ギックスの本棚/美術手帖 2014年11月 「ティム・バートンの世界へ、ようこそ!」

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好きなものの「まとめ」方は、勉強になる。

本日は、美術手帖2014年11月号「ティム・バートンの世界へ、ようこそ!」をご紹介します。

ティム・バートンは、すごい

説明する必要はないと思いますが、ティム・バートンというのは凄い人です。彼の世界観は独特で、理解しがたい領域にいます。一般的に、バットマン、シザーハンズ、ナイトメア・ビフォア・クリスマス、コープス・ブライド、チャーリーとチョコレート工場、アリス・イン・ワンダーランドなどの映画監督としての評価が高いのですが、彼の世界観の凄まじさは、絵本などの「挿絵」に現れます。(今回、ご紹介している「美術手帳」の表紙の絵とかも素敵じゃないですか?)

そして、その独特な世界観が、熱狂的なファンを生みます。

僕は、美術手帖を今回初めて買ったのですが、今回、この記事を書こうと思ってAmazonを検索すると、バックナンバーがすでに売り切れており、定価1,600+税のところ、中古は2,200円が最安値でした。(10月号は残ってます。)僕のように「今回だけ」買った人が続出したのでしょうか。ティム・バートン人気おそるべしですね。

ティム・バートンを知らない人も魅了する

とはいえ、ティム・バートンを知らない、あるいは、それほど興味を持っていない人もいます。美術手帖の編集長もそんな一人だったようです。

いきなり自分の話で恐縮ですが、私は彼の映画を数本観たくらいで熱心なバートン・ファンではなかった。でも、この特集をつくるにあたり、彼の言葉や人生、バートン論に触れることで、作品が生み出される時代背景や思想・価値観がすっと腑に落ちるように入ってきました。

(Editor’s note より)

というわけで、本書を読むと、ティム・バートンの考え方が肚落ちする、というわけですね。うまいセールストークです。(笑)しかしながら、もう少し、引用します。

特集内で多くの方が語っているように、バートンの物語の根底には、各人の抱えるマイナー性を認めて包摂してくれる思想が流れている。それが価値観の混迷を深める今、彼の作品が多くの人から熱い支持を集めている理由なのでしょう。

この一節には、我が意を得たり、と言いたくなりますね。ティム・バートンの”歪んだ”世界は、僕自身が感じているマイナー性(これは、逆説的にいえば選民思想に近いのですが)を包んでくれるように思います。

というわけで、ティム・バートン・ファンは、買って損のない一冊です。(売り切れてますけど)

気合の入った解説本

さて、そんなバートン愛の詰まったこの本ですが、その愛の詰め込み方にはプロの手腕を感じます。今回は、コンサルタントの「資料づくり」「物事の整理」の視点から、本書のティム・バートン特集を読み解いていきたいと思います。

全体構成

まず、本書は約200ページあるのですが、そのうち、80ページ程度をティム・バートン特集に割いています。他の号を読んでいないので、これが多いのか少ないのか普通なのかは判断しかねますが、80/200=40%をしっかり割いていて読み応えは十分です。

その構成ですが、

  1. Editor’s note:先ほど引用した編集長のコメントです。
  2. バートンさんにとって、ハロウィンとは何ですか?:季節柄、ハロウィンと絡めた特集です。バートンにとっての”ハロフィン”を、彼のデザイン画と語録で俯瞰
  3. ジョニー・デップ、魅惑の七変化:バートン作品といえば、この人。ジョニー・デップのお話
  4. ティム・バートン・インタビュー:この部分だけでもお金を払う価値あり
  5. 4つのキーワードで映画作品を解析!:「一軒家」「郊外」「仮面」「ツギハギ」の4つのキーワードで作品を分析。どれもバートン・ファンならしっくりくる切り口です。
  6. ダニー・エルフマンへのインタビュー:バートン作品の音楽の多くを手掛けたエルフマンへのインタビュー
  7. 転機で知るティム・バートンの歩み:バートン年表。彼の”歩いてきた軌跡”を振り返ります
  8. バートン偏愛/対談:業界内のバートン・ファンへのインタビュー
  9. バートンに影響を与えた作品たち:ゴジラから、ゴッホの絵まで幅広く紹介

という感じですね。

特に、お勧めは、2のデザイン画+語録、4のインタビューです。少しだけ、引用しておきます。

バートンさんにとってハロウィーンとはなんですか? より

僕にとってハロウィーンはいつだって1年のうちで一番楽しい夜だったんだ。ハロウィーンになるといろんなしきたりがなくなって、何にだってなれる。空想が支配するんだ。

ティム・バートン インタビュー より

写真でも絵でもなんであれ、僕にとってはすべてがプロセスなんだ。

絵を描くことは禅と似ている。自分だけのエキセントリックな世界に入り込めるんだ。xxx

ティム・バートンに、少しだけ近づけた気がします。ファンの皆さんには、ぜひ、一読をお勧めします。

コンサルタントとして注目したいのは「4つのキーワード」

ここまでは「いちバートン・ファン」として本書をご紹介してきました。一方で、「いちバートン・ファン」ではなく「いちコンサルタント」として、注目したいのは、上記5.の「4つのキーワードで映画作品を解析!」です。

コンサルタントは、何かを考える際に【軸】というものを作り出します。その場合、「高低」「多寡」などの評価・分類ができる軸を設定します。しかし、世の中で求められている区分は、必ずしもそういう「評価できるもの」とは限りません。今回のように「アート作品を斬る」という話であれば、尚のことでしょう。

実際に、ここでは、「一軒家」「郊外」「仮面」「ツギハギ」の4つのキーワードで作品群をななめ斬ってくれます。この4つの概念は、MECEではありませんが、非常にしっくりくる上に、多少の意外感もある切り口だと思います。では、どうすれば、この4つのキーワードを選び出せるのでしょう?

共通項を見つけ出せ

コンサルタント的アプローチでいえば、これは「作品を並べて、共通項を抽出した」ということになります。

そして、おそらく、その手法としては「広く、共通的に語ることができる=いろんな作品に現れている共通項目」を抽出するという感じでしょう。例えば、「ツギハギ」というのは、ナイトメア・ビフォア・クリスマス、コープス・ブライド、そしてシザーハンズなど、多くの作品に関連しますので、非常にわかりやすいですね。

最も難しいのは「共通項」の候補だし

しかしながら、その「共通項」の候補が洗い出せないことには、先に進めません。そして、これが一番難しい作業です。というのも、この辺りは「発想力勝負」だからです。とはいえ、神が下りてくるのを指をくわえて待っているわけにもいきませんよね。ですので、僕ならこうするだろう、というのを幾つか考えてみました。

・特定の作品を言い表す「特徴的なキーワード」を3つずつ出す。

例えば、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」なら、「ハロウィン」「ゾンビ」「伝わらないもどかしさ」とかでしょうか。あるいは「バットマン」なら「ダークヒーロー」「正体を隠す」「暗い過去」なんて感じですかね。

こうやって出したものを眺めていると「ツギハギ」「仮面」あたりは見出せそうです。しかし、「郊外」「一軒家」になると、でてくるかどうかは”センスの問題”になりそうな気もしますね。

・一歩進んで、「構成要素」に分解してからキーワードを出す。

上記では十分なキーワードが出てこない、というような場合には、作品ごとに”3つずつ”じゃなくて、”思いつく限り”出すという技もあるのですが、そうすると、作品の輪郭がボヤけてきてしまうことが多いです。そんな時には、僕は「構成要素」に分解するようにしています。そして、各要素に対してキーワードを出すわけです。

作品を構成する要素の出し方も、いろいろあります。主人公・脇役・世界観・登場するシーン(場所)・・・というように分けていくこともできますし、映像・音楽に大別してから、映像を、多用される色・ライティングなどに分けていく、というアプローチも可能です。

そのうえで、これらの構成要素と作品のマトリックスで、キーワードを出していくことになります。仮に、主人公・脇役・世界観・登場するシーン(場所)という要素にした場合、

主人公 脇役 世界観 シーン(場所)
ナイトメア・ビフォア・クリスマス ・ゾンビ
・暗い
・憧れ
・協力的
・思想のズレ
・愛情
・暗い
・怖そう
・コミカル
・暗い街
・明るい街
・雪
シザーハンズ ・怪物
・心優しい
・一人ボッチ
・身勝手
・勘違い
・敵意
・暗い
・カラフル
・二面性
・暗い家
・平和な街
・テレビ局
バットマン ・ヒーロー
・孤独
・正体不明
・敵意
・理解を示す
・過去の因縁
・犯罪
・復讐/因縁
・二面性
・夜の街
・豪華な屋敷
・工場

といった感じでしょうか。この出し方を続けていけば、「郊外」「一軒家」といったキーワードにもたどり着けそうです。

・最後はKJ法でまとめる

とはいえ、このようにキーワードを出していっても、それだけで「郊外」「仮面」というような言葉にはつながりにくいのも事実です。そういう場合は、グルーピングする「KJ法」を行うのが良いと思います。(KJ法についての説明は割愛しますが、端的にいえば、”概念の塊”をつくっていくのだと思っていただければよろしいかと思います。)

そのうえで、どういう「キーワード」に集約するかは、編集者さんのセンスになると思います。また、どの”概念の塊”に注目するかも、センスの話でしょう。ちなみに、僕なら、暗い街と明るい街の対比というところに注目して、「モノクロとカラフル」みたいな切り口を考えたくなりますね。(例えば、チャーリーとチョコレート工場でも、モノトーンの街とカラフルな工場ですしね)

このように、正しい思考のステップを踏むことで、どのようにすれば「似たような答え」にたどり着けるのかを考えることを、僕は「思考のトレース」と呼んでいます。そして、こういう「考えるプロセス」をきちんと理解して実践することが、実際に何かを「考えなくてはならない場面」で非常に役に立ちます。

本書に限らず、なにかを「まとめた」書籍・雑誌を読む場合には、その「切り口」に注目してみるのも一興ですよ。特に、自分が好きなもの・興味があるものの「まとめ」であれば、深く考えることを厭わないので、思考訓練としてはお勧めです。お試しください。

美術手帖 2014年 11月号

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