ギックスの本棚 古典を回想する/問題解決プロフェッショナル②

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事業企画者必読の一冊

”問題解決プロフェッショナル「思考と技術」” 齋藤嘉則

前回は第1章を読み解きました。今回は第2章を見て行きましょう。技術編であるこの章は、MECEとロジックツリーの説明になります。

余談ながら、本章ではMECEとロジックツリーの説明の前にスーパードライのフレッシュ・ローテーション革命が記載されています。「いい物を作り」「いい物を伝え」「いいものを維持する」と言うフレッシュ・ローテーション革命の話が載っております。実は弊社の「Headshot Marketing」のHSMマップを考える際に、この考えから非常に多くのインスパイアを頂いております。もしご興味がある方は樋口 広太郎氏の著書「前例がない。だからやる!」をお読み頂くと良いでしょう。いい商品を作るだけでは足りず、またそれを消費者に伝えるだけでも足りず、その鮮度命のビールを消費者に美味しく届けるために、物流、卸、酒販店をも巻き込んで古い商品は全て回収すると言う荒技に出ています。マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)が全て組み合わさって顧客に価値を提供できるのだと言うことを再認識できる素晴らしい事例だと思います。

さて、本論に戻すと、まずはMECEの説明があります。Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、ミーシーなどと言われる「もれなくダブり無く」と言う考えです。私もはじめてこの考え方に触れた時には、まるで「ロトの剣(ドラゴンクエスト1に出て来るアイテムで最強の武器)」を手に入れた気分で、手当たり次第の物を「もれなくダブり無く」整理しまくったことを覚えています。

そのMECEの説明の中で、ひとつ非常に輝く例が出ています。マッキンゼー流に言えば「ビジネス・システム」であり、通常の人はマイケルポーターのバリューチェーンの方がなじみ深いかもしれません。この図とともに、ぶっきらぼうに自社の強み・弱みと競合の強み・弱みがマトリックスの図に書かれています。実はこの図はMECEと言う考え方以上に当時は私に取って参考になる図でした。自社と競合の競争優位性を比較する際に、このビジネス・システムを用いて比較表を作ることで、何を競争力の源泉や差別化にしているのかを把握して行くことができるからです。同業種だからといって、全てのビジネス・システムで同じことをして行く必要はありません。当然各社に応じて強化すべきである「キードライバー」は異なります。また強化していく順番や、ある項目とその他の項目との関連性なども異なります。そういった考えは、筆者の書籍に出て来る「儲け話のメカニズム」と「キードライバー」につながっています。

私は「ブルー・オーシャン戦略」の中では「戦略キャンバス」が唯一好きな考え方なのですが、その「戦略キャンバス」も元を正せば、この考え方に定量的な概念を入れただけのものとも言えるでしょう。

 

2章の後半はロジックツリーになります。この書籍においてロジックツリーは一番ページを割いて説明されており(38ページで全体の約21%)恐らく筆者である齋藤氏が最もこだわったものなのではないでしょうか。確かに良いロジックツリーは、横の関係がMECEになっており、更にお互いに論点の粒度がそろっており、それぞれのツリーに理路整然とした因果関係が存在し、またある程度具体的な課題や仮説、解が整理されている必要があります。そういう点では、今まで学んだゼロベース思考、仮説思考、MECEと言ったものが前提になっていることは確かです。そもそもロジックツリーがきちんと書けたからと言って一人前のコンサルタントと呼べるかは分かりませんが、一流のコンサルタントなら(恐らく二流程度でも)当たり前にきちんとかけるのがロジックツリーなのだと思います。

そのロジックツリーの節で最後に説明されているのがコーザリティ分析と呼ばれる、現象と原因を因果関係に整理している手法になります。Amazonのジェフベゾフが創業の際に紙ナプキンに書いたと言われる伝説の絵などはコーザリティ分析と言えるでしょう。

実は当時の私が非常に感銘を受けたのが、コーザリティ分析よりもその事例でてできた「自動車関連部品メーカーの収益性」と言う事例です。収益に苦しんでいたA社は収益悪化の原因はOEMの開発コストや手間にあると判断してOEM事業から撤退して補修用事業に特化したのですが、実は補修用の収益の源泉はOEM事業で培われた基礎技術であったために、あえなく倒産してしまったと言うものです。

この時に、本業に対する「貢献事業」と言う存在を知りました。よく「本業とのシナジー」などと言う言葉を軽々しく語る人がいますが、実は軽々しく語らずに、真剣にその貢献度を測って行く必要があると考えています。本業から見たら新規事業であれ、周辺事業であれ、実はシナジーを効かせている事業と言うのは管理会計上の数値以上に本業の収益に貢献している可能性があります。当時は漠然とコーザリティ分析の事例として読んだに過ぎませんでしたが、その後事業会社の経営企画部時代にもコンサルタント時代にも何度となくこの考え方が実務に効いて来ました。

基礎的な思考やその技術を伝える中の事例で、実業に使える事例をふんだんに織り交ぜている所もまた、本書が良書な理由なのでしょう。

 

次回に続く。

新版 問題解決プロフェッショナル―思考と技術

 

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