戦コンスキルは起業に役立つか?~プロマネ編~(1):プロジェクトマネジメントから得た学び

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戦略コンサルタントは起業の役に立つのか?

起業後によくされる質問があります。

  • 「戦略コンサルタントの経験は起業や事業運営の役に立っているか。」
  • 「役にたっているなら、どういった経験がどのような点で役にたっているのか。」

この答えにいちいち答えるのが面倒ということもあり、「戦コンスキルは起業に役立つか?(プロジェクト遂行スキル編)」において、コンサルティングファーム時代に経験した学びをざくっとまとめました。コンサルティングファームでコンサルタントとして学んだこと、特に意識付けが大きかったのですが、「前提」「心構え」「行動規範」を中心にまとめました。コンサルタントと言う職業、そしてスキル面もありますが、どちらかと言うとマインド面を知ってもらい、そのような経験が起業に役立つのかと言う観点でまとめました。とは言え、どちらかと言うと、「コンサルタントとしてどう振る舞うべきか」と言う視点が大きかったため、元・現コンサルタントの方には「あるあるネタ」として好評を得たのですが、コンサルタント未経験の方からは「完全に個人的な主観で良いから、結局コンサルタントの経験の何が役に立ったのかもったいぶらずに教えてよ。」と依頼を受ける結果になりました。

戦コン時代の経験が経営に役だっていると思うこと

完全主観にてご要望に直接お答えしようと思います。私が戦略コンサルタントとして経験して、起業後に今の経営に役だっていると思うことをやや散発になりますが記載していこうと思います。

  1. 経営戦略のフレームワーク:
    経営において成功の確率を高めるための定石を実践を通じて学べたことです。ビジネススクールに行けば金を払ってお客さんとして学ぶことを、コンサルタントだとお金をもらって、上司からもクライアントからも本気で死ぬ気で成果を求められるため、もう学んで実践していく気合が違います。笑
  2. 仮説立案能力:
    コンサルタントになる前には「仮説」と言う言葉は知ってはいましたが、実際にはよくわからなかったというのが本音です。当時は所詮思いつきのレベルしかできていなかったです。それが、当たり前にある一定のレベルと精度で比較的容易に仮説を立案できるようになりました。
    「仮説不要論」を訴える方々の主張を見ていると、残念ながらそれは「仮説」ではなく、素人の「当てずっぽう」レベルのことを言って、不要と言っているように感じます。つまり、本物を知らないから役立たないと決めてしまう。
    きちんとした仮説立案には、アナリシス(分解して分析)とシンセシス(統合して解釈)が必要になります。また、アナリシスとシンセシスを使いこなし仮説を立案するには、上記のフレームワークなども踏まえて経営戦略の知識の量がものを言いますし、また経験の量もものも良います。お勉強の量も必要、経験の量も必要というわけです。実は、戦略コンサルティングファームではお勉強も経験もその両方をとてつもない量、かつとてつもないスピードで繰り返しますので、鍛えられ方が半端ではないのです。この辺りは次回以降触れていきたいと思います。
    大胆に言ってしまえば、”仮説を立案する能力”こそが戦略コンサルタントとして身につけた最大の武器であり、起業後に最も役に立っている一つと言っても過言ではありません。
  3. ビジネスプロフェッショナルであることの心構え:
    こちらは前回の「戦コンスキルは起業に役立つか?(プロジェクト遂行スキル編)」において散々言及したことですので割愛しますが、プロフェッショナルであることという全体となるマインド面を鍛えられました。
  4. 擬似経営者として経験。苦悩と怖さ:
    集中と選択と言いますが、何かを選ぶということは、実は何かを捨てなくては行けないのです。「これをやりましょう、よってこれは捨てましょう」と提言することは、実はもの凄く怖い仕事でした。コンサルタントなんて所詮他人ごとでしょ、と言われますが、それでもやっている当人達は完全なる自分事として本気で向き合っております。よって、決める怖さと苦悩を常に体験し続けることができました。
  5. スケールの大きな仕事への関与:
    コンサルティングファームに仕事を依頼するということは、大金を払ってでも解決してほしいほどの困難な内容であることが必然です。大企業に就職すると、30歳やそこらで社運をかけるような重要な判断に関わることはあまりできないかもしれないですが、コンサルタントだと30歳やそこらで大企業の社運をかけるような重要な判断への提言を求められることが多々あります。
  6. プロジェクトマネジメント:
    上記のこともひっくるめて、それらをプロジェクトマネージャとして全て自分で回すことできたことは非常に価値がありました。こちらが本連載のテーマですので、もう少し詳細に説明していきます。

実は、起業後に役だつスキルはプロジェクトマネジメント?

コンサルタントはプロジェクトの責任者をやるのとやらないのでは大きな違いがあります。入社後から若手のコンサルタント時代までは、コンサルトとして、そしてビジネスパーソンとして必要になるスキルをもの凄く学ぶことができます。ですので、戦略コンサルタントを3年程度経験すれば、もの凄く器用で使い勝手の良いスーパービジネスマンが育成されます。ですが、プロジェクトマネジメントを行うにはそういったスキルを使うことは前提ですが、自分の責任のもと、クライアントに意思決定のための提言を行わなくてはなりません。つまり、数千万の費用とそれ以上に貴重な数週間の期間を頂き考えぬいた結果を持って、「自分たちが考えぬいた最終結論はこちらになります。皆様はこのように意思決定頂き、今後はこのように活動くださいませ。」と提言しなくてはなりません。

また、実は先に紹介した仮説立案能力もプロジェクト責任者を多数経験することで更に開花させることになります。戦略立案プロジェクトは死ぬ気で考え抜いた提言をおこなうとはいえ、それはプロジェクトの限られた期間内に考えぬいた「仮の答え」であるとも言えます。その時点では、限りなく正解に近いと思いますが、それでも未来のことに対して絶対的な正解などはなく、あくまで可能性が一番高い仮の答えです。それはプロジェクトがスタートする前から始まり、数週間から3ヶ月のプロジェクトが終わるまで、日々仮の答えを出し続け、その確率と精度を高めていく作業に没頭することになります。実は、それこそが戦略がコンサルティングであると私は理解しております。

ここで「プロジェクトの責任者」と言う言葉を使いましたが、もう少し丁寧に説明していきたいと思います。

戦略コンサルタントが考えるプロジェクトマネージャとは?

戦略コンサルティングファームが求めているプロジェクトの責任者の役割を言葉で書いてみましょう。このような役割をこなす存在はタイトル(役職)としてはパートナーやアソシエイトパートナー(コンサルティングファームにより呼び名は異なる)でしょうが、ここで言いたいのは役職の話ではなく、ロール(役割)になります。

自分を信頼してくれるクライアントを抱え、クライアントから難しい経営や事業の悩みや相談を受け、それらの真因を探り、答えるべき問いを設定し、解決策の方向性と案を提示し、その解決案と実行策を考えるための期間と工数(金額)を算出し、それを提案書にまとめプレゼンテーションしてクライアントにご理解を頂き、最終的には大きな仕事につなげることしか考えていない(コンサルティングファームも自社を経営しているので、責任あるポジションの方はKPIとして金のことしか考えていないのは当然。)社内の上司にもこのプロジェクトの重要性を説明し承認を得て、そして契約書を作成して先方の法務とやりとりをして妥協点を見出し契約を結び、限られた予算と期間の中で最高のアウトプットを出すためにプロジェクトをデリバリーするためのメンバーをアサインし、そして数週間に渡って紆余曲折しながらプロジェクトをデリバリーし、最終報告書を作成し、最終報告書のプレゼンテーションを行い、クライアントの意思決定者に理解と納得をして頂き、意思決定をしていただき、その後はきちんと実行して頂くように働きかけ、最後に滞り無くお金を頂き、そして次の取り組むべきテーマの話題を振り議論を重ね、、、(最初に戻る 以降繰り返し)。これはプロジェクトに責任を持つ人間が結局一人で実行していかなくてはなりません。コンサルティングファームによっては呼び方は違うでしょうが、ここではこれらの一連の行為を「プロジェクトマネジメント」と呼び、それを実行する責任者を「プロジェクトマネージャ」と呼びます。業務系のコンサルティングやIT系のコンサルティングにはありがちですが、工数管理しかしておらず、クライアントの役員ともまともに会話できないような人間はここでは決してプロジェクトマネージャとは呼びません。

結局は得られるものと犠牲にするもののトレードオフ

私自身はプロジェクトマネージャのロールでコンサルティングプロジェクトを何度も回してきた経験が起業後に非常に役立っていると考えております。ですが、正直な話、起業に役立てるには戦略コンサルティングファームでのプロジェクトマネジメントは過剰スペックな可能性もあります。そして、プロジェクトマネージャとして経験を積むということは、比較的長い年月をコンサルティングファームで過ごすことを意味します。これらを経験するには少なくても10年近い時間を投下していく必要があるでしょうから、得られるものと投下する時間という観点でトレードオフになります。それであればその前に、若いうちにコンサルティングファームを卒業して起業してしまえと言う考えもありますし、そのようにして成功している人も実際には多く見ております。また、経験を積んで起業しても失敗している人も多くいます。

  • そもそも起業を視野に入れた場合、戦略コンサルタントになるほうが良いのか?
  • また、なるとしたら、プロジェクトマネジメントを経験して卒業するのと、若くして卒業するのはどちらが良いのか?

前回の「戦コンスキルは起業に役立つか?(プロジェクト遂行スキル編)」と一緒ですが、何がどのくらい役に立ちそうなのかと言う判断は読者に委ねたいと思います。そのため、今回も私からは戦略コンサルティングファームでのプロジェクトマネジメントとはどういうもので、どのような役割で、どのようなことをする存在だったのかを私個人の偏った経験を伝えるだけにとどめ、最後の結論は皆様に決めて頂ければと思います。

今後、下記目次に沿って書いていきますが、色々とお伝えしたいことが増えた場合には、連載回数を増やすことも考えています。長丁場になりますがお付き合い頂ければ幸いです。

第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び ⇒今回
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトの始まり 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告

本連載の記事一覧はコチラから

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