CMOはなぜ定着しないのか:マーケティング担当の”経営者”という理解がすすむかどうかが鍵|戦略用語を考える

AUTHOR :  田中 耕比古

CMO≠マーケ部長

CMOという言葉は、人口に膾炙してきたように思います。しかし、正直、役職としては、まだまだ根付いていないのではないでしょうか。

”新しい概念”は定着に時間がかかる

例えば「CIO」という役職があります。ご存知の通り、Chief Information Officerの略で、企業内の情報システムを司る経営陣の一角です。これは、既に定着しています。しかし、ちょっと時代をさかのぼれば、そもそも「情報システム」そのものがありませんでした。無いものが定着するのには時間がかかります。情報システムが隆盛になり情報システム部ができてくるわけですが、それより前は「経理部電算室」のように、総務・人事・経理領域のいちファンクションとして情報システム(のようなもの)を管理するチームが存在していました。

マーケティングも同様です。正直なところ、マーケティングという概念は、ほんの数年前まで日本に存在しなかったのではないかと思います。(それが言いすぎならば、ごく一部の企業や商品においてしか存在しなかった、と読み替えてください。)

例えば、欧米ではSales & Marketing ということで完全な別機能と理解されているものを「営業」という言葉で混ぜ込んでしまいました。Salesを「販売」と置かなかったのが、マーケティング不在を助長したのだと思います。その結果、”販促活動”は「営業」の範囲に入り、「マーケティング」というと”広告”しかも”マス広告”を意味することになり、”プロダクト開発”は「商品企画」の仕事になりました。

例えば、Biz-Journalのこの記事なども「日本企業のブランド戦略の不在」について語っています。(尚、個人的には、ブランド戦略はあった方が良いのはその通りですが、記事内で紹介されている”流通戦略で勝つ”というのも、別に悪くないと思っています。念のため。)

いずれにしても、あたらしい概念が根付くのには時間がかかるのです。

ようやく、芽吹き始めてきた

しかし、この状況が変わってきました。「マーケティング部門の長」ではなく「経営者としてマーケティングを担当する人」が、少しずつ増えてきたわけです。

CMOとは「経営課題をマーケティング視点で解決する人」であって、「マーケティング課題を解決する人」ではありません。この視点に至ることができるかどうかが、CMOとして求められる機能を実現できるかどうかの分かれ目です。

現状は、まだまだ、多くの人がそこに至っていないから、CMOという役職(=機能/ファンクション)が定着していないわけです。広告宣伝部長の名前を変えて、マーケ部長にしても、それはCMOとは違います。部長は経営者ではありません。CMOの”Chief”は、経営者として横ぐしの視点で物事を眺めないといけません。部長(もしくは本部長)にそれを求めるのは酷というものです。(関連記事:CxOとは何か

しかし、最近の良い兆候としては、「マーケティング=広告」という構図が崩れてきていることです。広告代理店がマーケティングの最上位にいた時代は終わったのではないでしょうか。(もちろん、今も、そしてこれからも重要なプレイヤーではあるけれど、オンリーワンではない。)

マーケティングを経営戦略と紐づけて考えられる時代は目の前まで迫っています。名前だけのCMOではなく、実のあるCMOが登場し始めているのが、まさに今この瞬間です。ここから先、CMOという言葉は定着し、マーケティングという言葉の意味も(正しい方向に)どんどん変化していくんじゃないかなと思います。楽しみですね。わくわくします。

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