ギックスの本棚|続・企業参謀(大前研一|講談社文庫):読むべきところが多すぎて、なかなか読み進められない一冊

AUTHOR :  田中 耕比古

古びているのは「具体例」であり、「概念」は陰りを見せない

続企業参謀 (講談社文庫)

本日は、先日取り上げた古典「企業参謀」の続編である「続・企業参謀」を取り上げます。書評と言うのは憚られるので、ご紹介、的なモノとご認識ください。

ちなみに、上記でリンクした文庫版は既に絶版になっているようなので、以前ご紹介した「企業参謀」と、この「続・企業参謀」が一冊にまとまった「企業参謀―戦略的思考とはなにか」をお買い求めになると良いかもしれません。

企業参謀―戦略的思考とはなにか

どこを切り出しても、宝石だらけ

本作では、前作:企業参謀よりも、より一層「考え方」について熱く語られていると感じます。いわば、Know-Howの”Know(知識として知る事)”に前作が注力していた緒に対し、本作は”How(やり方そのもの)”の伝達にこだわっている、という印象です。

  • ホッケースティック曲線の怖さ(根拠のない、明日になれば業績が上向くという甘い見通し)
  • 情報の”玉石混交”の罠(ホッケースティックだけで統一されるわけではなく、悲観的ケースも混ざっていると「判断」できなくなる)
  • 経営者の視野狭窄(状況の悪化に伴い、追い込まれてしまい、本来見るべき選択肢をみようとしない)
  • ご都合主義の市場定義(市場を細分化して定義することで、自社シェアを大きく見せて自己満足する)
  • PPM=万能ツールという誤解(9象限ごとの標準戦略は”結果的に発生”しただけで、標準戦略ありきではない)
  • 経営資源は偏りで考える(人・資本・原材料・技術の4つの偏在を理解せよ)

・・・などなど、抜き出し始めるとキリがありませんが、素敵な「考え方」のオンパレードです。

僕のサマライズだけでは伝わらないと思いますので、以下に、厳選して抜粋しておきます。(ほんとは、もっと抜き出したいのですが、まるまる一冊書き写すことになってしまうので笑)

世の中の「営みごと」はすべて、オン=オフというバイナリ―系(二者択一)ではなく、灰色のアナログ系である。「つき」は呼び込むもので、与えられるものではない。誤りは「制御」できるもの、最悪事態は避けられるもの、である。経営は真剣勝負ではあるが、一命を落とす前なら敗者復活もありうる。

すっごい共感。そして、同時に反省。僕は、ものごとをシンプルに考えるために、意図的に二者択一にする傾向があるのですが、この記述を見て「やりすぎていないか」と自問しました。答えは、常に灰色で、その濃淡を見極めるべきなのです。

ほとんどの会社では、研究開発や新製品を提案する方式が制度化しており、これを提案書や伺いというかたちで稟議している。しかし、そのちょうど対極にある、事業からの撤退や製品の廃止を、一定の制度で同じように稟議できる仕組みを持っている会社は少ない。同様に、ある事業部長に固定投資を徐々に償却し、外注化して変動比率を上げていくように、というような、リスク軽減方法の指示を明確に出している中央政府があるであろうか?

撤退ラインを引く、ということは、実はリスク軽減だけが目的ではありません。撤退し、そのリソースを別の事業領域に振り分けるという「トップライン向上」にも効くんですよね。リソースは有限。「やりたいこと」を列挙するだけなら、運任せのおままごと経営ですよね。三振も多いが、当たればホームランという経営は、再現性が低くてコンサル的には許容できません。(勝てば官軍、という事実そのものは否定しませんよ)

製品・市場戦略は、最終的には美しい一つの文章として記述できるところまで昇華しなくては、本当の味わいが出てこない。その文章は、(一)世の中の動きと構成に対し、自社がどのように対処してきたか (二)今後この趨勢が続けばどのようになるか (三)これを抜本的に変革させるにはどのような打ち手があるか (四)自社の得手・不得手、強さ・弱さ、緊急度などを勘案し、どの打ち手が現状に最も適しているか (五)たとえばその打ち手が失敗したとき、どのように対処したらよいか (六)実施後の期待成果はどのようなものであるか (七)誰が、いつ、どのようなプログラムを実行すれば全体として所期の成果があがるか、という順序で展開されているであろう。

戦略を書く/描くときには、「美しい一つの文章として記述できるところまで昇華しなくては」というのは、ぐさっときます。10年前に読んだときにはそんなに刺さらなかったのですが、今は、ぐさぐさ刺さります。弊社の戦略を書く際にも、クライアントの戦略を書く際にも、心に留めておきたい一節です。

若手の中には、過去の過保護が依然として続き、トップが何かをしてくれるであろう、という甘い期待から、自ら進んで威信を刊行するプログラムも勇気を持ちえていない人々が充満している。経営がいくら複雑になったからといっても、本質的に三十代の人々に不可能な事柄はほとんどないと思われるのに、ジッと二十年、三十年後の出番を待っているのであろうか。

これは、トップ批判の後につづけて記述されているミドル批判です。この時代に、20年・30年後の出番を待っていたであろう当時の30代の人々は、20-30年が既に過ぎた今日、果たしてどうなっているのでしょうか。僕たち現代の30代は、彼らの姿から何を学ぶべきでしょうか。

私が戦略的思考という場合には、戦う時と退く時、また妥協の限界を常に測定しながら、究極的には、自分にとって最も有利な条件を持ち込む、柔軟な思考方法をさしている。状況の変化によって、最も現実的な解を導き出せる頭脳の柔軟さをさす。白か黒かでないと、考えられないというような硬直した頭ではなく、どのくらいの灰色までなら妥協して良いかを判断できる人物が戦略的思考家である。

はい。仰る通りです。バランスですよね。バランス。「白と黒のその間に無限の色が広がってる」とミスチルの桜井さんも仰ってましたけどね。

最終製品の外側に50パーセントもの付加価値があり、かつ自社の取り分が年々減少しているような場合に、原価低減の圧力を部下にかける以外にアイデアの浮かばないトップ・マネジメントは、企業家とはいえない。逆に、経済構造の変化によって、本質的転換を迫られている業種にあって、トップからの原価低減や拡販の連呼に黙って応じており、かつそうした努力の延長線上に解が無いのにあたかも「やってみせます」といった顔をして答えている中間管理者もまた、真の意味での管理者とはいえない。

トップもミドルも「本質を観ろ」ということですね。こんなことを30歳くらいの大前研一さんが書いていたなんて・・・自らを省みて、こんな平々凡々と生きていて良いのかと思います。悔しいですし、もっと頑張らなきゃって感じます。

こうした状況に対処するためには、(一)まず判断を従来よりも分析的・科学的に行うこと、 (二)分析を行う力を内部的につけること、 (三)判断を個人または特定職制のもの、という認識から、会社全体のものであるという認識に変えること、 (四)さらに、こうすることによって一度下った決定でも、誰も当惑することなく、逆転できるようにしておく、ということが行われなくてはならない。

ああ、経営ってそうですよね。会社は社長や役員が”引っ張る”ということはあっても、社長や役員が”強さの源泉”であってはならないと思うんです。チーム内で責任をなすり付け合うのではなく、チーム全体で方向を決めて、戦えるようにしなくてはいけません。うむ。示唆深い。示唆深いなぁ。この一節だけで、ごはん3杯いけるくらい示唆深いですよ。

いままでにも社長室とか、企画室とかを作った会社は多いが、作ったとしても、それをラインに従属させたり、ラインから出てくるものの交通整理をするような、ルーティン業務を沢山抱え込んだ部門にしてしまった。

そのため本当の意味で、新しい経済環境を分析する力がなかったり、自分の事業と言うものを事実に立脚して分析し、なおかつ改善計画を立てていく、というような力を備えていない企画マンがたくさんでてきたのではないだろうか。

だから、ここではっきりと、潤滑油活動と参謀活動に分ける必要がある、ということを銘記すべきだと思う。

目から鱗なうです。痛いよ痛いよ。弊社の場合、規模が小さいので、潤滑油ロールと参謀ロールが一人に集中することもあるとは思いますが、片方のロールを行う時には、他方を忘れるくらいの覚悟は必要だなと思いました。肝に銘じます。

ほんとにキリがないので、このあたりでやめておきます。まぁ、本当に、いずれのページも、示唆深い言葉に溢れていますよ。

40年の時を経ても、輝き続ける「ノウハウ」

もちろん、文中で事例として挙げられる企業や事業の具体例、あるいは、国際情勢などの情報は、40年もの年月が流れているわけですから「古びている」感は否めません。しかしながら、本書で語られるアイデア・考え方は不変のものです。上記で引用したような”概念”のレベルでみれば、今も昔も変わらず使える”HOW”だらけですし、おそらく、この大半は、未来永劫使えるものでしょう。

また、時代を経たことで、却って本書の非凡さが浮き彫りになっている部分もあります。p.75の「電球はなぜこの形なのか」という”常識を疑うための問い”については、LED電球によって大前さんの言っているようなことはすべて実現されてしまいました。あるいは、p.85の「スペインは人件費が安いというだけで進出した企業はほとんど失敗している」という記述からは、中国やアジア諸国で同様の事態に追い込まれてしまった企業の多さを思い起こします。40年前に提示されたこのアドバイスを活かせないとは、経営者は一体何をやっていたのか、と問いたくなります。

ビジネス環境は変化します。しかし、前作および本作のような「普遍的な経営のノウハウ」をしっかりと理解し、実践することが出来れば、成功の確度を上げる、すなわち再現性の高い経営が実現できるのではないでしょうか。いやー、ほんとに。時代の洗礼を受けて生き残った「古典」は素晴らしいですね!!!

 

続企業参謀 (講談社文庫)
続企業参謀 (講談社文庫)

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