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ギックスの本棚/「ワンピース」と「攻殻機動隊」の組織に関する考察 :「”スキルフルな個人”の集合体」を組織として成立させるためには?

AUTHOR :  田中 耕比古

「”スキルフルな個人”の集合体」としての組織

ONE PIECE 74 (ジャンプコミックス)  攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

本日のギックスの本棚は、先日74巻が発売された「ワンピース」と、今月末にARISE border:3の映画公開を控える「攻殻機動隊」について”組織運営”の観点で掘り下げてみたいと思います。

尚、本稿における「ワンピース」は74巻に限らず全編を通した ”ワンピース” という物語を指し、「攻殻機動隊」は漫画に限らずアニメシリーズ(映画・テレビシリーズ)も含んだ ”攻殻機動隊” というストーリーを指します。あらかじめご了承ください。

ワンピースは、組織論では「ガンダム」と比べられる

”「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱” という書籍があります。

「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱

この本の中では「従来型=タテ型組織」で戦争に勝利することを目指す「ガンダム(というか、ホワイトベース)」をロールモデルとする世代=「ガンダム世代」と、「フラットな横のつながり」でチームとして機能させることで「夢の達成」を目指す「ワンピース(というか、麦わら海賊団)」をロールモデルとする世代=「ワンピース世代」という対比で語られます。

確かに、分かりやすいですよね。旧態依然としたタテ型組織と、フラットで柔軟なヨコのつながり重視の組織という対比。

本質は「つながり方」ではなく、「タレントの活かし方」

しかし、ワンピースは別にヨコ型でフラットな組織ではないです。ルフィは独断的ですし他人の意向は気にしません。ルフィは「船長」であり、意思決定はルフィに委ねられます。複数の選択肢がある場合にどうするかはルフィが決めます。他のメンバーはそれを実現するために最善の努力を払います。(この実現段階においては、フラットだと言えるでしょう)

また、ガンダムもタテ型組織だからと言って、完全に「上意下達」なわけでもありません。特に、ホワイトベースは、アムロ・レイという傑出した天才(というか最早変態)を抱えているため、組織としての強さだけで戦っているわけでもありません。とはいえ、可能な限り「型に嵌める」ようにブライトさんが頑張っています。(ブライトさん、老け顔だけど1年戦争時に19歳ですからね・・・苦労人です)

これは、スキルフルなメンバー=タレントをどう使うのか、ということが論点になっているように思います。もう少し踏み込んで言えば、組織自体がタテ型であるかヨコ型であるかはあまり重要では無さそうです。(尚、先ほどご紹介したワンピース世代&ガンダム世代は、「その世代の人の組織感」のお話なので、本稿で取り上げる、各ストーリーにおける組織論の評価とは目的が異なるため、必ずしも切り口が合致しません。その旨ご理解ください。)

そうすると、果たして「ガンダム」が「ワンピース」の比較対象としてふさわしいのだろうかという疑問が湧きます。僕は、むしろ、ワンピース同様に”強いリーダーシップと優れた構成メンバー”を持ち、”各メンバーの自律的な判断と行動”によってミッションを達成する「攻殻機動隊」の方が、「ワンピース」と比較するのにふさわしいのではないかと思います。(これで、やっとスタート地点に立てました。前段が長くて済みません。)

”タレント”に「何を指示するか」

それでは、才能にあふれるメンバーと仕事するときには、どういう風にコミュニケーションを取っていくべきなのでしょうか。「ワンピース」と「攻殻機動隊」の組織のあり方から読み解いていきます。

ワンピースは「目的の共有」x「放任主義」=自律分散型

先ほども述べましたが、ワンピースは「ルフィの独断」で向かうべき方向が決まります。つまり、「目的」がルフィによってセットされます。この目的は絶対のモノであり、メンバーはその目的実現に向けた行動を取ります。

その上で、具体的な指示があるか、となると微妙です。もちろん、作戦らしきものが立てられることもありますが、往々にして「なんやかやで行き詰ったけど、結局はなるようになった」という結末です。

つまり、チーム全体での実行手段についてはあまり重要視されず、とにかく「目的」が達成されるように、各自が自己判断で最善を尽くせ、という運用になっています。(組織、というよりも、プロジェクトとかユニットとかコラボとかいう感じが近いのかもしれません。)

また、下調べをしない(というか、できない)ために、相性の良くない敵とのマッチングも起こってしまいます。そういう場合は、比較的相性の良い能力を持つ仲間が登場し、協力したり、相対する敵を交換したりして切り抜けることになります。(もちろん、自力で勝つケースもあります)

ワンピースという物語の性質上、「目的」が「目の前の敵を倒す」という非常にシンプルなものになりがちなため、あまりややこしい状況判断が求められませんので ”完全なる【自律分散型】運営でもチームが破綻しない” ということではないかと思います。

そういう意味では、目的と手段が近い領域においては、ワンピース的な組織が活きるのかもしれませんね。たとえば、剣道や柔道の団体戦では、目の前の敵を個々人が倒せば良いため、このタイプのチームでも戦えそうです。あるいはリッツ・カールトンのようなホテル業も、目の前のお客様を最大限にもてなす、という意識を持った個々人の集合体とみれば、自律分散型の意思決定も(それなりに)嵌りそうです。

攻殻機動隊は「手段の明確化」×「報連相」=自律集約型

一方、攻殻機動隊は少佐こと草薙素子が、現場指揮官です。しかし、彼女が「目的」をセットすることは稀です。「目的」のセットは特殊部隊公安9課の荒巻課長(もしくは部長)が行い、草薙はそれを「実行手段」に分解し、メンバーに指示(=能力に応じた適切な役割分担)を行います。

ワンピースとは異なり、電脳という特殊な設定があるため、一部の例外ケースを除いて常にリアルタイムで情報交換を行い、作戦の方向修正を行います。また、指示の大半は草薙から出され、メンバーは全ての事象を草薙に報告します。(もちろん、他のメンバーも同じ情報を同時に取得しています。電脳って便利。)

情報連携がいくらなされようとも、現場対応は、その場にいるメンバー1人か2人で行う必要があるため、報告・連絡・相談ができない/間に合わない場合もあります。その際には「与えられた目的と、その実現に向けた自分の役割」を逸脱しない範囲で、自律的に行動することになります。

そして、ミッション達成(=作戦終了)後には、必ずミーティングを行って情報を共有し、次なる作戦に備えます。(機動兵器であるタチコマも、AIの並列化を行って、情報格差を無くします。)

このあたりが、最もワンピースと異なる部分だと言えます。ワンピースでは、情報の並列化は行いません。例えば、メンバーが誰か重要な人物にあっても、その情報が、他のメンバーに共有されることはありません。(電脳があるわけではないので、顔のイメージをそのまま伝える、などができないのは仕方ないことですが、終わった後に反省会ではなく”宴”に興じて終わるのは、ちょっと改善の余地がありそうです。)

攻殻機動隊は、確かに比較的フラットで、非常に自律的な組織だと言えますが、明確な命令系統の元、綿密な指示と頻繁な情報交換による軌道修正を行っているのがチーム運営の鍵です。いわば【自律集約型】という感じです。

スポーツで例えると、野球チームが近いかもしれません。情報は「サイン」という形で常に共有され、軌道修正は監督やコーチから行われます。もちろん、打席にたったバッターや、ボールが飛んできたときの守備陣は「自己判断」で対応していきます。相手の戦力分析や、自己反省も怠りません。ビジネスで言うと、法人営業部隊などは、このタイプの組織運営が適するように思います。

チーム なのか 個人 なのか

詰まるところ、この2つは「個人で戦う×人数」か「(個人×人数=チーム)で戦う」か、という根本の部分で異なっていると僕は思います。(メンバー全員が非常にスキルフルで、臨機応変に自律的に行動できる、という前提です。)

「個々人の個別最適の集約結果として目的達成を目指すワンピース」と「チームとしての機能最大化による目的達成を目指す攻殻機動隊」ということですね。

この、どちらが良いというわけではありません。仕事の内容によって、どちらが適するかは変わります。(一般論で言えば、ワンピース型が適する領域はレアだと思います。って、まぁ、この両作品ほどにスキルフルで自律的なメンバー「だけ」のチームをつくることができたなら、どっちのタイプの運営方針だとしても、ある程度成功する気がしますけどね。)

重要なのは「信頼」と「リスペクト」

ワンピースと攻殻機動隊は、上記のようにチーム運営の方針が大きく異なります。

しかし、とても似通っている部分があります。それは、メンバーに対する「信頼」と「リスペクト(敬意)」です。そして、その2つの前提となるのが「スキルに対する理解」です。ワンピースにおいては、ルフィが仲間にしたい、というメンバーは、ルフィが認める「何らかのスキル」があります。そして、攻殻機動隊においては「プロフェッショナルしか仲間にしない」のです(少なくとも、草薙が率いる直属チームにおいては)。スキルが担保されていれば、その領域を安心して任せることができます。
※但し、前述の通り、得意領域を担当させる攻殻機動隊(=後方支援は通常は後方支援のまま終わる)に対して、ワンピースは「放任主義」のため、結局全員戦うことになります。

現実の世界においても、「信頼」と「リスペクト」が重要です。また、可能であれば、攻殻機動隊のように、その”タレント”が一番成果を出しやすい役割に、適切に配置することが、チームの力を最大限に引き出すことにつながります。尚、指示内容は、メンバーがプロフェッショナルであればあるほど、抽象度の高いものになりがちですし、それで用が足ります。(なぜなら、優秀な奴は勘≒センスが良いからハズさないのです)
※非常に好意的に解釈すれば、ワンピースは超優秀なメンバーばかりなので、目的を共有すれば手段は伝えなくても大丈夫、という信頼を持っているのかもしれません。

結論:規範の中にいるときは、それを窮屈と感じるけど、規範なき行為はまた行為として成立しない。

ここまで「組織運営」の視点で2つの作品を比較してきましたが、組織運営における重要なポイントは、下記の4つだと僕は考えます。

  1. メンバーの能力・スキル(得意・不得意など)の正確な評価・把握を行う
  2. 評価結果をベースに、メンバーに対して信頼とリスペクトを持つ
  3. 仕事の質として、「ワンピース型(自律分散)」と「攻殻機動隊型(自律集約)」のどちらが適しているか判断する
  4. さらに、自分自身が、ルフィタイプか草薙素子タイプを客観的に判断する(もしくは、選んだ「型」に合わせて振る舞いを変えられるようになる)

実は、最後の項目がとても重要です。チームとして「ワンピース型」を志向したが、リーダーである自分自身が「草薙素子タイプ」だった場合は、おそらく破綻します。反対に「攻殻機動隊」を志すリーダーが「ルフィタイプ」であればそれもまた破綻します。

要するに、「チームメンバーが何者なのか」「リーダー自身が何者なのか」をキチンと把握したうえで、「どういうルール(規範)を設定するか」ということです。そして、当然ながら、そのルールにリーダー自身も迷わずに従えるかどうか、が成否を分けます。自分が従えないルールを設定してもチームは機能しません。チームメンバーもルールに従わなくなり、破綻します。

スキルに溢れたプロフェッショナルの特性を殺さず、同時に、チーム全体が目的に合致した最善・最大の価値を出せるような「組織運営のルールづくり」こそが、効率的な組織運営の最大の鍵であり、そのために、自分を含めたチームメンバーの能力・スキルを客観的且つ公平公正に評価することが求められているのだと、僕は思います。(ま、なにより、優秀なメンバーを集めるのが先決なんですけどね・・・)

 


補足:荒巻の名言である「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。」という言葉を取り上げて、本論考への反証材料とする方もいるでしょうが、全員が無秩序にスタンドプレーに走っていれば、公安9課は成立しません。そもそも、個別行動の頻度が高いのは草薙くらいで、あとはバトーとトグサが多少目に付く感じです。また、基本的に「許可」を求めて受諾される形です。ですので、この言葉の真意は「言うまでもなく、基本はチームプレーだが、目的達成のためにスタンドプレーを許容することもある」という程度だと僕は理解しています。

 

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