第7章「”自分らしさ”が仇になるとき」己をさらけ出せばいいってものではないんです|ハーバードビジネスレビュー マネジャーの教科書/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

「自分らしさ」という言葉の響きに惑わされてはいけない

マネジャーの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11

本日は、INSEADのハーミニア・イバーラ教授による 「”自分らしさ”が仇になる時」を読み解きます。

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「自分らしさ」≠「ありのまま」

みなさんは、自分らしさ という言葉を聞いた時に、それを「どういう風な言葉」と紐づけてイメージしますか?

素直に、率直に、心の内面をさらけ出す、ありのままで、本音で。

そんな感じになりませんか?(僕はなりました。)

この論文では、マネジャーとしてふるまうに際して、上記のようなイメージを持っていると失敗するぜ。という警句に満ち溢れています。

ひとりよがりな自分らしさは、逆効果

まず、前提として、この論文において、「自分らしさ」は「オーセンティシティ(authenticity)」という言葉の日本語訳として使われています。

オーセンシティは、真実性とか真正性とかいう意味ですので、今回のトピックは「自分自身の真正性」すなわち「自分らしさ」と翻訳していると考えればよいでしょう。

この論文の要諦は

  • オーセンティシティは昨今のリーダーシップの鉄則
  • しかし、リーダーが不用意に、自分の弱さや不安をさらけ出したり、謙虚な態度をとってしまうと、(いくらそれが自分らしさであっても)ネガティブな結果につながる
  • 自分らしさのあるリーダーシップとは、自己のアイデンティティを守ることではない。試行錯誤しながら、アイデンティティを進化させることが肝要
  • オーセンティシティという言葉は、本来「画一的なリーダシップからの脱却」だったが、現在は、むしろ非常に画一的な自己開示のやり方になってしまっている
  • 言葉に惑わされずに、自分の「枠」を広げ、少しずつ「自分らしく成長していく」ことを目指すべき

というようなことになります。

これ、さらっと要約しましたけど、かなり凄いこと書いてますよね。「世の中のオーセンティシティ・リーダシップ論は、形骸化してて全然ダメ」ってことですよ。

「自分らしさ」という言葉の結果、「まったく自分らしくない」リーダシップモデルを押し付けられて苦しんでる人が多い、って言ってるわけですよ。

コンフォートゾーンから抜け出せ

「自分らしさ」という言葉を使う時、多くの人は(マネジャーに限らず、若手社員や学生、あるいは子供も含めて)「そうする方が心地よい」「そうする方が精神的にストレスがかからない」というような感覚を持ちます。

スーツを着ないのが自分らしさ、朝は苦手な夜型人間なのも自分らしさ、好きな授業は頑張るけど嫌いな授業は爆睡するメリハリのつけ方が自分らしさ、みたいなね。

それが良いのかダメなのかはさておいて、こういう「自分らしさ」は、マネジメントをする上では、あまり良い効果につながりません。

そこで、この論文ではコンフォートゾーンを抜け出せ、と述べられます。

昇進すれば誰もが例外なく、居心地の良い場所(コンフォートゾーン)から大きく離れなければならない

新しい環境で成果を上げたり、期待に応えたりできるだろうかと、自分自身や自分の力に不安を覚えると、我々はすでに身につけた行動やスタイルに逃げ込みがちになる

ええ。ほんとそれっす。なので、逃げちゃダメなんですよ。マネジャーになった、とりあえず、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだと、頭の中で唱えましょう。

目的を忘れるな

マネジャーというものは、そもそも、自分一人で仕事をする人ではありません。チームを率い、チームの戦闘力を最大限に引き出し、最大の成果を得る役割を担っています。

もちろん、そのために、マネジャー自身がプレイヤーとして振舞うこともあるでしょう。それがチームの戦闘力強化であり、成果拡大のための手段であれば、当然です。

しかし、自分が全部やってればいい、ということではない以上、マネジャーがメンバーにみせる「自分らしさ」は、最低限「メンバーが、安心してパフォーマンスを発揮できる」という前提を満たしていなければいけません。

そうなると「自分が心地よいやり方」だけでは押し切れません。例え積極的にはやりたくない、これまで経験したことが無いようなふるまいであったとしても、
チームのために必要な行動をとることが求められます。

例えば、なにしたらいいの?

オーケーオーケー、言いたいことは分かったよ。で、いった、どうしたらいいんっていうんだいベイベー  ┐(´ー`)┌ (アメリカンな感じで)

と思ったあなたのために、いくつか引用しておきますけど、本当に困ってる人は、書籍を買って、ちゃんと読んでくださいね。

昇進が単なる自分勝手な欲の追求ではなく、組織内で自分の影響力を強め、その範囲を広げる手段の一つ、すなわち、組織全体の成功であると認識できるまでは、我々は影響力のある人物に自信の強みをアピールすることを自分らしいとは思えないものだ。

昇進するために上司に媚を売るなんてやってらるか、なんて言わないの!ってことですね。

(あるリーダーは、部下にとって)近づきやすく無防備にしすぎたために立場を弱め、疲弊してしまった。より責任の重い職務では、部下の信頼を勝ち得て仕事をこなすには、部下との間にもっと距離が必要だったのだ。

フレンドリーに接する、率直に不安を伝える、が「自分らしさ」だとしても、それでメンバーのパフォーマンスが下がるくらいなら、距離を置く方がマシなわけです。

そのほかにも、否定的なフィードバックに対して、ディフェンシブになりすぎない(感情の起伏が激しい、というフィードバックに対して、成果のためにはそれが必要だ、と理由付けしてしまう、など)というようなことが挙げられます。

おそれずに、変化しよう!

まあ、ひとことで言えば「まだ、マネジャーとして完成形になってるわけじゃないんだから、試行錯誤していこうぜ」ということなんですよね。

自分自身の新しいストーリーを試しては、ちょうど履歴書と同じように、たえず手直しをしていこう。(中略)自分のストーリーを書き直すことは、内省的なプロセスであると同時に、社会的なプロセスでもある。

自分が何者であるかを明確にすることから、リーダーシップ・ジャーニーを始めよと指南する書籍やアドバイザーは数えきれない。しかしこのやり方では、過去に囚われて身動きできなくなる可能性がある。あなたのリーダーシップ・アイデンティティは、より重要で高い質が求められる職務に移行するたびに変更可能であり、また、変更すべきである。

自分らしさ、という言葉の持つ印象に惑わされず「他者とのかかわり方」の視点で、客観的に己を捉え、戦略的に自分自身の見せ方を考えていきましょう。

要は、あなたなりの「理想のマネジャー像」を模索し、「その人らしさ」が「自分らしさ」になるようにしていけば良い、ってことなんですよね。 ToBe – AsIs ⁼ 埋めるべきGap ってやつです。ガンガンGapを埋めていきましょう!

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