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遥か彼方の惑星に人類が到達する方法を考える|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

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ギックス
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100万年の宇宙旅行

いきなり物騒な話ですが、30メートル、8階建てのビルの屋上から飛び降りたらまず助からないでしょう。このとき地面には時速80-90キロで激突します。20階、30階とビルの高さが高くなれば、激突するスピードはどんどん大きくなりますが、空気の抵抗でスピードは抑えられるので、一定の速度以上になることはありません。どんなに高いところから飛び降りても、最高速度は200キロ前後です。しかし、空気がなければ速度はどんどん速くなります。これはもちろん地球に重力があるからです。

地球の重力の力を1Gと表します。もし車が1Gで加速すれば、スタートから400メートル、いわゆるゼロヨン加速は9秒程度、時速100キロには2.83秒で達します。これは市販のスポーツカーとしてはすさまじい加速力です。ちなみに日本製の車で0-100キロで最も速いのが日産GTRの2.7秒で、これは世界でもトップクラスの性能です。こんな車で全速力で加速すると自分の体重と同じ力でシートに押し付けられることになります。

1Gで加速を続けると、8.5秒で時速にして300kmと新幹線の最高速度、14秒でリニアモータカーの500kmという速度に達します。さらに加速を続けると約34秒で音速を突破します。地球の引力から離れて宇宙に出るための「宇宙速度」は秒速11.2km、ここまで加速するのには19分くらいかかります

落下し続けて光速に達するには

それでは1年間落下を続ける、つまり1Gの加速を続けるとどのくらいの速度になるでしょうか。桁がやたら大きくなるので、直感的に推察するのは難しいのですが、ほぼ光速に達します。高い所から飛び降りて1年間落下を続けて光速に到達できるということになるわけですが、もちろんそんな場所は存在しません。そこまで高い(と言うより遠い)所では地球の引力も、ごくごくわずかしか働かないので1G では加速しないからです。それでも、1年間自由落下を続けてやっと光速になるということで、光の速度が多少実感できるかもしれません。では1年間1G で加速し続けるには、どのくらいのエネルギーが必要でしょうか。

スペースシャトルは5分程度で衛星軌道に乗る速度(秒速8km)に達しますが、その間に2,000トンの燃料を消費します。1年間1Gの加速を続けるための燃料というと、それの数万倍の燃料が必要になりますが、それではロケットがあまりに大きくなり過ぎます。相対性理論の有名なE=mc2,という式は、物質がエネルギーに変換すると、質量に光速の二乗をかけたエネルギーを発生することを示しています。一方、物体の運動エネルギーは速度vの時に、1/2 x mv2です。つまり、光速になるまでには、物体の質量のちょうど半分のエネルギーが必要ということになります。一度光速に達した後、1Gで1年間減速すると考えると速度がゼロになるまでに、また同じだけのエネルギーが消費されます。合計すると1年間1Gで加速し、次に1Gで減速するような宇宙船は、自分と同じ重さの燃料を全てエネルギーに変換することで、やっと実現できることになります。

1Gで加速(減速)するロケットに乗っていると、宇宙飛行士は進行方向と逆向きに(減速の場合は進行方向の向きに)加速度を感じます。これは地球上の重力の強さと同じです。1Gで加速あるいは減速を続けるロケットは宇宙飛行士は地球と同じ重力環境を提供できることになります。ご存じのように、相対性理論では物体が光速に近づくと時間の進み方が遅くなります。光速の99.9%までロケットが加速されると、ロケットの時間の進みは22分の1になります。これはロケット中の2週と少しが1年に相当することを意味します。地球から一番近い恒星のケンタリウス星は4.22光年離れていますから、最初の1年間1Gで加速し光速の99.9%の速度になった後、ロケットの中の時間で約10週間を無重力で飛行(つまり慣性飛行)し、次の1年間は1Gで減速を続けるとロケットはケンタリウス星まで到達することになります。

しかし、それはE=mc2,を利用できるような技術、物質を全てエネルギーに変換するようなエンジンが必要です。こんなエンジンを作る見込みは今のところまったくないので、それこそ机上の空論です。それでは火星探査船の速度、秒速20kmの5倍の秒速100km程度のロケットで宇宙飛行をしようとするとどうなるでしょう。秒速100kmで光が1年間に進む距離、1光年を旅行するのには、ほぼ3千年を要するので、ケンタリウス星に着くまでには1万2千年ほどかかることになります。

光速に到達できるようなエンジンを作るのと1万2千年宇宙旅行を続けるのと、どちらが実現可能かは考え方によりますが、少なくとも後者であれば人間の生存を前提にしなければ不可能とまでは言えません。10万年から100万年くらいの宇宙旅行で地球型の惑星に到達できる可能性はあるでしょう。もちろん、人間が生きたまま、その地を踏むことは不可能です。

生きたままの人間を100万年宇宙旅行させることはできませんが、冷凍卵子と冷凍精子を人間の代わりに地球型の惑星に送って、そこで地球の文明を再び開花させることは、理屈の上ではできそうです。さらに、DNAの情報だけを送って、そこから蛋白質を合成して人間を作り出すことも原理的には可能です。でも、そんなことをする価値があるでしょうか?価値があるかどうかは、科学というより哲学、宗教の範疇でしょう。

人類とチンパンジーを隔てたものは、未開の地に進出するための創意工夫

キノコは繁殖するのに、胞子を飛ばします。キノコの形のままで風に乗ってどこかに行こうとしても、そんなことはできません。キノコは繁殖のために丈夫で軽量な胞子を空気中に放って、子孫を増やすのです。もし、人類が自分たちの遺伝子を宇宙にばらまき、それによって人類を繁栄させようと考えるのなら、生身の人間を送るより、冷凍卵子、冷凍精子さらにDNA情報そのものを宇宙に撒き散らすほうがずっと賢い選択です。と言うより、それ以外の方法はないでしょう。100万年後にどこかの地球型惑星で人類が発展を始めたなら、自分の遺伝子の繁栄を追及してきた地球生物の歴史を人類が科学の力で忠実に繰り返すことになります。
人類は地球上いたる所に満ち溢れていますが、7百万年前に共通の祖先から人類と分岐したチンパンジーはアフリカに閉じ込められています。アフリカからヨーロッパ、アジアと広がっていくことはチンパンジーにはできませんでしたが、人類は道具を作り、他の獣の皮を身にまとうことで気候の壁を乗り越えてアフリカから脱出することができたのです。しかし、人類もポリネシアの島々に広がることができたのは、高々この数千年に過ぎません。航海術を獲得するまでは、離れ小島に移住することはできなかったのです。

ドーキンスの「利己的な遺伝子」では、人間は(他の生物も同じですが)は遺伝子の乗り物でしかなく、遺伝子は人間という乗り物を利用しながらコピーを増やそうとしているのですが、それでも個々の人は遺伝子に操られているという自覚があるわけではありません。もし、100万年の宇宙旅行を可能にするような技術を開発しようとすれば、ロケット、コンピューター、生命科学で膨大な研究開発が必要でしょうし、見返りは100万年後の遺伝子の繁栄であって、自分の繁栄ではありません。こんなことを人類が実行する日が来るでしょうか?

100万年の宇宙旅行への投資などは世俗的な人間の欲望から考えると、とてもありそうにも思えません。しかし、人類の歴史を振り返ると、戦争は自分たちの遺伝子を増やそうという欲望が根本にあったことは確かです。ジンギスカンが自分の遺伝子をばら撒こうとして(そう意識していたわけではないでしょうが)、大帝国を作ったものと同じ欲望が、人類を何度も破滅させることができるほどの核兵器を生み出しました。ばかばかしいように見えても、人類は時々とてつもないことを実現します。大神殿、大航海そして核兵器、100万年の宇宙旅行も案外実現しようとする日がくるかもしれません。

 

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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