データやAIに「支配されない」ために─DXを前に進めるIT・組織・人材の考え方
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- POSTED : 2026.01.30 09:30
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データやAIの活用が急速に広がる一方で、DXやAI導入に取り組んでも、PoC(実証実験)止まりや局所的な活用に留まり、期待した成果につながらないケースも少なくありません。
BIPROGY研究会のマネジメント層向けセミナーに登壇した当社執行役員の加部東 大悟(かぶと だいご)は、こうした状況に対し、データやAIに“支配される”のではなく、人が主役となる意思決定を支えるものとして活用するために、企業がいま考えるべき視点を語りました。
本記事では、講演内容の一部を抜粋して紹介します。
DXが進まない背景にあるもの
本質的なDXを考える視点とは
まず、昨今の「DX」には大きく2つの捉え方があると考えています。
ひとつは「デジタル化による短期成果の獲得」です。
例えば、資料の電子化や、タブレット端末・音声認識ツールなどの導入、生成AIによる業務改善などがこれに該当します。
もうひとつは、ビジネスモデルや業務プロセス、組織文化そのものを変革し、ITの力で企業の競争力を抜本的に高めていく取り組み―つまり「本質的なDXによる中長期成果の獲得」です。
特に後者を推進するためには、IT技術だけでなく、組織・業務・人材まで含めた複数の観点で変革を進める必要があります。その要素と全体像を整理したのが次のフレームワークです。
DXが進まないのは、前提となるルールが変わったから
しかし現実のDXは、なかなか理想通りには進みません。実際の現場では、次のような課題をよく目にします。
- 様々な業務支援ツールを導入したが、組織全体で見ると局所的な活用にとどまっている
- そもそもの根本となる、全社的な活用方針やデジタル戦略が未整備
- データ基盤(DWH、CDPなど)を構築したものの、現場業務への活用設計が不十分で、成果を出せていない
- 部門間ごとにデータ定義が異なるうえ、組織のサイロ化や縦割り構造によって連携・活用が進まない
- AIやツールのPoC(実証実験)を繰り返すが、業務変革や組織への定着まで至らず単発の取り組みに終わってしまう
- 社内にデータ・AIを活用できる人材が不足している
理想通りに推進できない一因として、IT業界やシステムを取り巻くルールが大きく変わったことが挙げられます。
ターニングポイントの1つは、2006~2007年にかけてのAWS(Amazon Web Services)やiPhoneの登場です。それまでシステム開発は、最初に決めた設計と計画をもとに「堅く作って長く使う」ことが前提でした。しかしクラウドネイティブ技術によって「新しい技術で改善し続ける」ものへと変化したのです。
この考え方は、ITシステムだけでなく企業活動そのものにも影響を与えています。
さらに、2018年にはOpenAI社がGPT-1(Generative Pre-trained Transformer)を開発し、生成AI新時代が幕開けしました。これによりもはや「ルール自体が刻々と変化する」という世界になっているのが現在です。
一方で、多くの企業では、組織・業務の仕組みや経営戦略の描き方が、こうした変化に十分追いついていません。もはや、将来を予測して計画の策定・推進を行うことが格段に難しくなっています。
そこで我々は「どういう未来が来るかわからないのであれば、どうなっても対応できるようにしておく」ことを勧めています。従来のように10年後の姿から逆算した固定的な計画を作るのではなく、日々アップデートする前提で戦略を描く必要があるのです。
変化の時代に、ITシステムはどうあるべきか
「回復力」と「適応力」
では、変化するルールの時代において、ITシステムはどうあるべきでしょうか。
必要なのは「柔軟に変わり続けること」を前提にしたシステム設計の発想です。つまり、密結合した(相互に強く依存し、変更・拡張の余地があまりない)大きく堅牢なシステムを長期間使い続けるのではなく、分散した疎結合なシステムで、必要に応じて機能を柔軟に入れ替えられる構造にしておくことです。
その際に備えるべき力が、「回復力」と「適応力」です。
回復力とは、障害が発生したときに影響範囲を限定し、全体を止めずに復旧できる力を指します。
一方、適応力は、変更や再利用、新しい仕組みを導入しやすい状態を保つ力です。ここで大切なのは、変化していくことを前提に業務サイクルとシステムを構築し、業務とともに育てていくものとして活用する視点です。
この2つを備えたシステムは、リソース最適化によってコストを抑えながら、高い信頼性と競争力を実現できるのです。
「全体最適」のUX設計
昨今、多くの企業が「社内に多様なシステムがあるが使いにくく、UX(ユーザー体験)の改善を迫られている」「生成AI活用で解決したいが、自社のレガシーなシステムに対してどのように生成AIを組み込めばよいかわからない」という悩みを抱えているでしょう。
しかし、各システムで個別に生成AIを導入して最適化しても、企業成長のための根本的な解決には至りません。
AIを導入したシステム活用の理想イメージとしては、
「ChatGPTに“今の当社の経営状況はどうだろう?”と問うと、経理、労務管理、売上ダッシュボードなど複数のシステムから情報を横断的に集約し、適切な回答を返してくれる」
といった姿が挙げられます。
これを実現するために必要なのが「全体最適」観点でのUX設計です。
私たちは、既存のレガシーシステムをすべて作り替えるのではなく、その上に対話型AIエージェントによって各システムを包む統合層を設け、ユーザーが複数のシステムやサービスにシームレスにアクセスできるシステム構築を支援しています。
ギックスではこのアプローチを「AI wrapping(AIラッピング)」というサービス(※)として提供しており、初期段階では1つのシステムに絞ってPoCを実施し、段階的に拡張する形でAI導入を支援しています。
これにより、AI活用による業務効率化をはかりながら、個別システムのアジリティ(敏捷性)向上やコスト削減を図り、結果としてシステム全体のモダナイズにつなげることが可能になります。
※ギックス、分散するシステムを“対話型AI”で統合する新サービス「AI wrapping(AIラッピング)」提供開始(2025.10.02)https://www.gixo.jp/news-press/28625/
組織・業務と人材が備えるべき機動力
DXを阻む「組織」と「業務」という壁
ITシステムの変革だけでは、社内の人材やその行動に直接の成果を与えることはできず、“本質的なDX”の推進には届きません。
ここで冒頭で示したフレームワークをもう一度見てみましょう。「情報技術(IT・DX)」と「人材」「行動」の間には、「組織」と「業務」という壁があります。この2つもセットで変革を行うことで、ようやく人材と行動の変化につながるのです。
機動力を生む鍵は「内製化」にある
ITシステムが「柔軟に変わり続けること」を前提とするのであれば、組織と業務にもそれに応じた機動力が求められます。そのためのキーワードの1つが「内製化」です。
組織内に自社の事業や文化を理解しているデジタル・AI人材がいることで、外部ベンダーへ依頼するよりもスピードを持って業務を進めることが可能になりますし、ノウハウが社内に蓄積されるというメリットもあります。
しかし、こうした人材は市場でも引く手あまたです。既存の人事評価制度のままでは、採用や定着につながらないケースも少なくありません。
そのため、デジタル・AI人材向けに部門や制度を分けて整備したり、自前やJV(ジョイントベンチャー)という形で子会社を設立し、より柔軟な枠組みを設けたりする企業も増えています。そこでは評価や報酬、働き方を含め、人材を惹きつける制度やカルチャーの設計が重要になります。(※)
ただし、DX推進において外部ベンダーを使うな、という話ではありません。新しい実験的な取り組みに対しては、社内体制を整える前に、柔軟なリソースとして外部の力を活用した方が機動的に始められる場合もあります。
そして、事業としての道筋が立ち、継続・高度化していくフェーズでは、内製人材でオペレーションを組んで業務を進め、ノウハウを貯めて発展させていく――こうした段階的な使い分けが、効果的なアプローチだと考えています。
※「内製化なくしてDXなし」──大企業の変革を支える“DIGITAL BOOST”とは何か DXを本質的に進めるための新たな支援策とは?(2025.08.20)https://www.gixo.jp/blog/28343/
「事業を知っている人」がDXを前に進める
事業課題をもとに問いをデザインする、分析すべきデータと切り口を設計する、分析結果を解釈し、打ち手につながるインサイトを抽出する――このような、成果につながるデータ・AI活用は、実際の事業を理解していなければ実現することができません。内製人材は、データ分析と、データをビジネスに活かす、両方の視点を意識し、デジタルと現場業務の橋渡しをすることが重要な役割です。
そのために外部から高度なスキルを持つ人材を採用することも有効ですが、同時に社内に目を向けることも欠かせません。データ活用に高い好奇心を持ち、自社事業を深く理解している人材が、組織の中にまだまだ眠っている可能性もあります。
そうした社員を見つけ、内製人材として投資・育成していくことが、機動力のある組織・業務実現のためには重要だと考えています。
おわりに
今回は、急速な変化が前提となった時代における本質的なDXの推進について、ITだけでなく、組織や業務、人材を含めて柔軟に変化し、適応していくことの必要性を整理しました。
データやAIの活用がどんどん高度化していますが、それらはあくまで意思決定を支える存在であり、判断の主役は“ヒト”です。それが私たちギックスの提唱する「Data-Informed(データインフォームド)」という考え方です。
データやAIに“支配される”のではなく、それらを使いこなしながら意思決定できる企業であり続けるために、本セッションがヒントとなれば幸いです。
※参考記事
・DIサミット基調講演「JR西日本グループ企業変革物語〜ゆでガエルからの脱却〜」レポート(2024.06.19)https://www.gixo.jp/blog/24802/
・DIサミット2025セッションレポート「JR西日本におけるシステムモダナイゼーションの取り組み」(2025.06.13)https://www.gixo.jp/blog/27690/
※記載内容は2026年1月時点のものです。
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