第9章「戦略の本質」:ポジショニングに基づいてトレード・オフを定義し、適合性を創出せよ|ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

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田中 耕比古
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戦略とは何か、に迫れ!

ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文―世界の経営者が愛読する

本日は、”経営”とか”戦略”という言葉を使う人で、知らぬものはない偉人マイケル・ポーターの「戦略の本質(1996年)|ページ数:57p」を読み解きます。正直、恐れ多くて読み解きにくいんですけど、とりあえず頑張ってみましょうか。

ちなみに、57ページというのは、この「ハーバードビジネスレビューBEST10論文」に収録された10個の論文中、最長です。そのあたりからして、既に恐れ多いんですけども・・・

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ポーターは凄いヒト

ポーターって誰?という人は、このブログ読者にはいないと思うのですが、もし知らない人がいたら、三谷宏治さんのベストセラー「経営戦略全史」を読んでください。

ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場!

HBSの古株教授たちを新科目と『競争の戦略』でねじ伏せる

さていよいよマイケル・ポーター(Michael Porter, 1947~)が、満を持しての登場です。この経営戦略百年史の中でも、彼ほど長くかつ強い光を放ち続けている人物は他にいません。それは彼が、ビジネス界の地の殿堂であるHBSに君臨し始めてたときに、決まっていたのかもしれません。

出所:経営戦略全史 p.140

この人は、ファイブ・フォース、戦略の3類型(コスト・リーダーシップ、差別化、集中)、バリュー・チェーンなどの「ああ、知ってる」なフレームワークを開発した天才です。そして、三谷さんの表現を借りれば「ポジショニング派のチャンピオン」です。

  • ケイパビリティ強化は、ポジショニング実現の手段である
  • ケイパビリティも、活動プロセス(バリューチェーン)中心で、リーダーシップ論や組織、企業文化論はほとんど入らない

出所:経営戦略全史 p.148

余談ですが、経営戦略全史は非常に良い本です。以前、紹介記事を書いているのでそちらもご一読いただければ幸いです。

何はさておいて、ポジショニングを定めよ

さて、そんな天才、マイケル・ポーターの「戦略の本質 / What is Strategy?」です。

3つの戦略ポジション

ポーターは、「戦略とは業務改善ではない」と言い切ります。そして(三谷さんが言う通り)、「ポジショニングを定めることが戦略なのだ」と説きます。その際の「ポジショニング」には、バラエティ・ベース、ニーズ・ベース、アクセス・ベースの三種類があると述べます。それらについて、以下に端的にまとめます。(私見を多分に含むので、詳細は元の論文にあたってください)

バラエティ・ベース・ポジショニング

提供する製品やサービスの種類(バラエティ)から、特定の物を選んで提供するポジショニング。「ワンストップサービス」の対極に位置し、”なんでもできます”とは言わない。”これだけしかできませんけど、安いです or 早いです”というような訴求になる。

ニーズ・ベース・ポジショニング

バラエティ・ベースの反対で「ワンストップサービス」を目指すポジショニング。但し、全員にとってのワンストップ、はあり得ないので”特定顧客向け”という限定が必要。論文内で挙げられるプライベートバンキングの例では「超富裕層向け」と「小金持ち向け」だと提供すべきサービスが違う、と述べられている。

アクセス・ベース・ポジショニング

特定の生活スタイル(田舎に住んでいる、電車で通勤している、深夜時間帯に働いて日中に睡眠をとっている など)の人に対して、特定のアクセス(顧客接点の在り方)を定めるポジショニング。

 

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アクセス・ベース・ポジショニングは「顧客に影響されないんじゃないのか?」という方への補足

尚、上記サマリの中で、アクセス・ベース・ポジショニングは「特定の”生活スタイル”を持つ顧客を狙いとする」ポジショニングという説明をしました。これには違和感がある方もいらっしゃるでしょう。

というのも、本論文の以下に引用したうちの”太字部分”と齟齬があるようにみえるからです。

バラエティ・ベースであろうと、ニーズ・ベースであろうと、アクセス・ベースであろうと、またこれらの組み合わせであろうと、ポジショニングには、それぞれにふさわしい活動群を整えることが不可欠である。なぜならポジショニングは「供給側(サプライサイド)の違い」の関数、すなわち活動の違いの関数だからである。

しかし必ずしも、「需要側(デマンドサイド)の違い」、つまり顧客の違いの関数と言うわけではない。特にバラエティ・ベース・ポジショニングとアクセス・ベース・ポジショニングは、顧客の違いに一切影響されない

実際には、製品やサービスの種類やアクセスの方法が異なると、顧客ニーズの違いが生じる。たとえば、カーマイクの顧客たちは小都市の住人であり、その思考、すなわち彼ら彼女らのニーズゆえに、もっぱらコメディやウェスタン、アクション映画、ファミリー映画が上映される。カーマイクは、NC=17(No One 17 and Under Admitted;17歳以下は入場禁止)指定の映画は決して上映しない。

実は僕、この引用部分に対して、あまりしっくりきてないんですよね。

  • ポジショニングは「供給側」の話
  • 必ずしも「需要側」の話ではない
  • 特に、バラエティ・ベース、アクセスベースは、顧客が違っても影響されない
  • 実際には、サービスの種類(バラエティ)やアクセスの方法が異なると、顧客ニーズが変わる

初めて読んだときには「えっと、、、ポジショニングは供給側の話であって、需要側の話なんだよね?特に、バラエティ、アクセスは完全に供給側の話なんだよね??だけど、実際には顧客ニーズが変わるの???どういうこと????」ってなりました。

日本語訳では分かりにくいときは、原文にあたろう

こういうときは、原文(原語)にあたりましょう。

Whatever the basis—variety, needs, access, or some combination of the three—positioning requires a tailored set of activities because it is always a function of differences on the supply side; that is, of differences in activities. However, positioning is not always a function of differences on the demand, or customer, side. Variety and access positionings, in particular, do not rely on any customer differences. In practice, however, variety or access differences often accompany needs differences. The tastes—that is, the needs—of Carmike’s small-town customers, for instance, run more toward comedies, Westerns, action films, and family entertainment. Carmike does not run any films rated NC-17.

出所:https://hbr.org/1996/11/what-is-strategy

これをみると「これらのポジショニングは、常に”供給側”の違いに影響されるが、”需要側(ユーザー側)”に影響は影響されないことがある(もちろん、されることもある)。特に、バラエティ・ベース、アクセス・ベースは顧客が違うということには影響されない。とはいえ、実際には、バラエティやアクセスの違いは、顧客ニーズが変わってしまうことが多い。」と言う感じだなと理解できます。

先ほどの日本語訳とのニュアンスの違いがわかりますでしょうか?(特に、太字の部分です)

人月の神話の解説でも述べましたが、こういうのは「英語ができる」ということと「日本語ができる」ということと「事象を捉える」という3つの能力が求められるので、非常に難しいです。明らかな誤訳ということは少ないですが、原文のニュアンスが消えてしまうことがあるので「ん?」と思ったら、迷わず原文(原語)にあたりましょう

アクセス・ベース・ポジショニングの理解も変わる

上記の原文も踏まえて「アクセス・ベース・ポジショニング」を表現すると、「アクセス・ベース・ポジショニングは、顧客の違いに影響されない”供給側”の話として捉えればよい。しかし、アクセス方法が変わると、顧客ニーズが変わることも多い」となります。

こうまとめてしまうと、完全に二律背反っぽいんですが、要するに「先に顧客を見て決めてるのか、アクセス方法を規定した結果として顧客が規定されてしまったのか」という”順番論”の話だと思うんですね。

そのあたりを踏まえて、僕がしっくりくる表現だと「特定の”生活スタイル”を持つ顧客を狙いとするポジショニング」ということになります。そうなると、昨今のwebの仕組みは「田舎に住む人」「離島に住む人」などの”物理的アクセスが困難な人”に対する「アクセス・ベース・ポジショニング」がとれる、ということを意味します。うん。面白いぞ。

トレードオフとフィット(適合性)

話が大きく逸れましたが、上で定義したポジショニングの考え方を踏まえて、「どのポジションを取るか」を見定めることになります。その際、「トレードオフ」と「フィット(適合性)」の考え方が重要になります。

トレード・オフは戦略の鍵を握る

トレードオフについては「何を捨てるのか」という言葉で、ほぼすべてが語られているのではないかと思いますが、以下の箇所が非常に心に響いたので引用しておきます。

一般的に、コストと品質と言う偽りのトレード・オフが生じるのは、主に重複や無駄があったり、統制がおざなりだったり、正確さに欠けていたり、調整が不十分だったりするときである。

マネジャーたちは「トレード・オフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきた。しかし、トレード・オフがなければ、持続的優位は獲得できない。また、その場に留まるためにはますます速く走り続けなければならない。

戦略とは、競争においてトレード・オフを作ることなのである。

途中、赤の女王理論に振れられているのは素敵ですね。

フィット(適合性)も3つある

ポジショニングを決め、トレードオフを明確化したら、そのための「個別の活動」をつなぎ合わせていくことになります。それを、ポーターは「フィット(適合性)」と呼びます。戦略ポジショニングも3つなのでわかりにくいんですが、フィットも3つあります。

  1. 単純明快な一貫性(simple consistency)
  2. 各活動の相互補強(activities are reinforcing)
  3. 労力の最適化(optimization of effort)

まず、ひとつめの「単純明快な一貫性」の例としては、”低コスト”に寄せた例が挙げられます。コストを下げる、ということを核にすると、商品ラインナップの組換え頻度を減らす、流通経路をシンプルにして仲介手数料などを減らす、そして、従業員の意識統一のために低コストに寄与するとボーナスが上がる、という仕組みになるわけです。

ふたつめの「各活動の相互補強」は、もう少し複雑です。高級石鹸の例では、医療機関での推薦を得るためのマーケティングと、医学的なエビデンスのある高級石鹸を使うことに意義を見出す高級ホテル向けのマーケティングが相互に補強する、と説明されます。文具の例では、競合他社と同様、特定商品に関して(=バラエティ・ベース・マーケティング)あらゆるチャネルであらゆる用途向けに提供するビッグ(BIG)について、他社よりも大きな営業部門による店頭POPの展開と、それを促すための商品パッケージの頻繁な変更、ブランド浸透のためのマス広告を組み合わせながら、それらの費用を捻出するために、製造コストを徹底的に抑える努力をしている、と言われます。それぞれのマーケ施策が複合的に絡み合って相乗効果を生み出すことに加えて、そのためのコスト低減活動をしている部分がポイントですね。

最後の「労力の最適化」は、オペレーション設計のレベルまで具体化されています。GAPの例では、最終的な達成目的を”店で欲しいものを必ず買える事”と置き、そのために「補充」に労力が割かれます。極力、店舗在庫を減らしつつ、品切れを防ぐためには、在庫の補充に労力を割くことが最適、という考え方ですね。

労力の最適化の最たる基本形は、冗長性を排除し無駄を最小化するために、活動間での調整や情報交換を行うことである。

ええ、まさにそんな感じですね。ただし、上記センテンスは「それよりも高次元の最適化もある」と続けられ、「製品デザイン」によって、アフターサービスを無くしてしまうような、抜本的な「労力の最適化」があるのではないかと述べられます。

戦略とは「企業の活動間の適合性をつくり出すこと」

上記を踏まえ、この論文のタイトルである「戦略とは何か(原題:What is strategy?)」の結論が導かれます。

戦略とは、企業の活動間の適合性をつくり出すことである。(中略)

活動間に適合性が無ければ、メリハリの効いた戦略もない。ましてや持続可能性など望むべくもない。そして、マネジャーは各職能を監督するという単純な仕事に戻り、組織の相対的な業績は業務効果に左右されることになる。

要するに、ポジショニングに基づいて適合性を定義しないと、オペレーションエクセレンス(業務効果=業務効率向上)は”単純な仕事”なんだ、ということです。

この結論にたどり着いたうえで、論文は「戦略を再発見する」という項に移り、そして、複数のコラム「ほとんどの日本企業に戦略がない」「基本戦略を再考する」「戦略に関する二つの見解」「新たなポジションを見出すには」「新しい業界や技術が登場した時」「独自性の核を発見し、戦略を取り戻す」を掲載して終わります。

これらの項では、「戦略なきオペレーションエクセレンスに走る人が多いけど、そういうのダメだよ」「トレードオフこそが戦略なんだよ」ということが繰り返し述べられます。リフレインが叫んでる、って感じですね。

果たして、トレード・オフを定義できているか?

この論文を読み解いた結果、自分自身に「自社は、ポジショニングを明らかにし、トレード・オフを定義しているだろうか」問うてみると、反省することの多さに驚きます。

例えば、伝統的な日本企業にお勤めの方は、コラム「ほとんどの日本企業に戦略がない」の、この一文が、胸に刺さりませんかね?

日本はコンセンサスを重視することで知られ、また企業では、個人間の違いを強調するより、むしろ調整する傾向が強い。かたや、戦略には厳しい選択が求められる。日本人には、顧客から出されたニーズ全てに応えるために全力を尽くすという、サービスの伝統が深く染みついている。このようなやり方で競争している企業は、そのポジションがあいまいになり、あらゆる顧客にあらゆるものを提供するはめになる。

あるいは、これなんかも効きませんか?「独自性の核を発見し、戦略を取り戻す」の一節です。

製品の種類を増やし続け、新たな顧客グループに対応し続け、また競合他社の行動を模倣していると、その確固たる競争上のポジションを失う。典型的には、他社の製品やサービス、業務慣行をまねし、さまざまな顧客グループに売り込もうとする。

20年前に書かれた状況に陥っている企業が沢山あるのは、(いくらポーターが天才だとはいえ)とても切ない状況です。

ちなみに、この論文は、「競争戦略論 I」の一節として収録されています。競争戦略論は、僕が戦略コンサルタントになりたての頃に読んだので、10年以上前から僕は”知っていた”はずなんです。しかし、今回再読してみると、ビックリするくらいに忘れていることがありました。さらに、新たに気付くことも非常に多かったのです。僕自身が成長したから読解できるようになったんだ、と好意的に捉えることもできなくはないですが、要するに「10年前の僕は、ポーター先生のご高説を、お話にならないくらいに理解していなかった」ってことです。

大事なのは、過去ではなくこれからです。20年前に書かれ、10年前に読んだこの論文に限らず、今回BEST10論文として選ばれているものは、いずれも、いつ読んでも何度読んでも新しい発見が得られる名論文ですので、これらを読んで、今日から自分(=自社)がどのように変わるか、を考えていくことが肝要ですね。

 

ということで、かなり長くなってしまいましたが、これにて、ポーター先生の名作「戦略とは何か」の読み解きは終了です。次回で、この「HBR BEST10論文」を読み解く”10回連載”も無事終了なのですが、最終回はなんと、ポーター先生にけちょんけちょんに言われている「コア・コンピタンス経営」です。いやー、楽しみですね(笑)

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