30度を超えるとアイスが”売れなくなる”?:データの正しい眺め方|冷やしデータ分析はじめました

AUTHOR :  田中 耕比古

他人の作った資料は「データ」と「解釈」に分けて考えよう

前回は、今年の夏は本当に暑いのか?ということを様々な切り口で考えてみました。今回は、前回のアイスブレイクでも言及した「30度を超えると、アイスではなくかき氷が売れるようになる」という定説について考えてみましょう。

30度を超えると、アイスが売れなくなる?

世の中には、気温が30度を超えると、アイスが売れなくなる、という話があります。

(テキスト起こし)
あなたは無意識のうちに アイスを食べ分けていませんか?

  • 22度になるとビールが売れる
  • 27度になるとアイスクリーム、
  • 30度になるとアイスクリームは売れなくなり、かき氷が売れ始める。

出所:えんたべ http://entabe.jp/news/article/649 ※尚、データの出典は不明

この説は、割と幅広い「定説」として広まっています。ちなみに、同じ記事内に「沖縄ではアイスが売れない」というものもあります。

トレンド総研は、インフォグラフィックス「日本人の意外なアイス事情」を公開した。「アイスは27℃で売れ始め、30℃で売れなくなる 」や「那覇市は日本で最もアイス消費量が少ない」など興味深い結果に。

出所:えんたべ http://entabe.jp/news/article/649 ※尚、データの出典は不明

この2つの事象を並べると(上記の記事内で書かれているわけではないですが)、「やっぱり、暑いところ=沖縄ではアイスが売れないんだな」という推測をしたくなります。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

「かき氷の方が売れる」と「アイスが売れない」は別事象

別サイトの記事に掲載された、こちらのグラフを見ていただきたい。

ice-co.png

(抜粋引用)30℃を超えると、アイスクリームとかき氷の売り上げに逆転が見られました。盛夏になるとアイスクリームよりもかき氷のほうが売れるのはなぜでしょうか。8月になると人間の体は暑熱順化も終わり、体の基礎代謝がもっとも低い時期となります。体は産熱を抑えるため、低脂肪・低カロリーのものを好むようになるのです。 ライフビジネスウェザー・ビジネス気象研究所の調べでは、乳酸飲料や牛乳など脂肪分の高い飲み物は、春から夏にかけて売り上げが伸びる一方で、盛夏は売り上げが落ちることが分かっています。

出所:生活気象ラボ http://lab.lbw.jp/c-ok-ice.html ※尚、データの出典は不明

もともとのデータの出所が不明なので、個別の検証は難しいのですが「30度を超えると、かき氷の売上がアイスクリームの売り上げを上回る」ということを示しているのが分かります。

しかし、あくまでも「かき氷の売上>アイスの売上」というだけであって、「アイスが売れなくなっている」わけではないです。むしろ、近似曲線は右上がりになっていますし、その傾きも大きくなる=より売れるようになっているように見えます。(確かにバラつきは大きそうですが)

このグラフが正しいとすると、冒頭にご紹介した「30度を超えるとアイスが売れなくなる」というメッセージは誤りだということになります。(データが正しいなら、間違っているのは解釈になります)

え、じゃぁ、沖縄は・・・???

しかしながら、一つの疑問が残ります。そう、沖縄です。「アイスが売れない沖縄」というのは、それはそれで事実です。(これは、解釈ではなくデータです)

上記の散布図(気温と売り上げの関係性)が正しい場合、沖縄は気温が高いので、もっとアイスが売れないといけません。もちろん、かき氷の方がより売れる、のでしょうが、全体的に気温が高いのに、全国の中で一番売れないのは解釈が難しいです。

ここからが「考える」というステップです。

「ぜんざい」のせい?

沖縄でアイスが売れない理由は「ぜんざい」という食べ物が売れるからだ、との説がテレビ番組で紹介されていました。(※世にも不思議なランキング なんで?なんで?なんで?|7・20放送|アイスクリームをよく食べる町ランキング – 最下位・那覇市 ※wikipediaより見出しを取得)

この「ぜんざい」というのは、一言でいえば「かき氷」です。ですので、先ほどの散布図通りだとすると、やはり納得がいきません。気温は、かき氷が売れる理由にはなるものの、アイスが売れない理由にはならないのですから。

「味覚」のせい?

先ほど引用した生活気象ラボの記述内容が正解なのでしょうか?

8月になると人間の体は暑熱順化も終わり、体の基礎代謝がもっとも低い時期となります。体は産熱を抑えるため、低脂肪・低カロリーのものを好むようになるのです。 ライフビジネスウェザー・ビジネス気象研究所の調べでは、乳酸飲料や牛乳など脂肪分の高い飲み物は、春から夏にかけて売り上げが伸びる一方で、盛夏は売り上げが落ちることが分かっています。

出所:生活気象ラボ http://lab.lbw.jp/c-ok-ice.html

なるほど。そうなのかもしれません。ただ、これはこれで「8月(盛夏)は売れない」ということを言っているにすぎないので、他の月では売れてもよさそうです。可能性としては、「沖縄県民は年中通して代謝が低くて、乳酸飲料や牛乳などの脂肪分の高い飲み物は飲まない人たちだ」ということもありそうです。

ということでそれを調べてみましょう。

都道府県別 牛乳消費量(単位:リットル)H.20-22 2人以上世帯の年間購入量

  • 1位: 奈良市 104.41
  • 2位: さいたま市 101.92
  • 3位: 千葉市 100.58
  • 4位: 盛岡市 100.47
  • 47位: 北九州市 70.01
  • 48位: 長崎市 67.51
  • 49位: 宮崎市 66.06
  • 50位: 那覇市 62.69
  • 51位: 高知市 61.09

出所:http://www.japan-rank.com/article/192879892.html (データ元は総務省)

はい。沖縄、牛乳売れてませんね。ということで、この説には、一定の信憑性があるかもしれません。

大切なのは「答え」ではなく、仮説設定&検証プロセス

以上より、「アイスは30度を超えると売れなくなるのか?」という問いに対する現時点の答えは

  • 30度を超えてもアイスは売れる。むしろ売上は伸びる。(問いは”誤り”)
  • しかし、アイスよりもかき氷の方が売れるため、アイスの伸びは霞んでみえる可能性が高い
  • 一方、沖縄ではアイスが売れない。その理由は、そもそも”年中通して暑い気候”が乳製品とは相性が悪いためと考えられる

と、なります。

しかし、大切なのはこの答えがあっているかどうかではありません。「他人が作った資料を見たときに、本当にこれで良いのか?」と疑問を持つことです。そのためには、データと解釈を分けて考えることが必要です。つまり「問いを設定する」「仮説(仮の答え)をつくる」「仮説を検証する」というプロセスが大事なのです。

是非、目に入った各種データに対して、自分なりの視点で切り込んでみてください。暑さなんて忘れちゃいますよ、きっと。(w

 

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