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DIサミット2025セッションレポート「北海道ガスがデータで創る未来 〜情報プラットフォームXzilla(くじら)による新たな挑戦~」

AUTHOR :   ギックス

2025年4月22日に当社が主催した「GiXoデータインフォームド・サミット2025」のパネルディスカッション「北海道ガスがデータで創る未来 〜情報プラットフォームXzilla(くじら)による新たな挑戦~」のセッションレポートをお届けします。

登壇者紹介

パネリスト:
・北海道ガス株式会社 エネルギーサービス事業本部 設備技術サービス事業部 
 設備技術部 機器施工グループ 松澤 圭祐 氏
・BIPROGY株式会社 パブリックサービス第一本部 北海道公共サービス一部 山本 祐滋 氏
・株式会社ギックス DI変革 Div. ショーン・カー
モデレーター:
BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AI開発部 部長 横田 賀恵 氏

本レポートでは、パネルディスカッションの内容を一部抜粋してご紹介します。

北海道ガスのデータ基盤開発・活用に関わるプロジェクトメンバー

松澤:私は2012年に北海道ガスに入社し、お客さまにガスをお使いいただく際に必要なガス管や給湯暖房機の施工管理を担う現場部門での業務に従事していました。その後、経営企画に異動した際にDX部門の立ち上げを担当した後、本日のメインテーマである当社の情報プラットフォーム「Xzilla(くじら)」の開発責任者を務めてきました。
そしてとても驚いたのですが、この4月に再び現場部門へ異動となりました。今後は「Xzilla」を実際の業務への活用に向けた最前線を担ってまいります。

北海道ガス株式会社 エネルギーサービス事業本部 設備技術サービス事業部 設備技術部 機器施工グループ
松澤 圭祐 氏

2012年新卒入社。ガス・機器工事の施工管理や経営企画、Xzillaの活用および開発チームの責任者を経験したのち、現在の部署に異動。

山本:私はBIPROGYで、主に公共サービスのシステム開発・システムインフラの構築を担当しています。今回ご縁がありまして、北海道ガス様のDX部門立ち上げに携わらせていただき、早5年になります。現在は「Xzilla」の運用保守および開発のプロジェクトマネージャーを務めておりますので、開発現場の生の声を皆様にお伝えしたいと思います。

BIPROGY株式会社 パブリックサービス第一本部 北海道公共サービス一部
山本 祐滋 氏

主に北海道の公共サービスに係るシステム開発・システムインフラ構築を担当。2021年に北海道ガス様の主担当として従事。Xzillaの運用保守および開発のプロジェクトマネージャー。

ショーン・カー:私は新卒で航空業界に入り、エアラインのネットワークや需要予測に携わっていました。当時からデータと向き合うことも多く、その後データのプロフェッショナルファームであるギックスに入社しました。ビッグデータやSQLの分析業務から、人材開発や研修を行う役割を経て、現在は様々な企業様の課題に対し、何を解決すべきかの整理や、提案へと落とし込んでいく仕事を担っています。

株式会社ギックス DI変革Division Director(Proposal&Project Designing)
ショーン・カー

京都大学経済学部卒業後、関西エアポート株式会社でエアラインの路線誘致営業を担当したのち、ギックスに一度目の入社、データ分析の基礎を習得し多数のプロジェクトに参画。一度退社し海外への挑戦としてフランスの航空運営会社であるVinci Airportsパリ本社で空港の運営権買収(M&A)業務に従事。日本へ帰国後ギックスへ再入社し、2022年より現職。企業の様々な課題をデータやデジタルの切り口から解決するプロジェクトデザインを行う。鉄道・航空・インフラ領域に精通。

北海道ガスが描くDX戦略と「Xzilla」誕生の背景

モデレーター横田:それでは、本パネルディスカッションのメインテーマである、北海道ガス様の情報プラットフォーム「Xzilla」についてお伺いしてまいります。

「Xzilla」の概要や、構築・活用に至るまでの背景、推進方法、また「Xzilla」の名前の由来についてもお話いただけますでしょうか。

松澤:はじめに、北海道ガスの概要をお話いたします。当社は札幌に本社があります。DX部門の本部長は社長の川村が務めており、まさに経営トップがDXをリードしている会社です。

当社は都市ガスや電力の小売りなどエネルギー事業が主力ですが、それを軸としながらも、様々なチャレンジをしていることを、スライドにある「なのに系ガス会社」という広告で表現しています。

例えば、札幌本社にあるガス発電所の設計や施工、運用を社員が担っており、また、業務用のお客さま向けに省エネサービスを展開する際には、社員自らAWSを駆使して開発するなど、外部の専門家へ依頼するようなことも自前で行う場合もあります。

また、北海道各地の自治体さまのお役に立つため、地域連携の取り組みを進めてきました。一例として、上士幌町(かみしほろちょう)という、酪農が非常に盛んな地域についてご紹介します。人よりも牛が多く、人口約5000人に対して牛が4万頭ほどいるこの地域では、牛の糞尿の臭いにお困りでした。これらの排泄物をバイオマス発電でエネルギーに変えることで地産地消を進める取り組みを行っています。

次に「Xzilla」構築の目的に繋がる、当社の中期経営計画についてもお話いたします。

基本的な考え方としては、総合エネルギーサービス事業と冠する通り、都市ガス事業を主としつつ、電気なども組み合わせていくことを推進しています。

また北海道では、冬の暖房費用が非常に高くなりお客さまのご負担が大きくなります。お客さまのお役に立ちたいという思いに加えて、2050年のカーボンニュートラル社会を見据え、「徹底的な省エネ」を訴求しています。

現在、多くの企業様が再生可能エネルギーや水素、CO2クレジットなど様々なカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めていらっしゃいますが、現時点では新しい技術の活用にはコスト面など多くの課題があります。そこでまずは「徹底的な省エネ」によって必要なエネルギーの総量を小さくすることが重要です。これによりコストがかかる新しい技術の導入ボリュームを減らすことができ、結果としてカーボンニュートラル化の実現に貢献できると考えています。

それを実現するための主要施策が3つあります。1つ目が「総合エネルギーサービス事業の進化」、2つ目が「カーボンニュートラルへの挑戦」、そして3つ目が今回のテーマにも関連する「デジタル技術の活用による事業構造変革」です。当社の次の成長の源泉は「情報」だと考え、「北ガス版DX」の核となる情報プラットフォームの構築に着手することになりました。

それでは、「Xzilla」についてご紹介します。まずロゴと名前の由来からお伝えします。当社にDX部門ができた当時、社内用情報サイトのロゴを作ることになり、若手メンバーが生成AIサービスを使ってクジラをモチーフにしたロゴを制作しました。その後、今回ご紹介する情報プラットフォームの名前を社内で公募した際、「このプラットフォームが目指すものが、サイトに掲載したロゴにピッタリだ」という応募から「Xzilla」という名前に決まりました。

「Xzilla」という名前には、海の生態系の中でも非常に大きな生物であるクジラのように、その大きな背中に我々の想いや情報を背負いこみ、未来という大海に向けて挑戦し続けてほしい、という思いが込められています。

「Xzilla」で取り組んでいるのは、『社内外に存在する様々な情報をひとつに集約する』ということです。目指していることは非常にシンプルなのですが、実現することは容易ではありません。そしてデータが存在するだけでは業務は変わらず、お客さまへ価値提供もできません。そのため、様々なデータを組み合わせ価値ある情報に変えて業務に役立てることを目指し、「Xzilla」の開発を進めてきました。

目指す効果は大きく2つあります。ひとつは、徹底的な業務プロセスの変革です。ガス製造などの生産から供給に必要なパイプラインの事業、工事、お客さまと接する営業など多様な業務プロセスのひとつひとつを抜本的に見直すことを進めています。

もうひとつは、お客さまとの関係強化です。ガス機器が壊れた時や万が一ガス漏れが起こった時などにお客さまのお宅にお伺いすることはありますが、日常的にお会いすることはあまりありません。そこでデジタル技術を使いながら、お客さまと日常的に双方向でのコミュニケーションをとり、お客さまに求められている省エネ、エネルギーサービスを提供することを目指しております。

モデレーター横田:ありがとうございます。「Xzilla」には“未来という大海に向けて挑戦し続けてほしい”という強い想いが込められているということを改めて感じました。

社内外データを集約する大規模基盤構築のリアル

モデレーター横田:では、次に基盤構築の観点で山本さんと松澤さんにお話を伺います。データを一元的かつ横断的に管理する仕組みを構築するにあたり、考慮したポイントや活用に向けた工夫について教えてください。

山本:「Xzilla」は北海道ガス様が運用している様々なシステムのデータを蓄積するシステムです。

開発当初は連携対象を12システムに決め、その中から合計200テーブル以上もの大量データを日々連携し、蓄積・維持しております。2024年には、契約料金の請求・入金データの追加などもあり、昨年の8月には連携規模を18システムに拡大しております。現在のテーブル数は約450テーブルまで拡大しています。

各システムでは夜間バッチ処理によって1日のデータを確定させます。その後、夜のうちに全てのデータを「Xzilla」へ連携・蓄積する必要があるため、システムの性能面は特に考慮して構築を行いました。

また、システムの活用に向けた工夫についても1点ご紹介します。
システムにはそれぞれ特徴があり、例えば項目名ひとつを取っても、連番のような物理名が割り振られているなど、現場での理解や活用を難しくする要素が含まれています。北海道ガス様からは「このような項目名をそのまま物理名で公開すべきか」というご相談もいただき、私たちは日本語での項目名をいかに現場へ届け、実際に業務で使っていただける形にするかという点に工夫を重ねながら、システムをご提供しました。

松澤:開発当初は、実現したいことをベースに、そのために必要なデータを連携させる、という意思決定をしていました。しかし現在ではBIツールでの可視化だけではなく、様々な業務システムとの連携にもこの基盤を使用しています。

「Xzilla」の活用が全社的に進んだことで、「蓄積されたデータを使って新たなサービスを展開したい」といった相談を各部門から寄せられるようになり、それらに必死で応えてきた結果、山本さんがおっしゃったような大規模なデータ量へと発展していったのだと思います。

モデレーター横田:ありがとうございます。非常に大規模な基盤構築プロジェクトだったことが、リアルなお話を通じて伝わってきました。

データインフォームド文化の浸透に向けて

モデレーター横田:さて、基盤は構築すれば終わりではなく、蓄積されたデータが実際に活用されてこそ価値が発揮されます。ここからはより広くデータを活用してもらうためのポイントなどを、ショーンさん、松澤さんにお伺いいたします。

北海道ガス様が「データインフォームド」の考え方を取り入れようと思ったきっかけや、実際に取り組んでみた手応えについて教えてください。

松澤:通常の業務システムであれば、リリース後に実際に業務で運用し、徐々に改修も落ち着いていくのが一般的な流れです。しかし「Xzilla」は逆です。我々がやりたいことに合わせて機能もデータも次々に増えていくため、開発と運用が並行して進みます。その中でデータ分析や可視化を通じて業務に活用し、お客さまに価値を提供しなければ、システムを構築した意味がない、と厳しく問われるところはあります。

いかにデータを活用しお客さまへの価値提供をしていくのか、ということは非常に悩みました。様々な企業様とお話ししたり、自分自身が考えたりしていく中で、ギックス様が提唱する「データインフォームド」、つまりデータから物事のインサイト・仮説を立て、業務側に活かしていくアプローチに独自性を感じ、強く関心を持ちました。

ギックス様とPoCの検討を始めたのは昨年の秋頃でしたが、検討開始のタイミングで、我々のデータを一緒に見ていただきました。その中で、北海道ガスがこれまで行ってきた「データを1か所に集める」という、ある意味根性論のような取り組みと、実現したいことに対して「データを全部見る」というギックス様のアプローチには、近しいところがあると感じました。また、間近でギックス様の仕事ぶりを見てプロ意識を含め非常に勉強になりました。

ショーン:ありがとうございます。ツールを導入する・コードを書くということと比較すると、「データ活用」というものはわかりづらい印象ですよね。私は、データ活用の最終的なゴールは「文化醸成」だと考えています。つまり、社内の人がデータを見て「少し良い判断」ができている、そういった雰囲気が上層部から現場のメンバー層にまで充満している、という状態を指します。そしてその結果、企業が強くなることにもつながっていきます。ただ、この段階へ至るには非常に長い時間が必要です。文化醸成に向けた進め方は簡単ではありません。

この進め方には大きく2つの型があります。ひとつは「課題主導型」、もうひとつは「データ活用主導型」です。
「課題主導型」は、データを使って解決したい課題が明確にあり、解決までの道筋がはっきりしている一方で、課題解決後にデータ活用の文化を定着させるのは難しい、という側面があります。
北海道ガス様の場合は後者の「データ活用主導型」に近く、川村社長自らデータ活用をリードされていることもあり、一度軌道に乗ると良いサイクルが生まれやすいと感じています。ただし、その立ち上げにおいては「何をフックに進めていくか」「どのような課題を見つけ、取り組むテーマをどう設定するか」という点が難しくなります。
松澤さんとも、まずは実際のデータに触れて分析する中で、リアルなお客さまの姿を可視化していくところから取り組みを開始しました。

松澤:そうですね。お客さまの姿について、我々が業務経験上なんとなく認識できていることと、できていないことの両方がありました。このような中で、ギックス様の分析を通して「Aを契約するお客さまはこの程度の人数いて、事業へのインパクト、利益はどの程度」といった形で、数字で明示されたこと、そしてそのスピードの速さには驚きました。

ショーン:分析から見えた結果には一部驚きもありながら、多くは北海道ガス様が日々の事業の中で既に直感的に捉えている“当たり前”のことだったと思います。しかし、明確に数字で示すことで全員が納得できる。この事例を提示し、一歩目として踏み出せたことが大きかったと考えています。

データ分析の結果に意味を持たせることはギックスだけではできません。北海道ガス様は、全社的にデータ活用に取り組む風土があり、現場のプロ・ガスのプロなど様々な立場の方々により意見が交わされるからこそ、その数字に価値がでます。複数の観点を持ち寄ったことで、良いスタートが切れたと感じていますし、プロジェクトのこれからにワクワクしています。

松澤:私も同じ想いです。データを使って会社を良くするというミッションはあれど、一歩目の踏み出し方が曖昧でした。このような中でショーンさんから教えていただいたのが3つの要素です。

データを用いて解決できる課題を見つけること、それを実現する人材の確保や体制を構築すること、そしてデータ基盤の3点です。データ活用経営に必要なことは、これら3要素を揃えて上手くサイクルを回すことだと、言語化していただいて非常に心強かったです。

3社連携による未来への挑戦と改善

モデレーター横田:それでは最後のテーマに移ります。これまで「Xzilla」の基盤構築と、データインフォームドの活用についてお伺いしましたが、北海道ガス様、ギックス様、BIPROGY3社による相乗効果や期待についてそれぞれお話しいただきたいと思います。

松澤:冒頭にお話しした通り、「Xzilla」の最上段の目的ははっきりしています。ただ、それに向かって何をするかを決めることが非常に難しい。ひとつずつ形にしていくために、これからがまた頑張りどころです。

今後、ギックス様には人材育成面やデータ分析のノウハウに関してぜひお力添えいただきたいと考えています。そして、さらなる活用に向けたデータの拡充が必要となり、BIPROGY様にご協力いただき、データ基盤「Xzilla」を大きくしていく。それぞれが役割を担いながら、このサイクルを回していきたいです。

山本:少々異なる観点となりますが、大きくなりすぎると今度は小回りが利かなくなってしまうので、小回りを利かせるためデータのダイエットも視野に「Xzilla」の使いやすさを磨き上げたいと考えています。北海道ガス様とディスカッションしながら項目やレコードを取捨選択してテーブル自体の面積を小さくし、スリムで素早い「Xzilla」にしていくことも検討したいです。

松澤:非常に大切な観点だと思います。改善に向けてぜひ議論させてください。

ショーン:私はこれからのチャレンジについてお話しいたします。

最初は分析結果やそこから分かることの可視化からプロジェクトを進めてきましたが、「クイックウィン(小さな成功)」を得ることができたのは、雰囲気醸成の段階までかもしれません。これからは、「本当に経営にインパクトがあるのか」「業務インパクトがあるのか」という観点で、さらなる成功体験を作っていきたいです。

北海道ガス様のプロジェクトでは、データ活用経営に必要な3要素のひとつであるデータ基盤として「Xzilla」を既に持っていることが強みです。これを核として活かしながら引き続き3社で協働していきたいと考えています。

モデレーター横田:皆様のお話をうかがい、「ヒト(問いを立てて解決に導く人・関係性)」、「モノ(問いそのもの、データ)」、「ハコ(基盤、活用のための仕組み・仕掛け)」の3つの要素がポイントであり、これらが重なりあって、データ活用経営に近づくのでは、と感じました。
本日はありがとうございました。

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