企業と顧客の関係は、いま大きな転換点を迎えています。マス広告による一斉配信や単発キャンペーンでは届かない、“一人ひとりに寄り添うコミュニケーション”が求められる時代です。
今回は、LINEヤフー株式会社の関野 聡史氏と、株式会社ギックスでマイグルの事業統括を担う吉田 周平が、LINEミニアプリとマイグルを軸とした、これからの“つながり”のつくり方について対談しました。
「マスから個へ」――一人ひとりと“関係を築く”時代へ

関野:
これまでのマーケティング全般の世界は、“マス広告で瞬間最大風速を狙って一気に話題をつくる”というアプローチが主流でした。
しかし、今の日本は人口減少やニーズの多様化が進み、「みんなが同じものを好き」という状況ではなくなっています。そのなかで、マスを使ったコミュニケーションで新規顧客を大量に獲得するのは、非常に難しくなってきました。
だからこそ、マーケティングの考え方そのものが「一人ひとりのLTV(顧客生涯価値)をどう高めるか」という方向にシフトしています。
LINE公式アカウントの考え方も、この流れに合わせて進化してきました。以前は広告を中心に友だちを瞬間的に増やし、一方向的に情報を配信するのが主流でした。
しかし現在は、「LINEミニアプリ」を通じて行動データを取得し、それをもとに1to1やセグメントでの配信を行える、双方向のコミュニケーション設計へと変わってきています。
今、企業とユーザーがつながりを持つためには、まず何らかの“デジタル上の接点”をつくる必要がありますが、それを手軽に、ユーザーにとって使いやすい形で実現できるのが、LINE公式アカウントやLINEミニアプリの強みだと思います。
吉田:
そうですね。ギックスが提供する 「マイグル」でも、行動データをもとに企業とユーザーとの関係性をどう構築していくか、という、CRM(顧客関係管理)の視点を非常に重視しています。
マイグルは、特定期間に実施されるキャンペーンの中で、デジタルスタンプラリーのプラットフォームとしてご活用いただくケースが多いのですが、私たちの提供価値はそれだけではありません。
例えば、店舗の顧客層を分析し、購買頻度が低い“ライトユーザー”をどう“ロイヤルユーザー”へと育てるか—そうした顧客関係の深化を継続的に支援する仕組みとしてマイグルが活用できるのです。
マイグルは、LINEミニアプリ上で施策を実施することが可能です。最近では、「LINE公式アカウントは持っていて、ある程度お友だち数も増えてきたが、どう活用すればいいかわからない」という企業様からのご相談も増えています。
私たちとしては、まさにそうした方々に対して、マイグルとLINEミニアプリを掛け合わせた顧客接点全体の戦略設計を支援していきたいと考えています。

| (左)株式会社ギックス Data-Informed事業本部 Business ExecutionDivision Division Leader 吉田 周平(よしだ しゅうへい) (右)LINEヤフー株式会社 DXソリューション本部 APIソリューションマネジメント部 CXエグゼキューションチーム リーダー 関野 聡史(せきの さとし) |
チャネルの最適化から、LTVを高める全体設計へ
吉田:
ネイティブアプリと比べると、LINEはダウンロードのハードルが低く、継続利用の障壁も小さいですよね。
すでに生活インフラとして定着しているコミュニケーションツールだからこそ、多くの企業や店舗がLINEでマーケティングを行うのは、今や王道のアプローチになりつつあると感じています。
関野:
ありがとうございます。もちろん、ネイティブアプリが適している業態もあります。
例えば鉄道やスーパーマーケットのように、週に何度も利用するロイヤルユーザーを対象としていれば、アプリならではの深い利用設計が生きてきます。
ただ、新規顧客やライトユーザーを育てていく段階では、ダウンロードや会員登録のハードルが低いLINEの方が、親和性が高いと考えています。
吉田:
実際、LINE公式アカウントとネイティブアプリを両方保有していて、どちらをどう運用していけばいいのか、集約すべきなのか悩む、というケースもよくあります。
しかし、どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの強みを理解し、両方を共存的に運用していくことが重要だと感じています。
関野:
おっしゃる通りだと思います。先日リリースされた「LINEからEX」という、新幹線の予約をLINEで行えるサービスがその好例だと考えています。
新幹線の予約は、従来から専用アプリ上で可能です。なので月に何度も出張するようなヘビーユーザーからすると、非常に便利なサービスです。
一方で、年に1~2回しか乗らない方からすると、「そのためだけに会員登録してアプリを入れるのは面倒」と感じる人が多い。結果的に、駅の窓口や券売機に長蛇の列ができてしまうんです。
今回のサービスリリースでは、LINEとPayPayさえあればアプリ不要でシームレスにチケット予約から乗車まで可能になり、ライトユーザーにとっては利用ハードルがとても下がったと感じています。
まさに、「ユーザーの頻度や接点の深さに応じて、適したチャネルを選ぶことの重要性」を示していると思います。
吉田:
そうですね。結局のところ「ユーザーのLTVをどう上げていくか」ということが本質であって、LINEもアプリもそのための手段のひとつでしかありません。
「どちらを選択するか」「いずれ統合できるのか」という議論で止まってしまうと、肝心のLTV向上という目的までたどり着けなくなってしまいます。
さらには、ひとつの組織の中に「LINE担当者」「アプリ担当者」「会員基盤担当者」などが別々に存在し、それぞれが自分の領域で最適化を追い求めてしまう。
結果として、企業全体としてのLTV戦略が分断され、部分最適に陥っているケースが少なくありません。
私たちとしては、そこを俯瞰して整理し、「LINEも、アプリも、会員基盤も、そしてマイグルも―それぞれの強みを活かしながら、どう連携させて顧客体験を設計するか」という全体像を示すことが、これからのクライアント支援の軸になると考えています。
関野:
はい。その観点で言うと、スターバックス様はとても象徴的な事例だと思います。
もともとアプリの運用に非常に力を入れている企業ですが、同時にLINE公式アカウントやLINEのモバイルオーダー機能も積極的に活用されています。
運用初期には「アプリではロイヤルユーザー、LINEではライトユーザー」といった棲み分け設計があったのではないかと思うのですが、最近では、両者の機能やポイント制度がかなり類似してきています。
つまり、ユーザーからすると「今日はアプリで」「今回はLINEで」というだけの違いで、どちらで購入しても“スターバックスの顧客”であることに変わりはないんです。
重要なのはチャネルの違いではなく、事業のコアにある指標――たとえば「1人あたりの購買単価」や「来店頻度」などをどう高めるか、ということです。
その視点で考えれば、LINEかアプリかといった手段の議論ではなく、「どうすれば顧客がより自然にブランドと関係を深められるか」という本質に立ち返る必要があると思います。

吉田:
多店舗展開している企業様でも同様の課題を抱えていると感じています。
店舗単位でLINE公式アカウントを持つべきか、ブランド単位で統合すべきか。あるいはM&Aなどで複数ブランドを抱えている場合、それぞれが独立してLINE公式アカウントを運用しているケースも少なくありません。
もちろん、ブランドごとの世界観を保つことは大切です。
しかし一方で、ブランドを超えて顧客が回遊・リピートしてくれることも、企業全体で見れば大きなマーケティングの成果だと思うんです。
たとえば、あるお客様が週に一度はイタリアンを食べ、別の日には同じグループの和食店や中華店を利用してくれる――そうした「横の関係づくり」も、LTVを高める重要な要素になり得ます。
多くの企業が「小さく始める」段階から成長し、次の一手を模索している今こそ、 「ブランドや店舗をまたいだ顧客体験をどう設計するか」 そして「LINEミニアプリがその中でどのように力を発揮できるのか」を改めて考えるタイミングだと思います。
関野:
そうですね。教育業界で考えると、お子さんの成長に伴って、保護者の方が求めるコンテンツや提案は変化していきます。そのため、単純に「小学1年生向けの情報を配信する」といった固定的な設計ではなく、ユーザーの成長や状況に応じて配信内容を動的に切り替えていく仕組みが求められていますね。
また、複数サービスを運営している企業の場合、事業部ごとに配信の仕組みが分かれており、「どうデータを引き継ぐか」という課題もあります。
さらに、別会社・別ブランドになっている場合には、個人情報の第三者提供の観点からできること・できないことの整理も必要になります。
私たちとしては、こうした課題を解決するために、共通のユーザーID(UID)の活用によって複数ブランドの顧客を横断的に捉え、ユーザーの嗜好に合わせて自然な提案を行う世界を目指しています。
オフラインとオンラインの融合が導くセグメンテーションの進化

関野:
一方で、LINE公式アカウントを使った配信の現場では、セグメントを細かく切れば切るほど運用負荷が高くなる、という現実があります。
多くの企業が「お気に入り店舗」や「ID連携」レベルまでは取り組んでいますが、購買頻度や商品ジャンル、単価まで踏み込めているところは、まだ少ないと感じています。
その解決のために、パートナー企業であるギックスさんの「マイグル」を活用したり、AIの力でセグメンテーションの自動化や最適化を可能にしていきたいと考えています。
吉田:
LINE公式アカウントでは、ユーザーの年齢や性別、地域などの一次属性データは当然お持ちだと思います。
その上でお伺いしたいのは、どの範囲までを「LINE公式アカウントの中で扱うCRM」として捉えていらっしゃるのかという点です。
たとえば購買データや嗜好性といった、より深い行動データの領域まで踏み込むのか。LINEが目指す世界観と、マイグルのような行動データベースでのCRMが目指すところ――その住み分けや補完関係をどう考えておられるかを伺ってみたいです。
関野:
ありがとうございます。
昨年、弊社が主催した「LINEヤフー Biz Conference 2024」で日本生命様にご登壇いただいた事例をご紹介します。
生命保険というのは、人生のなかで契約のタイミングが限られている商品で、結婚という大きなライフイベントをひとつのきっかけに、接点を持つ方が多いです。
そこで、LINEヤフーのプラットフォーム上のデータをもとに、「結婚予兆のある人」をセグメントし、生命保険に関するメッセージ配信を行ったところ、非常に高い成果が得られたという事例がありました。
日本生命様の場合、営業担当のいわゆる「保険レディ」の方を接点として、多くのユーザーがLINE公式アカウントをお友だち登録しているんですね。
営業担当が直接「結婚する予定がある」と聞けていなかったとしても、アンケートの回答データや、当社プラットフォーム上での検索データなどをもとに予兆を読み取り、加入の勧誘をすることで、通常の営業活動よりも成約率が10倍以上高くなった、という結果を得られたんです。
吉田:
そういったオンラインデータの活用は、まさに御社の強みの一つですよね。
関野:
はい。ただ、「結婚予兆」のようなデータをもとに配信を行っても、実際にはすでに生命保険に加入していたり、オフラインで保険の見直し窓口へ相談に行かれているケースもある。
そうした行動データは、当然私たちは把握しきれません。
だからこそ、オンラインのデータとオフラインの行動データをどう連携させ、分析・活用していくかが大きなテーマなんです。
実は、これは私たちが「LINEミニアプリ」という事業を展開している理由でもあります。
単なる広告プラットフォームとしてではなく、実際の購買・来店・利用といった行動データを組み合わせることで、ユーザーのリアルな動きを捉え、より効果的なマーケティングを実現できると考えています。
つまり、自社グループ内のデータ活用だけでなく、LINEミニアプリという外部接点を通じて、企業パートナーと一緒にオフラインデータを取り込みながら価値を高めていく、ということです。
吉田:
そう考えると、企業側が持つ購買データ、御社が持つ一次属性や検索データから得られる嗜好情報、そしてマイグルが持つ来店やキャンペーン参加などの行動データ――この三層を組み合わせて紐づけることで、かなり精度の高いセグメンテーションが可能になりますね。
それぞれのデータを連携させ、AIを用いて自動的にセグメントを生成し、最適なタイミングでのLINEのメッセージ配信や、リアルタイムな1to1コミュニケーションも可能になるでしょう。

関野:
まだまだ「男女」「年齢」といった標準的なセグメンテーションや、「配信作業が大変なので月1回の全体配信だけ」という企業様も多くいらっしゃるのが実情です。
そうした企業様にこそ、まずは小さくてもいいのでセグメント配信に挑戦してみてほしいと思っています。
性別・年齢・地域といった基本属性だけでなく、オフラインでの行動データや来店履歴などを少し取り入れるだけでも、ROAS(広告費用対効果)や配信効率がまったく違ってきます。
最初から完璧な仕組みを作ろうとする必要はありません。
小さな成功体験を積み重ねることで、「これもやってみようか」という意欲に繋がってくるので、是非マイグルも活用して、一歩目を踏み出してみてほしいと思います。
後編へ続く
※マイグルやLINEミニアプリの詳細は、各公式サイトをご覧ください。
- 「ゲーミフィケーション×データ」による習慣化促進プラットフォーム「マイグル(Mygru)」https://www.mygru.jp
- LINEミニアプリhttps://www.lycbiz.com/jp/service/line-mini-app/
※記載内容は2025年12月時点のものです。







