいだに海馬が情報を整理することをレミネセンス(追憶)といいます。これはとてもおもしろい現象で、たとえばずっと勉強していて「わからなかったなぁ」と思っていたのに、ある時急に目からウロコが落ちるようにわかる場合がありませんか?それはレミネセンスが作用している場合が多いのです。

この「関係ない物事を組み合わせてみる」というのが創造性の基本だと僕は思います。”イチゴ大福方式”ですね。(関連記事:ギックスの本棚/北斗の拳で英語を身につける本

睡眠中に海馬がやってくれているこの活動を、思考様式として真似してしまうのが良いのではないかと思います。意図的に、関係ない情報を組み合わせてみる。もちろん、まったく関係ないものを無限に組み合わせてもしょうがないので(そこは、海馬にお任せするとして)、何か関連性がある一方で関係性が薄いモノ、を探してみる、という感じです。感覚的に言うと、友達の友達の友達、くらいですかね。

僕は、発想を膨らますときには、一度連想ゲームをやってみます。例えば、ビールを起点にしてみると、「ビール→ヱビス→七福神→弁天→鎌倉→大仏→奈良→関西→たこ焼き→ソース→醤油→味噌→発酵食品・・・ 」みたいな感じです。

で、ビールとたこ焼き=一緒に食べたらおいしそう(意外性はないけど)、ビールと大仏=大仏にビールを飲ませたら面白い?(不謹慎?)みたいな感じで組み合わせを考えます。ビールを起点にすることに関して、明確な目的がないなら、七福神とたこ焼き、味噌とソース、とかでも良いですね。(ベビーカステラみたいな七福神の型でたこ焼きつくってみようか、とか、味噌味のソースを売ってみようか、とかでしょうか)

己を知ることで、一歩前へ

このように、本書で「知らないこと」を「ある程度知る」ということができれば、思考をコントロールできるようになります。

具体的な例を挙げれば「思い付いちゃった」を「なぜ思い付いたのか突き詰めて考える」ことによって、再現性を高めることができるでしょう。

上記引用箇所以外にも、「脳は”安定”を求めるので、見えていないものを”見えている”として解釈する」ということを踏まえれば、無意識化で”安定”を求めている自分を自覚できます。自覚できれば、対処も(ある程度)可能です。対処すれば、きっと成長できます。

というわけで、自分と正しく向き合うための道しるべとして、非常にオススメですよ。ご一読あれ。

 

あ、関係ないんですけど、僕が本書で「知った」ことの一つに、池谷さんの名字が「いけたに」ではなく「いけがや」だということがあります。今回、再読するまでずっと勘違いしてました。やっぱ、知るって重要ですよねー。

海馬―脳は疲れない (新潮文庫)
海馬―脳は疲れない (新潮文庫)

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