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大阪都構想と橋下政治|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

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ギックス
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「エリート主義」に対比するポピュリズムと住民投票

今週日曜(2015/5/17)に行われた大阪都構想への可否を問う住民投票(東京では投票者が大阪市なのか大阪府なのかも知らない人が多いのですが大阪市です)は、得票率にし0.8%という僅差で反対が上回り否決されました。大阪都の実現とそれにともなう大阪市の消滅はなくなり、長らく大阪都構想を推進してきた橋下大阪市長は任期満了後の政界引退を発表しました。

大阪都構想というのは現在の大阪市を5つの特別区に再編し、大阪府と大阪市の二重行政による無駄を無くそうというものです。実際には、二重行政の解消と言っても、市職員、府職員を大量に解雇するわけでもありませんし、大阪府大、大阪市大の一方を廃校にするようなことをするわけでもありませんから、当面の効率化の程度は限定的でしょう。

それでも、それほど広くもない地域で大阪市と大阪府という二つの行政組織が存在するのは無駄に思えます。大阪市のような政令指定都市は都道府県の権限の多くが移管されていて、市の上に都道府県が存在する意味は、住民サービスという点で普通の市町村と比べればずっと少ないのです。

とは言っても、市制を解消して都、特別区に移ることは当の住民にとってそれほど大きな影響があるとは思えません。地方自治体が住民に対し行うサービスの基本は変わらないからです。企業で言えば、事業部制がカンパニー制に変わっても末端の従業員にはあまり変化がないというのに似ているかもしれません。

しかし、企業で事業部制がカンパニー制に変わるようなことがあれば、中間管理職には大きな影響が及びます。特に事業部長クラスは権限を失うことへの抵抗が大きいでしょう。大阪都構想も反対の急先鋒は大阪市議会でした。大阪都構想には、橋下市長の支持母体の維新を除く自民、民主、公明は一致団結して反対しました。何と反対演説会には共産党まで加わり、自民、共産の共同演説会という戦後政治で見られたことのない光景が出現しました。

その中で否決されたとはいえ、大阪都構想に賛成する有権者が反対とほぼ拮抗する数だったのはむしろ驚きだったかもしれません。驚いた理由には事前の世論調査では反対が賛成をかなり上回っていたことがあります。読売新聞は賛成34%に対し反対が50%、共同通信は賛成39%、47%という調査結果を発表しています。実際にはほぼ賛否が50%だったことと比べると、有意以上の明白な違いがあります。

ここまで、事前の世論調査と実際の投票が違っていたのは、世論調査の手法そのものに問題があったからだと思われます。新聞社などの世論調査はRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法といってコンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかける方法で行います。これでは固定電話を持たない若い世帯は調査の対象から抜け落ちてしまうのは明らかです。投票結果を世代別にみると、都構想への反対が多かったのは60代だけで、20代から60代にいたるすべての世代で賛成が反対を上回っています。世論調査の手法は今後大きく変える必要があるでしょう。

高年齢、言葉を替えると年金世代に反対者が多かったのは、都になると年金が3分の1になるといった反対派のプロパガンダ(もちろん出鱈目です)に影響を受けたことと、老人ほど改革に抵抗があるということがあったのでしょう。住民投票は一種の世代間得票競争になっていたと思われます。ただ、繰り返しですが年金を通じての現役世代から高齢者世代への所得移管は国レベルの政策課題で、地方自治の枠組みで大きく変わるようなものではありません。この点では反対派だけでなく、都構想で多大の財政上の利益が生じると主張した推進側の主張にも問題があったと言えます。

それでも二重行政の解消という、言ってみれば地方自治の組織改編に過ぎない政策で政党を引っ張り、有権者の関心が低く投票率が30%に満たないような地方自治の世界で70%近い投票率を実現した橋下市長は政界の風雲児です。しかし、その手法は役人や市議会議員の既得権の攻撃にみられるようなスタンドプレー的なポピュリズムと言われても仕方ないものが目立ったのも事実です。

もっとも橋下市長はポピュリズムをそれほど悪いものとは考えていないのかもしれません。橋下市長は自身のツイッターの中で次のように述べています。

しかし政治行政の本質は多数の意見で進めることだ。ポピュリズムと軽蔑されようがなんであろうが、民主制とはそういうものだ。それが嫌なら、民意を軽蔑する、賢人政治にするしかない。そんな政治はまっぴらごめんだ。賢人などいるわけがない。民主制は完ぺきではないがそれに替わる政体はない。

橋下市長は特定のエリート、権力者が国民を率いていく「エリート主義」に対比するものとしてポピュリズムをとらえているようです。同じくツイッターの中で橋下市長はこうも言っています。

 結局新聞などに寄せられる自称インテリ層の意見は、国民総数からするとほんの少しの意見なのに、新聞紙面には多くを占める。いわゆるデモと似ている。新聞の自称インテリ層の意見が、国民大多数の意見だと見誤るとえらい目に遭う。もちろん、数だけが全てではないことは分かっている。

今回の橋下氏の敗因は「自称インテリ層」ではなく、既得権を守ろうという既成政党(自民党から共産党まで!)の一丸となった抵抗によるものでしょう。しかしそれは、にわかづくりでかなり怪しげな人物も混じっている維新という政党の危うさ、ポピュリズムの持つ危険へのある種本能的な警戒感を住民に生み出した、橋下市長自身のパーソナリティーも大きく影響したと思います。今回の敗北でこの風雲児がそのまま日本の政治の風景から消えていくのか、あるいはまた別の形で表舞台に現れるのか。しばらく見ている必要はありそうです。

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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