”考え方”を考える|キャリアはケイパビリティで考える:データサイエンスとデータアートの違い

AUTHOR :  田中 耕比古

あなたは、本当に「データサイエンティスト」になりたいのか?

昨今「データサイエンティスト」という言葉がもてはやされています。そして、雨後の筍のように「データサイエンティスト」という肩書きが書かれた名刺が量産されています。本日は、その状況を題材に”キャリア観”について考えてみたいと思います。

Data Scientistとデータサイエンティストは別物

僕たちギックスは、米国の「Data Scientist」と、日本の「データサイエンティスト」は、定義が異なっていると考えています。

ギックスでは、CMOの機能を補完する”4つのケイパビリティ”を定義しています。本来、欧米で言われているData Scientist(=データサイエンティスト)には、相関を見出すのみならず、因果を読み解く=ビジネスに活かすための解釈を行う、という部分も含まれています。

参考:アクセンチュアアナリティクス 日本統括 工藤卓哉氏 対談

然しながら、日本における「データサイエンティスト」という言葉には、「統計の専門家」「分析ツールやデータベースを使いこなせる」といった意味合いを強く感じてしまうのが実態です。

出所:データアーティストとは何か

もちろん、日本国内にも「Data Scientist」という称号にふさわしい知識・スキルをお持ちの方がたくさんいらっしゃると思います。しかしながら、上記引用文にあるような「狭義のデータサイエンティスト」とも言うべき、”統計専門家”、”データベース専門家”もたくさん含まれています。その方たちが”ビジネスに活かすためのデータ解釈の能力が高い”とは言えないのが実情だと思います。(※誤解なきように申し添えますが、別に”その方たちが悪い”というつもりはありません。名刺の肩書は、大抵、所属する会社の方針で決まりますので、選択の余地が無かったのだと思います。また、その肩書を付ける決断をした会社さんも、悪いとは思いません。要は「部長」という言葉がNTTやJRだと相当”上位職階”だが、別の会社の「部長」はNTT/JRでいうところの「課長」レベルを意味する、というようなことと同じです。単に、定義が違うだけです。)

「データサイエンティスト」+「データアート」スキル = Data Scientist

ギックスでは、「CMOを支える4つのケイパビリティ」ということで、チームCMOという概念を提唱しています。そのなかで「データサイエンティスト」と同列の存在として「データアーティスト」というロールを定義しています。

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上図をご覧いただいて分かる通り、「統計的観点でデータを取り扱う人」が(狭義の)データサイエンティストで、「データを解釈し、ビジネスに結び付ける人」がデータアーティストというわけです。

データアートは「ビジネスに根差した、情報の読み解きの”感覚”」

データサイエンスは、”手法”に主眼が置かれます。wikipediaより抜粋して引用します。

データサイエンス(data science)とは、データに関する研究を行う学問である。

データの具体的な内容ではなく、異なる内容や形式を持ったデータに共通する性質、またそれらを扱うための手法の開発に着目する点に特色がある。

使用される手法は多岐にわたり、分野として数学、統計学、計算機科学、情報工学、パターン認識、機械学習、データマイニング、データベース、可視化などと関係する。

出所:wikipedia

要するに「データを、どのように扱えば良いのか」ということを究めていく学問、ということです。

上記の手法により「データサイエンスによって、適切に扱われた(分析された)アウトプット」を、解釈して実際のビジネスにつなぐことが「データアート」の領域です。これは、”ビジネスそのものに関する深い知見”が求められます。これは一般に「勘」「経験」「嗅覚」と呼ばれるようなものだったりします。

単なる「勘」「経験」「嗅覚」から、一歩踏み出して、”データに裏打ちされた「勘」「経験」「嗅覚」”の世界に進むことができれば、世界は変わります。

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出所:データサイエンティストは「雇う」のではなく「育てる」べきではないか

つまり、事業会社において豊富なビジネス経験・知識をお持ちの皆さんには、それを活用して分析結果を解釈するところ(=データアート領域)で活躍するチャンスがあるわけです。(もちろん、その前段として、データサイエンス能力のある人が”アウトプット”を出してくれないといけませんので、そういう人とチームを組むか、そういう能力を自分自身で身につけることが求められます)

キャリアは”ケイパビリティ”で決めるべし

上記で「スキル」とか「能力」とかいう言葉を使ってきましたが、これを表現するために「ケイパビリティ」という用語を使っていきたいと思います。

ケイパビリティとは、仕事につかえる実務能力

ケイパビリティは、英語で”capability”と表記します。よく似た言葉で”ability”(アビリティ)というものもありますが、その違いについては、以下のように理解するのが良いでしょう。

ability:実力としての能力

「能力」を表す最も一般的な語で、自然に持って生まれた先天的な能 力、及び教育や訓練などの努力によって得られた後天的な能力の両方をいいます。空間認知能力のような精神的な能力、言語能力のような知的な能力、運動能力などの肉体的な能力など、様々な能力一般を表します。

capability:専門的な分野での実務能力

ある仕事や目的の達成に必要な「能力」をいいます。主に実務能力を言い、特に難しい専門知識や特殊技能について使うことが多いです。また人間の能力だけでなく、機械や組織などの能力について言うこともあります。

出所:”ability, talent, capability「能力」意味違い、使い分け”

「実務能力」という表現がしっくりきますね。つまり、”データ分析のケイパビリティ”というと、”データ分析の実務能力”ということになります。

そして、その”データ分析のケイパビリティ”は、先ほど述べたとおり”(狭義の)データサイエンティストとしてのケイパビリティ”と”データアーティストとしてのケイパビリティ”に分解できるというわけです。

ケイパビリティベースのキャリア構築

キャリアを考えるときに、この「ケイパビリティ」の視点で考えることを僕はお勧めしています。これは、大きく4つのステップに分けられます。

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①最初に考えるべきこと:現在を知る
  • 自分には、どういうケイパビリティがあるのか
  • そのケイパビリティからは、どういう仕事の可能性があるのか ⇒今すぐ転職できる選択肢を理解する
②その次に考えるべきこと:現在からの積み上げ
  • ここから派生して身につけられるケイパビリティには何があるのか
  • そのケイパビリティと現在保有するケイパビリティの組み合わせから、どういう仕事の可能性があるのか ⇒転職成功の可能性が高い選択肢を理解する
③その上で、「やりたい仕事」がある場合に考えるべきこと:未来からの逆引き
  • 「やりたい仕事」に対して、今のケイパビリティおよび派生ケイパビリティの他に、何が”必要”か
  • その”必要”なケイパビリティは、どうやれば身につけられるか ⇒現在を延長した未来と、目指す未来のギャップを知る
④アクションプランへの落とし込み:現在と未来をつなぐ
  • 現在のケイパビリティの強化プランの策定
  • 派生ケイパビリティの獲得・強化プランの策定
  • ”必要”なケイパビリティの獲得・強化プランの策定

尚、アクションプランは、それぞれに優先順位づけを行い、適切なマイルストーンを置いて、日々モニタリングしながら着実に実行していくことが重要です。(プロジェクト管理については、コチラの関連記事を参考にしてください。)

事業会社のビジネススペシャリスト→データアーティストのキャリアパス

先ほど挙げた、「勘」「経験」「嗅覚」のビジネスのプロが、「データアーティスト」になるという例で上記プロセスを考えてみましょう。

  • ①で、今の自分が強い領域(営業領域、マーケティング領域、物流領域)を見極め、ケイパビリティを言語化する。例えば、顧客要望の見極めが上手いとか、エリア戦略の勘所が分かるとか、物流拠点のオペレーション設計に優れているとか。
  • 続いて、②で、現業の延長線上で獲得できるケイパビリティを見極める。例えば、顧客の業種・業態や事業規模から顧客要望の仮説を立案するとか、各エリアの違いを見極めて全社レベルの中期的リソース配分を行うとか、物流オペレーションのノウハウを一般化しあらゆる集中オペレーション管理マニュアルを作成するとか。
  • さらに、③で「データアーティスト」には、”データを読み解く能力”・”仮説を立案する能力”・”仮説を検証する能力”が求められます。上記3例の場合、どの状況でも”数値情報をみて意味を理解する”、”数値情報を元に仮説を構築する”・”仮説検証のために必要な数値情報を考える”というケイパビリティが不足していることが分かるでしょう。その一方で、自分の得意領域以外の「データアーティスト」を目指すのは、現実的ではないとも気づくハズです。
  • それらを踏まえて、④で行うべきアクションを定義します。”データを見る機会を増やす”ということが最初の一歩です。今までは表だったものをグラフにしてみたり、表現方法に工夫をしてみると良いかもしれません。

この4つめだけ、少し詳しく解説しておきます。例えば、同じデータを折れ線グラフと棒グラフの両方で表現してみると、見え方が違うということに気づくこともあると思います。(関連記事:データ分析のお作法/graffe.jp)その次は、そのデータから「感覚通りのこと」「感覚と違うこと」を見極める訓練です。これは”仮説構築”の第一歩ですね。その気づきを基にした仮説ができれば、次は「その仮説が正しいか」のチェックをしていきましょう。仮に、部門別の売上推移の折れ線グラフから、「この部門の売上が他に比べて伸びていないのは、新規顧客の開拓ができていないからだ」という仮説を立てたとすると、その検証は「各部門の売上の”新規と既存”の比率の推移」で行うことになります。ここで大事なのは、立てた仮説が合っているかどうかではなく、仮説を立てて検証するというプロセスです。このプロセスを身につけることが、③で挙げた不足ケイパビリティを身につける事なのです。

キャリアは”夢”ではない”現実”だ

キャリアプランニングをするということは、夢や理想を描くことではありません。現実の話です。

交差点を曲がったところでスカウトされてニュースキャスターに抜擢される、なんてことがあるでしょうか? 居酒屋で仲良くなったおじさんが上場企業の会長で、いきなり子会社の社長として雇用してくれる、なんてことが起こるでしょうか?

ケイパビリティにしても同様です。ある朝目覚めたら、フランス語がペラペラになっているなんてことはありません。魔法の薬を飲んだら、ロジカルシンキングの達人になっていたなんてことも起こりません。

今までに獲得してきたケイパビリティと、これから獲得するケイパビリティを足し合わせたものが、将来のキャリアになります。

昨日まで統計専門家だった人が、ある日突然”Data Scientist”になるなんてありえませんし、今日まで営業のプロとしてやってきた人が、明日いきなりデータアーティストや戦略コンサルタントになることもありません。そのためには、不足するケイパビリティを獲得する必要があります。是非、現実を見据えて、ケイパビリティの向上に努めてください。

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