ギックスの本棚/新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (池上彰・佐藤優|文春新書)

AUTHOR :  田中 耕比古

”戦略的に考える”ためのケーススタディ集

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

本日は、池上彰さんと、佐藤優さんの対談本「新・戦争論 ~僕らのインテリジェンスの磨き方~」をご紹介します。

神タッグとしか言いようがない二人

池上彰といえば、複雑なニュースを分かりやすく伝えることで有名ですね。テレビ東京の選挙特番での無双っぷりも話題になりました。あれは「選挙特番」を報道番組から、良質なエンターテインメント番組に昇華させた素晴らしい功績だと思います。(関連記事:世論総研/2013年参院選) いやぁ、年末に行われる衆院選の解説も楽しみですね。

一方、佐藤優といえば、怪傑としか言いようのない人物です。ギックスの本棚でもいくつか著作を紹介しましたので、そちらをチェックいただければと思いますが、一言でいえば「とっくに引退したはずなのに、ロシア情勢および日本の外交戦略に関して最強の事情通と評される男」ということになります。(関連記事:ギックスの本棚/私の「情報分析術」超入門 | ギックスの本棚/いま生きる「資本論」 )

この二人が「戦争」というキーワードで語るわけですが、字義通りの重火器を使った戦争のみならず、「政治・外交」の領域における情報戦争について熱く語ります。読むしかない一冊です。

世界の構造を知ろう

本書は、国際情勢という切り口で「戦略」を語っています。

経営戦略・事業戦略などという言葉を、企業経営においても用いますが、戦争における「戦略」と比べると、やはり真剣さが違います。

例えば「経営戦略室」「経営戦略室」もしくは「事業戦略本部」のような名前の部門の人がなにか失敗したとして、それによっていきなり人が死ぬということは、まずありません。しかし、戦争であれば、人の命に直結します。

あるいは「戦局が大きく変わる」という表現もそうですね。「戦局が悪化する」というのは、企業経営においては比喩的表現ですが、戦争においては、それがそのまま「致命的な損害・打撃」を被ることを意味します。

ロジスティクス、という言葉も戦争から来ていますし、「戦略」という言葉は、戦争に於いて、もっともシビアに考えられるものです。本書では、企業経営に関して触れられることはありませんが、戦略の重要性という意味では、経営のためのインプットも多く得られると言えます。

戦略的に考えると、道筋が見える

「戦略」の観点で世界情勢をみるということは、各国の「考えていること」を明らかにするということになります。それを理解するためには、いろんな国の「これまで辿ってきた歴史」と「その文化的・宗教的背景」に関する知識が必要です。

すべての物事には理由があります。ウクライナをロシアが軽視するのは貧乏だからだ、とか、スコットランドの独立気運を抑え込んだのは独立後にEUに加盟するためにはユーロを使わなければならなくなることだ、とか、尖閣問題と竹島問題で「領土問題の有無」について立場を変えた主張をしないといけなくなったのは北方領土問題・竹島問題に対処する際に長期的戦略が欠如していたからだ、とか、そういう「理由」です。

この「過去」の延長線上にある「現在」を踏まえて、「未来」を想像することが、そこに如何に対応すべきかという、自国の戦略策定に役立つわけですね。

尚、本書は、イランには売春を許さないイスラム教の「抜け穴」として”一時婚”という仕組みがあるが、それは人種の存続という観点で重要な意味がある、とか、サウジアラビアは「サウド家の土地だ」という程度の意味であって、それを我々が勝手に「国家」と呼んでいるだけだ、とか、アメリカに飛び火している従軍慰安婦問題は、在米韓国人に直接アプローチしないと解決しない、などといった情報が満載です。そして、それぞれについて、文化的背景や歴史的背景が語られています。これらの情報は、単に読み物として読むだけでも得るものは多いのですが、もう一歩、ビジネスパーソンとして踏み込んで、問題の構造把握(と、可能であれば類型化)を行うように努めると、「戦略的に考える」ということの良いケーススタディになります。お試しください。

この人たちは徹底的に勉強している

最後に、この二人に関して、僕が常々思っていることを少しだけ。

この二人は、圧倒的な知識量を持っていますが、それよりも凄いのは、常に情報を最新化し続けている、ということです。常に情報更新をするということは、要は「日々弛まずに勉強している」ということです。

もちろん、彼らは「情報を他人に伝える仕事」に従事しているわけです。ですので、情報を最新に保つのは当たり前といえば当たり前でしょう。しかし、皆さんは、自分の仕事に関する情報・知識を、どれくらい最新に保っていますか?あるいは、彼らが「伝え方」を日々研ぎ澄ましているように、自分の技術を磨き続けていますか? そういう姿勢こそが「プロフェッショナリズム」だと僕は思うのです。

僕自身「プロフェッショナル・ビジネスマンになろう」という連載記事を書きながら自省することが非常に多いのですが、こういう人たちが世の中にいるのだ!と知ることが、成長のための最初の一歩ではないかと思います。そういう観点からも、お勧めの一冊です。選挙前のこのタイミングに是非どうぞ。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)
新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

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