第3章「 自己探求の時代」自己啓発本を10冊読むよりも実りがある24ページ|ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

己を「マネジメント」せよ!

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本日は、第3章、もしドラで一躍時の人となった、ピーター・ドラッカー氏の「自己探求の時代(1999年7月)|ページ数:24p」を紹介します。

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自己啓発本を買うな。これを読め。

この論文は、非常に本質的です。その辺に転がっている自己啓発本を10冊読むよりも、この24ページを読んだ方が良いです。ホントです。この24ページだけでも、1800円の元を取って余りあると僕は思います。オススメです。

強みを知れ

この論文では、まず「強みを知れ」と述べられます。

自己の強みと信じているものは、たいていが見当違いである。知っているのは、強みならざるものである。それさえ見当違いのことが多い。何事かを成し遂げるのは、強みゆえである。弱みによって何かをまっとうすることはできない。もちろん、できないことから成果を生み出すことなど、とうていできない。

人類の歴史において、ほとんどの人たちにとっては、自己の強みを知ったところで意味が無かった。うまれながらにして、地位も仕事も決まっていた。(中略)ところが今日では、選択の自由がある。したがって、自己の適所がどこであるかを知るために、自己の強みを知ることが必要になっている。

そして、強みを知るためには「フィードバック分析」しかないと説きます。このフィードバック分析は、他人からのフィードバックではなく、自己による内省的なフィードバックです。

なすべきことを決めたり、始めたりしたならば、具体的に書き留めておくのである。そして9ヶ月後、1年後に、その期待と実際の結果を照らし合わせなければならない。

それにより、何が得意で、何が得意でないかを見極めたら、

  1. 強みへの集中
  2. 強みの強化
  3. 知的傲慢を知り、正す(知らないことを誇らない)
  4. 成果の妨げになっていることを排除する
  5. 人への接し方を改める
  6. できないことはしない
  7. 並以下の能力を向上させることに無駄な時間を使わない

というようなことに注力せよ、と説かれます。

仕事の仕方も”与件”である

その上で重視すべきは、仕事の仕方だと述べられます。具体的には”理解の仕方”即ち「自分が読んで理解する人間か、聞いて理解する人間か」あるいは、”学び方”即ち「書くことによって学ぶのか、実際に行動することによって学ぶのか、自分が話すのを誰かに聞いてもらって学ぶのか」というような、やり方の部分です。

それを理解した上で、無理に変えようとしないことが重要だとドラッカー氏は結論付けます。

いまさら自己を変えようとしてはならない。うまくいくわけがない。それよりも、自己の仕事の仕方をさらに磨いていくことである。得意でないことや、できないことにあえて挑んだりしてはならない。

自分が価値を感じるものを理解し、重んじる

その上で、自分の価値観を理解すること、それが組織の価値観と合致しているかどうかを理解すること、さらに、自分に適したポジションを理解すること、の3つが重要だと説かれます。この辺りの詳細は、ぜひ、原典でご確認頂きたいと思います。

ただ、この前の節までは「自己の理解」だったところが、ここからは「他人とのかかわり方」の話が含まれてきていることが分かります。

他人とのかかわり が自己実現の鍵

この論文の後半は、「自己の為すべき貢献」「他人との関係性」という領域に踏み込んできます。人は”社会”に属して生きていますので、社会に対して何を与えるのか、他人とどのように接し、どのように影響をし合うのかというところを考えないといけません。世界は、誰かを中心に回ってはいないんです。

なすべき貢献を自分で考えろ

昔は、大半の人間は「主人の意向」で貢献すべきことが定められていたが、知識労働者は、そういうわけにはいかなくなった、とドラッカー氏は述べます。ちなみに、「やりたいことをやる」というのも間違っている、というのがポイントです。

1950年代、60年代、新しく現れた知識労働者は、(組織人として)自己のキャリア形成を人事部に期待した。しかし60年代が終わらないうちに、知識労働者は自分が何をしたいのかを自分で考えなければならなくなった。そして自分のしたいことをすることが貢献であるとされた。だが、この答えもまた、間違いであることが明らかになった。したいことをするのが、貢献、自己実現、成功に繋がると考えた人たちのうち、実際にそれらを得たものはあまりいなかった。

もはや、聖書の一節かと思うくらい、示唆に富んでますね。そうなんですよねー。人って、自由を求めて自由を得ると、堕落してしまうのが常なんです。「規範の中にいるときは、それを窮屈と感じるけど、規範なき行為はまた行為として成立しない。」って奴ですね。

ということで、自分自身で規範を設定する、というのが理想となります。

なすべき貢献は何であるかという問いに答えを出すには、三つの要素を考える必要がある。

第一は、状況が何を求めているのかである。第二は、自己の強み、仕事の仕方、価値観からして、いかにして最大の貢献をなしうるかである。第三は、世の中を変えるためには、いかなる成果を具体的に上げるべきかである。

その際のコツとして、以下の3つが挙げられます。

  • 目標は難しいもの=ストレッチしたものとする
  • 意味のあるもの、世の中を変えるものとする
  • 目に見えるもの、できれば数字で表せるものとする

成果のために、他人と関わろう

さらに、人との関わりの重要性が説かれます。人は、一人で何かを成し遂げることは殆ど無いのです。

ほとんどの人が、他の人々と共に働き、他の人々の力を借りることで成果を上げる。(中略)したがって成果を上げるには、第三者との関係について責任を負わなければならない。そこには二つの課題がある。

一つの課題は、他の人々もまた自分と同じように人間である、という事実を受け入れることである。(中略)成果を上げるためには、共に働く人の強み、仕事の仕方、価値観を知らなければならない。

もう一つの課題は、コミュニケーションについて責任を負うことである。(中略)組織内のあつれき(中略)のほとんどは、相手の仕事、仕事の仕方、重視していること、目指していることを知らないことに起因している。そしてその原因は、たがいに聞きもせず、知らされてもいないことにある。

ひとつめの課題は、周囲の人が、独自の強み・仕事の仕方・価値観をもった存在であると理解することです。具体例として、前の上司が「読んで理解する」人だったために、新しい上司が「聞いて理解する」人であったら、それに適合する必要があるにもかかわらず、多くの人はアジャストしようとしないことが挙げられます。ああ、すごい理解できます。めちゃめちゃ反省します。ごめんなさい。

ふたつめの課題は、上記の「他人の特性」を受け入れるために、まず、「他人の特性」を知ることです。そのソリューションはシンプルです。「聞く」ということです。これ、忘れがちなんですよね。特に、年をとればとるほど、”俺話(オレばなし)”をしちゃうんですよ。ほんと、気を付けたいものです。はい。

ここまでくれば、仕事の成功についての心得は、一通り網羅されました。要は「己を知れ」ってことです。

第二の人生

最後に、「第二の人生」について語られます。

今日、経営幹部クラスの中高年層の危機がよく話題になる。原因は主として倦怠である。45歳ともなれば、仕事上のピークに達する。総自覚もする。20年も同じことを続けていれば、仕事はお手のものである。ただし、もはや学ぶことも、貢献することも、心躍ることも、満足することもない。だが、あと20年、25年は働ける。したがって、第二の人生を設計することが必要となる

人生は長いので、同じ仕事だけじゃ飽きちゃうよね、ってことです。具体的には「職を変える(A→B」「副業を持つ(A+B)」「ソーシャルアントレプレナー(A×B)」です。職を変えるってのは、業界内で転職したり、まったく違う業界に行くわけですね。副業を持つのは、メインの職業に加えて、もう一つの仕事をすることです。ボランティアとかも含まれますね。最後のソーシャルアントレプレナーは、本業で大きな成功を果たした人が、非営利の仕事に注力することが多い、とされます。

このいずれを目指すかは別にして、「現役時代」に気を付けるべきことが一つあります。

ただし、第二の人生を持つには、ひとつだけ条件がある。本格的に踏み出すはるか前から、助走しなければならない。

そうなんですよ。人生においては「思いついた瞬間に達成できること」ってあまり存在しないんですよね。ということで、現役時代に「己を知る」「己の仕事の成功のために正しくふるまう」ことに加えて、「人生そのものの幅を広げるために、準備する」ということが大切なわけです。

雑感:やっぱ、このドラッカーすげぇ

以上、たった24ページでしたが、本当に深い。そして、本当に素晴らしいですね。完璧です。要するに、仕事人としてどのように生きるべきかについては、15年以上前に答えが出てたんですね。

ただ。15年たっても、我々はそれを実現できてないんですよ。そして、うすっぺらい自己啓発本や、日経ビジネスアソシエを買い漁るわけです。いやはや。(※日経ビジネスアソシエが悪いって言ってるわけじゃないですよ。ただ、あれ読んだくらいで「ああ、俺、すげぇ頑張ってるわー」って満足してるようだと大したことないよ、ってだけです)

連休に、自己啓発本を読もうかなーとか思ってる人は、本論文(たった24ページ!)を3回読んだ方がいいと思います。ちなみに、本論文に興味の持ち、他のドラッカー本にも手を出そう!と思った方は、かの有名な「マネジメント」を読むよりも、「プロフェッショナルの条件 ~はじめて読むドラッカー【自己実現編】~」の方が良いと思いますよ。ぜひ、ご参考に。(もうちょっと踏み込みたい方は「プラクティカル・ドラッカー」あたりもよいかもしれませんね。)

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