第2章「ブルー・オーシャン戦略」テスラはブルー・オーシャンを攻めているのではないか|ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文/ギックスの本棚

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海の青さは、魅力的。でも、最近は海洋汚染が激しい?

前回に引き続き、10回連載でダイヤモンド社より刊行されている書籍「ハーバード・ビジネス・レビュー―BEST10論文」掲載論文を毎日一つずつ読み解いていきます。お休み前に、HBRの誇る素晴らしい論文の概要をザックリつかんで頂いて、連休中に本書をしっかり読み込む、というのがオススメです。

本日は、あの有名な「ブルー・オーシャン戦略(2005年1月)|ページ数:25p」です。

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青い海と赤い海

ブルー・オーシャン戦略は、INSEADのW.チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏が提唱した経営戦略論です。引用します。

レッド・オーシャンとは、あらゆる既存市場のことを指す。いま、そこにあると認識できる市場である。(中略)

一方、ブルー・オーシャンとは、まだ存在しない市場を象徴している。知られざるマーケット・スペースであり、手あかのついていない市場である。(中略)

ブルー・オーシャンを生み出す方法は二通りある。まず、事例こそ少ないが、まったく新しい事業領域を立ち上げる方法である。(中略)

ただしブルー・オーシャンの多くは、既存市場の境界線を押し広げることで作り出される。

端的に言えば「既存市場を新たな方向に拡大することによって、新しい市場を想像すること」がブルー・オーシャン戦略です。

その前提に立って、定義されているのが、【「コスト構造」と「バリュー・プロポジション」が好循環を形成するときにのみブルー・オーシャンが成立する】という特異性です。

ブルー・オーシャン戦略は、コスト構造とバリュー・プロポジションが好循環を形成するときにも成立する。コスト削減は、競合他社が競争している要素を自社の事業活動から取り除くことで実現される。バリュー・プロポジションは、これまでだれも提供していなかったものを提供することによって生まれる。そのような特徴を備えた商品やサービスのおかげで、売り上げが伸びるにしたがってスケール・メリットが生まれ、コストはさらに下がるという好循環が生まれる。

尚、この論文の中では、触れられませんが、書籍「ブルー・オーシャン戦略」において紹介される、「戦略キャンバス」が理解の鍵になると思います。(NAVERまとめで、画像などがまとめられていますので、そちらもチェックしてみてください。)

いずれにしても、「”強みの軸”をズラすことで、コスト的な優位性を保持しつつ、既存市場の枠の外に出ていき、関連市場(T型フォードなら馬車市場、シルク・ド・ソレイユなら観劇市場)を切り崩す」ということが、ブルー・オーシャン戦略の骨子だと僕は理解しています。

しかし、最近は「ブルー・オーシャン戦略」という言葉をあまり耳にしません。もう、旬を過ぎてしまった経営理論なのでしょうか。以降は、そのあたりについて考察していきます。(というわけで、以降は原書とは関係ありません。(笑))

※と、思ったら、ハーバード・ビジネス・レビューの2015年10月号が「ブルー・オーシャン戦略のすべて」という特集でした・・・。まぢかよ。

破壊的イノベーションとは何が違うのか

ブルー・オーシャン戦略は「市場を押し広げる」と表現されていますが、実際は、他の市場のユーザーを新たな価値で取りに行くというイメージです。シルク・ド・ソレイユは、サーカスのポジショニングをズラして、劇場の客を取りに行ったわけですし、T型フォードは、自動車のポジショニングをずらして、馬車の客を取りに行ったわけですね。

これは、破壊的イノベーションの考え方とは大きく異なります。破壊的イノベーションは、既にあるマーケットを、機能を削った低価格商品で切り崩す思想であり、コストリーダーシップに近い側面があります。一方、ブルー・オーシャン戦略は(先述の通り、機能を絞ってコストを抑えるという側面もあるものの)既存商品から”軸をずらして差別化していく”方向を向いていることが最大の特徴だと言えます。

また、ここで重要なのは「模倣しにくい」という特性です。模倣しにくいということは、市場サイズが(一定規模以上に)大きくならないということを意味します。(デジタルコンテンツは例外です。原価がかからないので。)そうすると、破壊的イノベーションのように「既存市場を壊滅に追い込む」ということにはなりません。

それを踏まえたうえで、今日の状況で「ブルー・オーシャン戦略」と「破壊的イノベーション」のどちらが隆盛かと考えると、僕は「破壊的イノベーション」に軍配が上がると思います。それは、大きくは、以下の2つの理由によるものだと思うのです。

  • ブルー・オーシャン戦略が適用できるのは、限定された状況のため、普遍的には当て嵌らない
  • 近年、多くの市場が成熟してきており、過剰サービスが当たり前になってきているために「価値を上げる戦略」よりも「削る戦略」の方が、適用領域が広い

その結果、破壊的イノベーション=削る戦略がもてはやされているのだとすると、裏をかいて「価値を上げる戦略」を取りたくなるのが人間の性って奴ですね。ということで、メディア等で破壊的イノベーションのターゲットだと言われている領域を洗い出し、それらすべてに関して「ブルー・オーシャンを探しに行く」という思考実験をしてみようと思います。相当面白い考察ができる予感がするんですよね。

テスラは「ブルー・オーシャン戦略」ではないか

ということで、テスラを例にとって考えてみましょう。

HBR 2015年8月号に、「テスラは破壊的イノベーションではない」という記事が掲載されていました。(記事タイトル:Tesla’s Not as Disruptive as You Might Think / テスラは本当に破壊的イノベーションといえるか)この記事のポイントは、クリステンセン教授自身が、そう結論付けた、というところです。

簡単にいうと、テスラは「機能を削って既存の自動車市場を切り崩していないので、破壊的イノベーションではなく、持続的イノベーションだ」ということです。

そこで、先ほどの思考実験にトライしてみましょう。つまり、「テスラは、ブルー・オーシャン戦略を取っているのではないか?」という仮説です。

テスラはバリュー・イノベーションである

テスラは新規参入企業による、価値創造型ビジネスです。活用技術そのものは、おおむね既存技術であると言ってよいでしょう。(もちろん、テクノロジーとして非常に進歩しているのは間違いありませんが、要素技術と考えれば”電気自動車”は既に存在していました。)

そして、従来の「電気自動車」よりも価値を高めるために、高品質・高価格の領域に切り込みました。ブルー・オーシャン戦略におけるバリュー・イノベーションの考え方に則れば、「買い手にとっての価値の向上」に相当すると言えます。

一方、バリュー・イノベーションの考え方に則れば、彼らは何かを捨てているハズです。僕が思いつくのは「立ち上げ期における大量生産」です。(本来的なブルー・オーシャン戦略の定義とはズレるのかもしれませんが、まぁ、聞いてください。)テスラは「たくさん作って沢山販売してペイするビジネスモデル」ではなく「少量作って少量売ればペイするビジネスモデル」を選択しました。コストを下げるために何かを捨てたのではなく、コストを下げる必要性を捨てた*のです。(戦略キャンバス的に言えば、お手軽さを捨てたわけですね。)

つまり、電気自動車業界からみると高価値なポジションで差別化し、フェラーリに代表される高級自動車市場を切り取りに行っているわけですね。これはT型フォードと”価格戦略で見ると逆向き”ではあるが、”狙いどころとしては同じ”と言えると思うのです。

さらに言えば、この戦い方は、フェラーリ市場の切り崩しにおいても付加価値を与えています。それが「環境負荷」です。環境経済学という学問があります。一言でいえば、従来の経済学における需要曲線と供給曲線の均衡点には「環境負荷」という観点が抜けており、それを是正することが環境影響を低減する**ことになる、という思想です。この考え方は、グリーン税制やエコ関連補助金という形で政策に取り込まれてきていますが、そういう金銭的なインセンティヴが響きにくい高所得者層が存在します。その人たちの「プリウスを買うのはためらわれるが、環境配慮していない自分への”うしろめたさ”は感じている」という状況を狙いすまして、「フェラーリと同じ品質・格好良さ・ブランド力がある車で、さらに環境配慮してるというブランド力を付加したよ!」というメッセージを送ったわけです。これは、高級車市場に「環境配慮ブランド」というものを付け加えて、ブルー・オーシャンを開拓していったとみることもできそうです。

そして、フェラーリの場合、各種部品の調達コストを下げる事はブランド低下(場合によっては品質低下)につながるリスクがありますが、テスラの場合、バッテリーなどは技術革新によって高性能化(同じ品質なら低価格化)することが見込まれます。これは、競争のフィールドを変えていると考えられます。

 

というかんじで「インターネット」に落ちている情報をベースに妄想してみました。テスラの中の人や、自動車業界の中の人からみると、ふざんけんなこのやろー的な内容に留まっているリスクがありますので、そのあたりは何卒ご容赦くださいませ。(こういうの、シンカホリックの悪い癖なんです)

※文中でも触れましたが、HBR最新号(2015年10月号)がブルー・オーシャン戦略特集です。後日、そちらを読み込んで、補足記事を作成したいと思います。

 

脚注*:とはいえ、現時点では、1台売るごとに4000ドルの赤字が出ている、というニュースがありますので、なんらかの打ち手が必要なのは間違いないですが。

脚注**:実際には、エネルギー効率から考えたら、火力発電を前提にした場合、発電効率・送電効率・さらにそれでモーターを駆動させる際のエネルギーロスなどにより、ガソリンエンジンよりエコじゃないんじゃないか、というお話があったりもしますので、本当に「エコ」を求めるなら、原子力発電か、水力や風力、太陽光などの自然エネルギー発電で充電しないといけなかったり・・・みたいなことがあるのですけれど、「ブランド」っていうものは、科学的に正確であるかどうかとは別のお話だったりしますよね。

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