前IBM CEOが語る金融市場とのコミュニケーション 投資家をマネジメントする(Harvard Business Reviewより)/ニュースななめ斬り by ギックス

AUTHOR :  網野 知博

HBRパルミサーノの記事から勝手に思うこと

ダイヤモンド社のHarvard Business Reviewですが、今月の12月号は「投資家は敵か、味方か」です。その中で、「前IBM CEOが語る金融市場とのコミュニケーション 投資家をマネジメントする」を取り上げたいと思います。

まずは、今回のパルミサーノ氏の記事の前に、10月21日に発表された現IBM社長のロメッティ氏に関する意思決定のニュースを日経新聞より引用したいと思います。

IBMの呪縛葬ったロメッティCEO

 20日の米ダウ工業株30種平均はIBM株に翻弄された。午前7時に発表した2014年7~9月期決算は売上高、利益ともに市場予想を下回り、IBM株は一時前日比約8%安まで下落した。値がさのIBM株急落でダウ平均は前週末終値を下回って推移する場面が目立ったが、引けにかけ買い戻しの動きが活発になり小高く引けた。

 市場の足かせとなったIBM。午前8時からの決算電話説明会ではロメッティ最高経営責任者(CEO)が急きょ出席した。ロメッティCEO自ら説明しなくては説得力に欠く重要事項があったからだ。

 「我々はもはや2015年に1株当たり営業利益の目標達成を予想することはない」。IBMが長年、中期目標に掲げてきた「15年までに1株営業益を少なくとも20ドルに増やす」という目標断念を表明した。

 IBMにとって大きな方針転換である。

 「1株利益を最低20ドルに」という目標を打ち出したのは、ロメッティCEOの前任、パルミサーノ氏だ。パルミサーノ氏は10年5月、まだ1株利益が約10ドルの時、会社が向かうべき姿として表明した。

 パルミサーノ氏は02年に再建に成功したガースナー氏からCEOを受け継ぎ、革新に挑む企業風土を根付かせ新興国開拓を主導した。11年末に退任するまでに純利益を2倍以上、株価も約1.8倍に引き上げるなど、IBMの一時代を築いた経営者として名をとどめる。

 ロメッティ氏にとっては、前任者の置き土産である「1株利益目標」は重荷だったに違いない。ロメッティ氏のCEO就任とほぼ同時に、IBMを取り巻く経営環境が劇的に変わり始めたためだ。

出所:日経新聞

このニュースが流れると、株価は大きく下がり、偉大なるIBM卒業生の某先輩などは含み益が1日に8桁円も下がったとの話も聞きました。2年弱しかIBMに在籍しなかった俄IBMer(アイビーエマー:IBMの人たちはIBMに在籍した人たちをIBMerと呼ぶ。BMWに乗る人、もしくはBMWのことをビーマーと呼ぶアメリカ人と同じ構図か??笑)の私が、IBMの経営目標に関することで鮮明に覚えているのは1株あたり利益20ドルという目標のみです。

余談ですが、IBMにはIBMers Valueというものがありました。

1つ目、2つ目が好きだったのですが、特に1つ目はすごく好きでした。実は在籍中は自分の価値判断に迷いそうなときも、このIBMers Valueを見直し、特に「Dedication to every client’s success」を見直し、全く顧客の成功に全力を尽くしていない社内のあまちゃん共に噛み付いていました。笑 このIBMers Valueも想い出深いのですが、それでもやはり1株あたり利益20ドルという目標は今を持っても鮮明に記憶されています。

実は私がアクセンチュアからIBMに転職をした際に非常に衝撃を覚えたことがあります。両社を比べると、人の質はもう圧倒的な差がある。社内に無駄な作業も、いらない政治争いもたくさんある。そして、働かない邪魔なおっさん達も非常に多い。さらに、横から見ても、無駄な作業をしているアドミニストレーション業務を3割を減らせると感じるほどの非効率ぶり。どうして一人ひとりの人材の質で劣っていて、また無駄な作業も多く、役に立たないおじさんが大量に余っているにも関わらず、逆に(当時は)株価も一株あたり利益も圧倒的な差が付いているのか、というのが入社数日後の印象でした。(どちらをどちらと書かないので、察してください。笑)

その時に、本国からパルミサーノCEOがやってきて、日本IBMの社員に大演説を行ったのですが、その時の「俺様ぶり」に非常に衝撃を覚えました。実は、それまでは前任のガースナー氏があまりに偉大な人であったため、パルミサーノ氏は傀儡政権とは言わないまでも、ただのおとなしいyesマンだと思い込んでいたのです。今からしたら、世界で競争を行う100年企業のIBM、その後任CEOにそんなしょぼい人をガースナー氏が選ぶはずはないと気づくのですが、何故かIBMに入社するまでの当時はそう思い込んでいたのです。笑

その時パルミサーノ氏の発言を聞いて、率直に感じたのは(といっても、発言内容を直訳しても、全くそんなことを言っていないので、私の勝手な解釈とご理解頂いてお読み下さい)、「俺が正しい決断を下して、そのとおりに末端が実行すれば企業は成長していく。そのために、情報を大本営(パルミサーノとゆかいな仲間たちである戦略スタッフ)に提供することに対して中間部や末端部に業務の負荷が多少発生したり、報告業務の重複が発生して無駄だったりしても、正しい情報が大本営に届けばそれで会社は成長するのである。それらの多少の無駄なんて大本営からみたらゴミみたいなものであり、小さな正しい意思決定一つでその分の利益くらいは10倍にして取り返してやるわ。」という意思でした。同時に、「世界に40万人以上もの社員を抱えるので、全員がピカピカの優秀なメンバーで揃えるのは無理。”普通”〜”普通に優秀”、くらいの社員で構成される組織が永続的に成長していくためには、大本営のやり方を正しく遂行する必要があり、そのためにガチガチのオペレーションが必要である。」ということも感じとりました。(尚、これらは、完全なる私感であり、彼が直接的にこういう発言をしたわけではないということを再度記載しておきます。)

これは決してネガティブな意味で書いているのではなく、そのくらいのすさまじいリーダーシップと見ている先の広さや遠さを感じました。ああ、この人はちゃんと「映画版のジャイアン」なんだな、と。笑

優秀な人を集めてうまくやるのは当たり前。でも、普通な人を集めて、小さな会社と変わらないような伸び率で世界規模での成長を目指すということがどういうことなのか。自分なりに感じ取れたタイミングでした。

私の持論が非常に長くなりましたが、今回のHBRの記事を読んでいて、当時のことがフラッシュバックされ思い出されました。HBRの記事が出たのが一株あたり20ドルの目標をロメッティ氏が取り下げたタイミングで間が悪いことは事実です。それでもパルミサーノ氏の経営、投資家に対する対応は非常に学ぶべき点があることは事実です。「彼は極めて情熱的で、野心的なリアリストだったのだ。」彼の戦略に関する考えを読み、改めて3年ほど前のことを思い出しました。

まず戦略ありき

まずは筋が通った戦略、すなわち感情ではなく、事実に根ざした戦略を策定することです。そのうえで、どうすれば戦略を実行できるかを検討すべきです。CFOやCEOと言った経営上層部と戦略部門だけが「モデル」に従っていてもダメです。社内のあらゆる部門で戦略を遂行しなければダメです。

さらに、全部門が満点を取らなくてもいいように段取りしておく必要があります。私はよく「ほしいのはBレベルの出来だ。Aの出来はいらない。全員がBの実績を上げれば、目標を達成できる。」と言っていました。クラスの90%がAの実績をあげるような絵空事を当てにはできませんから。

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