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【前編】セイタロウデザイン山崎晴太郎代表インタビュー:DIサミット講演「デザイン経営とデータインフォームドの幸福な関係」を振り返って

AUTHOR :   ギックス

インタビュアー(以下、質問):山崎さん、先日は弊社株式会社ギックスが主宰するイベント「Data-Informed サミット(以下、DIサミット)」に御登壇いただき、誠にありがとうございました。本日は宜しくお願いいたします。

株式会社セイタロウデザイン代表取締役 山崎晴太郎(以下:山崎):ありがとうございます。先日の「DIサミット」で「デザイン経営とデータインフォームドの幸福な関係」というタイトルでお話をさせていただいたんですけれど、その講演に向けて資料を準備していく中で、いろいろと気づきがあったなと思っているんですよね。今日は、そのあたりについて、お話させていただくという場だと認識しています。

クリエイティブディレクター
山崎 晴太郎

株式会社セイタロウデザイン代表取締役|株式会社JMC 取締役兼CDO|株式会社プラゴ FOUNDER / CDO
立教大学卒。京都芸術大学芸術修士。デザイン経営のパイオニアとして、企業経営に併走するデザインブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトと多様なチャンネルのアートディレクションを手掛ける。
グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞、IFデザイン賞、REDDOT AWARDなど国内外の受賞多数。各種デザイン賞審査委員や有識者委員を歴任。「情報 7 days ニュースキャスター」、「真相報道バンキシャ!」コメンテーター。

質問:はい。ご認識の通りです。こちらから幾つか質問させていただきますので、そちらにお答えいただく形で進めさせてください。

フィロソフィー「社会の右脳を刺激する」

質問:それでは早速なのですが、講演の冒頭でお話しいただいた「社会の右脳を刺激する」というフレーズのお話をお聞かせいただきたいです。

山崎:当社(セイタロウデザイン)のフィロソフィーですね。これは、会社を作って一番最初に決めました。

そして、それと合わせて、こういう文章を書きました。この文章も17年間、ほとんど変わっていません。

僕は、デザインでできることって、すごいたくさんあると思っているんです。表層を作るだけだとやっぱり意味がないんじゃないかと、ずっと思っています。新しいシャツを買ったら、それを着て人に会いに行きたくなるとか、新しい椅子や新しいワイングラスを買ったら、お家に人を呼びたくなるとか、そういうのがデザインのすごい大事な部分だと思うんです。
これは、つまり「気配を作るという力」だと思うんですよね。デザインで、気配を作る。

単にシャツとか、椅子とか、ワイングラスといった製品を作るだけじゃなくて、その製品を通じて、その後に起きる行動、あるいは、感じられる気配みたいなものが大事なんじゃないかな、って思うんです。

映画を見た帰り道に、ちょっと電車で席を譲ろうかなって思う時とかあるじゃないですか。映画の内容に感化されて、優しい気持ちになったりして。
そういうことが、僕はすごく大事なことなんじゃないかなって思うんです。

質問:ありがとうございます。とても素敵なお話ですよね。モノをつくるんじゃなくて、その先にある価値感とか世界観を作るのが、セイタロウデザインで山崎さんがトライされていることなんですね。
では、続いて、講演の主題であった「デザイン経営とデータインフォームドの幸福な関係」の中身についてお伺いしたいと思います。まずは「デザイン経営」をどう捉えるか、というところからお願いします。

山崎:デザイン経営を、僕は「デザインの力を経営に並走させること」だと捉えています。じゃぁ「デザインの力」ってなんなの?ってお話になるわけですが、これは、人間を中心に据えるという考え、つまり「人間中心思考」にあると思っています。

質問:人間を中心に据える。そうすることで、人間の可能性が拓かれる、ということでしょうか。

山崎:はい。そうですね。それを実現していくことが、デザインに求められていると僕は思っています。そしてそれを、より具体的に展開すると、以下の5つの考え方になります。

デザインの5つの力

  1. 非連続な未来をビジョナリーに描くこと
  2. 物事の本質を捉え、シンプルにまとめること
  3. 顕在化していない概念を捉えて、可視化すること
  4. 一貫した気配で彩り、美しく佇ませること
  5. 人の気持ちを動かすこと

この5つです。

質問:ありがとうございます。順番にお伺いさせてください。まずは、1つめの「非連続な未来をビジョナリーに描く」ですね。これは、どういう意味でしょうか。

山崎:ロジックを積み上げた先にある連続的な未来ではなくて、もっと突飛なアイデアというか、斬新な発想というか、そういうものですね。デザイナーって、何言ってるのかわかんないなとか、変なこと言うなぁとか、文脈を無視してくるなぁとか、そういう風に感じる方もいらっしゃると思うんですけど、そういう違和感を「ポジティブに」表現すると、こういう言い方になります。笑
ただ、実際のところ、デザイナーは人と同じことをやったらダメなんです。デザイナーになったその瞬間から、人と同じようなことを考えて、人と同じような出力をすると「パクリ」って言われるんです。
だから、常に、「絶対こっちの方が良いな」と思っても、敢えて逆張りするようになってしまうんですよ。生き方として。
そうやって、意図的に、他と違う方向を模索する思考態度が磨かれていった結果、非連続な未来を探し当てることができるようになる。それが、ひとつめのデザインの力です。

質問:続いて、2つめの「物事を本質を捉え、シンプルにまとめる」について、お聞かせください。

山崎:デザイナーに限らず、エンジニアも同じだと思うんですけれど、「これも言いたい」「あれも言いたい」「これも入れておこう」「これもなんとかして入れ込みたい」ってなることが多いと思うんですよ。
でも、冷静に考えたら、そんなに沢山詰め込めないし、詰め込むべきじゃない。だから、しっかりと整理して、絞り込まないといけない。
本質的に伝えるべき「価値」とは何なのか、を延々と突き詰めていかないといけない。こういう思考態度を貫いて、シンプルにまとめて行くのが、ふたつめのデザインの力です。

質問:3つめの「顕在化していない概念を捉えて、可視化する」をお願いします。

山崎:さっきの非連続な未来の話とも少し通じるんですけど、僕たちは、まだ世の中に無いものをどんどん探していかないといけないんですよね。
ここが、経営とデザインが手をつなぐところです。世の中に無い価値を探し当てて、それを提供していくことを目指す。経営の観点だとイノベーションとかいう言い方もされる領域ですよね。
こういうのって、とても曖昧で潜在的な概念を探る活動なんです。まだ、顕在化していないものを探しに行く。うまく捉えて可視化する。これが、デザインにおいても経営においても、非常に重要なポイントになります。そして、デザインの力によって、経営を強力にサポートすることができる領域だと僕は思っています。

質問:4つめの「一貫した気配で彩り、美しく佇ませる」はどうでしょうか。

山崎:ブランドとしての一貫性が大事、というお話は皆さんご認識されてることだと思うんです。特に、最近はコミュニケーションチャネルがどんどん多様化しているので、これまで以上に、一貫した姿勢、態度、メッセージを発信していくことが求められています。
そして、その際に、もちろん「美しい佇まい」をブランドにまとわせたい。それを実現するのがデザイナーの役割ですし、デザインの力だと思います。

質問:最後、5つめの「人の気持ちを動かす」について、お願いします。

山崎:これが一番大切だと思うんですよ。デザインも、エンジニアリングも、モノづくりも、すべてに共通していると思います。デザイナーって、たいてい原体験として何かを作って誰かに喜んでもらった経験があるんです。お母さんだったり、友達だったり、相手はさまざまなんですけど、とにかく何かを作って、喜んでもらった体験があって、それでもっとみんなに喜んでほしい、もっと楽しんで欲しい、という気持ちになる。そういう体験から、デザイナーを志す人は多いなと思うんです。
人間としての気持ちとか、人との向き合い方とか、そういうものがベースにあって「人の気持ちを動かす」ってお話になる。そして、それをデザインの力で成し遂げるんですよ。

質問:ありがとうございました。デザインの5つの力をうまく「経営に並走」させることがデザイン経営につながる、というお話ですよね。

山崎:はい。そうなんです。でも、そのお話に入る前に、もう一点だけ言わせて下さい。こうして「デザインの力」を5つ上げてきましたが、そもそもデザインは「思考(THINKING)」の話と「意匠(DRAWING)」の話に分解して捉えるべきだと思うんです。
もちろん「意匠」はとても大切な要素なのですが、デザイン=意匠と捉えるのは、矮小化しすぎている。デザインの力を逆に、軽んじているってことになる。だから、ここまでお話してきた5つの力は、デザインと言う言葉が内包する「思考」の部分も大事にしています。
そういった考え方の部分もしっかり意識して、経営に並走させていくことが重要だと思っています。

質問:なるほど。「デザイン」という言葉は、デザインする、と動詞的に捉えることもできれば、デザインされたアウトプット、と名詞的にも捉えることができますし、うまく理解しにくいなと思っていたのですが、「思考と意匠」という風に区分けしてみると、すんなり分かるような気がします。

デザイン経営とは、これらのデザインの「思考」と「意匠」の力を経営に並走させること。

質問:では、デザイン経営についてお話をお聞かせください。

山崎:先ほどから申し上げている通り、デザイン経営は、デザインの力を経営に並走させることです。そして、それは「思考」と「意匠」の二つに区分けできる、とお話してきました。
これを「経営」に並走させる。それはどういうことなのか。
ひとことで言うと「物事が曖昧な状態から、デザインの力を使おう」ということになります。
経営とか事業とかいうテーマで、何か新しいことをしよう、新しいことに取り組もう、となった際に、ある程度決まってからデザイナーに話をしようと考える人がほとんどです。でも、もっともっと手前の、めちゃくちゃ曖昧な状態で相談した方が、デザインの力を活かせると思っています。
曖昧な状態の中で概念を捕まえるとか、曖昧なものを言語化したり可視化したりする。そういうところにデザインの力が生きてきます。
「ちょっとわからないんですけど、例えば、図にしてみるとこんな感じだったりしますかね?」みたいに、何かしら形にしてみる。そして、それを何往復も繰り返していくことで、その高度、粒度が上がっていく。そういう取組みに価値があると思うんです。

質問:粒度、は分かります。高度、というのは、視座とかそういうことでしょうか。

山崎:そうですね。問題を捉えたり、価値提供の在り方を考えたり、という時に、ちょうどいい「視点の高さ」「見るべき範囲の広さ」があると思うんです。それって、事業の内容によっても違うし、取り組みたい課題によっても違う。それを一緒に探していくというプロセスそのものが、デザインの力をうまく経営に並走させるってことだと僕は思います。

後編へ続く

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