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未来の人類 前編|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

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ギックス
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脅威の大発見

21世紀に入って間もない2004年10月、サイエンスと並んでもっとも権威のある科学雑誌のネイチャーが、人類進化の歴史観を一変させるような、驚くべき論文を掲載しました。「A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia」と題されたその論文によるとインドネシアのジャワ島の東端に位置するフローレス島から、新種の人類の頭蓋骨を含む人骨が発見されたのです。ホモ・フロレシエンシスと名づけられたその人類は、身長がわずか90センチ程度と推定され、脳の大きさは380ccとチンパンジー並みしかありませんでした。 しかし、容量は小さいものの、頭蓋骨の形状は前頭葉がよく発達していることを示していました。また、頭蓋骨とともに発掘された石器や火の跡からみても、ホモ・フロシエンシスは、ジャワ原人や、北京原人の属するホモ・エレクトスと同様のレベルに達した、進化の段階にあると考えられました。 何より世界を驚かせたのは、ホモ・フロシエンシスの人骨が、人類史から言えば、ほんの最近に過ぎない1万2千年前のものだったことです。現生人類であるホモ・サピエンスが20万年前に登場するずっと前に消え去ったはずのホモ・エレクトスが、3万年近く前に滅亡したネアンデルタール人よりさらに長く、歴史年代に突入する直前まで、現生人類と同じ世界に生きていたというのです。 ホモ・フロシエンシスの発見までは、現生人類と同時期に存在したことがある人類は、ホモ・ネアンデルターレンシスいわゆるネアンデルタール人だけだと考えられていました。その、ネアンデルタール人は2万数千年ほど前、突然絶滅してしまいます。ホモ・フロシエンシスは人類史のパラダイムを大きく変えてしまうものだったのです。
注記:ホモ・フロシエンシスがホモ・エレクトスの亜種であるかどうかはまだ異論があります。発見された骨は小人症に罹ったホモ・サピエンスのものだという説やピグミー族のように現生人類が矮小化したものだという説などものあり、確定的に現生人類と別の人類が共存していたかどうかは、さらに研究が進む必要があるようです。

脳を巨大化するコストは非常に大きいのに人類が大きな脳を持つ理由

文明を発達させた現代人から見ると、高度な知性とそれを支える巨大な脳を持つことの利点は明らかに思われます。しかし、現生人類が文明とよばれるものを発達させ始めたのは、人類の歴史では、ごく最近のことです。農業の出現は1万年前に過ぎません。 20万年前に現れた現生人類は、最初から現代人と同じ大きさの脳を持っていました。

正確に言うと、現生人類の脳の容量は文明が現れてから、むしろやや縮小しています。このような現象は狼と犬の関係にも見られます。犬の脳の大きさは同程度の大きさの狼より相対的に小さいのです。文明化、家畜化は脳を小さくする傾向があるようです。 それはさておき、全体としては人類の脳の大きさは進化を通じて急速に増大しました。現生人類の脳の容量は約1,400CCで、これは700万年ほど前に同じ祖先から分岐したチンパンジーのほぼ4倍の大きさです。ところが、そのような脳の容量の増大にもかかわらず、道具の使用という点では、長い間石器が一貫して使われてきました。金属器はもちろん土器でさえ、使われ始めたのは農業生産が始まる少し前、高々2万年前以降のことです。脳が大きくなったわりには、道具の進歩はそれほど画期的なものではなかったのです。 一方、脳を巨大化するコストは非常に大きなものがあります。まず、脳は莫大なエネルギーを消費します。人間の脳を維持するには、摂取エネルギーの20%以上が必要です。大きな脳は極めて大食らいなのです。

さらに大きな脳は出産を危険な事業に変えてしまいます。哺乳類の中で、大きな頭を持つ人間だけが難産を経験しなければなりません。それでも、人間は他の哺乳類と比べて、はるかに未熟な状態で生まれてくる必要があります。脳がそれ以上大きくなると出産自身が不可能になってしまうのです。 未熟なままで生まれてくる人間は成熟するまで長い時間がかかります。チンパンジーなら生後1年もすれば、蟻を捕まえて食べるくらいのことはできるのですが、人間では母乳からやっと離れる段階で、一人で食料を確保できるようになるのは何年も先の話です。子供の養育に手間がかかるため、毎年出産を行うことは不可能でした。農業が始まる前の採取経済の時代には、人間の女は4年に一度しか出産を行いませんでした。人間の繁殖力は他の哺乳類よりずっと貧弱だったのです。 繁殖力が貧弱な上に、育つまで時間のかかる子供を養わなければならない人類の集団は、食糧の獲得という意味で生産性を高くすることが困難でした。このような傾向は脳が巨大化するにつれて、ますます強くなってきたと考えられます。これほどの犠牲を払って得られるものが、石器のデザインが少し洗練される程度だとすると、脳を大きくするのはずいぶんバカバカしい話のように思えます。

おまけに人類は肉体的には強くありません。筋力はゴリラのような他の霊長類と比べても弱く、もちろんライオンやトラのような牙も鋭い爪もありません。こんな人類がなぜ生き延びることができたのでしょうか。いや生き延びるだけでは十分ではありません。色々な不利な条件にもかかわらず、人類の脳が大きくなり続けたのは、そのほうが相対的に子孫を残す可能性を高める、進化上の圧力があったはずです。不利な条件を上回る進化上の圧力とは何だったのでしょうか。

脳で生存競争に勝つ

弱々しく見える人類ですが、実は他の動物に対する戦闘能力という点ではかなりなものがありました。マンモスが滅んだ理由の中で有力な仮説の一つに人類の狩猟の標的になったというものがあります。マンモス以外でも多くの大型の動物が人間によって絶滅させられたと考えられています。 大型の動物は大型であることで、生存競争に勝ち抜こうとします。アフリカ像はライオンのような猛獣でも容易に倒すことは出来ません。アフリカ象よりさらに大型のマンモスは無敵だったはずです。無敵のマンモスを人間が狩猟の対象にできたのは、道具の使用と集団による狩だったと考えられます。人間は脳を使って高度のコミュニケーションを行うことで、どんな動物よりも強力な力を発揮することができたのです。

しかし、道具と集団活動という点では、人間は脳がチンパンジーの2倍を超える程度の1,000 cc内外になったホモ・エレクトスのレベルで、他の動物に対しては相当程度の競争力があったはずです。人類の脳が100-200万年という比較的短い期間でさらに増大を続けたのはなぜだったのでしょうか。 考えられるのは、大きな脳を持つことは他の動物の狩というより、人類同士の戦いで有利になっただろうということです。霊長類では脳の容量と構成できる集団の大きさは密接な関係があります。人類学者のダンバーはこの関係を研究して、構成できる集団の大きさをダンバー数と呼びました。 人間のダンバース数、つまり集団としてまとまることのできる人数は150人とされています。これに対しチンパンジーのダンバー数は40から50と考えられています。一般的にダンバー数は霊長類の脳の大きさとほぼ比例して増加します。過去の人類のダンバー数は調べられませんが、脳の増大とともに、より大きな集団をまとめていくことが可能だったろうと類推できます。 ダンバーは脳の大きさがコミュニケーションの能力を高めることで、ダンバー数が増加すると考えました。人類のような集団で狩りを行う動物には、集団の大きさは他の種族に対する戦闘力につながったはずです。

ネアンデルタール人は言語に敗れたのか

脳の大きさが人類同士の競争力に大きな影響を与えるとして、ネアンデルタール人の滅んだ理由は何だったのでしょうか。ネアンデルタール人の脳は現生人類の1,400CCを上回り、1,500CC以上もあったのです。 もちろん、脳の容量が絶対的に知的能力に比例するとは限りません。少なくとも現代人に関しては病的な小頭症でない限り、脳の大きさと知能は関係ないと考えられています。しかし、ネアンデルタール人が現生人類にほとんど匹敵する知能を持っていたと考えることは、それほど無理なことではありません。

確かにネアンデルタール人は現生人類が1万5千年前に描いたラスコーの壁画のような、知性を疑いもなく証明するようなものは残していません。ネアンデルタール人の人骨と花粉が一緒に発見されたことで、死者を埋葬し弔ったのではないかという説もありますが、単なる偶然とする考えも強いようです。しかし、ネアンデルタール人が滅んだころは現生人類も芸術作品と呼ばれるようなものは残していません。決定的に現生人類が知的に優れていたとも断定できないのです。 ネアンデルタール人が現生人類と大きく違っていたと考えられるのは言語です。骨の構造からネアンデルタール人は音声言語を十分に使うことはできなかったようなのです。もちろん、これも今となっては決定的な証拠はありません。音声を使わなくても、手話はほぼ完全に言語として機能します。ネアンデルタール人が音声言語以外に高度なコミュニケーション手段をもっていた可能性はあります。それでも、音声言語と比べれば身振り手振りでのコミュニケーションは集団活動、特に狩や戦闘では不利なはずです。ネアンデルタール人は知能では同等だったものの、音声言語の能力で敗れてしまったのかもしれません。

注記: ネアンデルタール人が滅亡した理由が現生人類との闘争に敗れたためかどうかは定かではありません。病気、気候などの環境の変化で単に滅亡しただけかもしれません。また、現生人類の中にネアンデルタール人のDNAが混在している、つまり現生人類と融合した可能性も残されています。

人類種同士は共存できない

人類は猿から一直線に進化して、直立歩行をし、大きな脳を持つ現生人類になったわけではありません。700万年前のチンパンジーとの分岐の後、おびただしい種類の人類種が生まれ、消えてゆきました。過去を振り返れば、地球上に複数の人類種が存在した時期はむしろ普通でした。しかし、異なった人類種は異なった場所に生存していました。複数の人類種が混在して同じ場所に存在したことは稀だったと考えられます。 ネアンデルタール人も寒冷なヨーロッパで生活しており、温暖な地域を中心に活動していた現生人類と生存圏はほとんど重なっていなかったと考えられます。ネアンデルタール人は現代のヨーロッパ人の祖先にあたる人々がヨーロッパに進出するのに合わせて、滅亡してしまったようです。 どうして人類は異なる種同士で共存できないのでしょうか。

おそらく、道具と集団行動で他の哺乳類に対し無敵の人類も、多少でも脳が大きい、つまり知能が高い人類にはまったく戦う術がないからでしょう。同じ戦略で、より高度の武器と大きな集団同士で戦うと、弱い方は全滅させられてしまうはずです。 人類は数々の大型動物を全滅させてきました。ゾウガメなどは生息自身が、その地域で人間がいないことを証明するほどです。大きいとか強いとかだけに依存して、隠れたり、逃げたりする能力が乏しい動物を、人類はたちまち絶滅させてしまうのです。

そして、より脳の小さな人類ほど、脳の大きな人類から見て捕獲しやすい獲物はいません。 進化の段階の異なる人類同士が同じ地域にいると、強い方の人類は弱い方の人類を圧倒することができました。人類は肉食を行い、これが大きな脳のコストを負担することを助けていますが、弱い方の人類はたちまち「食べられて」しまったはずです。ネアンデルタール人は現生人類に遺伝的に吸収されたという説もありましたが、最近のDNAをもとにした研究はそれには否定的です(ただ、この点は結論はまだ出ていません)。ネアンデルタール人は消え去ったのではなく、現生人類の胃の中におさまってしまったのではないでしょうか。 現生人類でも未開の種族同士の出会いは非常に緊張感があるものでした(過去形なのは本当の意味の「未開人」はもはや存在しないからです)。

知らない種族同士での一般的なコミュニケーションのプロトコルは殺し合いだったのです。未開種族の調査、研究では食人の風習は非常に広く認められています。種族、部族が違えば、話し合いではなく、食物と考えるのが人類の伝統でした。 その中で、ホモ・フロシエンシスが1万2千年前まで生息を続けられたのは、フローレス島が深い海に隔てられて孤立していたからです。氷河期の海面がもっとも下がった期間で氷河期の終わり近く、1万2千年前に海面低下で狭くなった海峡を現生人類が渡ってきました。ホモ・フロシエンシスの絶滅に要した時間は非常に短かったと思われます。全滅にはゾウガメほどの手間もかからなかったかもしれません。

注記: フローレンス島にはホモ・フロシエンシスと同時期に現生人類は存在したと思われます。ただ、ホモ・フロシエンシスと現生人類の生活圏が重なっていたかは定かではなく、ホモ・フロシエンシスが本当に現生人類とは異なる別の人類種であるかも含め、今後の研究が必要です。

未来の人類

現在の私たち人類がより大きな脳と知能を持つように進化するということは考えられるでしょうか。進化が行われるためには、そうなることが生存と繁殖上有利になるという進化の圧力が必要です。圧力が弱ければ、チンパンジーが700万年間脳を増大させなかったように、進化は起こりません。 人類にとって、脳を大きくさせるための進化圧は人類そのものでした。脳の拡大に出遅れた種族は滅亡させられ、出し抜いた側は脳を維持する高い代償を払っても、生き延びていきました。現代社会で、そのような進化圧が存在するとは言えないでしょう。IQの高い人間がより低い人間を皆殺しにしたり、食べてしまうという事態は幸いにしてありません。 しかし、人類は言葉と文字を発明することで、DNAなど頼らなくとも技術や知識という情報を子孫に伝えることができるようになりました。それまでは、どんな優れた能力もDNAに刻み込まれない限り、子孫に伝えることはできなかったのです(これは少し誇張があります。哺乳類や鳥類は狩りの方法を子供に伝授することがあります。同じ種で、地域によって行動内容が違って「文化」と呼んでよいようなものを持つこともあります。しかし、能力伝達と進歩の継承の基本がDNAであることは間違いありません)。

人間は言葉を発明することで、DNAが変化しなくても文明を「進化」させることができるようになりました。そして、歴史を振り返ると、攻撃力という意味でより高い文明をもつ種族は、しばしば他の種族を滅ぼしてきました。高い文明や技術を持っているということは、DNAとは何の関係もありません。情報はあくまでも、言葉や文字によって伝えられ、DNAはどんな役割も果たしません。生物学的な意味での進化は、そこには存在しないのです。 もし、DNAが違うという意味で次の人類が生まれたとすると、自分たちが現生人類とは違うということをひたすら隠しながら、遺伝的な拡散を避けるために、小集団を作って社会に潜んでいるでしょう。本当の意味で「新人類」だと思われたら、現生人類が何をするかわかったものではありません。

新人類は現生人類より高い知性を持ち、そして希望的観測としては他の人類を皆殺しにしようという野蛮な性質を捨て去っているかもしれません。そうでなくても、現生人類がいつまで繁栄を続けられるかは疑問です。よりすぐれた人類に地球の未来を託することができるのなら、それはそれで結構なことではないでしょうか。 そして、現生人類が滅んだあと、新人類は現生人類を次のように記述するかもしれません。

ホモ・サピエンス: 一時期繁栄を極め、個体数は最大60億以上に達したが、1万年ほど前、自身が引き起こした環境破壊とそれに続く資源争奪の争いでほぼ絶滅した。現在はフローレンス島に約300人が厳重な監視のもとで保護されている。 フローレンス島では生存に必要な食糧は十分供給されているが、依然として殺人、窃盗など反集団的な行動が発生している。また、定期的にいくつかのグループに分かれて激しい闘争を行うことが観察されている。闘争は苛烈で、しばしば一方のグループが他のグループを壊滅させようとするため、自然状態の保持という原則を破って介入する必要がある。 ホモ・サピエンスの繁栄と滅亡は強欲と攻撃性によるものであるが、その基本的形質はフローレンス島の集団でも変わっていない。このため、隔離状態が動物愛護の精神に反するという指摘はあるものの、ホモ・サピエンス種の島外への移動は厳しく禁止されている。

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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