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ギックスの本棚/INFOGRAPHICS DESIGN インフォグラフィック・デザイン -分かりやすく情報を伝える図説のデザイン-(Bug News Network)

AUTHOR :  田中 耕比古

「どう表現するか」の前に、「何を伝えたいか」を決めよう

Infographics Design-わかりやすく情報を伝える図説のデザイン

本日は、先日ご紹介した「CEOからDEOへ」を出版しているBNN(ビーエヌエヌ新社)の「INFOGRAPHICS DESIGN」をご紹介します。

本書の概要

先日ご紹介した、インフォグラフィックで見る138億年の歴史: 宇宙の始まりから現代世界まで とは異なり、本書は、テーマ・ジャンルは問わず、インフォグラフィックの事例を集めてきたという構成になっています。

それぞれの事例の解説は、日本語・英語併記となっていますので、外国籍のメンバーがいても一緒に読めます。本来的に、インフォグラフィックというものが「言語を超越した情報伝達ツール」であることを考えると、解説が日英併記なのも頷けます。

冒頭に、インフォグラフィックを定義・区分し、そして、どのようにつくるのか、というプロセスも簡便に記述されていますので、実用書としての機能も備えています。

また、事例は下記の5つのに分類されて紹介されます。

  1. グラフ・チャート
  2. マップ
  3. ピクトグラム
  4. 混在型・その他
  5. 動画・インタラクティブ

PART4の「混在型・その他」は、やや無理やりMECEにした感が否めませんが、このパートは「テクニックの粋を集めた」という感じがして、僕はいちばん好きですね。

インフォグラフィックとデータビジュアリゼーションの違い

さて、冒頭のインフォグラフィックの定義、に非常にクリティカルな一節がありましたので、ここでご紹介しておきます。インフォグラフィックとデータビジュアリゼーションの違いに関する記述です。

「インフォグラフィック」は、情報やデータを編集者やデザイナーが取捨選択し、読者が理解しやすい、もしくは共感してもらえる構成を構築したグラフィックです。

「データビジュアリゼーション」は、情報やデータ全体を取捨選択することなく、分かりやすくビジュアル化することです。

(中略)

つまり、インフォグラフィックやデータビジュアリゼーションは、ただデザインが美しければいいというものではありません。そこには確かな情報が入っており、見る者の想像力を掻き立て、より理解を促すことができなければ良いコンテンツとは言えないのです。

この最後の一文は、まさにその通り!だと僕も思います。コンサルタントがつくるものは、この定義で言うと、「データビジュアリゼーション」となることが多いと思いますが、実際には「伝えるべきポイントがビビッドにでるように、デザインを考える」という意味ではインフォグラフィックとの違いはありません。

そして、ここで重要なのは「ミスリードしない」ことです。これは、データビジュアリゼーションに限らず、インフォグラフィックにおいても同じです。伝えたいことを伝えるために、不要な情報をそぎ落とす(本書の表現で言うと「取捨選択する」)ことは重要ですが、”誤解を招く”ことを許容してしまっているインフォグラフィックが世の中には散見されます。非常に危険です。

伝えたいことを伝える、ということが目的なのは間違いありませんが、人をおかしな方向に誘導する、のは見過ごせません。(コンサルタントのデータビジュアリゼーションが、データを削らないのは、正しい情報を伝えた上で「強調すべきところを明確化する」ことを意識しているからです。)

この観点で、本書に掲載された数多くの「インフォグラフィック」を見てみると、その良し悪しを自分で見極めることもできるでしょう。また、なんかピンとこない「インフォグラフィック」がある場合には、「いったい何が/どこがピンとこないのか」を考えることで、その制作物に対する評価のみならず、自分の「センス」に対しても客観視できるようになるでしょう。

見た目は重要。しかし、中身が無いとお話にならない。

結局のところ、「ちゃんと構造化して、伝えたいメッセージを絞り込め」という一点に尽きるわけですね。パワポの資料づくりも、そこから始まります。(つまり、巷によくある「コンサルのパワポ術」みたいな本だけ買って悦に入っていても、資料なんて作れるわけがない、というのがこの世の真理です。努力なくして栄光はありません。)

その上で、構造化したものを、うまく伝えるために纏めきることが求められます。この部分は非常に説明が難しいのですが、弊社CEOの網野の言葉を借りると「抽象化」ということになります。一度、カッチリ詰め切った物事を、伝えたい部分がビビッドに浮き出るように「抽象度を上げて再整理する」ということですね。なかなか難しいのですが、良質なコンサル紙および、インフォグラフィックなりデータビジュアリゼーションは、そこまでの一連の流れを徹底的に実践している、ということになります。

掲載された事例を「自分なり」に読み解いてみる

では、実際に具体的な例をみてみましょう。(インフォグラフィックの実物は、本書をお買い求めいただいてご覧いただくという前提で、本書に掲載された制作物の幾つかに対する感想を記述しておきます。お買い求め後に、照らし合わせてみていただければと思います。)

PART1. Graph・Chart

このパートはコンサル的に言えば、一番よく使うタイプです。ただ、いわゆるコンサル紙とは一線を画す技術のオンパレードで、非常に参考になります。(そのまま使う、という意味ではなく、発想のエッセンスとして有用、という意味です。)ここでは、5つの例を取り上げます。

p.43 移動者マーケティング:「移動中」という切り口で生活を区分する、ということの意味と、そこに対してマーケティング活動を行う事の効果・効用を上手く表現した見事な事例だと思います。コンサルで言うところの「コンセプトチャート」であって「データチャート」ではないモノも含まれていますが、伝えたいことを非常にシンプルに絞り込んだ上で、それを的確に表現しています。

p.46 先進7か国における自転車乗用中事故死者数の減少率:ビジュアルにコダワりすぎて、メッセージが入ってこない。自転車というカタチ・坂道というカタチに落とし込んだ結果、坂の傾きが減少率。前輪と後輪の色が絶対値という事としているが、正直なところ「日本は減少率が緩やかで、絶対数も多い=改善せねば」という課題認識は、残念ながら直感的には伝わってこないと感じる。コンサル的にはあり得ない。

p.47 オリンピック開催国の経済成長(各開催地における、オリンピックの前後4年間の推移):言いたいことは分かるが、こちらもビジュアルにとらわれ過ぎた例。比較すべきは、各国の「前後」ではないかと思うのだが、これだと、「開催前の各国比較」「開催後の各国比較」になってしまっている。また、仮に、それを伝えたかったのだとしても、円形に並べたのは失敗。1964→2020年と東京を起点・終点に置きたかったのは分かるが、本書の定義で言うところの「データビジュアリゼーション」を徹底的にやった結果、間違った方向に行ってしまった例ではないかと思う。

p.48 ノーベル賞受賞者の分野別受賞年齢および学歴・国籍:秀逸の一言。伝えたいことは「どういう人物が受賞したのか」の一言で説明できます。しかし、伝えたい情報は多岐にわたりますので、それを1枚に如何に織り込むか、というところに徹底的なコダワリとテクニックを感じます。理想の1枚ですね。

p.56-57 文学作品を「視覚化」:ある書籍の言葉の量・文字数を画像(色や線)に変換してビジュアライズしたもの。これが、Graph・Chartという区分に入っていていいのかはよくわからないが、非常に面白い。意味のあるものを、敢えて無意味化したと言える。この反対の例=無意味なものの意味化としては、ドアの開閉ログだとか通路の通行量とかを音に変換して音楽を奏でる、などの発想が考えられると思う(実際にあると思うし)。抽象化の極致という感じで面白い。

PART2. MAP

これは、コンサルが使うことは稀です。ただ、地図上に事象やデータをマップするという使い方はあります。(後述)

p.72-73 シカゴの建物建築年数:これは、コンサルでも使えます。情報としては、個々の建物の「建築年」を色分けして表示することで、いつ頃立てられたかがわかる、ということになります。ただ、コンサルが作る場合には、一つ一つの建物を色分けするのではなく、エリア別の総数およびその中の比率で見せる、といった表現方法を選択すると思います。コンサルの場合は、そこから施策を出して効果を生む、というところがゴール(いわゆる、OUTPUTではなくOUTCOME)ですので、こういうSo what?な図表は、特別な意図が無い場合を除いて使いにくいんですよね。

p.74 ピエモンテ州の魅力度・観光客数・宿泊施設収容能力:これはコンサル的です。また、カラートーンも控えめで、個人的には大好物の部類ですね。直感的に「どの図表が何を意味するか」というのが分かるわけではないのですが、明確に構造がつくられているので「論理的に追いかけていく」ことが可能です。先述の”p.48 ノーベル賞受賞者”と、発想的には似ていると思います。

p.77 DESIGNERS WEEK 会場俯瞰マップ:東京都の各地で連動して行われるイベントについて伝えるために、情報を積極的に絞り込んで「伝えたい事だけ」に特化してまとめた地図。抽象化をしっかりと推し進めて、要らない情報を適切に排除しつつ、おかしなミスリードはしないバランスの良さが際立ちます。

PART3. Pictogram

ピクトグラムというのは、いわゆる「人型」「シンボル」ですね。いわゆる、絵文字等も含まれます。非常階段の人のシルエットなどがピクトグラムの代表格と思っていただけばよろしいかと思いますね。これは、メッセージを伝える、のに適しています。実生活になじみがあるものをシンボル化することが多いので、シチュエーションがイメージし易いんでしょうね。コンサルは、ピクトグラムのデザインをすることは稀ですが、世の中にあるピクトグラムを活用することは多いですね。(ただ、シンプルなものを好んで使う傾向にあります)

p.93 犬の飼い主のマナー:犬を飼っている人が、どういう行動をするべきか、を端的に示している非常に良い例です。必要な場所に看板として掲示する目的で作られており、文字が無くても「何をやって良いか・すべきか(緑)」「何をやってはいけないか(赤)」という万国共通の概念で分かりやすくあらわされています。(こういう話をすると、色弱者にはわからないから無意味だ、というような話がでてくるのですが、まぁ、それはそれとして、です。ちなみに、赤の方はバツ印を併記してます。念のため)

p.94 飛行機のダイエット:飛行機を軽量化することによる効果(燃費の向上=コスト削減+環境負荷軽減)を数字で表現した上で、軽量化の具体的な内容を、ピクトグラムを用いて「読み手の頭の中にイメージさせながら」情報として受け取らせている。情報としても非常に分かりやすいし、メッセージもクリア。不要な説明がなくても「読めばわかる紙」というやつで、見習いたいものです。

PART4 Various・Others

この章は、かなり実践的な世界に入ってきます。いろんなテクニックの集大成と言って良いでしょう。多種多様な情報を、どう「まとめきる」か。作り手の腕の見せ所とばかりに、きらりと光る秀作が並びます。

p.110-111 ICUの卒業生向け母校紹介:いわゆる「ベタなインフォグラフィック」です。が、非常に良くできています。お手本といって良いのではないでしょうか。また、伝えたいことが「ICTが如何に魅力的な学校であるか」という一点に集約されていますので、どのグラフィックもブレが無いです。また、冊子として作成されて、最後のページだけは一工夫を加えている、というのも興味深いです。現物を見てみたいなと思います。

p.126 世界のパンの種類と消費量:これは、PART2のMAP(地図)と、PART1のグラフの複合という感じですね。情報量は徹底的に絞り込まれていて、余計な情報はありません。「どの国では、どんなパンが食べられてるの?」ということと、「それらの国のパンの消費量は?」という2点のみ。トースト総合研究所が何者なのかはわかりませんが、かなり好感が持てます。

PART5 Morion grphics・Interactive

これは、いわゆる「作品」です。このレベルになると、さすがにホイホイつくれる気はしません。そんな中で、コンサルタント視点で、「発想を活用できそう」なものをピックアップしてみます。

p.143 日本のお野菜収穫量:都道府県別・年代別の、作物収穫量をビジュアライズ。一般的に「県の形」とかに拘ってしまいがちなところを、「当該県の所在地(配置)」だけに注目して、収穫量を円グラフで表す、という徹底したシンプル化が鍵です。頭の中に、都道府県のおおよそのサイズ感が入っているため、表示されている円グラフとのサイズ感の違いが「違和感」となって、情報に対する感度があがる、という仕掛けです。非常に良く考えられていますね。この仕組みは、野菜に限らず、ありとあらゆるものの「生産量」「消費量」に活用できると思います。凄いの一言。

p.148-149 五大陸のさまざまな数値:オリンピックシンボル(五輪マーク)が、五つの大陸を表している、ということと掛けて、各大陸の指標・数値を、円の大きさに変換して表現。とてもシンプルです。そして、どの色がどの大陸か、と明記されていないものの、内容によって類推がつく(複数の指標・数値の円を見ていけばわかる)というあたりも非常に良くできてます。こういう「コロンブスの卵」的な発想が重要だと僕は思うのですよね。

 

このように、どのチャートを見ても、僕は1枚当たり最低15分くらい語ることができそうだなと感じてます。88種類のインフォグラフィックが掲載されていますので、22時間=3営業日遊べちゃいます。(そう考えると、3,800円は安いですね。)皆さんも、もしご購入された際には、単に、ツラツラと図版として眺めるのではなく、自分ならどう作るかを深く考えていくと相当勉強になると思いますよ。

Infographics Design-わかりやすく情報を伝える図説のデザイン
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