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就職面接官を面接すると|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

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ギックス
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採用基準の同一性 〜内定をもらう学生は何社も内定をもらい、内定をもらえない学生は何社受けても内定をもらえない

学生: まず、御社が私を採用したいとお考えになった理由をお聞かせください。

面接官: あなた様のエントリーシートを拝見すると、TOEICが850点であるなどグローバルにご活躍できる資質を持っていらっしゃると思います。また、クラブ活動にもご熱心で積極的に物事に取り組まれる方と思われます。しかも、高い偏差値の大学に受験より入学されたということで、勉学に取り組む姿勢、潜在的能力の高さも十分であると考えられます。

学生: 私が学んでいる環境国際情報学部についてはどのようにお考えでしょうか。

面接官: 詳しい内容は存じ上げませんが、これから一層重要性を増す環境問題をグローバルな視点で分析的に理解する力を付ける学部だと思います。

学生: 申し訳ありませんが、学部名の字面の繰り返しではなく、御社にとってどのような点が貢献できるかをもう少し具体的にご説明いただければと思います。

面接官: はい、内容については十分理解していない所が多いので、あなた様が入社後に学ばれたことがどのように当社にとって有用かをお話しできればと思います。

学生: そうですか。私の卒論のテーマは「ビッグデータによる大都市における環境評価と将来予測」というものにしようと思っているのですが、何かご感想やご質問はありますか。

面接官: 大変魅力的なテーマだと思います。特にビッグデータの活用は当社でも真剣に取り組むべき課題だと考えております。

学生: 御社の考えるビッグデータとはどのようなものなのですか。

面接官: 具体定例は難しいのですが、例えば購買履歴から顧客の好みそうな品物のダイレクトメールを出すとかではないかと。

学生: そのようなことは昔からやっていましたね。今、ここに来てビッグデータが取り沙汰されるのはなぜなのでしょうか。

面接官: やはり、コンピュータの性能が向上したとか、技術が進んだとか・・

学生: 結構です。私が御社に入社させていただくことになった場合、私の希望する海外の資源開発プロジェクトに携われるとお約束いただけますか。

面接官: そのような方向で努力させていただきますが、やはり入社されてからあなた様のお気持ちが変わることもあるかと思いますので、今の段階で確約することは適切ではないのではと。

学生: 判りました。今後とも御社が一層のご発展をされるようお祈り申し上げます。

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日本では、時期を決めて一斉に就職活動(正確に言えば企業の採用活動なのですが)を開始し卒業時に新卒を一括採用するというやり方が一般的ですが、これには昔から強い批判がありました。勉学が本分である大学生がほとんどの時間を就職活動に費やすのは本末転倒だ。三年途中までの成績しか出ていないのに、採用を決めるのはおかしい。こういった数々の批判があるのに新卒一括採用を含めた日本の大卒に対する採用活動が現在のようになっているのは、日本企業の体質、文化それと日本の大学の現状にそれがマッチしているからと考えるべきでしょう。「批判は理解できるが、これがベスト」ということなのかもしれません。

就職活動はネット経由で簡単に求職書類を作成、送付できるようになってから、かえって学生にとって負担のかかるものとなりました。何十社、人によっては百社を超える求職をするとなると面接だけでも大変です(もちろん面接にたどり着ければですが)。採用する側にとっても、一人当たりの求職数が増えれば採用募集の学生が増えることになります。人気企業では百人の採用枠に百倍の一万人も学生が押し寄せられます。書類選考だけでも大変な手間がかかることになります。

結果として、多くの企業では特定の大学に採用を絞るようになってきています。昔も「指定校」と呼んでそれ以外の大学の学生は特別の縁故でもない限り就職試験を受ける事さえできなかったのですが、実質的には同じようなことが行われているわけです。しかし、求人企業と求職学生両方に大きな負担をかけて、企業はどんな学生を採用しようとしているのでしょうか。結局、地頭が良く、明るくコミュニケーション能力が高く、意欲的に仕事に取り組んでいく、というタイプに落ち着くことが多いのではないでしょうか。これは企業ごとにそれほど違わないはずです。

採用基準が企業により大きく違わないのは、内定をもらう学生は何社何社でも内定をもらえるのに、何十社を受けても採用してもらえない学生がいることでも判ります。個性を大切にしたいとは言っても、選ばれる学生は皆よく似ているというのが実情でしょう。新卒一括採用を基本にする日本の企業では、仕事の実績やキャリアで応募者の選別はできないので、企業文化に染まり易く、学力より持って生まれた頭の良さを持つ学生が好まれるのです。

これは必ずしも間違ったことではありません。日本の企業で成功する人は概ね採用基準に沿うような人達です。しかし、これからの日本企業は今のような採用基準で良いかは疑問です。グーグルやアップルのような企業は採用試験もユニークであることで知られています。面接は差し障りのない「当社の志望理由は」などというものではなく、「目の不自由な人の使うコンピュータを設計する方法は」とか「富士山を動かすのに何日かかるか」といった日常生活とはかけ離れた突飛な問題が出されます。

グーグルやアップルがそのような設問をするのは、学校の成績や当り障りのない面接からは判らない、知力、能力を見つけようとしているからに他なりません。それはもちろん、そのような人がいなくてはならない物を作っているからです。百倍も倍率があり何千、何万人もの人が応募すれば、その中には特異な能力を持った人は何人もいるでしょう。しかし、どのような人を求めるか、どのような仕事をしてもらいたいかがはっきりしていなくては、どんな特異な能力の持ち主でも選びようがありません。

家電業界を始め日本企業は今大きな困難に直面しています。日本企業はコスト競争では中国企業にかなわず、品質競争で韓国企業に追い付かれ、独創的な製品ではアメリカ企業の真似はできません。これからの日本企業が生き残っていくためには、新興国の企業とのコスト競争ではなく、独創性のある製品、サービスを提供していくしかないでしょう。そんな環境で、地頭が良く、明るくコミュニケーション能力の高い人達ばかりを採用して、高度で独創性豊かな製品を作り出していくことができるでしょうか。疑問と言わざるえません。

冒頭の学生が面接官を面接したらという仮想の会話のように、企業の側が学生を選ぶ基準は表面的なものですし、「何に向くかは入社してじっくり見極めれば良いさ」という態度は明白です。それではお座なりな人材しかさいようできるはずもありませんし、「最近の学生は就活のトレーニングが行き渡り過ぎて、皆同じ答えしか返って来ない」という面接官の嘆きも、原因は採用する企業の側にあることは反省すべきでしょう。

例えば、百人の採用枠がある人気企業に百倍の採用倍率があった時、そのうち10人でも他の応募者とは全く違う採用基準で選んでみたらどうでしょうか。そんな採用基準で選ばれた社員は他の社員と共同作業をするのが苦手かもしれません。しかし、似たような社員同士が今までとは全く違うものを生みだすのは、それ以上に難しいことです。海外企業との競争に苦しむ日本企業に相変わらず沢山の学生が押し寄せ、企業が同じような学生を採用する。そのようなことを続けていては、日本企業がいや日本自身が今の苦境を脱するのは難しいのではないでしょうか。

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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