セマンティックレイヤーの構築において重要な「データの粒度」と「意味の付与」
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- POSTED : 2026.05.11 08:00
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ゾクセイ研究所所長の山田です。近年、「セマンティックレイヤー(Semantic Layer:意味層)」という言葉が注目を集めています。その背景にあるのは、生成AIの活用です。
セマンティックレイヤーで生成AIが扱いやすいように情報を整備しておくことで、ビジネスの文脈をふまえて自然言語でデータを扱えるようにしようという取り組みが行われています。
一方で、従来からのデータ基盤の文脈では、セマンティックレイヤーは「ビジネス上の定義を統一するためのレイヤー」として捉えられています。
BIツールなどを使ってデータを可視化する際、共通のルールが無いとデータを扱う人によって集計の条件が変わり、結果的に可視化される数値が変わることもあるため、データをもとにした議論・意思疎通が難しくなってしまいます。これを避けるため、セマンティックレイヤーでデータの扱い方のルールを揃えます。
生成AIのインプットとして使うにしろ、BIツールのインプットとして使うにしろ、データの取り扱い方のルールを作ることで、自由度を小さくし、その後の処理で繰り返し扱いやすくするという点は共通しています。
一方で難しい点として、ルールを作りこんでしまうと、自由度が小さくなりすぎてしまい、その後段のステップでのデータ活用における汎用性が失われてしまいます。これにより、ごく狭い領域での質問にしか正しく回答できない生成AIになってしまったり、軸や指標を全く変更することができない”定型帳票”になったりしてしまいます。
つまり、セマンティックレイヤーは、再現性高くデータを扱えるようにルールを作りつつも、そのルールがデータ活用の汎用性を妨げないようにするという、“良い塩梅”で作ることが必要です。
では、この“良い塩梅”のセマンティックレイヤーをどのように構築したらよいのでしょうか。ギックスでは、「データの粒度」と「意味の付与」を意識することが有用だと考えます。
データの粒度:何を対象とするかを決める
我々は、データにおいて着目する単位のことを「データの粒度」と呼んでいます。データテーブルにおいては、「1行が何を表しているか」という単位になります。
例えば、小売のID-POSデータでは、
- 年度別の売上:「年度」が粒度
- 月別×店別の売上:「月×店」が粒度
- 週別×商品別の売上:「週×商品」が粒度
になります。
この粒度は、ビジネス側で打ち手を考えていく上で、どの単位に着目したいのかによって決まるものです。
- 今後の年度ごとの売上計画を考えるうえで「年度別の売上」のデータが必要である
- 翌月、施策を注力する店舗を決めるために「月別×店別の売上」が知りたい
- 再来週のセール商品を検討する上で、「週別×商品別の売上」を把握しておきたい
というように、データの粒度は基本的には打ち手を考える際の単位と紐づくものです。
セマンティックレイヤーの構築においても、データの粒度が重要です。セマンティックレイヤーでは後述するようにデータに対して意味を付与するのですが、何に着目して意味を付与するのかという対象物を決める必要があります。
先ほどのID-POSデータの例で考えると、「年度別の売上」は「年度」に着目し、「年度」に対して意味を与えようとしています。売上が多かった年度は「事業が好調だった年度」、逆に売上が少なかった年度は「事業が不調だった年度」という意味を与えることができます。
何に着目するかによって、必要となるデータの粒度が変わります。必要なデータの粒度が変われば、セマンティックレイヤーでどのようにデータを整備するのかも変わることになります。
つまり、「何に着目するか」が明確でないと、セマンティックレイヤーを設計することができないわけです。
意味の付与:意図によりデータへ意味を与える
セマンティックレイヤーは直訳すると「意味層」になります。ではそもそも、データにおける「意味」とは何でしょうか。
データは、何かしらの事実が記録されたものです。前述のID-POSデータでは、(顧客が購入する)商品がレジを通過した、という事実が積み重なったものです。そして、事実そのものに「意味」はありません。
少しデータの話から外れますが、人はあらゆる事実に対して意味を持たせるということをします。
「雨が降っている」という事実に対して、多くの人は「今日は天気が良くない」という意味を与えています。良いか悪いかはあくまで主観です。仮に水不足で困っているという状況であれば、「雨が降っている」という事実に対して「恵みの雨だ」という意味を与えることになるかもしません。
同じ事実に対しても状況が違えば与える意味は変わりますし、また同じ状況でも人によって与える意味は変わることもあります。
データの世界も同じです。「自社の売上は前年度に比べて10%増えた」という事実に対して、多くの場合は「今年度は好調だった」という意味を与えます。
しかし、競合他社は売上を20%伸ばしていたとしたら、自社は好調と言ってよいのでしょうか。あるいは、売上を15%伸ばすことを今年度の目標に置いていた人にとってはどうでしょうか。これらの場合、「自社の売上は前年度に比べて10%増えた」という事実は「今年度の売上は十分ではなかった」という意味を持つようになります。
つまりは、同じように集計した同じ数値だとしても、状況や人によって意味は変わるのです。
セマンティックレイヤーを整備するということは、状況や人によって変わってしまう「意味」を、「意図を持って定める」ことと言えます。重要なのは「意図を持って」という部分です。意味は能動的に付与するものです。
ID-POSデータの例で考えてみます。
「年度別の売上」には経営層が事前に設定した売上計画と対比させて、計画を上回ったか下回ったかで、「良かった」「悪かった」という意味を与えることにしたとします。この時、意味を持たせる対象は「年度」です(全店舗を集計対象にしている場合は、暗黙的に「当社全体×年度」を対象にしていることになります)。ある「年度」に対して、良かったかどうかという意味を、売上計画を上回ったかどうかにより判定して、付与することになります。当然ながら、この判定には売上計画についての情報が必要になるので、売上計画のデータをセマンティックレイヤーが参照できるようにする必要が出てきます。
このように付与したい意味があって、この意味の付与のために必要なデータ整備をするということが必要です。
また、データに対して意味を付与するにあたり、前述のデータの粒度が大事になります。何に対して意味を付与するのかによって、同じ項目を使って集計したとしても意味が変わることがあります。
ID-POSの例では、「売上」の項目を使って集計することを考えたときに、同じように売上の金額が大きいとしても、「商品」に着目する場合は「よく売れている商品」、「人(会員)」に着目する場合は「よく利用している人」というように、付与できる意味が変わってきます。
このように「何に対してどのような意味を付与するか」を決めていくことがセマンティックレイヤーの構築には必要です。
セマンティックレイヤーを構築するアプローチ
セマンティックレイヤーを構築するにあたり、何に対してどのような意味を付与するかについて、誰の意図によって決めていくかですが、最終的な判断をするのはセマンティックレイヤーを管理する人、すなわちシステム部門やデータ活用部門であるべきと考えます。
しかしながら、経営層や現場部門の意図も当然反映させる必要があります。どのように反映させていくかについては、我々としては「実際にデータを見ながら議論して決める」というアプローチが良いと考えます。
意味を付与する対象のデータは、すでにシステムに溜まっていることがほとんどだと思います。であれば、データを可視化しながら、「何に対してどのような意味を付与するとよいか」を考えていくことで、関係者間での認識の齟齬をなくすことができますし、より使われるセマンティックレイヤーになっていくと考えます。
ギックスでは、これまで多くのデータ分析プロジェクトの中で「データの粒度」や「意味の付与」に重きを置いて分析を実施することで、クライアントのデータ活用を支援してまいりました。ここで得られた「データの粒度」や「意味の付与」に関するノウハウを使うことで、実用性のあるセマンティックレイヤーの構築ができるものと考えています。
セマンティックレイヤーはツールではなく設計の問題です。もし設計で悩まれている場合は、ぜひ一度ご相談ください。
※参考:ギックス、データ基盤の「セマンティックレイヤー構築支援」を本格提供 独自メソッドで企業のAIインフラを整備、生成AI時代の“判断高度化”を支える基盤を構築(2026.03.24 )https://www.gixo.jp/news-press/29917/
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