ギックスは、何の会社なのか?|代表取締役CEO 網野知博インタビュー

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ギックスは、人で価値を生み出し、仕組みで取り続ける会社 

企業のIR(Investor Relations)は、単に事業内容を説明するものではありません。
「何の会社なのか」「なぜ選ばれるのか」「どのように成長していくのか」を、投資家や市場に対して、一貫した言葉で示す営みでもあります。

ギックスはこれまで、クライアント企業の課題解決を支援する会社として、価値を提供してきました。
そのため、外部からはコンサルティング会社、システム開発会社、あるいはデータ活用支援会社のように見られることも少なくありません。

しかし、その見え方だけでは、事業の本質を十分に表しているとは言えません。

本記事では、ギックス代表取締役CEO 網野へのインタビューを通じて、「新しいIRの方向性」をテーマに、ギックスの事業をどのように捉えるべきかを整理します。


1. ギックスは、何の会社なのか

――まず、今回のテーマである「新しいIRの方向性」について、問題意識から教えてください。

網野:
ギックスはこれまで、クライアント企業の課題解決を支援する会社として価値を提供してまいりました。
実際、当社の人材がクライアントに向き合い、課題を整理し、分析し、仕組みをつくり、実装し、成果に向けて伴走してきました。

そのため、外部からはコンサルティング会社、システム開発会社、あるいはデータ活用支援会社のように見られることがありました。
それ自体は、必ずしも間違いではありません。
ただ、それだけでは私たちの事業の本質を十分に言い表せていないのではないかと考えています。

――では、ギックスの事業の本質は、どこにあるのでしょうか。

網野:
私たちが本当に行っているのは、クライアント支援を通じて再利用可能なソフトウェア資産や業務資産を蓄積し、それによって次の価値提供をより強いものにしていくことです。

表面的にはコンサルティングなどのサービス提供から始まることが多いのですが、構造としては“サービス企業に見えるソフトウェア企業”と捉えるほうが、実態に近いと考えています。この構造により、人員数だけに依存しない成長を実現していくことを目指しています。
さらに申し上げるなら、人による価値提供を起点として、ソフトウェア、ツール、アルゴリズムなどの資産が積み上がっていく会社だと認識しています。

――それは、IRの見せ方を変えるというより、事業の捉え方そのものが変わるということですね。

網野:
単なる言い換えではなく、私たち自身の事業認識そのものを見直す話です。
自分たちの事業をどう理解するかによって、何を伸ばすべきか、何を評価すべきか、そして何を投資家に伝えるべきかが変わります。

したがって、「新しいIRの方向性」を考えるということは、見せ方を整える以上に、自分たち自身の事業認識をより高い解像度で言語化し直すことなのです。

株式会社ギックス 代表取締役CEO/Marketing & Sales (M&S) Division Leader
網野 知博

慶應義塾大学卒業後、株式会社CSK(現SCSK株式会社)、アクセンチュア株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社を経て、 2012年、株式会社ギックスを創業。「あらゆる判断を、データインフォームドに。」を企業のパーパスとして掲げ、様々な業界、領域のビジネス判断へのデータ活用を推進。

2. クライアントが抱えているのは、「単発では解けない構造課題」

――そのような事業認識に至った背景には、クライアント企業のどのような課題があるのでしょうか。

網野:
多くの企業は、意思決定の高度化や生産性向上の必要性を、すでに十分理解されています。
データを活用したい、業務を効率化したい、現場と経営をつなぎたい、新しい顧客体験をつくりたい。
そうした課題意識そのものは、すでに存在しています。

ただ、現実にはそれを継続的に前進させることは容易ではありません。
これは個人の能力や意思だけの問題ではなく、企業側に構造的な制約があるためだと捉えています。

――構造的な制約とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

網野:
たとえば、日々の業務に追われて改善に十分な時間を割けないことがあります。
分析を担える専門人材が不足している場合もあります。
担当者の異動によってナレッジが断絶し、取り組みが積み上がらないケースも珍しくありません。

また、システムを導入しても現場で運用が定着せず、成果につながらないこともあります。
こうした状況では、個別の分析やレポートは出せても、意思決定や実行の質が継続的に高まるまで至りません。
つまり、クライアントが本当に困っているのは、「分析してほしい」「システムを導入してほしい」という単発の要望だけではないのです。

――本質的には、どこに困りごとがあるのでしょうか。

網野:
意思決定と実行が、継続的に改善される状態をどうつくるか、という点にあると思います。
この課題に対しては、単発の助言やシステム開発、パッケージ提供だけでは十分ではありません。

クライアントが必要としているのは、成果そのものに加えて、成果が出続ける構造です。これは単発投資ではなく、継続的にリターンを生む状態をつくるという点で、本質的な価値だと考えています。私は、そこに対して価値を出すことがギックスの役割だと考えています。

3. 価値提供の核は、「AIで強化された人」と「再利用可能な仕組み」

――その構造課題に対して、ギックスはどのように応えているのでしょうか。

網野:
私たちの価値提供の本質は、「AIで強化された人」と「再利用可能な仕組み」の組み合わせにあります。

ここで重要なのは、私たちはAIそのものを売っている会社ではない、という点です。
AIはもちろん重要です。ただし、主役ではありません。
AIは、人の生産性やアウトプットの質を高め、資産化のスピードを上げるための武器だと考えています。

――クライアントがギックスから買っているのは、AIそのものではないということですね。

網野:
クライアントが買っているのは、AIそのものではなく、成果につながる支援能力です。
そして、その支援能力は、人だけでも成立しませんし、仕組みだけでも成立しません。

当社の人材がクライアントの現場や事業に入り込み、課題を整理し、意思決定を支援し、実行を前に進める。
その過程で得られた知見、判断の型、業務フロー、データ構造、分析テンプレート、機能モジュールなどを、再利用可能な形で蓄積していく。
この両輪によって、クライアントに対して継続的に価値を出せるようにしているのです。

――単に「その場の課題だけを解決する会社」ではない、ということですね。

網野:
私たちは、課題が解決され続ける構造を、クライアントの中と当社の中の両方につくっていく会社です。

クライアントの中には、意思決定や運用が回り続ける状態をつくる。
当社の中には、次の案件で再利用できる資産を蓄積する。

この二重の構造が、ギックスの価値提供の特徴だと考えています。

4. 「人で解決する」と「仕組みで解決する」は分断されていない

――価値提供の本質として挙げていた「人」と「仕組み」について、詳しく教えてください。

網野:
「人」で解決するアプローチは、AIで強化された当社のコンサルタントがクライアントに伴走し、事業課題や組織課題に向き合いながら、継続的に成果を出していくモデルです。

【例】
・DIコンサルティング:データで意思決定を高度化する支援
・AI wrapping(AIラッピング):既存システムを生成AI readyにアップグレード支援

「仕組み」で解決するアプローチは、ギックスが蓄積・開発してきたモジュールやアセットを、より再利用性の高い形でクライアントに提供するモデルです。

【例】
・マイグル:「データ・AI×ゲーミフィケーション」により顧客の行動変容を設計するプラットフォーム
・CU/ADS(クアッズ):企業の顧客データ基盤をアップグレードするための機能・モジュール群

――二つのアプローチは、別の事業と見るべきなのでしょうか。

網野:
分断して考えるものではありません。
コンサルタントによる支援と仕組みによる提供は、別々に存在しているのではなく、相互に接続しています。

コンサルタントがクライアントの中に入ることで、本当に必要な仕組みが見えてくる。
仕組みが蓄積されることで、コンサルタントの支援はより速く、より高品質になります。
この循環こそが、ギックスの強みです。結果として、人の稼働だけでなく、仕組みによる価値提供の比率が高まっていく構造になります。 

5. ビジネスモデルは「人で入り、仕組みで取り続ける」

――「人」と「仕組み」の循環は、ビジネスモデルとしてどのように成立しているのでしょうか。

網野:
私たちの案件やクライアントとの関係は、単発で終わるものではありません。
むしろ特徴は、限定的なテーマから小さく入り、関係を深め、仕組みとして残りながら、継続的に広がっていくことにあります。

入口は単発(ショット)支援かもしれません。
特定の課題やテーマに対する分析や改善支援から始まることもあります。
しかし、そこから継続的な伴走へと進み、クライアントの意思決定や実行そのものに深く関わるようになります。
さらに、その中で生まれた型や仕組みがモジュールとして切り出されることで、より再利用性の高い価値提供へと進化していきます。

――最終的には、クライアントの業務基盤の一部になる可能性もあるということですね。

網野:
はい。その通りです。
クライアント自身のサービスや業務の中に組み込まれ、日常的に使われる基盤の一部になることもありえます。
もちろん、すべての案件が同じプロセスをたどるわけではありませんし、最初からモジュール導入や組み込みの形で始まることもあります。

ただ、構造として重要なのは、私たちの提供価値が単発の労働提供だけで閉じず、継続性と再利用性の高い形へ進化しうることです。この進化の過程は、ショット支援から伴走、モジュール導入へ段階的に深まっていくことが多く、クライアント単位での収益拡大にもつながります。 

――その特徴を一言で表すと。

網野:
「人で入り、仕組みで取り続ける」という表現が、もっとも実態に近いと思います。

6. なぜ収益性が高まるのか――経験が資産に変わる構造

――このビジネスモデルは、どのように収益性と結びついているのでしょうか。

網野:
重要なのは、「どのように利益成長するのか」を自分たちでも構造的に理解することです。
私たちは人が価値を生み出す会社です。ただし、単に人数を増やして売上を積み上げるだけの会社でもありません。

プロジェクトを通じてソフトウェア資産や業務資産が蓄積され、それが次の価値提供に寄与することを目指しています。

――経験が、そのまま会社に残っていくわけですね。

網野:
はい。
ある案件で構築した分析の型、業務フロー、機能部品、データモデル、判断ロジックは、次の案件ではゼロからつくる必要がなくなります。
仮にそのまま流用できなくても、土台として活用できれば案件の立ち上がりは早くなります。

加えて、過去の知見が蓄積されることで、問題発見、仮説構築、設計、実装、改善といった一連のプロセスそのものが洗練されていきます。
その結果として、より速く、より安定的に、より高品質に、より高い付加価値で価値提供を実現できるようになります。

――単なる効率化ではなく、一人ひとりの価値創出能力が上がっていくということですね。

網野:
はい。まさにその通りです。
ですので、当社の売上や利益の伸びは、単なる人数増加だけでなく、生産性向上でも説明されるべきだと考えています。具体的には、一人当たり売上や粗利といった指標にその成果が現れていきます。

コンサルティング会社は高度な支援が可能である一方で、その成果が会社全体の再利用資産として残りにくい場合があります。
SI企業は仕組みの構築に強みがありますが、案件ごとの個別性が強く、再利用性が限定されやすい傾向にあります。
SaaS企業は再利用性が高い一方で、クライアントの複雑な現場課題に深く入り込むことが難しいケースがあります。

ギックスは、コンサルタントが現場に入り込めることと、その経験を仕組みとして再利用できることの両方を持っています。
だからこそ、人による価値提供を行いながら、ソフトウェアで収益性を高めていくことを目指しています。

――その特徴を象徴する言葉がありますか。

網野:
「経験がコストではなく資産になる会社」という表現が、非常に本質的だと思います。

7. AIは主役ではなく、「増幅器」である

――近年は、AIをどのように語るかも企業にとって重要な論点です。

網野:
そうですね。AIは重要ですが、過度に前面に打ち出すと、私たちの本質が「AIを売っている会社」であるかのように見えてしまうリスクがあります。
はじめにお伝えしたように、私たちはAI単体を価値の中心として提供しているわけではありません。

ギックスにとってのAIは、人の生産性とアウトプットの質を高め、資産化のスピードを上げるための基盤技術です。
言い換えれば、AIはサービスの主役ではなく、人と仕組みを強くするための増幅器です。当社の競争力は特定のAI技術ではなく、AIを組み込んだ事業構造にあると考えています。 

――IR上でも、その位置づけが重要になるということですね。

網野:
はい。
主役はあくまで、クライアントの成果を生み出す事業構造です。
AIはその構造を加速させる要素として位置づけています。一時的なテーマ性や技術トレンドではなく、企業としての継続的な競争力にしたいと考えています。

8. 何をKPIとして見るかで、事業理解は変わる

――ギックスの事業を正しく理解するうえで、どのようなKPIが重要でしょうか。

網野:
売上高や案件数だけでは十分ではありません。
大事なのは、このモデルが本当に機能しているかを示す指標です。

最も重要なのは、生産性に関するKPIです。
具体的には、一人当たり売上高、そして一人当たり粗利(売上総利益)です。
AI活用やソフトウェア資産の蓄積が進めば、最終的にもっとも分かりやすく表れるのは、一人当たりの価値創出能力だからです。

――ほかに見るべき指標はありますか。

網野:
次に重要なのは、ビジネスモデルの進化を示すKPIです。
単発支援、伴走支援、モジュール導入などの売上構成比や取引先数を見ることで、提供モデルがどの方向に変化しているかが分かります。

加えて、クライアントとの関係深度を示すKPIも重要です。
クライアントあたりの売上分布、上位クライアント売上比率、継続売上比率などを見ることで、当社がどれだけ深く価値提供できているか、そしてどれだけ継続的な関係を築けているかが見えてきます。

――つまり、見るべきポイントは三つあるということですね。

網野:
1.生産性が上がっているか。
2.提供モデルが進化しているか。
3.クライアントとの関係が深まっているか。

この三点がそろって初めて、私たちのビジネスモデルが健全に前進していると言えると思います。今後はこれらの指標を継続的に開示し、事業構造の変化を可視化していきます。 

9. なぜ今、事業の捉え方を再定義するのか

――ここまで伺ってきた事業認識の整理は、社内の意思決定にも変化をもたらすのでしょうか。

網野:
こうして事業の捉え方を見直すことは、当社自身が、自分たちの事業をより正確に理解するために必要だったと考えています。

もし自分たちを「案件を受けて解決する会社」とだけ捉えるなら、評価軸は社員数×稼働率による売上規模だけを追うことになります。
すると、蓄積される資産や、再利用による生産性向上、クライアントとの関係の深まりといった、本来重要なものが見えにくくなります。

一方で、自分たちを「クライアント支援を通じてソフトウェア資産を蓄積し、人の価値を拡張していく会社」と捉えるなら、日々の仕事の意味も変わってきます。
目の前の案件をこなすだけでなく、その中で何を資産化できるか、どう再利用していくか、どう次につながる形で残せるか、という視点が自然と強くなります。

――社内の判断基準にも影響するわけですね。

網野:
これはIRのためだけではありません。事業運営のためにも重要です。
これまでの実践の中で、事業としての手応えと同時に、収益構造上の課題も明確になってきました。特に、人員増に依存した成長や、案件単位での収益の振れといった点は、今後の成長における制約になり得ると認識しています。今回の整理は、それらを踏まえ、より再現性のある成長モデルに移行するためのものです。
社内で共通認識がそろうことで、各事業、各チーム、各案件の判断基準もそろいやすくなると考えています。

10. ギックスは、何の会社なのか

――ここまでのお話を踏まえて、改めてギックスは何の会社だと捉えるべきでしょうか。

網野:
ギックスは、AIそのものを売る会社ではありません。
また、単に課題解決を支援するコンサルティング会社でも、SI企業でも、SaaS企業でもありません。

私たちは、AIを活用する「人(コンサルタント)」がクライアントの現場に入り込んで成果を出し、その過程を「仕組み」として蓄積・再利用することで、クライアントの継続的成長と自社の生産性向上を両立する会社です。

案件ごとに価値提供が完結するのではなく、案件を経るたびに資産が積み上がる。
経験はコストとして消費されるのではなく、再利用可能な資産という形に変換される。
その蓄積によって、同じ人数でも出せる価値が大きくなっていく。

この構造により、複雑な課題の現場に深く入り込みながら、継続的に価値を生み出し続けることが可能になります。
よって私たちは、サービス提供の会社に見えながら、実態としては資産蓄積型の成長企業なのです。

この見方で自分たちを語ることで、何の会社なのか、なぜクライアントに選ばれるのか、どう伸びるのか、なぜ収益性が高まるのか。
それらが一本のストーリーとしてつながります。今後はこのストーリーを、実績とKPIの両面から継続的に開示し、事業構造の変化と収益性の向上を明確に示していきます。 


※記載内容は2026年5月時点のものです。

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