EMS(エネルギーマネジメントシステム):HEMS/MEMS/BEMS/FEMS/CEMS|データ分析用語を解説

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本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)

エネルギーを統合的に管理する仕組み=EMS

HEMS(ヘムス)やBEMS(ベムス)という言葉を聞いたことがあるかと思います。これらは、総称すると「EMS=energy management system」と呼ばれるエネルギー管理の仕組みです。

EMSとは

東京コスモス電機のサイトより、EMSに関する記述を引用します。尚、こちらの会社では「管理」ではなく「監理」という言葉を用いています。

エネルギー監理システム(EMS)とは電力使用量の可視化、節電(CO2削減)の為の機器制御、ソーラー発電機等の再生可能エネルギーや蓄電器の制御等を行うシステムです。 管理対象によりHEMS, BEMS, FEMS, CEMSという名前がそれぞれ付けられています。HEMS(ヘムス)は住宅向け、BEMS(ベムス)は商用ビル向け、FEMS(フェムス)は工場向け、CEMS(セムス)はこれらを含んだ地域全体向けとなります。それぞれ管理対象は違いますが、電力需要と電力供給のモニターとコントロールをするというシステムの基本は共通です。
出所:東京コスモス電機

ここに記述のある通り、大きくは

  • 電力使用量の可視化
  • 節電の為の機器制御(=電力消費側の制御)
  • 発電機・蓄電器等の制御(=電力生成側の制御)

という3つの機能で、エネルギーを「管理(もしくは、監理)」しているわけですね。

HEMS/MEMS/BEMS/FEMS/CEMS は「管理対象範囲の違い」

冒頭で申し上げた通り、そのEMSの前に、H、B、などとついている「HEMS(ヘムス)」「BEMS(ベムス)」などの言葉が世の中に広まっていますが、これらはすべて「EMSで、エネルギーを管理する対象範囲が違う」というだけです。具体的には、

  • HEMS=Home EMS:家庭用のEMS
  • MEMS=Mansion EMS:集合住宅(マンション)用のEMS
  • BEMS=Building EMS:商業ビル用のEMS
  • FEMS=Factory EMS:工場用のEMS
  • CEMS=Cluster/Community EMS:地域用のEMS

となります。

何ができるの?

先述した、東京コスモス電機のサイトでしっかりとまとめられていますので、ディテールに興味のある方はそちらをご参照いただくと良いと思います。が、別にそこまでの工数をかけたいわけでもない方のために、以下に非常にざっくり説明しておきます。

見える化+コントロール

一言でいえば「電気の使われ方がわかる」「それに応じて機器類をコントロールする」という2点のみです。

そして、それが家(HEMS)だったら「電気自動車を”外付けバッテリー”のように使ってみる」だとか、あるいはビル(BEMS)だったら「夏の日中は南側のブラインドを閉じて温度が上がりにくくする」だとかいったように、個別の施設のニーズや状況にあわせて消費電力量や蓄電量をコントロールしていく”アプリケーション”が付加されていくわけですね。

何で注目されてるの?

では、なぜ今、このEMSが注目を集めているのでしょうか。
株式会社富士経済の調査によると、2013年に比べて、2020年には市場規模が1.5倍以上に増大すると見込まれています。

エネルギーマネジメント関連市場

2013年
2020年予測
2013年比
システム
909億円
1,553億円
170.8%
機器
2,553億円
4,452億円
174.4%
サービス
1,026億円
1,477億円
144.0%

※「システム」と「機器」は重複があるため、市場全体の合計は算出しない。

出所:富士経済

富士経済は上記レポート内で、今後の市場拡大の原動力を「電力改革」「エネルギー安全保障」「ライフスタイルの変化」「ビッグデータの活用」の4つであると指摘し、その中でも、特に

  1. 電力小売完全自由化(電力改革)
  2. 再生可能エネルギーの増加(エネルギー安全保障)
  3. 分散型電源市場の拡大(エネルギー安全保障)
  4. 家庭向けサービスの充実(ライフスタイルの変化)

の4つが特に重要な鍵となるだろうと述べている。

EMS市場拡大のカギを握るポイント

電力改革 ・電力小売完全自由化
・発送電分離
・容量市場の導入
エネルギー安全保障 ・再生可能エネルギーの増加
・ピークカット・ピークシフト(改正省エネ法)
・分散型電源市場の拡大(エネルギー地産地消)
ライフスタイルの変化
(少子高齢化など)
・機器制御(家電等)対応
・家庭向けサービスの充実(健康・セキュリティ・QoL)
ビッグデータの活用 ・ビッグデータ・IoT進展

今後のEMS市場を左右する社会的な大きな流れとして「電力改革」「エネルギー安全保障」「少子高齢化などによるライフスタイルの変化」「ビッグデータの活用」が挙げられる。これを細分化した9つのポイント(上表右)の中で、特に重要なのが以下の4点である。

  1. 電力小売完全自由化
  2. 再生可能エネルギーの増加
  3. 分散型電源市場の拡大
  4. 家庭向けサービスの充実

出所:富士経済

「ビッグデータ」に注目しよう

富士経済が大項目4つ(「電力改革」「エネルギー安全保障」「ライフスタイルの変化」「ビッグデータの活用」)のうち、最初に3つに注目しているが、graffe.jpでは、4つめの「ビッグデータの活用」に注目してみたい。
センサーデータの解説記事でも述べましたが、センサーで記録したデータは「嘘をつかないキレイなデータ」です。このEMSによって記録されたデータも、まさに、この「キレイなデータ」になります。
これをうまく分析すれば、人の行動などを理解することができます。

ビッグデータという切り口でセンサーデータを扱う際には、多くの場合、「人の行動」を捉えるのに使われます。いわゆる「行動分析」というものです。
例えば、赤外線センサーで、人(とは限らないが、なにか動く物体)が通ったことを記録していけば、「一定時間内に、何人通過したか」ということがわかります。そうすると、「どのエリアにどれくらいの人数がいたのか」を類推することもできます。これは人流分析と呼ばれます。(関連記事:人流分析とは
その他にも、先ほど挙げた「扉の開閉回数」でも、人の流れを示すことができるでしょう。あるいは、椅子に感圧センサーを付けておけば、空席率や滞在時間を把握することができますね。
出所:(関連記事)センサーデータとは|データ分析用語を解説

EMSの場合、どの機器の電源が入れられたか、あるいは操作されたか。どの部屋の温度が変わったか。などの情報が集められますので、人の動き・活動をつまびらかに理解することができるでしょう。

課題は、どのように「サマライズするか」

ただ、問題は、このデータは非常に膨大である、ということです。ビッグデータと呼ばれるものの大半は、サイズ的には大してビッグではないことが多い中で、このデータは間違いなく膨大です。
例えばHEMS/MEMSに限ったとしても、住宅着工件数が(近年、減ってきたとはいえ)約90万戸あります。(出所:国土交通省
毎年90万戸増えるということは、2020年までに500万戸程度の家ができます。これらがすべてHEMS/MEMSの対象だと仮定すると、500万の端末が存在することになります。この500万端末に対して、各家庭で10個程度の機器が存在していたとすると、ログデータは、1記録単位時間あたり、5000万ログを吐くことになります。
あとは、時間単位です。これが、長めに見積もって1時間単位だとしても、5000万×24=1日で12億ログ。1週間で84億ログ。1年間で4400億ログです。
さらに、上述したような「人の活動」まで把握しようとすると、せめて5分単位、可能なら1分単位で記録したくなりますね。そうすると、5分単位で年間5兆ログ。26兆ログが発生します。
今回は、新築の家だけで試算していますが、既存の家にも設置されていくことを考えると、この何倍ものログが記録されます。さらに、データ分析の基本である「比較」をするためには、最低でも2年間のログが必要ですので、さらに倍!ということになります。これを分析する前に「保存するだけ」でも気が遠くなるような情報量です。
これを打破するためには「うまくサマライズして保存する」ということが求められます。

データ分析は「目的」が先にあるべき

上記のとおり、無尽蔵にデータを溜めるわけにはいきませんから、先に分析の軸を決めることが求められます。つまり、分析の”目的”の明確化が重要なわけです。
何のためにデータを使うのか、どういうことを知りたいのか、という「ビジネスの視点」で考えることさえできれば、おのずと「データのサマライズ方法」が定まります。そうすれば、EMSの膨大なデータを、必要なカタマリで”属性化”して保持することが可能となり、ビジネスにおいて意味のある示唆を見出すことができるでしょう。
今後、EMSに限らず、多くのセンサーデータが世の中に溢れてくるのは避けられない流れです。そんな中で「なんでもできる」という夢物語に目を奪われてしまうのではなく、「自分たちは、何をしたいのか・何を知りたいのか」をしっかりと考えるところから始めることが大切ですね。
関連記事:まずはビジネスを覚えよう|データ分析のお作法
データ分析用語:索引

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