HMVが渋谷に復活(日経新聞)|”リアルだからできること”がそこにあるはずだ。(グラーフの眼)

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本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)

リアル店舗で、非計画購買を喚起せよ!

本日は、日経新聞の記事「HMVが渋谷に復活」を取り上げます。

記事全文

HMVが渋谷に復活 今秋めど、CD・書籍の旗艦店

音楽・映像ソフト販売のローソンHMVエンタテイメント(東京・品川)は、今秋をめどに東京・渋谷にCDや書籍の旗艦店を開く。「HMV渋谷」が2010年に閉店して以来5年ぶりの旗艦店の誕生となる。
丸井グループが東京渋谷の百貨店「マルイシティ」を改装して開業する専門店ビル「モディ」に「HMV&BOOKS TOKYO」として入る。約50万点の書籍やCD、DVDなどを販売する。映像ソフトの関連グッズなどの取り扱いも視野に入れる。
店舗面積は1815平方メートルで、同社が現在展開する販売店としては最大となる。音楽ライブやトークイベントを開催するスペースも設ける。200~300人を収容できるという。今後同様の大型店舗を大阪など全国主要都市に広げることも検討する。
出所:日経新聞 電子版

なぜ、HMVは渋谷から撤退したのか?

そもそも、なぜHMVは5年前に渋谷店を閉店したのでしょうか?日経トレンディの記事より引用します。

それでは、コンテンツの小売業の衰退の本質的な原因は何だろうか。HMV渋谷店の閉店を報じるニュースでは、ネットを通じた音楽配信の普及が指摘されていたが、それだけだろうか。個人的には、それに加えてもう二つの要因があると考えている。
一つは、違法コピーや違法ダウンロードのまん延である。世界的にネット上を流通する音楽ファイルの20曲中19曲が違法であり、雑誌や書籍も、出版社がウェブサイトに中身を部分的にでも出したら様々なサイトに無断でコピー/ペーストされることになる。ユーザも、無料で入手できるコンテンツにわざわざお金を払ったりはしないので、当然小売りにも大きく影響するはずである。
もう一つは、コンテンツ自体のクオリティーの低下である。プロが作るコンテンツが、友達とのコミュニケーション(メール、SNSなど)に負けてしまっているのである。だからこそ、ユーザーが時間の配分に当たってコンテンツの消費よりもコミュニケーションを優先しているのではないだろうか。

この記事では「リアルチャネルでのコンテンツ販売そのものが、衰退期である」という論調で話が進みます。
しかし、そうだとすると、この5年で「再出店」する理由が分かりません。

何が再出店に駆り立てたのか?

実は、2014年8月に、この布石ともいうべきニュースがでていました。ASCII.jpより引用します。

東京の渋谷区宇田川町に「HMV record shop 渋谷」がオープンした。海外で買い付けた洋楽全盛期の中古レコードとCD、独自企画盤も含めて約8万点が並ぶ。ローソンHMVエンタテイメントとしては初の中古専門店で、8月2日の開店初日には入店待ちの列ができるなど、リスナーの関心も高いようだ。
渋谷のHMVと言えば、2010年8月に閉店した「HMV渋谷」の記憶が新しい。閉店した当時「CD不況とインターネット販売に負けた」と言われたが、その渋谷系文化の発信地と呼ばれた拠点が消えてから4年。まさかの再進出を果たしたHMVのターゲットは、ずばり当時の「90年代渋谷系世代」だった。

この記事で語られるのは「若者の街 渋谷」が「かつて若者だった人たちの街 渋谷」になるのならば、この中古レコード/CDを販売するビジネスはうまくいくだろう、というお話です。
ここでのポイントは、次の一文にあるのではないかと思います。

2010年のHMV渋谷閉店後に、HMVジャパンはローソンの完全子会社となり、現在はローソンHMVエンタテイメントが「HMV」ブランドを使用している。本家イギリスのHMV Group PLCとは、すでに経営上の関係はない。
そのローソンによる子会社後は、ショッピングセンターを中心に新規出店を続けているが、CDの売上不振が続く中、HMVとしてアナログレコード主体の中古専門店を出す理由は何なのか。

ローソンが子会社化して以降、新規出店を続けている中で、なんらかの手ごたえを感じていると考えるのが妥当でしょう。

リアル店舗の価値とは?

ローソンという「小売業のプロ」が、HMVというコンテンツ販売業を子会社とした中で「リアル店舗として存在する意味」を見出したとすると、それがなんであるかは非常に興味深いです。
関係者ではない私の勝手な想像ですが、それは「非計画購買の喚起」ではないかと思うのです。非計画購買とは「計画していなかったのに、買ってしまった」という状態を指します。(関連記事:計画購買と非計画購買
コンテンツ販売こそ、この「非計画購買」の際たるものだと思うのです。
例えば、iTunesは「欲しい曲を探す」という意味での利便性は、リアル店舗を完全に凌駕します。しかし「似た感じの曲」ということになると、途端に”選択の幅”が狭く見えてしまいます。ここは「機械的なレコメンド」の限界もあるでしょう。(一方、ゲーム等のアプリを買う、ということだと、かなり検索性能が高いです。これは、コンテンツそのものが、オンラインで販売されることを前提としているため、初品販売に際して、事前に様々なタグを設定していることが大きいと思います。音楽は、そういう世界にまだ来ていませんね)この、出会いを与える。という部分が、非計画購買喚起の鍵です。
リアル店舗は、決して廃れ行く衰退産業ではありません。まだまだ、やれることがたくさんあると思うのです。より良い改善策を模索して、オンラインチャネルとは別の意味で”魅力的”な店舗づくりの好例として、渋谷HMVの復活を心待ちにしたいと思います。

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