世界一の経験を、仕事にも──セパタクロー日本代表・春原涼太さんが語る“挑戦の両立”
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“空中の格闘技”とも呼ばれる、東南アジア発祥の球技「セパタクロー」。その日本代表として活躍するのが、ギックスの春原涼太です。2025年7月、タイで開催された「第38回 KINGS CUP 世界選手権大会」では、男子クワッド種目(4対4)で悲願の初優勝を達成しました。
今回は競技と仕事、2つの舞台で挑戦を続ける春原に話を聞きました。
目次
「やってきてよかった」と思えた瞬間──セパタクローとの向き合い方
―まずは世界選手権での初優勝、おめでとうございます! その瞬間、何を感じましたか?
ありがとうございます。純粋に嬉しかったのはもちろんですが、周りの仲間やスタッフが喜んでいる姿を見て、「やってきてよかった」と心から思いました。
―改めて、日本代表として世界大会に出場するというのは、どれくらい狭き門なのでしょうか?
そうですね。日本での競技人口は約2,000人と言われていますが、その中で日本代表候補となる「強化指定選手」に選ばれるのは25人ほどです。さらに、今回の世界選手権に出場できたのは15名で、そのうち男子クワッド種目(4人制)に出場できるのは、ベンチメンバーを含めても6名になります。私はゲームキャプテンとして全試合にフル出場させていただきました。
株式会社ギックス DI Office 春原 涼太 東京都出身、慶應義塾大学経済学部卒業。高校まで12年間サッカーを続け、大学入学時にセパタクローを始める。大学3年時に初の国際大会に出場し、卒業後も競技を継続することを決意。現在は株式会社ギックスに勤務しながら競技活動を続けている。 【主な競技実績】 ・2023年10月 第19回アジア競技大会(中国/杭州)クワッド種目 3位 ・2024年12月 第35回全日本セパタクロー選手権大会 優勝 ・2025年7月 キングスカップ世界選手権(タイ/ハジャイ)クワッド種目 優勝 |
―セパタクローをはじめたきっかけについて教えてください。
大学のサークルで出会いました。高校まではずっとサッカーをやっていたのですが、大学では何か新しいことに挑戦してみたいと思って。軽い気持ちで体験してみたら、あまりの難しさに衝撃を受けて…それが逆に面白くて、気づいたらどっぷりハマっていました。
―競技の難しさや魅力について教えてください。
一番の特徴は、やはり足でボールを扱う点と、ボールをコートに落とすと即失点になるというルールですね。もちろん、サッカー経験が役立つ部分もありますが、セパタクローはインサイドキックが基本で、足を高く上げる動作も多く、より柔軟性が求められます。ボール自体も固いので、最初はかなり苦戦しました。
でも、できなかったことができるようになる感覚がすごくはっきりしていて、練習の成果を実感しやすい競技でもあります。アクロバティックな動きと繊細なボールタッチが求められるところも、この競技ならではの魅力だと思います。
さらに、セパタクローには技術書や練習マニュアルといったものがほとんどなく、大学サークルや社会人チームでもコーチがいないのが一般的です。だからこそ、先輩やOBに聞いたり、自分で試して工夫したりしながら上達していくスタイルになります。自分で考えてアクションを起こせる、という点もこの競技の面白さのひとつですね。
―春原さんは「トサー」というポジションですが、どのように決まっていくのでしょうか?
まずは自分のやりたいポジションをやってみて、そこから適性をみて変更する人もいる、という形ですね。
私が考える各ポジションの適性は
- アタッカー:身体能力、ジャンプ力、パワーが必要
- サーバー:軸足を地面につけて足を上げるので、足の長さや身長、柔軟性があると有利
- トサー:地道なことが苦にならない、コツコツ取り組める人
だと思います。実は私は最初アタッカーをやっていたのですが、1年半ほど続けるなかで限界を感じて、トサーに転向しました。自分の性格的にも、積み重ねていくスタイルが合っていたと思います。
ちなみに、トサーがチームのキャプテンを務めることが多いんです。試合中はサーバーとアタッカーをつなぐ役割でもあるので、全体を俯瞰して戦術を考えたり、仲間を鼓舞したりと、プレー以外の部分でもチームを引っ張る役割ですね。
―日本代表を目指すようになったきっかけや、代表選出までにどのような努力をされたのか教えてください。
大学3年の頃、他大学の仲間が日本代表に選ばれたことがきっかけで、「自分もあの舞台に立ちたい」と思うようになりました。
ただ、私は特別に身体能力が高いタイプではなかったので、ひたすら繰り返し練習して、プレーを反射レベルまで落とし込むよう意識していました。勝つためにどんな動きを選ぶべきか、海外選手の動画を見て研究するなど、自分なりに工夫を重ねてきました。
いずれにしても、ただがむしゃらにやるのではなく、「自分の課題は何か」「どこを目指すか」を明確にしたうえで、必要な行動に落とし込んでいく──そんなスタンスを常に大事にしていました。
その結果、社会人1年目のタイミングで、強化指定選手(日本代表の候補選手)に選出いただくことができました。
仕事という“もうひとつのフィールド”──ギックスでの現在地
―現在、ギックスではどのようなお仕事をされていますか?
ミドルオフィスという立場で、当社のサービスをご利用いただくクライアント様との契約周りのサポートや、売上・コストの管理を担当しています。契約業務では、ビジネス上のリスクを確認しながら、クライアント様にもギックスにとっても納得のいく契約を締結できるよう取り組んでいます。
また、最近ではアナリストとして、市場リサーチや課題整理など、コンサルタントに近い仕事も担当させてもらっています。
―ギックスに入社された背景についても教えてください。
社会人1年目では営業職に就いていたのですが、競技との両立が難しくなり、転職を決意しました。2社目はアスリート社員のような枠で入社させていただき、競技を続けながら働ける環境でした。主にマーケティング領域や社内BPR(業務改革)に携わり、幅広い業務を経験できたのはとてもありがたかったです。
その後、2023年9月のアジア競技大会で銅メダルを獲得し、自分の中でひとつの区切りがつきました。それを機に、「仕事の面でも新しい挑戦をしたい」と感じるようになり、そうした思いを軸に転職活動を進める中で、ギックスと出会ったんです。
業務内容に惹かれたのはもちろんですが、制度やカルチャーにも強く魅力を感じました。特に「この環境で働いている人たちは、きっと“自律”しているんだろうな」と思えたことが、志望の大きな決め手でしたね。
両立を続ける、という挑戦
―普段はどのようなスケジュールで、仕事と競技を両立しているのでしょうか?
仕事のある日は8時〜18時ごろまで勤務し、その後19時〜21時に練習という生活です。平日は週に3〜4日ほど練習があり、土日も大会や遠征が入ることが多いですね。体力的に大変だと感じることもありますが、どちらも楽しいので、苦にはなっていません。
ただ、仕事も競技もそれぞれで良いパフォーマンスを出すために、「19時までには仕事を終える」といった時間の区切りを意識して、メリハリをつけるようにしています。
―オンとオフの切り替えはどうしているのですか?
プライベートの時間も、セパタクローの試合動画を見たり、仕事に関するインプットをしたりしているので、正直あまり“完全なオフ”はないかもしれません(笑)。
でも、年に数回は趣味であるキャンプに行くことがあって、そのときはしっかりリフレッシュしています。
―精神面でのコンディション管理は?
モチベーションが落ちた時や結果が出ない時は、信頼できる人と話すことが大きな支えになっています。振り返ってみると、大学時代から試合のあとに仲間とああだこうだ言い合う時間が好きだったんですよね。今でも、そういう対話が自分の助けになっていると感じます。
―ギックスの制度や文化で助けられていることは?
フルリモート・フルフレックスといった制度にはもちろん助けられていますが、それ以上に、同僚の皆さんの理解や応援にとても励まされています。大会に足を運んでくれる方もいますし、試合動画を見て声をかけてくれる方もいて、本当にありがたいですね。
仕事が競技を支え、競技が仕事を強くする──これからの挑戦
―セパタクローという競技を通じて得た力が、仕事に活きたと感じる場面はありますか?
一番は、逆算して考える力と、毎日積み重ねていく習慣ですね。代表選出や大会といった目標に対して、「今の自分に何が必要か」を考え、試行錯誤しながら行動に落とし込んでいく。その思考プロセスや継続力は、そのまま仕事にも活きていると感じます。
試合で勝つために練習を積み重ねるように、仕事でも成果を出すための準備を怠らない、という意識は自然と染みついているのかなと思います。
具体的な業務で言うと、契約交渉やBPRなどでゴール設定を行う際、まず目的を明確にしてからアプローチを組み立てるという考え方は、競技で身についた視点です。
また、たくさんの人に見られる中で自分のパフォーマンスを発揮するという点でも、仕事と競技に共通点があると考えています。
―逆に、ギックスでの仕事で得た視点が、競技に還元されたと感じたことは?
たとえばチームミーティングの進め方は、ギックスの先輩方を参考にしています。議論に入る前にスコープを明確にしておくことで、話の論点がぶれにくくなる。こうした会議の“型”のようなものが、試合後の振り返りや、方針決めの場面で非常に役立っています。
―今後の目標を教えてください。
競技では、2026年9月に名古屋で開催されるアジア競技大会での金メダル獲得を目指しています。アジア競技大会は4年に一度の、いわばアジア版オリンピックのような大会で、約30年ぶりに日本開催となります。ここでの優勝が日本セパタクロー界全体の悲願でもあり、個人としても強い思いを持って臨みたいと思っています。
仕事の面では、できることを増やしていきながら、お客様に寄り添って本質的な課題解決に貢献できるコンサルタントとして、様々な案件に関われるようになっていきたいと考えています。
―競技にも仕事にも真摯に向き合い、日々挑戦を重ねている春原さんの姿に、多くの人が励まされるのではないでしょうか。これからのさらなるご活躍を、心から応援しています!
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