clock2025.05.20 16:50
SERVICE
home
x

Biz

DIサミット2025セッションレポート「データインフォームドの本質~データへの向き合い方~」

AUTHOR :   ギックス

2025年4月22日に当社が主催した「GiXoデータインフォームド・サミット2025」のパネルディスカッション「データインフォームドの本質~データへの向き合い方~」のセッションレポートをお届けします。

登壇者紹介

co-PdM合同会社 代表
株式会社ギックス コンシューマー・マーケティング・エキスパート(外部顧問)
宇川 有人 氏
2003年株式会社NTTドコモ入社。サービス企画、アライアンス、新規事業開発を担当。以来、リクルート、アクセンチュアなどで、デジタルマーケティングやEコマースの業務に従事。
2016年日本コカ・コーラ株式会社入社。Coke ON®サービスのプロダクトマネージャーとして、サービス企画・開発・運用・広告の全般をリード。2024年co-PdM合同会社を設立。流通・製造・サービス業を中心に、消費者マーケティング・データ活用の伴走支援を行う。2025年より、GiXo Professional Networkに参画。

株式会社ギックス代表取締役COO/Data-Informed事業本部長
花谷 慎太郎
京都大学大学院工学研究科卒業後、日本工営株式会社、IBM Business Consulting Services 社(現日本アイ・ビー・エム株式会社)を経て、2012年、株式会社ギックス創業メンバーとして取締役に就任。

本レポートでは、パネルディスカッションの内容を一部抜粋してご紹介します。

データは不完全なものである

花谷:ギックスの花谷です、どうぞよろしくお願いいたします。本日最後のこのパネルディスカッションでは、データインフォームドのど真ん中のテーマをお話しできればと思っています。ここではスペシャルゲストとして、数々の消費者サービスをPdM(プロダクトマネージャー) としてご提供されてきた宇川さんをお迎えして「データインフォームドの本質〜データへの向き合い方〜」という話を進めてまいります。宇川さんどうぞよろしくお願いいたします。 

宇川:よろしくお願いします。

花谷:では最初に、宇川さんのご経歴をご紹介いただけますか。

宇川:はい。改めまして宇川でございます。私がキャリアをスタートしたのは、NTTドコモでした。ちょうどおサイフケータイというサービスが立ち上がるタイミングで、iモードのサービス企画やアライアンスの仕事をしていました。今でこそ、O2O(Online to Offline)やOMO(Online Merges with Offline)と言われるような、オンラインとオフラインを繋ぐようなサービスはたくさんありますが、その走りと言えるかもしれません。消費者サービスを、いかにデジタルやモバイルの力を使って加速させ、サービス体験を改善していくか――という領域に一貫して取り組んできたのが、私のキャリアの軸になっています。直近では、2016年から9年ほど日本コカ・コーラ社に所属し、Coke ON®という消費者サービスをリードしておりました。

昨年(2024年)には、これまで経験してきたサービス成長における“方程式”とも言えるような学びを活かして、様々なサービスの成長に貢献していきたい、という想いから、co-PdM合同会社を創業いたしました。そして今年からは、ギックスさんにも社外顧問として加わらせていただいています。

こういったキャリアですけれども、先にお断りさせていただきますと、本日私がご紹介するお話については、特定のサービス、例えばCoke ON®ではこうしていた、という内容ではございませんので、その点あらかじめご了承いただければと思います。

花谷:ありがとうございます。では今回は30分という限られた時間ではありますが「データインフォームドの本質」について掘り下げていければと思います。

先日宇川さんが顧問としてギックスに参画されたタイミングで「データインフォームド」をテーマに社内で講演いただいたのですが、その内容がとても好評でしたので、今日はそのエッセンスをお伝えできればと思います。ですのでこのセッションは私から宇川さんへ事前に投げさせていただいた質問について、お答えいただくような形式で進めていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

では最初の質問です。長らく消費者サービスの実践の場でデータを扱ってきた宇川さんにとって、そもそもデータとは何ですか、データをどのように捉えられていますか、というところをお伺いできればと思います。

宇川:はい、ありがとうございます。データとは何か――ものすごくシンプルだけど深い質問だと思います。

本日この会場にいらっしゃっている皆さんは、日常からご自身で、または組織の中で色々なデータと向き合っていると思います。ですが、ひと口にデータと言っても、業種・業界が違うと扱うデータの種類も変わってきます。そのため、今日ここで私がご紹介するのは、特に消費者サービス領域のデータについてだと思ってください。機械をモニタリングしてメンテナンスするとか、ビジネス上のファイナンスの数字を見る、といったことではなく、消費者サービスの分野で考えていきたいと思います。

では皆さん、リラックスしてくださいね。最初に簡単なワークをしてみたいと思いますので、ちょっと想像していただきたいと思います。

今日または最近、ランチで行ったお店を思い出してみてください。それはよく行く店でしょうか?普段からよく行く店でしょうか?そして、そのランチメニューを選んだのはどうしてでしょうか?決め手は何だったでしょう?…是非、想像してみてください。

次に、毎週行ってみたいな、と思えるようなお店ってどんなお店でしょうか。例えば、日替わりメニューがあるとか、値段が安いとか、提供が早いとか、店員さんと仲良しとか…いろんな理由があると思います。

では逆に、もう二度と行きたくないってどんなお店でしょうか。どんな経験をしてしまったのでしょうか…是非想像してみていただきたいです。何があったんでしょうか…料理が口に合わなかったとか、色々な理由がありそうですね。

それで、これらの理由が、その「お店に行く」という行動につながりました。

でもこの理由って、データに残らないんです。飲食店のセールスデータを見ても、残らないですよね。データに記録されないものが、人の行動・経済を作っている。これが一見当たり前のことですが、とても大事で見落としがちなファクトなんです。

こうした切り口で捉えてみると、データとは何か、という問いへの答えとしては、「データは過去」なんです。動機とか理由ではなく、過去の事実であり結果なんです。これはとても大事なポイントです。

さらに、データはあらかじめ見ようと思ってセットしていないと取れないものですよね。つまりデータとは、事象に対する一部分です。過去であり、一部分。要するに何かを説明するにあたってもデータだけでは不完全である。これが私がデータを捉える時に大事にしている視点です。

私たちはデータの扱いに慣れてくると、データって万能だ、データによって様々なことが解明できる、と思いがちです。これも事実ではあるのですが、データは一部分である、ということもまた事実。この両方を捉えるということが、本日掘り下げていく大きなテーマになっていくのではと考えています。

花谷:私たちも本当に色々なデータを扱ってきましたが、扱えば扱うほど万能感が出てきてしまうのはよくわかりますので、データは不完全なもの、という視点は本当に重要だと思います。

自分たちのコアバリューにあわせた「心地よい接客」の提供

花谷:では、次の質問です。宇川さんは我々のようなコンサルタントという立場ではなく、事業会社のプロダクトマネージャーとしてデータ活用を推進されてきた、というキャリアが長いと思いますが、消費者サービスにおいてデータ活用というものはどのように捉えられ、位置付けられていますか。

宇川:はい。この点も会場の皆さんはご自身の携わる事業やサービスの中で実際にデータを活用されていて、日頃から色々と試行錯誤されているところかと思います。まず端的に私なりの解釈をお伝えすると「心地よい接客を提供する手段」というふうに定義してみました。ただ、この言葉だけを見てもピンとこないかと思うので、少し掘り下げていきたいと思います。

今の世の中には本当にたくさんの消費者サービスや製品がありますが、作り手としては1回使われて終わり、ということは望んでいないと思います。一生に1回のイベントだったらまだしも、日用品や消費財、デジタルサービスであれば、やはり繰り返し使うことで繋がり続けていただいて、自分たちのサービスのファンになって、より長く使い続けていただく、ということを目指すと思います。
でも、サービスを作ることはできても、使ってもらうこと、そして使い続けてもらうことがいかに難しいか…ということは、皆さんもきっと実感があると思います。製品にしても、1回は手に取ってもらえるけど、何回も繰り返し買ってもらうのはとても難しいです。

では、こういったことに抗うために必要なのは何かと言いますと、やはりお客様に「いい出会いをして、いい体験をしてもらい続ける」ことだと思います。

よく「接客の基本は観察力と提案力である」と言われます。お客様の行動を見て、察知して、先回りして提案することによって、満足度が上がっていく、ということです。

もしリアルのサービスであれば、実際に店員さんがいて、お客様のことをよく見て、この製品いかがですか、とか、お久しぶりですね、とか、そういった接客を提供することができます。

では、デジタルサービスでこうした満足度の高い接客を提供するために必要な要素は何でしょうか。それが、データなんです。アクセスログや購買ログを見ることが観察力にあたります。そのデータを解釈してお客様にオファーを提供することが提案力になります。データが「心地よい接客を提供する手段」だ、とお話ししたのは、こういう意図です。

さらに、例えば取引先の方とデータ分析やデータ活用のお話をすると「御社はどんなデータを持っていますか」「では持っているデータを元に何ができそうか考えてみましょう」という流れになるのは、よく見る光景だと思います。

ですが、私はそれはデータ活用の本質ではないと考えています。まずは自社のサービスや強みってどこだろうか、というコアバリューがあり、そのコアバリューをもとにどのような体験をお客様にお届けしたいのか、コアバリューと密接に連携している自社が達成したいことをまず定義することが必要です。その上で、この目的に関連しそうなデータは何があるだろうか、そのデータの中で自社が今持っているデータと、今後持てそうなデータ、そして持てそうにないデータには何があるんだろう、というふうな地図を描き、それらをもとに、じゃあどうしようか、と考えていくのが、理想的なデータ活用の流れだと思います。

仮にもしデータを起点に考え始めたとしても、データをもとに自社のコアバリューを強化できそうだろうかという、データを中心に資料左(達成したいこと)のチェックをまず回し、その上で右側(関連しそうなデータ、開発・データ方針)に展開する、という発想が必要ではないかと思います。

データ活用をする時に、まずデータを集めるところから始めよう、とか、手元のデータで始めよう、という動きがとても多いのですが、それは私からすると、とても遠回りなデータ活用ではないかと思います。

こういったことを踏まえて、もう一度「心地よい接客を提供する手段」という言葉の意味を考えてみます。

心地よい…とても定性的で主観的な言葉ですね。では、心地よさを決めるのは誰でしょうか。それはデータによって、生成AIが勝手に語るものではないんです。例えばコンビニにとっての心地よさと、ラグジュアリーショップにとっての心地よさは違いますよね。心地よさを決めるのは、自分なんです。

先ほどから「接客を提供する」と言っていますが、接客とは、コンテンツや商品をお客様と”つなぐ“営みであって、商品自体を作るものではありません。この辺りはとても大事な視点です。ですから、”心地よさ”の基準を作る、やりたいことを定義する、お客様が価値を感じるコンテンツサービスを生み出す、ということは、やはりどこまで行っても人の仕事なんです。そしてそれを届けることが、データが得意な領域です。

このように捉えると、単にデータを分析したら自社のサービスが魅力的になる、ということがまやかしだということにも気づけます。やはり、自分たちのサービスやコアバリューをいかに信じて磨き上げ、それをどのような体験としてお客様に提供したいのか、ということを定義することが、サービス提供者としての責務です。そしてそれらをデータを使ってうまくお客様に提供することが、消費者サービスにおけるデータ活用であると捉えています。

花谷:我々も、どうしても手持ちのデータからスタートしなければいけない、という経験もありましたし、今日の別のパネルディスカッションで紹介がありました、北海道ガス様の情報プラットフォームXzilla(くじら)の話でも「もっと本当はこういうデータが見たいのに」という声もありましたが、システム側でもう少し開発しないと、本当に欲しいデータが取れない、ということもあると思いますので、本当に重要な視点だと思います。ありがとうございます。

「心地よい接客」のためのデータ活用とは

花谷:では次の質問にうつります。先ほどのご回答はどちらかというとサービス設計や開発段階のお話でしたが、実際にサービスを成長・運用させていくということもまた、とても重要なフェーズになってくると思います。その成長・運用フェーズでのデータ活用やデータの捉え方についても、お話しいただけますでしょうか。

宇川:はい、ありがとうございます。これは自社のコアバリューをどのようにお客様に届けるか、という点とも非常につながりのある回答になります。先ほどもご紹介した通り、私は、データって何のためにあるのか、ということについて、心地よい接客を提供するためにデータを活用する、というふうに捉えています。

ではお客様にとっての心地よい接客とは何かを考えますと、私は「ちょうどいいタイミングで、ちょうどいいオファーが受けられる」ことが、心地よさにつながると思っています。

もし同じ情報だとしても、その情報に興味がない方や取り込み中の方に送ってしまうと、煩わしい広告・押し付けがましいノイズ、と受け取られてしまいます。逆にその情報に興味のある方や、今必要としている方に送ることができれば、心地よいサービスだな・気の利いた提案だな、というふうに思っていただけるので、同じ情報でも評価が180度変わります。この点が、お客様に情報を発信する側が意識しないといけないポイントだと考えています。

そして、届ける時には単にデモグラ(デモグラフィック:性別、年齢、居住地域、所得、職業、家族構成など人口統計学的な属性の総称)やエリアなどで絞るのではなくて、情報を送られる方がどういう状態にある人なんだろう、とか、喜んでもらえるかな、というふうに思いを馳せることが大事なのかなと思っています。

データをたくさん集めることが、企業にとっての価値となり、それがお金を生み出す、という考え方もあります。ですが、そもそもどうしてお客様が企業にデータを預けてくれるのかというと「私のデータを預けた企業が、私自身に対してより良いサービス体験として還元してくれる」ということを期待してるからこそ、企業はお客様からパーミッション(許諾)をいただけるわけです。ですから「データはもらったものじゃなくて預かってるもので、預けてくださった方に利子をつけてお返ししなきゃいけないんだ」というマインドでデータと向き合う、ということが、サービスを正しく使う・うまく使う方法だと思います。

だからデータがあるからこそ「データを持ってる限りみんなに情報送っちゃえ」ということではなくて、「このお客様にこの情報を送ったら煩わしいと思うかもな」という、情報を送らないためにデータを使うマインドも大事である、と意識しています。

そしてもう一つ。私が長年使い続けている絵なんですけれども、消費者サービスは「穴の空いたお風呂」という例えをご紹介します。

皆さんはマーケティングファネルという、認知して、検討して、購入する、という漏斗のイメージをよくご存知だと思います。その漏斗を通った先に、この穴の開いたお風呂があるんです。

ここで、穴の開いたお風呂にお湯をたくさん溜めようと思ってください。もし穴が大きいままだと、お湯が通り抜けていっちゃいますよね。実は会員サービスも同じような状態なんです。アプリをダウンロードしてもらって終わり・製品を1回買ってもらって終わり、ということは、サービスの魅力が足りてない・何か問題がある、つまりお風呂に穴がある状態です。大きな穴を直した上で、お湯を注ぎ、追い焚きをする。これらを全てバランスよく整えて初めて、お風呂にお湯がたまり始めて、温度が上がっていくということになります。

この穴の開いたバケツの例え自体は、よくあるものだと思いますが、ここではお湯を使って温度の概念を取り入れているのがポイントで、例えばお客様はアプリをダウンロードして消さずに持ち続けてくれているけれども、アプリを使わなくなっていく…つまりお湯と同じように冷めていってしまうんです。その概念を組み込むことによって、適切にサービスの状態をモニタリングできるようになります。どこかに冷めている部分はないだろうか、冷めてるアプリ会員にはどんなオファーをしようか、といった想像やオペレーションがしやすくなります。

このような、お湯の量、流入量と流出量、そして温度計、という観点で、サービスを利用するお客様の状況をモニタリングする、そのようなダッシュボードを持つということが、サービスの状態を正しく捉えて、打つべきところに打つべき施策を企画できる秘訣だと考えています。

花谷:ありがとうございます。この“温度”という軸が入ることで、サービスの捉え方がいきなり立体的になりますね。サービスをモニターするダッシュボードを作るとしたら、この軸を意識して作ることが大切なんですね。

宇川:そうですね。私、お風呂の“保温”機能って素晴らしい発明だと思うんですよ。やはりどうしても冷めていく会員さんがいるのですが、その冷めている人に、例えばアプリの最終起動日から一定の日数が経ったら何らかのオファーが自動的に送信される、といった仕組みを作っておくと、自動的にアクティブユーザーが増えていく、という素敵なお風呂になっていくんじゃないかなと。

花谷:なるほど、サービスにも保温機能ですね。

「データインフォームド」な姿勢とは何か

花谷:では最後の質問です。我々ギックスは「あらゆる判断を、Data-Informedに。」というパーパスを掲げておりまして、よく「データドリブン」と「データインフォームド」を対比しながらお話しすることが多いです。そこで宇川さんにとって、改めて「データインフォームド」とは何でしょうか、というところをお話いただきたいです。

宇川:はい、ありがとうございます。本日は「データインフォームド・サミット」という名前で開催されていますけれど、正直皆さんは「データドリブン」という言葉の方がよく聞くと思います。「データインフォームド」っていうあまり馴染みのない言葉を使っておいて、ギックスさん1回も説明してくれないじゃないか(笑)というところで、ようやく大トリにこういうコンテンツがやってまいりましたね。

これは何と呼ぶか、というラベリングの話ではあるのですが、まずは私が事業を営むにあたって、データ活用に期待することについて少し整理した上で、その延長で「データインフォ-ムド」と「データドリブン」について少し紐解いていきたいと思います。

皆さんは、色々なデータ分析をされたり、あるいはデータ分析の納品物を受けられたりすると思います。ではここで、特に消費者サービス領域において、データ分析を3つに分けて考えたものをご紹介します。

まず1つ目が、Descriptive Analytics(記述的分析)。これは過去のデータをもとに、そのデータの傾向や相関を探っていく分析です。2つ目が、Predictive Analytics(予測的分析)。過去のデータをもとに、将来何が起こりそうかということを予測する分析です。そして3つ目が、Prescriptive Analytics(処方的分析)。prescriptionは処方箋という意味ですね。つまり、目指す姿と未来予測をもとに、何をなすべきかの示唆を与える分析です。私は大きくこの3つに分類できると考えています。

皆さんは日頃から様々な分析データをご覧になってると思いますが、おそらく一番よく見かけるのは記述的分析だと思います。データから何が言えそうですか、という、よくある分析です。記述的分析とは、過去を解き明かす、過去を説明しようとする営みです。それに対して残る2つは未来を説明する、あるいは未来に向けたアクションを示唆するという営みです。

やはり事業会社・事業の当事者がデータ活用に期待することは、未来の予測です。過去ではなく、未来に我々が望む目標に到達するために何をなすべきなのか、ということの示唆を期待しています。ですが、世の中は記述的分析が多いです。

このセッション冒頭から、再三「データは不完全だ」というお話をしてきました。この考え方は、今ご紹介した3つのデータ分析を行う際、特に未来を予測する時に求められる姿勢に繋がります。過去のデータを元に何が起こってるのかを解き明かす――これは、持っているデータだけをもとにストーリーテリングしてしまうと、誤るんです。何を知っているか、ということと同じぐらい、何を知らないのか、ということが必要です。

冒頭のワークで触れた、飲食店の例でも当てはまります。例えば今日、20人の方が新規で六本木エリアでご飯を食べてくれました、じゃあこの人たちにまた来週も来店してもらおう、と思ったら、実は今日たまたま講演会のために来ただけなのでもう二度と六本木には来ないです、というのが事実だとすると、不十分な状況理解から、誤った打ち手が導かれたということになります。

ですから、何を知ってるのかと同じように、何を知らないのか、ということを真摯に捉えて、その過去の記述を行う、こういった姿勢が必要です。この視点が欠けたまま予測的分析をしてしまうと、何を意味するのか、ということを誤ります。だから必然的に何をなすべきかも誤ります。3つのデータ分析にはこのような関係があります。

つまり未来を語るためには、過去を正しくフェアに知る必要があります。よく問題解決のフレームワークで、空を見たら雲がある、雨が降りそうだから傘を持って行こう、というふうな、ファクトをもとに類推される解釈を与えてアクションにつなげる、というものがありますが。データに関してもこれと全く同じことが言えます。

ですが、空の写真を見たところ、半分ぐらい雲がかかっている…でもこの状態が雲がかかり始めたところなのか、晴れ始めたところなのか、ということを知らないまま予測すると、打ち手も間違えてしまいます。知ってることと知らないことを捉えよう、という姿勢。これはもうどこまで行っても大事だと思っています。

狭義の「データドリブン」と「データインフォームド」を比較しますと、「データドリブン」というのは直訳すると、データに駆動される、ということですよね。受け身系といいますか、ドリブンされてしまう。要は、データは正しいからこれに従っていきましょう、データをもとにストーリーを生み出しましょう、データが決めますから、という姿勢です。

一方で「データインフォームド」とは、データは不完全だから我々のストーリーに対してこのピースはデータで説明できそうだけれども、そうじゃないピースはどうなんだろう、どうしたいんだろう、ということを人間が埋めて、データを得た人間が主人公として決めていくんだ、という姿勢かな、と思います。

でも、このラベリングがどうであるかは、究極どちらでもいいんです。データと向き合う時に、データに対して真摯に、そしてデータの後ろにいる人・消費者に対して真摯に、データを扱う。この姿勢こそがデータインフォームドな姿勢、と言えると思いますし、消費者の複雑性やデータの不完全性を客観的かつ謙虚にとらえた上で、主体的にデータを使いこなす、このアプローチをデータインフォームドと言うのではないかと、私は日頃から考えながらデータと向き合ってきました。

花谷:ありがとうございます。我々が「データインフォームド」という言葉を使う時には「データを得た人間が決める」ということも常日頃言ってるんですけれども、やはりその裏にある、データは不完全であり、誤ったストーリーを作っていないか、というところを本当に気を付けなければいけないと改めて思いました。

実は私は宇川さんのこのお話を聞くのが今日で3回目なんですけど、それでも何度聞いても改めて気をつけなければいけないな、と刺さる内容だなと思います。本当にいつもありがとうございます。

今回顧問として入っていただいたことで、今後我々のサービスを一緒に展開していくことをとても楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。

宇川:よろしくお願いします。本日はありがとうございました。

SERVICE