ギックスの本棚/七つの大罪 -the seven deadly sins-(鈴木央:講談社)

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スッと頭に入る正統派ファンタジー冒険活劇

本日は、間もなく第13巻が発売され、アニメ放映でも話題になっている「七つの大罪」をご紹介します。

あらすじ

あらすじは、いろいろ書くとネタバレになってしまいかねないので、無難にwikipediaさんから引用させていただきます。

ブリタニア一の大国・リオネス王国は、聖騎士達による『聖戦』のための軍備強化、更に増長した彼らの横暴によって荒れに荒れていた。国の現状を憂いた第三王女・エリザベスは、10年前の事件によって指名手配されている伝説の騎士団『七つの大罪』に救国の助力を願うため一人旅立つ。実りのない旅の果てに辿り着いた酒場でついに追っ手に捕まってしまったエリザベスは、その酒場の主人である少年・メリオダスに救われる。実は彼こそ『七つの大罪』の団長、『憤怒の罪のメリオダス』だった。メリオダスもまたかつての仲間を探し放浪の途中であると告げ、二人はリオネスの未来のため旅路を共にすることになる。

出所:wikipedia

テンポ良く進んで、サクサク読める

本書は、非常に読みやすいです。僕は、1~12巻を2時間程度で読めました。そして、凄いのは、登場人物が非常に多いにもかかわらず「こいつ、誰だっけ?」ってならないんですよね。さらに、それなりに複雑な人間関係や過去の因縁、どんでん返し的なものも沢山あるのに、無理なく頭に入ってくるんです。

なぜ「サクサク読めるのか」、その理由を考えてみましょう。

登場人物が多いのに、スッキリ読める

キャラクターのビジュアルが相当しっかり描き分けられているのが大きいと思います。もちろん、作者の画力が素晴らしいということも多分にあるのでしょう。しかしそれよりも、書き手の都合で髪型や服装を変えない、という非常にシンプルな気遣いが「分かりやすい漫画」になっていることの大きな要因だと思います。

また、登場人物が増えると起こりがちな「人名や役職を、ガッツリ文字で書く」というようなこともありません。これだけ多くのキャラクターを出しながら、そういう「小技」に頼らないで「セリフ回し」で人物紹介をやりきるのは本当に凄いなと思います。ストーリーが頭に入ってくる邪魔をしないんですよね。

あとは、あまり出番のないキャラも”キチンと絵柄で描き分ける”ということと、そういうキャラには、そこまでこだわった名前や説明を付けない、というのも分かりやすさの秘訣でしょう。エキストラも含めた全てのキャラに思い入れを込めて深く書いていくと、しっかり読み込む読者しかついてこれなくなります。ライト層も取り込める描き方、を意識することが重要なのかなと思います。

尚、作者が「少女漫画が好き」だったが故に絵柄が繊細(※作者は男性です)なのも、全体がごちゃごちゃしなくて分かりやすい理由の一つかもしれません。(対極に位置するのは、松本大洋さんの作品とかですかね。ごちゃごちゃの極み。)

回想シーンも、クドくない、長くない

ストーリーはそこそこ複雑です。そのため、それなりの頻度・ボリュームで「回想」が挟み込まれます。

しかし、その回想シーンは、もっと読みたい!、と思わせるくらいで終わります。あまりに回想が長いと、その間に本編を忘れてしまったりして、もう、なんだかなーってなことになりがちです。本作では、そんな悩みとは縁がないです。

また、回想で全てを語りきろうと無理しないことによって、ストーリーに奥行きがでているように感じます。そりゃぁ、外伝ってことで小説版がバンバンでるわけですね。サイドストーリーを切り出して映画化・ゲーム化しても設定に齟齬が出ないようにできてるのでしょう。商業的にも上手いなと思いますし、世界観構築という意味でも、よく練りこまれているなと思います。

ベタだけど、嫌味がない

全般的に、めちゃめちゃベタです。

  • 子供みたいな見た目で、超強い主人公(初期ドラゴンボールの孫悟空、鋼の錬金術師のエドワード・エルリック)
  • キャラクターはエロエロで、すぐに女性の体を触りまくっちゃうけどモテモテ(冴羽遼じゃん)
  • 強さの秘密が異種族との混血だったりする(ダイの大冒険の「ダイ」or 南国少年パプアくん的な)
  • いろんな種族とパーティーを組む「団長」というポジション(ハンター×ハンターにもいたね)
  • 聖騎士=正義、と思っていたけど違うのかよ(鋼の錬金術師もそうだよね)
  • 仲間が王女様だった!(ワンピースのビビとか)

などなど。設定を抜き出せば、どこかで聞いたことのあるようなものばかりです。王道です。ベタです。

でも、嫌味がありません。ストーリーテリングが上手いのでしょう。設定だけでゴリ押しするとか、不用意に伏線をテンコ盛りで引くということよりも、基本路線となるストーリーに沿って「地に足のついた展開」になっているので、設定が鼻につかないのかもしれません。

コンサルビジネスで考えてみると・・・

この3つの特徴は、仕事においても活かせると僕は思います。実例として「コンサルビジネス」に置き換えて考えてみます。

本当にそのメッセージは必要か?

キャラクターの多さは、「言いたいことの多さ」に通ずるかなと思います。

良くある失敗として「言いたいことが多すぎる」ということがあります。「ワンスライド・ワンメッセージ」という言葉は、コンサル界隈では口酸っぱく言われますが、そもそも「ワンプレゼンテーション・ワンメッセージ」が基本です。聞き手の立場になってみれば ”いろいろ言われてもわかんない” です。(もちろん、ディスカッション資料などだと話は変わりますが)

「言いたいことを絞り込む」という勇気が必要です。「売上拡大したいのか、利益率を上げたいのか」「売上を上げたいのか、コストを削減したいのか」「法人向けビジネスを拡大したいのか、個人向けビジネスを立ち上げたいのか」などという問いを投げた際に”両方”というのは【安易】です。意思決定からの【逃避】です。より、どちらが大事なのか、どちらに注力するのかを(順番論でも良いので)決めることが重要です。(※リソースがふんだんにあって、両方に十分に注力できるというケースは別ですが、一般的にはあり得ません。もちろん「リソースの量は少ないが、質が異常に高い」というケースも例外的にありますが、あくまでも例外です。基本じゃないです。)

言いたいことを絞り、聴衆が、このプレゼンを受けて何をなすべきかをクリアにしておくべきです。

その上で、言いたいことが複数ある場合は「フレームとしての整理」が求められます。いかにうまく構造化するか、が勝負です。これを怠ると、言いたいこと同士の関係性が伝わらず、独りよがりの情報の羅列となってしまいます。

関連記事:フレームワークの活用:ナーチャリングを2軸でとらえる

余談、参考資料、紆余曲折が多すぎないか?

マンガでいうところの回想シーンは、「参考資料」に相当すると思います。

参考資料が多いと、結構困ります。特に、スライドの本編の中に「参考資料」を差し込んでおくと、ストーリーの流れをぶった切ることになります。もちろん、最低限必要な補足情報は差し込むべきです。しかし、それによって、ストーリーが分断されては困ります。

もちろん、長編漫画になれば、ストーリーの方向性が変わっていくことはあり得ますが、(例えば、幽遊白書は、生き返ることが目的だったはずが、どんどんバトル路線に行ってしまいました。ドラゴンボールもそうですね)、多くの漫画では一貫性が保たれています。※ストーリー変化の例を挙げると、例えば、3年間にわたるプロジェクトで、最初は営業改革だったのが、後半は商品開発~マーケティングまでの情報流の整備、になったりするようなものですかね。

その一貫性を保つ際に重要なのは「些末なエピソードは”あくまでも味付け”」ということです。スラムダンクは ”恋愛という不純な動機で始めたバスケに嵌っていってスーパープレイヤーになる”という路線で一貫性があります。北斗の拳は、ユリアを求めて彷徨い、ユリアを助けて一旦完結します(その後、リンを助けることになりますが)。一貫して語られるメッセージは「愛が最強」です。

このように、基本路線を貫いておけば読者は迷子になりません。コンサルティングにおいても同様に、「基本路線から大きく外れていかない」ということを意識する必要があります。(くどいようですが、北斗の拳では「バトル」は余談で「愛の物語」が基本路線ですし、スラムダンクでは「恋愛」は余談で「バスケ」が本筋なわけです。)

ちゃんと「ベタ」か?奇をてらいすぎていないか?

「賢いコンサルタント」がやってしまいがちな失敗である、「新しいこと」にこだわりすぎて「誰にも伝わらない」ストーリーを作ってしまう、ということに繋がるお話です。

本来的、そして、本質的に、コンサルタントは「新しいことを言う」ことを求められてはいません。(もっといえば、コンサルタントにそれを求めるのも間違っています。)コンサルタントは「確からしいこと」「そう考えるのが妥当であると思えること」を言う役割を担っています。

もちろん、そこに新しい発見があり、新しい気づきがあることが”付加価値”です。あって困るわけじゃありません。しかし、仮に「完全に想像していた通りの結果だった」としても、それが真実であれば、それはそれで非常に意味のある示唆なわけです。そこを勘違いして、常に「新しいこと」「凄そうなこと」ばかり言おうとするコンサルタントは、「なんだか中身のない薄っぺらい印象」となってしまいます。いや、ほんとに。重要なのは「新しさ」ではなく「正しさ」なのです。

ちなみに、「7つの大罪」の各種設定も、思いつきでつくられたものではないようです。それは、短編集「七つの短編 鈴木央短編集 (講談社コミックス)」に収録された本作の原型となる短編および、それに関連して掲載されたエピソードを読めばわかります。基本設定は同じですが、キャラクター設定などは大きく異なっています。それでも「ブレない」で、王道・ベタを貫く作者の心意気が、僕はとっても素晴らしいと思いますね。

 

今回のギックスの本棚は、たかがマンガ、されどマンガ。マンガから得られるものも沢山あるんですよー、というお話でした。ご参考になれば幸いです。

関連記事:「ワンピース」と「攻殻機動隊」の組織に関する考察


七つの大罪(13) (講談社コミックス)

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