ギックスの本棚/猿の部長 マーケティング戦略で世界を征服せよ!(竹内謙礼・青木寿幸 著|PHP文庫)

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3作目は「マーケティング」小説

本日は、「会計天国」「戦略課長」に続く竹内健謙礼・青木寿幸コンビの新作「猿の部長」をご紹介します。

小説仕立てで経営を学ぶシリーズ

このシリーズは、少し不思議な世界観の小説を読みながら、「会計」「戦略」「マーケティング」といった企業経営にかかわることを”事例”として学んでいこう、という趣旨で書かれています。(関連記事:ギックスの本棚/会計天国

会計天国では、一度死んだ会計士が、人助けしたら生き返えることができると言われ、会計の力を使って人助けをすることになります。戦略課長では、ロボット上司が送り込まれてきて、彼と一緒に経営戦略を練ることになります。そして、本作「猿の部長」では”猿の惑星”的な世界(=部長以上は猿しかいない)に迷い込んだ主人公が、MBAで学んだマーケティング力を活かして企業経営を改善していくという流れです。

内容は「普通のこと」だが、「わかりやすい」のが特徴

この手の本としては、三枝匡さんの著作「戦略プロフェッショナル」が有名です。(関連記事:ギックスの本棚/戦略プロフェッショナル)それに比べると、本シリーズは薄い内容になると言えます。しかし、それは「とっつきやすい」「わかりやすい」ということになるように思います。

おそらく、想定読者は、事業会社に勤める成長意欲の高い方たちです。内容も平易ですし、書き味も軽快で読みやすいです。年次的には、若手の方に限らず部長級の方などでも、「なるほど」と思えることもあると思います。(一方、本職のコンサルタントの方にとっては、当たり前なことが書いてあるなー、ということになると思いますが、それは致し方ないことです。寧ろ、ターゲットが明確なのは素晴らしいと思います)

本書のように”華麗に課題が解決される”なんてことは、正直なことをいえば、そんなに頻繁に起こるものではありません。しかし、そんな明らかな虚構の世界にもかかわらず本書が参考になるのは、本書に出てくる、頭もよく、マーケティングの知識もそれなりに知っている「部長(猿)」達が、しっかり考えていたはずなのにあるタイミングで思考停止に陥ってしまっているという「現実に即した課題」を教えてくれるからです。

本書は、「猿」という思考停止した存在を掲げることで、意思決定者の「とるべき思考態度」を示唆します。

「人間」への警句

本書に出てくる人間は、「仕事に対して無気力」です。何人(匹?)か登場する猿の一人(匹?)であるオランウータンが、こんなことを言います。

「重要な意思決定は俺たち、猿がやればいい。人間は指示されたことだけをやっていればいいんだ。そうすれば、仕事にやりがいを求めなくなるから、高いモチベーションを持つ必要もない。ビジネスを成功させるプレッシャーからも解放されて、気持ちも穏やかになって、平和な日々を過ごせるはずだ。つまり、人間は、俺たち猿に支配されることで、幸せになったんだ。」

あるいは、メガネザルと主人公「滝川」の会話はこんな感じです。

「人間の結束力の問題点は、何でしょうか?」

「お互いが協力しないところよ」

「協力しない?そんなことはありません。人間たちも、周囲の人たちと協力し合って、自分よりも大きな競合会社を相手に強い組織力で戦っています」

(中略)

「それは人間が勝手に思い込んでいるだけ。人間は利己的だから、結局はお互いの足を引っ張り合う生き物なのよ。だから、見た目は組織にはなっているけど、みんなバラバラじゃない」

つまり、本書では、前述した「意思決定者への警句」のみならず、「猿」の口を借りて、世のサラリーマン/ビジネスパーソンの足りなさ・至らなさに警鐘を鳴らしているわけですね。

マーケティングとは「事業運営そのもの」

本書は「マーケティング」が主題です。しかし、その課題解決においては、価格やプロモーション、ポジショニングの話だけに留まりません。

例えば、サプライチェーンの話や、組織づくりの話がでてきます。あるいは、複数の事業間のシナジーについても語られます。当たり前ですがマーケティングというものは「広告」「販促」だけに閉じた世界ではありません。「事業運営そのもの」と言ってよいと思います。

弊社CEOの網野が、ITproで連載した「ギックス網野の提唱する【チームCMO】」より引用します。

マーケティングを広義に捉えて、STPと3P(Product、Price、Place)+Promotionとするならば、実はマーケティングは事業運営そのものと捉えるべきであろう。

経営学者のピーター・ドラッカー氏は「マーケティングの目的は販売を不要にすること」という名言を残した。そのうえで「企業のあらゆる機能のなかで、マーケティングだけは唯一、アウトソーシングできない中核機能である」とも述べている。これを踏まえても、マーケティングは事業運営そのものだと言える。

マーケティングとは「ターゲット市場を選択し、優れた顧客価値を創造し、提供し、伝達することによって、顧客を獲得し、維持し、育てていく技術及び科学」である。よって、マーケティングの対象として関わるリソースは広範囲に及ぶ。

「財」「サービス」「経験」「イベント」「人」「場所」「資産」「組織」「情報」「アイデア」──。繰り返すが、マーケティングとは事業運営そのものであり、そのマーケティングを執行する責任者がCMOなのである。

(出所:ITpro

マーケティングを主題に置いた本書が、組織の構築・運営や、サプライチェーンの改革による在庫削減やリードタイム短縮を「改革項目」として取りあげるのは、実に自然なことなのです。

本書は、当たり前のことを当たり前に、平易な形で伝えてくれますので、お堅いビジネス書が苦手な方は、まずはこういう本を読むところから始めてみると良いのかもしれませんね。

尚、余談ですが、このシリーズも3作目になり、小説としてのクオリティが上がってきているように思います。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、結末まで気が抜けません。「読み物」としても楽しめると思いますよ。

 

猿の部長 (PHP文庫)

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