アンカリングとは:認知バイアスによって購買行動がコントロールされる|データ分析用語を解説

AUTHOR :   ギックス

本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)

あなたの顧客は、貴方の店に、錨(イカリ)を下してくれていますか?

アンカリングとは、人が意思決定をする際に、なんらかの「基準(アンカー)」を持つことによって、判断に何らかの影響を与えてしまうことを言います。

アンカー=錨(いかり)

定番ですが、wikipediaから引用します。

アンカリング(英: Anchoring)とは、認知バイアスの一種であり、判断する際に特定の特徴や情報の断片をあまりにも重視する傾向を意味する。係留または英: Focalism(焦点化)とも。
個人の通常の意思決定においては、まず特定の情報や値に過度に注目し、その後状況における他の要素を考慮して調整する。一般にこのような意思決定には、最初に注目した値についてのバイアスが存在する。
例えば、中古車を買おうと探している人がいるとする。彼は走行距離と年式に注目し、それを中古車選びの判断基準にしていて、エンジンやトランスミッションの保守状況の良否をあまり考慮しない。これがアンカリングである。
出所:wikipedia

要するに「最初に目にした(あるいは、意識した)情報」がアンカーとなって、他の部分を冷静に判断できない、というわけですね。
この「最初に目にした(あるいは、意識した)情報」が、錨(いかり)を下ろした船がそこに固定される様子になぞらえて「アンカリング」と呼ぶのですね。うまいこと言いますね。

「数字の掛け算」で考えてみる

良くある例として「1~8までの掛け算」がありますので、関連書籍より引用します。

仕組みを理解するために、友人たちと単純だが興味深い実験を行ってみよう。メンバーの半数には1~8までを昇順に掛けてもらい(1×2×3×4×…)、残り半数には逆に降順に掛けてもらう(8×7×6×5×…)。ただし制限時間はわずか5秒である。
それだけの時間しかなければ、いずれのグループも答えを推測する。すると興味深いことに、順に掛けたグループの方が大幅に小さな数になる傾向がある。ある研究では昇順グループが平均512、降順グループが平均2250という結果になっている。
出所:買いたがる脳(日本実業出版社)

要するに、前半の数字の小ささに引きずられた人は「小さめ」に考えてしまい、前半の数字の大きさに引きずられた人は「大きめ」に考えてしまう、ということです。(実際の計算結果は4万超なので、結果的には”どちらも小さすぎる”のですが、それは別のお話です)

購買行動にも影響を及ぼす

この「アンカリング」というバイアスは、購買行動にも影響を与えます。ということは、売り手側は、意図的に「特定の商品を、特定の店で買いたくなるような状況をつくりだす」ことができる(可能性がある)ということになります。

お店では、アンカリングの法則を「かくれた説得者」として取り入れ、消費者に価値ある商品を提供していると思わせている。たとえば、「目玉商品」や「価値の知られたアイテム(KVI=Known Value Items)」として牛乳、パン、バナナなどの食料品や定番商品を利用する。購入頻度が高く、価格に極めて敏感なそれらの商品は「集客商品」とも呼ばれる。
平均的な消費者は、あまり価格を意識していないが、日常的に購入する商品の価格には詳しく、他店との比較もできる場合が多い。そこで指標となるKVIの価格を意図的に低く設定し、ほぼ原価あるいは原価以下で販売してアンカリングの役割を持たせ、すべての商品がお値打ち価格であると思わせる。そうすれば消費者は、店側が顧客本位で生活費の節約に取り組んでくれていると思い込む。
出所:買いたがる脳(日本実業出版社)

端的にいえば、「卵が安い」「牛乳が安い」ということで呼び込まれた消費者は、「他の商品も安い/お値打ちだ」と思ってしまう傾向にある、ということです。

小売店は、どうするべきか

小売業は慈善事業ではありません。したがって、すべての商品を原価ギリギリ/原価割れで販売する必要はありません。ですので、「適切な目玉商品」を設定し、それによって集客した上で、アンカリングによって「他の商品で利益をしっかり得る」という戦略は理に適っています。
しかし、その検証をしっかりやっている企業/店舗が、どれほどあるのかは、はなはだ疑問です。
伝説のエース店長が、3年前に初めて大成功した「牛乳の割引キャンペーン(毎週日曜日)」を、金科玉条の如く、崇め奉ってはいませんか?そのエース店長が本部に栄転したこの3年の間に、500m離れたところの競合が、土曜日に「牛乳と卵の割引キャンペーン」を始めていて、大半の消費者は、土曜にそっちのお店で牛乳を買ってしまっていたりしませんか?
これはPOSデータを分析するだけで、十分わかることです。(関連記事:POSデータ分析とは
折角の「理論」に基づく施策も、検証されなければ「思いつき」と変わりません。是非、データで結果検証する、ということを意識していきましょう。
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