現状維持が好きだと、何も捨てられない:戦略とは捨てることだ|”考え方”を考える

AUTHOR :  田中 耕比古

現状維持が好き。それ、サボってるだけだけじゃない?

現状維持が好きな人がいます。それ自体は別に悪いことではないし、責められるようなことでもありません。ただ、問題なのは「他人や周囲が変わることも妨げる」という部分です。

捨てるという選択をしよう

戦略とは捨てること、です。これは有名な言葉ですね。多くの人は聴いたことがあると思います。しかし、実際には、なかなか捨てられません。

そもそも、捨てる、とはどういうことでしょうか。例えば、断捨離という言葉がありますよね。もし、あなたが、その考え方に基づいて色々なものを捨てることができるとしても、それは「戦略とは捨てること」という際の「捨てる」とは異なります。

戦略とは捨てること、というのは、「何かを得るために、全てを得ることは諦めよう」という意味です。諺でいえば「二兎を追う者は一兎をも得ず」って奴ですよね。一石二鳥が簡単に起こるほど、人生は甘くないのです。

手に持てるものには限界がある

人間には、手は2本しかありません。2つもってたら、ひとつ捨てないと、次の何かを手にすることはできません。

ドラクエでは、持てるアイテム数に限りがありました。(テーブルトークRPGとかでは、現在でも、持ち物に関してとても厳密な”重さ”や”サイズ”の規定があったりしますよね。)ドラクエは、いつのまにか、なんでもいくつでも持てるようになりましたが、このルール変更はゲームの戦略性を左右するぐらいの変更です。でも、現実世界は、そんなに簡単にルール変更できません。(ゲームの場合も、自分たちユーザーが望んだから変わったというよりは、ゲームメーカーが変えただけであって、ユーザーの望むがままに変更できるわけじゃないですよね。)

持てるものに限界があるから、捨てる。これが「捨てる」の基本思想です。

捨てたからといって、望むものが手に入るとは限らない

しかし、ここで一つ問題があります。捨てる、と、得る、の順番です。

「何かを得るために捨てる」わけなのですが、得られるものは未来の話で不確実。捨てるものは既得のものであり実体があることが多いのです。

例えば、クリスマスの予定、で考えてみましょう。お年頃の女性がクリスマスの予定を立てるときに、そこまで好きではない男性に誘われたとします。彼女には、ちょっといいなと思っている男性が別にいるのですが、彼からのお誘いはまだありません。さて、その女性は、「目の前にあるクリスマスの誘い」を捨てて「不確実な狙ってる男性との予定」を取りにいくべきでしょうか。

あるいは、キャリアで考えましょう。今の仕事には色々不満はあるが、給料はかなり良い。そこに、本当にやりがいを感じられそうな仕事の転職オファーが来ました。ただ、残念ながら、給料は3割ダウンです。さて、あなたは「イマイチ乗り気になれないが給料の良い現職」を捨てて、「きっとやりがいのある転職先」を狙いに行くべきでしょうか。

ここでの問題は、どちらも「捨てるものは既に目の前にある」が、「得られるかどうかは不確実」ということです。狙ってる男性が誘ってくれるかどうかは分かりませんし(例え女性から誘ったとしてもダメかもしれません)、転職先が思った通りにやりがいのある仕事かどうかなんて保証されていません。しかし、誘ってくれてる男性や、現在取り組んでいる仕事(の高い給料)は、既に入手しています。これを捨てるのは、なかなか困難です。

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ベストシナリオは自明。しかし、どれがワーストなのかは悩ましい。

さて、ベストなのは「手に持っているものを捨てて、欲しいものを手に入れる」というシチュエーションなのは議論の余地がありません。

しかし、ワーストシナリオが「欲しいものを捨てて、持っているものを失った」状態なのか、「欲しいものは得られないが、持っているものはそのまま」の状態なのかは、一概には決められません。

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今、手元に残っているものだけを見ると、もちろん「欲しいものは得られないが、持っているものはそのまま」という状況の方が良さそうに見えます。結果からいえば、これがベターシナリオですね。

しかしながら、このシナリオは「欲しいものを得るチャンスを諦めた」ということを意味します。これを、どう評価するか、が大きな論点となります。

「何かを得るために捨てる」人を応援しよう

この論点が、本記事の冒頭で述べた話に繋がります。つまり「何かを捨てて何かを得ようとする」のが、是か非かは、人によって異なるのです。ですから、誰かが「捨てないで、現状維持をする」ということを選んでも、それは何ら責められるべきことではないわけです。

しかしながら、他人の選択に対して、その現状維持の姿勢で評価するのは、あまり好ましい態度ではありません。

例えば、僕たちがコンサルティングプロジェクトでクライアントとお打合せする際に「自社内の常識」を最重要且つ最優先の前提として持ち出す方がいらっしゃいます。もちろん、常識というものができあがるまでには、色々な経験則が積み重なっています。そういう成功体験に裏打ちされた「常識」を全否定するつもりはありません。とはいえ、その常識に固執するあまり、「欲しいもの」を見過ごしてしまっていないか、ということに思いを馳せていただきたいのです。

先ほども述べた通り、自分自身の選択については是も非もありません。ただ、それによって、会社が進む方向が制限される、というのは、おかしな話です。

社内で成功を収めている人ほど、組織が変わろうとするときには、それを押しとどめたくなります。その会社において、既に自分が得ているものを捨てることになるかもしれないからです。得ているものが多く、また大きいほど、変わることをリスクだと感じるのは仕方のないことです。しかし、それにしがみつく余り、会社そのものの方向転換を阻害し、成長を阻害してはいけません。

同様に、同僚の転職や起業なども、自分の価値観と違うからと言って、全面否定するのはやめましょう。彼らは「何かを得るために、手に持っているものを捨てている」のです。その覚悟を褒めましょう。

ひょっとしたら、あなたも・・・

そして、この「他人の選択を受け入れ、応援する」ということができるようになった時に、あなたは気づくのかもしれません。もしかしたら、自分も”変わりたい”と思っていたのかもしれない、と。現状に甘んじて、昨日と同じ今日を受け入れ、今日と同じ明日を求めるのは、ひょっとすると「サボってる」のかもしれない、と。

すこーしだけ立ち止まって、ちょっと考えてみると、世界の見え方は変わるのかもしれませんよ。

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