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フリーメイソン|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

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ギックス
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陰謀とはかけ離れた老人たちばかりが会員の天然記念物的な組織

渋谷から霞ヶ関に向かう高速道路の下を通る六本木通りは、六本木交差点で環状3号線、通称外堀東通りと交差しています。その外堀東通りを東京タワーに向い、飯倉片町交差点を抜けると、町の様子は六本木の喧騒とは打って変わって落ち着いてきます。左手に、外国の賓客を接待するための瀟洒な外務省飯倉公館、後の電電公社、NTTとなる逓信省通信院のあった古風なビル。右手のロシア大使館を通り過ぎて、飯倉の交差点に来ると、東京タワーが目の前にそびえています。

飯倉交差点の右前方に、終戦まで海軍幹部の社交場だった水交社本部の跡地にある、そのあたりでは比較的大型の部類の白い二つのビル、メソニック38MTビル、メソニック39MTビルが目に入ります。日本におけるフリーメイソンの本拠地、日本グランド・ロッジはこの二つのビルに挟まれた東京メソニックビルの中にあります。
英語で「自由な石工」を意味するフリーメイソン(英語ではFreemasonry。Freemasonは個々の会員を意味しますが、ここでは日本での普通に使われているように「団体」も示すことにします)は、諸説はあるものの、16世紀ごろイギリスの石工のギルド(イギリスは都市国家ではないのでギルドなどなかったという人もいるのですが、いずれにせよ職能団体には違いありません)を母体にしたと言われる団体です。フリーメイソンのシンボルには石工の集まりを象徴するコンパスと直角定規、それにGodとGeometry、神と幾何学を意味するGを配しています。このマークは東京メソニックビルの前にも置かれています。

実際の出発点はともかく、フリーメイソンは石工の組織を借りて、主として社会的な影響力のある人々の間で、仲間内の相互扶助や、交流を行う団体として拡大を続け、1717年にはロンドンに本部としてのグランドロッジが設立されます。フリーメイソンが歴史の中ではっきりした形を現したのは、このころのことです。現在世界中でフリーメイソンには500万人の会員がいると言われています。そのうち1割50万人がいるのは発祥の地のイギリスですが、フランス、ドイツなどヨーロッパ諸国にも多くの会員がいます。なかでも、アメリカには200万人におよぶ会員がいて、もっとも多数を占めています。アメリカでは、初代のジョージ・ワシントンを初めとして、最近ではジェラルド・フォードにいたる15人の大統領がフリーメーソンです。日本には2,000人程度のフリーメイソンの会員がいると言われていますが、その大半は米軍関係者。アメリカとは違って、日本でのフリーメイソンの存在は大きなものではありません。

フリーメイソンの集まりはロッジと呼ばれる集会場で行われます。多くの場合、国ごとにその国を代表するグランド・ロッジが置かれ、その国のロッジはグランド・ロッジの下部組織になります。日本では日本グランド・ロッジの下に17のロッジがあります。日本では、フリーメイソンがある種の秘密結社的な性質を持つ団体だったため、戦前は活動を行うことはできませんでした。戦後はGHQ総司令官のマッカーサーを始め多数の軍人がフリーメイソンだったこともあり、積極的な設立活動が行われました。そのころのフリーメイソンの会員としては首相にもなった鳩山一郎がいます。余談ですが、鳩山一郎の孫の鳩山由紀夫元首相の言う「友愛」は元はと言えば、フリーメイソンの理念を表した言葉です。

元々水交社のものであったメソニックMT38、39ビルと東京メソニックビル一体の土地は、現在フリーメイソン(正確には財団法人の東京メソニック教会)が所有権を持っています。これは接収された水交社本部をフリーメイソンが占領後もそのまま所有し続けたためです。これを不当占拠として、その後水交社との民事係争になりましたが、1,000万円という破格の安値の和解金で決着されています。跡地に建てられたMT38,39などのビルは森トラストが信託契約でテナントの募集や家賃の徴収を行っています。

フリーメイソンは陰謀組織?

フリーメイソンに対する一般の日本人の受け止め方は、それほど好意的なものではありません。オカルト教団のようなものと思われたり、はては世界征服を企む大陰謀組織というものまであります。オウム真理教教祖の松本智津夫は「ユダヤと結託したフリーメイソン」の陰謀を説きつづけました。

実際のフリーメイソンは、どう見ても世界征服を狙う陰謀組織ではありません。アメリカでは大統領をはじめ、ケンタッキーフライドチキンの創立者のカーネル・サンダースやゴルフのアーノルド・パーマーなど有名人に多数のフリーメイソンの会員がいますが、別に秘密などではなく一般に広く知られた事実です。フリーメイソンが陰謀組織めくのは、入会の儀式や、会員同士がお互いを認識するための特異なサイン(握手の仕方など)など様々なことが秘密とされているからです。しかし、入会の儀式などは言ってみれば任侠の義兄弟の契りや、結婚式の三々九度のようなものです。傍から見れば奇妙ではあっても、儀式をすることで会員になった意識を高めるものに過ぎないでしょう。

入会の儀式にしろ、秘密のサインにしろ、見方によってはいい大人が、少年探偵団ごっこをしているようにも見えます。子供のころ何か仲間内で合図を決めて遊んだ人は多いのではないでしょうか。日本人は会員制のクラブそのものになじみがないということも、フリーメイソンを一層怪しげなものと思わせる理由になっているかもしれません。日本では町内会のような地域の集会、同窓会、医師会のような特定に組織、職業の集団、あるいは句会のような共通の趣味仲間のもの以外、純然たるクラブのためのクラブというものは、ほとんど存在しません。

これに対し、イギリスやアメリカでは、伝統的には一人前の紳士や紳士の予備軍は何らかのクラブに属することがむしろ当然とされてきました。ハーバードやエールのような一流大学を卒業しても、その中で名門クラブに所属しなくては、ほとんど卒業したというだけだと言われるくらいです。とは言っても、一般のクラブと違って、フリーメイソンが国際的に大きな広がりを持つようになったのはなぜなのでしょう。友愛を標榜するだけで、500万人の組織が作れるものでしょうか。秘密めかした儀式や、子供っぽいサインの交換が仲間意識をそれほど高めるものなのでしょうか。

先進的だったフリーメイソンの思想

フリーメイソンは「寛容」「友愛」などとともに自由意思を信条としています。フリーメイソンが歴史に登場した18世紀は、イギリスが産業革命を起こし世界帝国を築き始めた時でした。最初のグランドロッジが創設された1717年は、「公権力に対して個人の優位」を主張し、後のフランス革命、アメリカ独立に大きな思想的影響を与えた、イギリス人の哲学者ジョン・ロックの没後13年にあたります。フリーメイソンの信条は、当時ほとんど過激とも見えた先進思想であったロックにもつながるものです。アメリカで初代大統領のワシントンや独立戦争の立役者のフランクリンらがフリーメイソンであったのは偶然ではありません。

初期のフリーメイソンは進歩的な思想の持ち主である紳士たちが、支配階級であった王族、貴族への不満を抱きながら、広がりつつあった世界での冒険を語る場として成長したのではないでしょうか(今は英国王族男子はフリーメイソンに入会すると言われています)。冒険こそイギリスの紳士階級が最も愛するものの一つです。冒険心を持った大人たちには、奇妙な儀式や、合図の暗号、33もある複雑な階級などが、一種の遊び道具としては楽しいものだったのでしょう。クラブの文化があり、世界に雄飛する冒険に充ち溢れ、絶対王制から距離を置いたイギリスこそフリーメイソンの苗床として最適だったはずです。

フリーメイソンがヨーロッパに渡ってからも、ゲーテやモーツアルトのような文化人をフリーメイソンは惹きつけます。かれらは、貴族ではなく新時代を作る側の人々でした。しかし、フリーメイソンの自由思想や、会員同士の信頼と結びつき、そして秘密主義は敵対する考えの持ち主からは危険な存在に見えたのかもしれません。また、フリーメイソン自身が会員同士結びつきから、自然発生的にある種の政治的な目的を帯びた行動の起点になることもあったかもしれません。あるいは、終戦直後の日本のように、支配者側がフリーメイソンを作ってしまったような場合(イギリスの植民地では、ほとんど現地人の入会を認めませんでした)、支配者がフリーメイソンを道具に支配を強めようと勘繰られることもあったでしょう。

ナチス時代のフリーメイソンとユダヤ人

フリーメイソンに対し、歴史上もっとも激しい攻撃を加えたのはナチスドイツです。ヒットラーは演説の中で「ユダヤ人とフリーメイソンに操られたアメリカやイギリス」を非難するのが常でした。ナチスがフリーメイソンを陰謀組織呼ばわりするのは、理由がなかったわけではありません。一つにはアメリカの正副大統領。ルーズベルトとトルーマンは、ともにフリーメイソンだということがありました。そして、ヨーロッパではビジネスの場で成功をおさめた多くのユダヤ人がフリーメイソンに入会していました。

最初の頃、フリーメイソンはユダヤ人の入会を拒んでいます。しかし、ユダヤ人の入会が認められると、フリーメイソンの持つ、友愛や自由主義、仲間意識の強さと秘密主義は、差別的な立場にあったユダヤ人にとって、大変魅力的な存在だったでしょう。300万人以上のユダヤ人がホロコーストで殺されたポーランドでは、フリーメーソンの会員の7割がユダヤ人だったと言われています。

日本でフリーメイソンを陰謀組織呼ばわりする人々は、概ねこのころのナチスの主張を借りています。オウム真理教もそうでした。これらの陰謀論の多くはご丁寧に、とっくに偽書と断定された「シオンの議定書」をユダヤ、フリーメイソン世界征服計画論の根拠を置いています。シオンの議定書はヒットラーが「歴史的な正しさより。事実としての真実性が大切だ」と言って、なかば偽物だと認めたような代物です。それでも、ナチスはシオンの議定書も証拠の一つに、600万人のユダヤ人をホロコーストで殺しました。ナチスに殺害されたフリーメイソンは10万人にもおよんだと言われています。

今では天然記念物?

日本のフリーメイソンは会員数2,000人で、年会費4-5千円と言われています。これでは、年間収入が1千万円にもならないのですが、日本のフリーメイソンを法人格として代表する、財団法人の東京メソニック協会の年間収入は10億円近くあります。これは主に森トラストに信託している不動産の収入と思われますが、その不動産は終戦時に敗戦国の海軍OBの所有物を破格の安値でなかば召し上げたものです。GHQでのフリーメイソンの力を示すものでもあるでしょうが、今はあまり使い道もなく、多額の剰余金を毎年積み立てています。

活動が活発だったアメリカでも、フリーメイソンの大統領はジェラルド・フォード以来いません。ハリウッドスターのフリーメイソンも日本人が聞き覚えのあるのはクラーク・ゲーブルのような故人がほとんどです。世界で500万人とも言われた会員数は、今は300万人程度に減少してきているようです。アメリカの独立戦争のころの先進思想も、現代では、「冒険心」を掻き立てるような新しさはありません。今のフリーメイソンは複雑怪奇な儀式、階級などを制度を保っているものの、老人たちばかりが会員の天然記念物的な組織になっているようです。

それでも、今の世界がフリーメイソンの寛容、自由、博愛のような思想を古ぼけていると言える国ばかりでないのは事実です。北朝鮮の例を引くまでもなく、多くの国ではフリーメイソンの思想は、フリーメイソンのできたころのヨーロッパがそうだったように、危険思想かよく言っても贅沢品なのです。まして、フリーメイソンの秘密主義を認める国が世界の多数派とはとても思えません。最初に書いたように、戦前の日本でもフリーメイソンは秘密結社として、設立は認められていなかったのです。

フリーメイソンが普及するまでもなく、フリーメイソンを「古ぼけている」と言える日本は幸せと言ってもよいかもしれません。しかし、それにしても「フリーメイソン、ユダヤ結託陰謀論」がいまだ大手を振って歩くのは、いかに日本になじみのない話とは言え、あまりほめられたものではないでしょう。陰謀論も結構ですが、本当の陰謀はフリーメイソンのような子供っぽいものではありません。フリーメイソンのような悪く言えば、ただの古ぼけた老人クラブを陰謀組織呼ばわりする人が相変わらず沢山いるのは、いかにフリーメイソンになじみがないからとは言っても、いささか情けない話です。

 

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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